フラッシュ139
2011年3月29日
 

TPP交渉と論点(2)

 
亜細亜大学  教授
(財)国際貿易投資研究所   客員研究員

   石川 幸一
 

  今回は、サービス貿易、投資、知的財産権、政府調達、TBTおよびSPSを取り上げる。
  サービス貿易は3月に交渉が行われており、4月に入れば情報が出てくると思われる。

(3)サービス
  サービスは3月の交渉で提案を行うことになっている。自由化提案は、自由化を行わない分野を提示するネガティブリスト(留保表)方式で行うことになっている。ネガティブリスト方式ではリストで留保された分野以外は自由化を行う分野となる。

  P4のサービス貿易の規定は、WTOのGATS(サービス貿易一般協定)に準じた規定となっており、主な規定内容は、内国民待遇、最恵国待遇、市場アクセス、現地拠点、非適合措置、国内規制、専門資格と登録、利益の否認、資金の移転と支払などである。市場アクセスでは、@サービス供給者の数の制限、Aサービスの取引総額または資産総額の制限、Bサービス総産出量の制限、Cサービス提供者の雇用者の制限、D企業形態制限、E外資制限、の6つの措置を自由化を約束した分野で採ることを禁じている。自由化の約束は、ネガティブリスト方式で行い、WTOでの自由化以上の約束を行うことが求められている(WTOプラス)。

  米韓FTAもネガティブリスト方式を採用しており、越境サービス、金融サービス、電気通信、電子商取引の各章が設けられている。ネガティブリストは、@現状維持義務あり(規制緩和は可能だが自由化を後退させる措置は認められない)、A現状義務なし(規制の強化および新たな規制の導入が可能)に分けられている。なお、日本のEPAは、ASEANとの協定では自由化を行う分野を提示するポジティブリスト(約束表)方式、メキシコ、チリとの協定はネガティブリスト方式が採用されている。

  P4と米韓FTAの基本的な規定は、ほぼ同じなのでTPPも同様な規定になると思われる。ただし、章構成では、P4はサービス貿易1章だけだったが、TPPでは作業部会の構成に沿えば、越境サービス、金融サービス、電気通信、電子商取引の4章となる。商用関係者の移動については1章にするのかどうか検討されている。自由化約束はネガティブリスト方式が採用されている。自由化の約束についてはWTOプラスが要求される。WTOは、サービス貿易を11分野、55部門、155業種に分類している。石戸光によると、TPP交渉参加国のWTOでの約束は55業種を対象に市場アクセスについてみると、最大が米国の25分野、最小がペルーとチリの1分野となる。物品の貿易ではほぼ100%自由化しているシンガポールでもサービス貿易では9分野であり、自由化の余地は大きい。

  表3  TPP加盟国のGATS約束表上のサービス分野の約束

 

市場アクセス

内国民待遇

豪州

ニュージーランド

シンガポール

アメリカ

チリ

ブルネイ

マレーシア

ペルー

ベトナム

(参考:日本)

24 分野

11 分野

9 分野

25 分野

1 分野

3 分野

11 分野

1 分野

9 分野

19 分野

21 分野

10 分野

10 分野

24 分野

1 分野

2 分野

9 分野

1 分野

9 分野

18 分野

(注)第1モードと第3モードともになんらかの約束がある場合に約束とみなす。なお、第1モードはサービスの越境、第2モードはサービスの消費者の越境、第3モードは商業拠点の越境(サービス産業の投資)、第4モードはサービス供給者の越境である。
(出所)石戸光「APEC参加エコノミーを取巻くサービス貿易自由化の現状」アジ研ワールド・トレンド 2010年12月号

<金融サービス>
  P4は、金融サービスについてはサービス章の付属書で金融サービスの定義のみを掲載し、具体的な規定は行っていない。そのため、2008年3月から交渉が行われている。米韓FTAでは、内国民待遇、最恵国待遇、市場アクセス、経営幹部と取締役会、透明性など基本的な規定のほかに、顧客情報など機微な金融情報の取扱い、信用秩序維持のための措置の採用を保障する金融安全性確保のための例外規定、金融監督機関の協力などの独自の規定が設けられている。

(4)投資
  P4には投資の規定がなく、2008年3月から交渉が開始されている。米韓FTAでは、投資自由化はネガティブリスト方式を採用し、主な規定は、投資前を含む内国民待遇、最恵国待遇、公正かつ衡平な待遇、収用および補償、資金の移転、経営幹部および取締役会、パフォーマンス要求などである。パフォーマンス要求は、@輸出要求、A現地調達要求、B国内物品の購入要求、C輸出あるいは外貨稼得高による輸入制限、D輸出あるいは外貨稼得に応じた販売制限、E技術移転要求、F特定地域への独占供給要求、などの措置が禁じられている。経営幹部の国籍要件は禁じられ、取締役会の構成員の過半数については国籍要件と居住者要件は認められている。これらの規定は日本のEPAの投資章にも含まれており、TPPにも規定されると考えられる。

  米韓FTAには、締約国政府が協定義務に反し投資家に損害を与えたときに投資家が締約国政府を提訴あるいは国際仲裁に付託できるという投資家対国の紛争解決の規定が設けられている。TPP交渉では、投資家対国の紛争解決の規定を入れたい米国と反対する豪州とニュージーランドが対立しているといわれている。米豪FTAでは、豪州の反対により投資家対国の紛争解決の規定は含まれていない。日本のEPAを含め、近年締結された多くのFTAでは、投資家対国の紛争解決規定を含んでいる。

(5)知的財産権
  P4の知的財産権の範囲は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定)で取り上げられている基準、すなわち、著作権、商標、地理的表示、意匠、特許、集積回路の回路配置、開示されていない情報の保護である。一般的義務として、TRIPs協定およびその他の知的財産権に関する国際協定の権利と義務の再確認、権利消尽を認めること、チリのワイン、スピリッツに関する地理的表示の保護などを規定している。

  米韓FTAは、@著作権の保護期間はTRIPs協定およびベルヌ条約の50年を上回る70年、A著作権保護を詳細に規定、B音声なども商標の対象、C不合理な遅延による縮小する特許存続期間の延長、D知的財産権侵害対策の実施強化、など知的財産権の保護を強く打ち出した内容である。

  TPP交渉では、米国とニュージーランドが対立している。ニュージーランドはWTOのTRIPs(知的所有権の貿易関連の側面に関する規定)協定の規定に準拠することを主張し、米国は米韓FTAのようなTRIPs協定の保護の水準を上回る規定を主張している。

  争点の一つは権利消尽である。知的財産権は生産国で製品が適法に販売されると消滅するという権利消尽を認めると、生産国で販売されている商品を正規の代理店を通さず並行輸入し自国で販売することが可能になる。P4は権利消尽を認めており並行輸入が可能であるが、米国は権利消尽を認めず並行輸入を認めないことを提案しているといわれる。米豪FTAでは、特許医薬品の並行輸入が制限されている。ほかにも、米国は複製権を特許権者に認めることを提案しているといわれる。なお、米韓FTAでは、韓国側の反対により並行輸入の制限は盛り込まれていない。

(6)政府調達
  P4の政府調達についての規定では、締約国企業への内国民待遇と無差別が約束されている。政府調達に関連して、他の締約国の物品、サービスおよびそれらの提供者を自国の物品、サービスおよび提供者よりも不利に取り扱ってはならない。また、他の締約国の自然人と関係を持ち、あるいは所有されている自国の提供者を他の自国の提供者よりも不利に取り扱ってはならない。

  対象となる政府機関は、中央政府機関および地方政府機関であり、中央政府機関ではニュージーランドは35機関、チリは20機関、シンガポールは23機関が対象となっている。チリは地方政府機関も対象であり、Intendencia(州)とGobernercion(県)が対象となっており、市町村は対象外である。なお、ブルネイは2年間の猶予期間が与えられている。基準額は物品とサービスが5万SDR、建設が500万SDRとなっている。政府調達に関連する見返り措置(オフセット)は禁止されている。

  米韓FTAでは中央政府機関のみが対象となっている。調達基準額は、WTOの政府調達規定から半減されており、締約国に開放される政府調達の範囲が拡大されている。WTO政府調達協定に調印しているTPP交渉参加国は米国とシンガポールのみである。日本はWTO政府調達協定に参加しており、中央政府機関、地方政府機関(県と12市)、独立行政法人が対象などとなっている。また、日本シンガポールFTAでは、基準額を10万SDRに引き下げているが、地方政府機関と建設工事などのサービスは対象外としている。

  TPP交渉では、WTOで改正交渉が行われている政府調達協定の条文案で規定されている事項について議論が行われている(外務省「TPP交渉の24作業部会において議論されている個別分野について」)。WTOの改正交渉では、協定の改善・手続きの簡素化、開放的な調達を阻害する差別的な措置および慣行の撤廃、協定の適用範囲の撤廃が対象になっていた(経済産業省「不公正貿易白書2010年版」)。

(7)TBTとSPS
  製品の品質、安全性は、消費者の健康や安心にとり極めて重要である。製品が環境を汚染しないかに留意する消費者も多い。製品の品質、安全性、環境保全などのために各国は基準を設け、基準に適合しているかを認定する認証制度を設けている。こうした基準や認証制度が必要以上に貿易障壁となることを防ぐためのWTOのルールがTBT(貿易の技術的障害)協定である。FTAでも同様な規定が設けられており、他の加盟国の基準や認証を自国でも認める相互承認などの制度が設けられている。

  農産品や食品の安全性は、人間だけでなく動植物の生命、健康の維持に極めて重要である。そのため、検査を行い危険性を評価し必要に応じ輸入を規制することが認められている。そのルールがWTOのSPS(衛生植物検疫措置)協定であり、生命、健康の保護のために必要な限度内において科学的な原則に基づいて衛生植物検疫措置の実施を認めている。ただし、恣意的な差別や偽装された貿易制限にならないようにという条件を設けている。WTOのSPS協定では、国際機関が作成した危険性評価の方法を考慮しつつ、自国のSPS措置をそれぞれの状況において適切なものに基づいてとることができる(第5条1項)となっており、国際的な基準より厳しい措置をとることができるが、科学的証拠に基づいており必要以上に貿易制限的であってはならないと規定されている(第5条)。たとえば、国際獣疫事務局(OIE)のBSEコードは、骨なし牛肉の輸入承認すべき条件を30ヶ月齢以下としていたが、2009年5月の総会でこの条件を撤廃した。一方、日本は20ヶ月齢以下を条件としている(馬田啓一「日米関係の危ない構図:米国の国家輸出戦略と日本への影響」馬田啓一他編著『日本通商政策論』文眞堂、2010年)。米国は国際的な基準の準拠を主張している。

  P4のSPS(衛生植物検疫)の規定は、WTOのSPS協定の権利と義務の確認、SPS委員会の設置、同等の措置(輸出国のSPS措置を輸入国が同等の措置として受け入れ)、輸出国の手続きの確認、地域的な状況に対応した調整、輸入検査、技術協力などが規定されている。米韓FTAのSPSの規定はP4より短く、SPS協定の確認、委員会の設置、紛争解決となっている。

  外務省資料では、WTO・SPS協定の対象となっている手続きの迅速化や透明性の向上などが議論されている。

  P4のTBT(貿易の技術的障害)の規定は、WTOのTBT協定の義務と権利の確認、任意規格、強制規格、適合性評価における共同作業による貿易円滑化、国際規格の使用、他国の強制規格を同等の措置として受け入れることを検討すること、適合性評価の結果の受入れの円滑化、技術協力と委員会の設置などが規定されている。米韓FTAのTBTの規定はP4と大きくは違わないが、自動車作業グループの設置が規定されている。

  上述の外務省資料によると、TBTについては、基準の策定過程について相手国の利害関係者の参加を認めることや一般からの重要なコメントへの回答を開示することによる透明性の向上などが議論されている。(以下、続く)