フラッシュ174
2013年10月22日
 

ドイツ総選挙で大連立政権誕生へ

 
(一財)国際貿易投資研究所
客員研究員
新井 俊三
 

9月22日に行われたドイツ連邦議会選挙は、メルケル首相率いる連立与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CS)が大勝する一方、連立政権の一方を担っていた自由民主党(FDP)が、議席獲得に必要な得票率5%に届かず、戦後初めて議会から姿を消した。野党である社会民主党(SPD)も得票率を伸ばし、少数野党である緑の党、左派党も得票は減らしたものの、議席を維持した。ユーロ圏からの離脱を主張するドイツのための選択肢(AfD)は、5%に届かず、議会進出は果たせなかった。10月9日に発表された選挙の最終確定値は別表のとおりである。速報値が一部修正されている。


表1 政党別得票率、確定値

表2 政党別議席数

選挙前の世論調査でも、最大野党社会民主党のシュタインブリュッケ首相候補を大きく引き離していたメルケル首相は、1957年に1度だけアデナウアー政権が達成した単独過半数に、わずか5議席足らない勢いを示した。景気回復が思わしくない欧州にあって、ドイツ経済は堅調であり、失業者も少ない。国際的には批判を浴びている消極的なユー支援策も、選挙民の支持は高い。今までの実績が評価されたといえる。

自由民主党は、前回の総選挙で減税を公約に掲げ14%を超える得票で勝利し、連立政権に参加したが、減税を実施できず、またホテルへの付加価値税に軽減税率を適用させたが、後日ホテル業界からの献金が明らかになり、批判を浴びた。その後の州議会選挙でも次々に敗退、今回の連邦議会選挙でも事前の世論調査では支持率が5~6%となっていたため、議席を確保できるかどうかが焦点であった。自由民主党は政府の介入には反対、福祉にも消極的で、小さな政府をめざし、人間の自由を尊重する政党で、企業経営者、弁護士・医者などの自由業、企業幹部などに支持されている。議席を失ったことで中小企業経営者層からは、利益代弁者の喪失を危惧する声も上がっている。

ユーロ離脱を掲げて新たに登場したドイツのための選択肢は、議席確保に至らなかったが、あと一歩の得票率4.7%を獲得したことが評価され、来年5月の予定されている欧州議会選挙での動向が注目を浴びている。

今回の選挙は事前のメルケル首相の人気が高く、勝利も確実で、国内政治では大きな争点もなかったため、退屈な選挙戦といわれていた。焦点は自由民主党が議席を確保して、従来の連立政権が継続するのか、それとも自由民主党の結果次第では、キリスト教民主・社会同盟と社会民主党との大連立が成立するかであった。選挙結果から、理論的には社会民主党、緑の党と左派党の3者連立の可能性もあったが、旧東ドイツの社会主義統一党(SED)の流れをくむ左派党との連立は、社会民主党も緑の党も拒否。可能性としてはキリスト教民主・社会同盟と社会民主党の大連立か、あるいはキリスト教民主・社会同盟と緑の党との連立政権が残されていた。キリスト教民主・社会同盟は社会民主党、緑の党とそれぞれ協議を行っていたが、緑の党が連立政権を拒否したため、社会民主党との連立を目指し、政策協議を深めていくこととなる。

両党の政策協議ではそれぞれの選挙公約をもとに政策のすり合わせを行うことになるが、報道によると、社会民主党は増税、ユーロ共同債の発行を断念する代わりに、全国統一の最低賃金8.50ユーロの導入を求め、キリスト教民主・社会同盟もそれを認めた、といわれる(注2)。

今回のドイツ連邦議会選挙では、国内の選挙の争点と外国、特に欧州諸国での関心が大きく乖離していた。外国の関心はドイツのユーロ政策が変わるかどうかであったが、選挙戦ではほとんど議論されていない。国民の大多数は、財政の健全化と構造改革をユーロ加盟国に求め、必要な限りでユーロ圏を支援するというメルケル政権の政策を支持している。

緊縮政策の緩和、ユーロ共同債の発行などのさらなるユーロ支援策は選挙民からは評価されなかったであろう。

しかし、欧州の中でのドイツの重要性が増すにしたがい、ドイツの指導力が求められるようになってきている。ナチス・ドイツにより大きな被害をこうむったポーランドでさえ、外相が2011年ベルリンでの演説で「ドイツの力よりも、ドイツが何もしないことを恐れる。」と発言している(注3)。ドイツの中からも「欧州のためにもっと勇気を」とガウク大統領が呼びかけるようになった(注4)。欧州政策で臆病で、慎重であったドイツは、経済力の拡大とともに、自らの意思に反して欧州での指導力を求められているのであろう。


注1:ドイツの連邦議会選挙は個人選挙と結合した比例代表選挙制、いわゆる小選挙区比例代表併用制で行われる。直接選挙の小選挙区で3名を選出されるか、比例で5%以上の得票がないと議席が持てない。議席の配分は比例得票数に応じ行われるが、比例得票数で獲得した議席を上回る議席を直接投票で得た場合は、超過した議席もそのまま認められる。
連邦議会の議席数は本来598であるが、超過議席があるため実際はそれを上回る。

注2:“Mindestlohn gegen Euro-Bonds” 2013年10月12日 Spiegelウェブ版

注3:“Germany and the euro – Don’t make us Fuehrer” 2013年8月13日 
    The Economist ウェブ版

注4:“Mehr Mut zu Europa” 2013年10月3日 Spiegel ウェブ版