ITIコラム

2012年12月3日

 

急速に拡大するアジアでの現地生産・現地販売

(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹 高橋俊樹

   
 

2012年における日本の輸出は、欧州や中国向けの不振により低迷している。しかしながら、日本企業の現地子会社による現地販売がアジアで急速に増加している。

米国企業は、既に輸出を海外生産で置き換える動きを進めてきた。米国の海外で販売する米国製品・サービスの7割以上は、米国以外から供給している。日本も今後は米国の水準に近づくと思われるが、特にアジアでの現地化が加速している。

日本の財やサービスの輸出をこのまま減速させないためには、世界景気の回復や円安を待つのではなく、親子間取引を活用し、現地化を支える輸出の拡大を図ることが望まれる。

3つの経路から成る現地販売

日本企業の海外展開が進み、日本の生産や貿易に大きな変化が生じている。自動車を例に取ると、海外進出が進展する前は、米国やアジアで販売する日本車の多くは日本から輸出されていた。

よくテレビで放映される光景の1つに、日本の港で自動車が専用の輸送船に積み込まれるシーンがある。日本車が輸出のために次々に大きな船に向かう姿は、日本の高い輸出競争力の象徴としてとらえられてきた。

もちろん今日でも、日本から海外への自動車輸出は高級車やハイブリッドカーを中心に活発である。しかし、海外での自動車生産の割合は、最近ではトヨタやニッサンでおおよそ6〜7割以上に達しており、国内中心の生産体制は変化している。

自動車メーカーだけが海外に進出したのではなく、その周辺を支える自動車部品メーカーや素材部門も同時に海外で展開するようになっている。同様に、電気や一般機械、化学、鉄・非鉄金属などの分野でも、海外進出が盛んである。

こうした日本企業の業種横断的な海外展開により、現地での自動車などの生産能力が増強し、生産台数が増えることになる。その結果、そのまま現地で販売するか、外国や日本に輸出するようになる。

日本車の場合、当初は先進国で生産した車を現地で販売するという形が多かった。今日ではカナダやメキシコで生産し米国で販売したり、タイで生産しオーストラリアで販売するケースが増えている。ASEAN域内では、自動車部品や素材における取引が多いし、FTAを活用しASEANから中国やインドにも輸出されるケースが増えている。

つまり、日本の製品や部材が海外で販売される経路は日本からの輸出だけではないのである。日本企業の海外生産が進展した今日では、これに現地生産の現地販売が加わるし、さらに第3国で生産したものを現地に輸入し販売する分が考慮されなければならない。すなわち、日本製品・サービスの海外における現地販売は、大別して3つの経路から構成されると考えられる。

アジアに販売の重心を移す 

そこで、日本企業の海外での商品・サービスの販売金額を、現地子会社の現地生産、第3国日系企業からの輸入、日本からの輸出、の3つの項目別に算出した(1表‐A、1表‐B)。

1表の3つの経路からなる海外での日本製品とサービスの総販売額 (総消費需要) は、2005年度で211兆円、2010年度で215兆円であった。リーマンショックをはさんでいることもあり、両年度間における総販売額にはそれほど変化はなかった。2010年度に海外で販売した日本製品・サービスは、日本の名目GDPの45%に達している。

2005年度における日本製品・サービスの販売額を見てみると、アジアでは75兆円となり全体に占めるシェアは35.7%であった。米国では69兆円となり、シェアは32.7%であった。中国においては27兆円の12.9%であったので、まだ2005年度では、中国での日本製品・サービスの販売は米国の半分にも満たなかった。

5年後の2010年度には、アジアでの日本製品・サービスの販売額は95兆円となり、シェアは43.9%にまで上昇した。つまり、アジアでの販売のシェアを5年前から8.2%も高めたことになる。逆に、米国ではリーマンショックのため、販売額を54兆円まで大きく後退させ、シェアは24.9%まで低下した。米国でのシェアは5年前から7.8%も減少したことになる。

中国での販売は、2010年度には42兆円であった。2005年度から14兆円も増え、シェアは全販売先の19.4%に達した。換言すれば、2010年度には中国は、日本が全世界で販売した製品・サービス全体の約2割を購入する消費国になったということだ。

同様に、ASEAN4(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン)及びNIES3(台湾、韓国、シンガポール)は、共に日本製品・サービスの11%を購入する地域であり、両方を加えると、中国の需要を上回る。

いずれにしても、日本の企業にとって、最大の販売先はアジアであり、次に米国、そしてEU、中南米と続く。アジアの中では、最も日本商品に対する需要が多いのは、中国で、次にNIES3、ASEAN4の順となる。中南米での販売のシェアは2010年度においては6.2%であり、アジアでの販売規模の1割強の水準にすぎなかった。

一方、日本よりもグローバル化が進んでいる米国の製品・サービスの販売状況を算出した(3 表)。米国の場合は、統計の制約から最新データは2004年となる。米国製品・サービスの販売において、圧倒的にシェアが高いのは欧州で、2004年には全体の46.9%を占めた。欧州の中では英国が米国商品の最大の販売先で、13.9%のシェアに達した。アジア大洋州での販売のシェアは23.9%であり、欧州の半分の水準であった。カナダでの販売のシェアは英国と同水準の13.4%、中南米が12.4%であった。

米国製品・サービスの日本での販売のシェアは7.9%で、英国やカナダよりも低かった。日本のシェアはドイツ(7.6%)と変わらず、メキシコ(5.7%)、フランス(5.6%)よりもわずかに高い水準であった。しかし、中国の4%よりも高かった。

日本はこれまで米国への直接投資を積極的に展開し、外国企業の対米直接投資残高では英国に次いで2番目の地位にある。しかしながら、米国にとってはそれに見合うだけの米国商品やサービスを購入する消費国ではないということになる。

したがって、日本の海外における販売の特徴は、アジア、米国、欧州の3つの大きな販売先を抱え、その中でもアジアの割合が急速に高まっていることである。特に中国のシェアが2010年度にはEUを抜き、米国に肉薄している。

これに対して、米国の製品・サービスの販売では欧州の割合が5割弱であり、その半分をアジア太平洋、そのまた半分をカナダと中南米が占める。日本はアジアに重心を移しつつあるが、米国は既に欧州を軸としており、その大きな山の周辺に幾つかの小さな山を抱えている。その中でも、今後は徐々にアジアに販売先をシフトしていくものと思われる。

1表−A 日本製品・サービスの販売地域(2005 年度) (単位:10億円、%)※クリックで拡大


1表−B 日本製品・サービスの販売地域(2010年度) (単位:10億円、%)※クリックで拡大

(注1)a、bはそれぞれ2005年度、2010年度の海外現地子会社の現地販売と第3国の日系子会社からの当該地域への輸出、eは2005年、2010年暦年の財・サービス輸出

(注2)dはcに日本企業の海外子会社平均出資比率84.2%(経済産業省海外事業活動動向調査データから算出)を乗じた値

(注3)中南米、中東、オセアニア、アフリカの第3国日系企業からの輸入額(b)は、それぞれ北米、アジア、ヨーロッパ以外のその他地域からの輸入額から売上高ウエイトで算出

(注4)中国、ASEAN4、NIES3の第3国日系企業からの輸入(b)は、アジアの地域別売上額のウエイトで算出、米国・EUも同様に計算

(資料)各データは経済産業省「海外事業活動動向調査」、日銀「国際収支表」をもとに算出


現地子会社による現地販売が5割を超えるか

1表‐A、1表‐Bを比較すると、2010年度の日本製品・サービスの全地域での販売額は、2005年度よりも4.4兆円増えている。その内訳を見ると、現地子会社の現地販売は5年前より4.5兆円(注1)、日本からの輸出が1.6兆円増加した。しかし、第3国日系企業からの輸入が1.7兆円減少している。

つまり、現地子会社による現地販売が拡大しているのだ。既に見たように、2010年度における日本製品・サービスの中国での販売額は、2005年度から大きく増加している。これは、中国の現地子会社による現地販売額が11兆円も増加していることが大きい。

一方、2010年度の米国における日系子会社の現地販売では、リーマンショックの影響により16兆円もの大きな減少が見られた。2011年には米国内の自動車販売が好調であったため、統計はまだ公表されていないが、2011年度の米国の現地子会社の現地販売は回復すると見込まれる。

2表は1表を基に各構成項目の構成比を見たものである(注2)。この表によれば、「現地子会社の現地販売額」が「日本製品・サービスの総販売額」に占める割合は、2005年度の43.6%から2010年度には44.8%へと増加している。逆に「第3国の日系企業からの輸入」は、21.0%から19.7%へ減少している。「日本からの財・サービスの輸出額」は35.4%で両年度とも変わりはなかった。日本からの輸出の割合が変わらなかったのは、NIES3や中国向け輸出が増加したためである。

国・地域別に見ると、日本の中国における現地子会社の現地販売額の割合が、2005年度の30.8%から2010年度には46.7%へと大きく伸びている。一方、米国では63.6%から51.9%へと急落している。EUでは第3国企業からの輸入が減少したため、中国と同様に現地子会社による現地販売の割合が上昇している。

日本の最近における輸出の鈍化と対外直接投資の拡大を考慮すると、今後はますます現地子会社による現地販売の割合が高まることが予想される。ちなみに、米国の2004年における現地子会社による現地販売の割合は50.3%であり、比較時点は異なるものの、米国の方が日本よりも約7%高い。一方、米国からの財・サービス輸出額の割合は28.4%であり、逆に日本よりも7%低い。

もしも、日系現地子会社による現地販売額の割合が5割を超えるならば、日本のグローバル化の進展を考える上で、1つのメルクマールになると思われる。現在のような日本企業の積極的な海外展開が続けば、その達成は遠い将来ではないと考えられる。既に、日本の米国での販売では実現しており、アジアにおいても比率が高まっている。

この結果、日本から現地への輸出は少しずつ現地子会社による販売に置き換わり、将来的には、日本企業の現地販売に占める日本からの輸出のシェアは、米国と同様に3分の1以下に向かう可能性がある。

2表 日本製品サービスの地域別販売額の構成比(%)※クリックで拡大

(注) ラウンディングのため各構成比(a、b、c)を足しあげても必ずしも100%にならない。また、現地子会社の現地販売額と第3国日系企業からの輸入額の構成比は海外子会社の平均出資比率で修正済み。

(資料)各データは経済産業省「海外事業活動動向調査」、日銀「国際収支表」をもとに算出


親子間取引を活用した輸出拡大

日本からの輸出の割合が減少することはトレンドとしてやむを得ないことではあるが、現地生産による現地販売を伸ばしながら、日本からの輸出を拡大することができれば、その方が日本経済にとっては望ましいと考えられる。

日本の2012年1-9月のアジア向け輸出は、ドルベースで前年同期比3.4%減であった。また、日本のEUや中国及びアジアNIES(香港、台湾、韓国、シンガポール)向け輸出は、2011年の第4四半期から4四半期連続で前年同期に対してマイナスの伸びを記録している。

輸出を回復するには、現在の世界的な景気の低迷や円高の転換が必要であるが、これ以外にも日本の輸出に占める親子間取引の割合が高いという特徴を生かすことが考えられる。2009年度においては、日本の親会社から海外子会社への輸出は日本の輸出全体の56.1%を占めた。米国では、それが2008年で16.8%にとどまる(注3)。

親子間取引の割合が高いと、販売ルートが固定され、むしろ輸出の拡大にマイナスの影響が出ることもありうる。つまり、日本の現地子会社は親会社の製品の高い競争力を背景に、確立した販路をしっかり守り維持さえすれば、一定の売上を確保できるのだ。

しかし、これでは欧米マーケットの変化や膨張するアジアの需要に十分についていけないし、台湾、韓国、中国などとの競争激化に対応できない。親子間の密接な関係を負の資産としてではなく、むしろプラスの材料として生かすためには、現地子会社は販路拡大に向けて、より攻めの姿勢を強めなければならない。

つまり、固定的な販路から新規の販路への、新たなマーケットの開拓が求められる。その一環として、消費者への完成品の販売とともに、日系・外資系や現地企業から成るサプライチェーンを形成し、そこに親会社の高品質な素材や部品の供給を拡大することが考えられる。このためには、海外子会社は現地の消費者や生産者のニーズや価格志向に対応した製品・部品を開発しなければならない。現地化の促進と一体化した輸出の拡大である。

さらには、モノの輸出とともに、特許、金融・保険、専門技術などのサービスも含めた包括的な輸出の拡大を目指すべきと考える。既に自動車分野においては、日米ともに親会社は現地子会社で製造する自動車からの特許使用料で多くの収入を得ている(注4)。自動車の寄与により、米国の2011年における海外からの特許等使用料の黒字において、78.7%は「米国親会社の海外子会社からの収入」である。

米国は、金融・保険だけでなく、販売管理・コンサルティング、リース、機器の設置・メンテナンスでなどの専門技術分野においても、海外で高い収益を上げている。特許等使用料と違い、米国の2011年における海外からの金融や専門技術サービスの黒字においては、88%が「海外子会社以外からの収入」である。近年においては、所得収支と同様に、米国のサービス収支の黒字は年々拡大している。

日本の特許等使用料は黒字であるが、その他の主な専門技術サービスは赤字である。したがって、日本企業においては、当面は現地子会社との取引を中心にこれらのサービス輸出の拡大を図ることが考えられる。そして、将来的には米国のように現地子会社以外への輸出を広げていくことが期待される。

3 表 米国企業にとっての財・サービスの地域・国別総消費需要額(2004年)※クリックで拡大

(注)中国の「現地子会社の現地販売額」および「第3国米系企業からの輸入額」は、アジア太平洋全体のそれぞれに、アジア太平洋に占める中国子会社の売上額のウエイトを乗じて算出

(資料)米国商務省、Survey of Current Business より算出



(注1) 1表‐A、1表‐B で掲載されている「現地子会社の現地販売額(a)」や「第3国日系企業からの輸入額(b)」の金額は、海外子会社平均出資比率(84.2%)を乗じて調整していない。このため、本文では、2010年度と2005年度の差額を調整後の(a)と(b)を基に計算し、その結果を両年度間の増減額として説明している。したがって、1表の(a)、(b)から計算される両年度間の差額と本文で説明されている差額には違いがある。

(注2) 2表の構成比は、「現地子会社の現地販売額(a)」や「第3国日系企業からの輸入額(b)」を海外子会社の平均出資比率(84.2%)で調整してから求めている。このため、1表に掲載されている(a)と(b)の金額を総販売額(総消費需要(d+e))で割った値とは異なる。

(注3) 「転機を迎えるアウトソーシング〜日米のグローバル調達戦略の違いから見えること〜」国際貿易投資研究所 季刊国際貿易と投資 2011年冬号No.86

(注4) 「拡大する米国の海外収益〜日本に求められる特許・サービスで利益を生み出すビジネスモデル〜」国際貿易投資研究所 季刊国際貿易と投資 2012年夏号No.88

 

ITIの関連論文など

転機を迎えるアウトソーシング〜日米のグローバル調達戦略の違いから見えること〜(季刊86号、2012年)

拡大する米国の海外収益〜日本に求められる特許・サービスで利益を生み出すビジネスモデル〜(季刊88号、2012年)