フラッシュ132
2010年1月26日
 

バンクーバー港の景色は何を物語るか

 
(財)国際貿易投資研究所
客員研究員
   佐々木 高成
 

  バンクーバーの港を眺めれば日本との経済交流が一目瞭然である。港には小麦などのグレイン・エレベーター、木材チップや大量の製材、木製品が見える。スタンレーパークの対岸に目立つ黄色の積荷は硫黄であろう。石炭は郊外の巨大な積み出し施設から輸出される。ビクトリア行きのフェリー波止場の途中に見える巨大な構造物がそれである。これらは日本との貿易の重要品目であり、今後ますます重要性を増すに違いない品目である。カナダは資源大国である。が、それだけではない。バンクーバーは日本人にとって今後とも大事にしたい都市である。

木材がとりもつ日加の縁
  バンクーバーの北側の山々には鬱蒼たる森林が広がる。この木材もまた日本と関係が深い。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州産の針葉樹材は輸入住宅や一般の住宅部材にも多く使われている。1970年代に日本でツーバイフォー建築の普及に先鞭をつけたのはBC州やアルバータ州の企業連合体であるカナダ林産業審議会(COFI)である。90年代半ばにはカナダ製輸入住宅やログハウスは日本にも大量に輸入され、ブームとなった。この時期のバンクーバーでずっと記憶に残る人たちがいる。BC州の住宅業界や政府は日本で成功するには品質と日本語の能力が大事だと考え、きめ細かなマーケティング戦略を策定、日本の各地で展示・商談会を開催して回った。日本の建築基準法をはじめとして日本の事情や商慣習を知る人材が豊富なことに強い印象を受けたものである。

  余談になるが、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州は名前が示すとおり、英国の影響が強いところである。筆者の近所に住んでいた医者はイギリスから引っ越してきていたし、スタンレーパークにあるクリケット競技場はバンクーバーの伝統的な趣味がどのようなものか伺わせる。考えてみればカナダは英連邦の一員なのでそれも当然かもしれない。

海外市場に敏感なカナダ人
  水産物は港の景色にこそ表れないが、昔から日本とバンクーバーを結んできたものである。市内の市場やレストランで生牡蠣を出しているが種類の豊富さに驚く。中にはクマモトのように日本の名前が付いたものもある。これはかつて日本から養殖牡蠣が北米に導入され広まったためである。日本人にとって嬉しいのはバンクーバーでは地元の産品と組み合わせたオリジナルな商品がたくさんあることである。例えば「サーモン・キャンディ」は鮭のジャーキーをメープルシロップに漬け込んだもので、「インディアン・キャンディ」とも言う。これまた地元のワインと食すると実にぴったりの組み合わせである。
  このように地元の食材を使った食品で日本人の口に合うものが多いのは、やはり日本人と付き合ってきた歴史が長いせいであろうか。あるいはヨーロッパの移民が持ち込んだ職人芸のせいなのか。あくまで印象論だが、その秘密を解く鍵はむしろ別のところにあるような気がする。「アメリカは国内市場が巨大なので、なかなか日本向けだけに仕様を変えたりしないが、カナダは熱心に要望を聞く」、と日本の大手スーパーの食品バイヤーから聞いたことがある。これは、米国と異なりカナダの国内市場自体は狭く、輸出で生きていかざるを得ないので自然と他国の事情に注意を払うことが身についているのだろう。
  そのせいだろうか、地元のチョコレートもアメリカのものよりはるかに日本人好みの味に近い・・・と私は思っている。
  ワインと言えば、北米ではカリフォルニア、中でもサンフランシスコの郊外ナパバレーが有名である。そこよりもはるか北方で寒冷なカナダでもワインが出来る。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州でも内陸のオカナガン地域が産地である。今でこそ同地域のワインは世界的評価を得ているが、かつてはあまり特徴のないワイン作りをしていて低迷していた時期があった。それが1989年の米加自由貿易協定によって米加が直接競合する事態に直面したことで、小規模生産を逆手にとって特徴あるワインを志向するようになったとのことである。

米加紛争の現場
  ところでカナダ産の木材は大量に米国に輸出されているせいで、もう約30年近く米加は木材を巡って貿易紛争を続けている。よくこれだけ長期に亘って摩擦が続くものだと思うが、根っこには米加の経済の仕組みに係わる大きな違いがある(「NAFTA下で独自の政策を追及するカナダ」)。鮭の漁獲をめぐっても米加は長年対立と非難をつづけてきた。鮭は稚魚の放流から河川の保護、陸海両面で資源の保護にはコストが伴うが、米国が資源保護に十分費用をかけていない一方でアラスカ沖からカナダ沿岸に南下する途上の鮭を沖合いで捕り尽くすとカナダは非難しているのである。つまりアラスカ鮭もカナダ鮭も元は同じなのにアラスカで一網打尽になれば漁業資源保護も覚束ないというわけである。
  バンクーバー周辺の海や山は太古の昔を想像させるほど荒々しい自然が残り、英語でpristine natureという言葉が相応しく美しいが、一歩人間世界に目を転じると、そこは米加紛争の現場であったりするのが不思議である。昔、ある個人のパーティーで米加漁業交渉の担当官だったカナダ人と話す機会があったが、「五大湖にもサーモン(鮭)がいるが、あれは大西洋サーモンではなく、太平洋サーモンなんだよ」と教えてくれた。これがジョークだったのかどうか、今もって不明である。