フラッシュ119
2009年2月25日
 

バイ・アメリカン条項の論理と不合理

 
(財)国際貿易投資研究所
研究主幹
   佐々木 高成
 

  米国製品の優先調達を定めたバイ・アメリカン条項が景気対策法案に盛り込まれたが、米国の国際的な責務に反しないよう修正を加えられて議会を通過した。オバマ大統領もさすがに同法案を危惧し、「この条項は保護主義的であり、外国との貿易戦争を引き起こしかねない」と反対したことが議会による修正の背景にある。このことはオバマ大統領が選挙キャンペーンで示した姿勢に比べて大統領になってからの実際の行動の方がより保護主義的ではないことを証明したと言える。また、他方ではバイ・アメリカン条項を法案から削除できなかったことはオバマ政権が非常に強い保護主義の圧力下にあり、妥協を余儀なくされたことを示している。しかし、なぜ米国は大恐慌時代の亡霊のような、明らかに保護主義的立法を現在に蘇らせたのか。

最初のバイ・アメリカン法は1933年
  バイ・アメリカン法というのは米国では今回初めて制定されたのではない。実は大恐慌当時、保護貿易主義の高まりを反映して1933年バイ・アメリカン法(Buy American Act of 1933)として制定されたものであり、規定そのものは現在も残っている。また当時から各州においても同様のバイ・アメリカン法が制定された。連邦および州レベルのバイ・アメリカン法は日米貿易摩擦でも米国側の問題として日本が批判しつづけてきた制度である。

  以下は若干テクニカルな話になるが、この制度についての問題点は「不公正貿易報告書2008年版」(経済産業省編)が取り上げている。また米国議会自身が作成している通商法解説大全(Overview and Compilation of U.S. Trade Statute)が詳しく解説しているのでその要点を紹介しよう。因みにこの文書は以下のサイトからダウンロードできる。
http://waysandmeans.house.gov/Documents.asp?section=9

  現在のバイ・アメリカン法は米国がGATT/WTOの政府調達協定(GPA)の締約国になったため、協定締約国についてはバイ・アメリカン法の適用免除となるよう修正されている。しかし、@運輸省、国防省工兵隊、内務省水資源開発部など連邦機関で除外されたものも多い、AGPAに加盟しているのはEU27カ国等の欧州地域以外ではイスラエル、日本、韓国、香港、シンガポール、蘭領アルバ、カナダであり中国、インド等の途上国は加盟していない(つまり、非加盟国・地域に対してはバイ・アメリカン法を適用できる)。さらに、米国の各州でWTO協定の対象となっている州はカリフォルニアなど37州にとどまっている(因みに日本は全都道府県と12政令指定都市が対象)。
  なお、1994年に発効して米国自身も加入している北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国は相互に国産品優先調達を廃止することで合意している。つまりメキシコはGPA加盟国ではないがこれによって米国のバイ・アメリカン法から除外されてきたのである。同様な規定は米国が締結した二国間自由貿易協定にも見られる。今回のバイ・アメリカン法は景気対策法によって実施される公共工事の調達において米国製鉄鋼および製造品を使用することを義務付けるものである。

猛烈だったカナダの反発
  今回のバイ・アメリカン法では「WTOの政府調達協定、NAFTA,および二国間自由貿易協定等の国際協定に定められた義務に従う必要がある」と決められており、これらの加盟国と諸協定で定められた対象範囲がバイ・アメリカン法から除外される。
  WTOやNAFTAによる合意を無視した当初法案の段階ではカナダは猛烈に反発した。それは米国の公共工事調達にカナダ製品が密接に関係しているからであり、NAFTA合意を反故にされることに等しいからである。恐らくカナダは全外交ルートを動員して対米工作に当ったに違いない・・・NAFTAの時と同様に。EUも強いメッセージを送っている。中国は「自らはバイ・チャイナを実施しない」と米国に強烈なあてつけをした。もっとも中国がどのような意図でそういったのか疑問が残る。自国産品の優先調達を止める政策なのであれば、WTOの政府調達協定に参加するのが筋であろうが今は未加盟である。恐らく中国はWTO政府調達協定は先進国の話であり途上国としての権利を放棄するのは間違いだという反論を用意しているのであろう。
  重要なことは中国の対米批判にみられるように途上国が今回の米国の行動をみて保護主義回避のG-20宣言は口先だけの話だったと結論づけることへの懸念である。WTO政府調達協定の締約国となっておらず、米国とのFTAも締結していない中国のような途上国にとっては米国の政府調達市場から今以上に締め出されることになる。まさに保護主義措置の拡大を米国自身が実行しているのである。これでは米国のグローバルな指導力が衰退していると言われても仕方がないであろう。日本にとっても、日本はWTO政府調達協定の締約国でありこの点に限ると米国はGPA合意を守らざるを得ない。しかし先述のようにGPAの対象外の分野では国産品優先のハードル(一定限度までの価格差であれば国産優先)が高くなっているという問題は残る。他にも米国が結んだ多数の二国間合意が今回の「国際協定」に含まれるのか定かでない。

バイ・アメリカンの論理と不合理
  バイ・アメリカン法が保護主義的で国際約束に反するにも係わらず、なぜ堂々と立法化されるのか、我々日本人には不思議でたまらない。バイ・アメリカン法がいかに奇妙かは少し極端なケースを考えると分かりやすい。例えば東京都が調達する資材は東京で生産されたものに限るという「バイ・トーキョー法」を制定したとしよう。どだい実現不可能か、とてつもないコストを払って化学プラントや自動車工場等を作らない限り無理な話である。ちょっと考えると人口3000万ぐらいのカナダでも自国で生産できない、生産コストが高すぎるものはいくらでもある。アメリカでも輸入品なしでは経済はストップするだろう。これは日本人には自明なのにアメリカ人には気が付かない人が多い。米国商業会議所がバイ・アメリカン条項に反対する立場を表明したら、「経済的国家反逆罪に相当する」等と非難するメールが山のように来ている。
  こういう人の論理は何か知りたいと思ってメールのコメントをいくつか読むと実に興味深い。ひどく感情的なコメントも多い。代表的なのは「外国をサポートして米国をサポートしないのだったら米国商業会議所の名前から米国をとって中国商業会議所とでも改名したらどうか」という類である。
  中には合理的に冷静に、「そもそも『米国製』というのは何か良く考えてみろ」というのもある。これは頷ける。例えばiPodはカリフォルニア大学アーバイン校の調査によれば、小売値段の半分弱が外国製部品のコストで最終組み立ては中国となっている。従って貿易統計上は中国からの輸入品となる。しかし、逆に言うと半分を超える部分は研究開発、マーケティング、販売経費等ほぼ米国内で落ちるコストと利潤である。このように一見輸入品にみえても付加価値がどこの国に属するのかという点からみると、どこの国よりも圧倒的に多く米国に属しているのである。従って米国製かどうかを問うのは余り意味があるとは思えない。
  残念ながらアメリカでは上記のような理屈は野卑だが分かりやすい愛国的スローガンにかき消されがちである。米国の中小企業の中にはバイ・アメリカン法によって米国製品に限定されることでコストが増えると懸念しているところもあるそうで、こういう例も多いに違いない。メールにあった冷静なコメントに「米国製」とでもラベルを貼って配ってみたらどうであろうか。