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フラッシュ138 |
2011年3月23日
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TPP交渉と論点(1) |
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亜細亜大学 教授 (財)国際貿易投資研究所 客員研究員 石川 幸一 |
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1.進展するTPP交渉 2006年に発効した4カ国の協定も現在9カ国で交渉中の協定もTPPと呼ばれている。9カ国で交渉中の協定は、4カ国で発効した協定を拡大・発展させる協定と位置づけられているが、内容は変わりつつあるようである。両者ともTPPと呼ぶのは混乱を招くので、本論では4カ国の協定をP4(Pacific 4)、9カ国の協定をTPPと呼ぶようにする。 2.P4の構成とTPP作業部会
(出所)Trans Pacific Strategic Economic Partnership Agreement TPPはP4を拡大・発展させている協定だが、実態は別の協定になりつつある。TPPの協定条文は、P4の協定がそのまま使われるのではなく、どのような協定条文にするのかについて交渉が行われている。詳細は判らないが、報道によれば参加国でかなり意見の対立もあるようである。協定条文について、P4参加国はP4の協定条文を使うことを主張し、米国は自国の締結したFTA、特に米韓FTAをベースにした協定条文を望んでいるといわれている。また、9カ国では多くの2国間FTAが締結されており、こうした既存のFTAの取扱いについても意見が対立しているようである。 現在、24の作業部会(主席交渉官協議、市場アクセス<工業、繊維・衣料品、農業>、原産地規則、貿易円滑化、衛生植物検疫<SPS>、貿易の技術的障害<TBT>、貿易救済措置、政府調達、知的財産権、競争政策、サービス、金融サービス、電気通信サービス、商用関係者の移動、電子商取引、投資、環境、労働、制度的条項、紛争解決、協力、分野横断的事項)で交渉が行われている。P4と比べると、市場アクセスが3分野に分かれていること、投資、金融サービス、分野横断的事項が入っている点が違っている。P4と米韓FTAの章構成をTPP作業部会と比較してみると、P4をベースに米韓FTAの章立てを取り入れた形になっている。たとえば、市場アクセス(物品の関税削減・撤廃)を3分野に分けたのは米韓FTA(4分野)を踏襲しており、米韓FTAにはない商用関係者の一時入国と協力がTPP作業部会には含まれている。 表2-1 P4、米韓FTAの章構成とTPP作業部会構成(物品の貿易関係)
表2-2 P4、米韓FTAの章構成とTPP作業部会構成(投資、サービス関係)
表2-3 P4、米韓FTAの章構成とTPP作業部会構成(その他)
(資料)各協定により作成 3.交渉事項と論点 (1)市場アクセス 米韓FTAは、米国の自由化率100%、韓国の自由化率99.7%(品目ベース)であり、やはり自由化率は非常に高い。発効と同時に関税を撤廃する品目は、米国82.4%、韓国80.4%であり、10年で関税撤廃する品目は、米国99.2%、韓国98.2%である。関税撤廃に10年以上かける品目は、米国が82品目、韓国が167品目である。韓国の除外品目は、米・同関連品目、乳製品など農産品31品目である。米韓FTAは2010年12月に最終合意されたが、自動車については米韓とも自由化の内容が後退していることが注目される。たとえば、韓国は当初は自動車関税(8%)を即時撤廃するとしていたが、最終合意では4%に削減し5年目に撤廃とした。米国は乗用車の関税(2.5%)を即時撤廃としていたが、5年目に撤廃となった。また、米国は自動車特別セーフガードを導入した。 TPPの市場アクセスについての作業部会は、工業品、農業、繊維・衣料品の3つに分けられており、TPPでは3章に分割される可能性がある。米韓FTAは、市場アクセスは4章に分けられている。物品(第2章)では、内国民待遇と関税撤廃、一時輸入など特別な取扱い、非関税措置、定義など総括的な規定がおかれている。第3章(農業)では、関税割当と農業セーフガード、第4章(繊維)では、繊維製品の原産地規則が詳細に規定され、関税番号(HS)ごとに、関税番号変更基準、ヤーンフォワード、加工工程基準などが説明されている。TPPでもこうした形での規定になる可能性もあると思われる。 TPPの交渉では、2つの交渉方式が提案されている。米国は既存の2国間FTAをそのまま残し、FTAのない国との2国間交渉を主張しており、チリとベトナムが支持しているといわれる。一方、豪州、ニュージーランド、シンガポールは、全体で統一交渉を行い、既存FTAは再交渉(reopen)することを主張しているといわれる。 米豪FTAでは砂糖を除外し、牛肉は18年で関税を撤廃することになっているが、こうした例外措置が米国の提案している方式では残ることになる。TPP9カ国では、すでに多くの2国間FTAが締結されており、例外品目が少なからずあるが、それらは再交渉しなければそのまま残存することになり、原則として100%自由化するFTAにはならない。米国方式では、TPPは36本の2国間FTAを束ねたFTAとなり、文字通りスパゲッティ・ボウル現象が起きることになる。2010年6月に既存のFTAとTPPは並存(co-exist)することが合意され、当面は2つの交渉方式が並存することになった。 最終的に除外品目が認められるかどうかは判らないが、仮に一部に除外が認められるにしても自由化率は99%程度が求められるのではないかと考えられる。 図1 TPP交渉参加国および日本の2国間FTA締結状況
(注)○印はFTAがあることを示す (2)原産地規則
@ P4の域内原産割合算出方式 一方、米韓FTAは、関税番号変更基準を原則として、付加価値基準、加工工程基準が採用されている。一部品目(機械)は、関税番号変更基準と付加価値基準の双方を満たすことが要求されており、厳しい規則となっている。また、繊維についてはヤーンフォワードが採用されている。原産証明は輸入者が行い、自己証明方式である。域内原産割合の算出は、輸送費を控除した調整価額(adjusted value)を使い、控除方式と積上方式の選択制となっている。争点となっているのは、原産地証明を輸出者が行うのか、輸入者が行うのかと取引価額を使うのか調整価額を使うのかであるといわれている。 米国は、ヤーンフォワードを繊維・衣料品の原産地規則としたい意向といわれる。ヤーンフォワードは米国のFTAで採用されている繊維製品の原産地規則である。米国が懸念しているのは、中国製の糸を使用したベトナムからの繊維製品の輸入急増である。ヤーンフォワードが米国とベトナムのFTAで採用されると、ベトナムはTPPにより無税で米国に輸出するには自国産か米国産の糸を使わねばならなくなる。米国は、ほかにも繊維セーフガード、税関確認手続きなどの導入を考えているといわれている。(以下続く) |