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フラッシュ177 |
2013年12月3日
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日EU経済連携協定(EPA/FTA)の合意に向けて(その1)
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(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員 田中 友義 |
はじめにWTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンド交渉が停滞する中で、経済連携・自由貿易協定(EPA /FTA)締結の動きがアジア太平洋地域を中心に活発化してきている。2000年代後半以降アジアとのFTA戦略を展開するEUと、欧米とのより高度の経済連携を目標としつつも、EU韓国FTAの暫定発効(2011年)によりEU市場で競争上不利になることへの懸念を強めている日本が経済連携・自由貿易協定(日EU・EPA/FTA、以下では単に日EU経済連携と記す)の早期締結の実現に向けて、日EU首脳が2013年3月、交渉開始で合意した。同年4月には第1回交渉会議がブリュッセル、第2回会議が東京、第3回会議が10月にブリュッセルでそれぞれ開催された。第4回目は2014年1月に開催予定である。 本稿では、同時並行して交渉が進行中の地域横断的・広域的な4つのメガ FTAの中で、日EU経済連携がどのような位置を占めるのか、統計数値をベースにして包括的に論述し、あわせてEUのFTA戦略、日本のFTA戦略を概観する。また、次回では日EU経済連携協定交渉の進捗状況および主要な課題を取り上げる。 空前規模の4つのメガFTAとはメガFTAとは、表1にみるように人口・GDP・貿易・直接投資などの規模が史上空前のFTAと定義できる(注1)。具体的には、交渉開始順にTPP(環太平洋戦略的経済連携:Trans-Pacific Strategic Economic Partnership、2010年3月),日EU経済連携(2013年4月)、RCEP(東アジア地域包括的経済連携:Regional Comprehensive Economic Partnership、2013年5月), TTIP(環大西洋貿易投資連携、2013年7月)の4大FTAを指す。これら4つのメガFTAのいずれかに、日本、EU,米国、中国という4大経済パワーが参加していること、これらの経済連携交渉がほぼ同時並行して進行していることが注目されよう。 そこで、これらの4メガFTAの中で、日EU経済連携が経済規模的に占める位置を明らかにするために、表1、表2で示した統計数値をベースにして、項目別に比較してみたい。 まず、人口規模についてみてみると、日EU経済連携は6億2,990万人、世界総人口の9.0%と、中国・インドを含むRCEPの48.8%の突出したシェアは別にしても、TTIP11.7% ,TPP11.3%の他の2つのメガFTAに比べても最も小さい。
表1 4メガFTAの人口・経済・貿易・直接投資の規模
(注1)シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、米国、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルー、メキシコ、カナダ、日本 (注2)インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド (注3)当該国・地域のそれぞれ輸出入合計額、対外・対内直接合計額を示す。 (出所)UN :National Accounts Statistics2011,UN:World Population Prospects ;The 2010 Revision, UNCTAD :World Investment Report2013,ジェトロ統計(各国・地域貿易統計)などから作成。
次に、経済規模(名目GDP)については、日EU経済連携は23兆5,327億ドル、世界のGDPの33.5%と、TTIP46.5%、TPP38.5%に次いで第3位であり、RCEP28.5%が第4位にとどまる。また、貿易規模(輸出入合計)でみてみると、日EU経済連携は13兆3,910億ドル、世界貿易の36.5%と、TTIP42.4%に次いで第2位で、以下RCEP28.5%、TPP26.0%の順位となっている。 海外直接投資規模(対外・対内投資合計)については、日EU経済連携は7,061億ドル、世界の海外投資合計額の25.8%で、TTIP39.1%、TPP37.0%に次いで第3位であり、RCEPは23.9%と第4位である。 以上から、経済規模では、TTIPが4メガFTAの中で最も大きく、日EU経済連携はTPPとほぼ肩を並べる位置を占めているといえる。もっとも、先進国・地域間の経済連携であるTTIP,日EU経済連携の経済規模での優位性を強調することは物事の一面を論じているに過ぎない。むしろ、経済規模では劣位にあるTPP,RCEPには、中国、インド、メキシコ、ASEANなど多くの新興国・地域が参加しており、今後急速に発展する大きな可能性を秘めているといってよい。 メガFTAの中で拠点的位置する日本、先進国・地域中心のEU本節では、日本およびEUがそれぞれ4メガFTAの中でいかなる位置を占めているのかを論述する。結論を先取りして言うならば、日本が日EU経済連携,TTP、RCEPの3つのメガFTAに参加するという最も有利な拠点的なポジションを占めている。次いで、EUは米国と同じく2つのメガFTA に参加、4大経済パワーの一角を占める中国はわずかにRCEPに参加するのみである。以下では、これら4大経済パワーと4メガFTAとの組み合わせによる世界シェアを表2に示した統計数値のデータに基づいて検証してみる。 まず、日本が参加するFTAの規模を合計すると(重複を除く)、人口は44億1,490万人、世界総人口の63.3%、GDP55兆9,463億ドル、世界のGDP 合計の79.7%、貿易規模は27兆8,867億ドル、世界貿易総額の76.1%、海外直接投資規模は1兆9,333億ドル、世界の直接投資合計の70.5%と、いずれも圧倒的なシェアを締めることはが明らかである。 他方、EUは日EU経済連携,TTIPの2つのメガFTAに参加している。EUが参加するFTAの規模は、人口は9億4,300万人、世界総人口の13.5%、GDPは38兆5,241億ドル、世界GDP合計の54.9%、貿易規模は17兆2,120億ドル、世界貿易総額の47.0%、海外直接投資規模は1兆6,599億ドル、世界の直接投資合計の60.5%のシェアを占めている。前節でも指摘しておいたことであるが、EUのメガFTA参加は、日米という先進国・地域中心であり、「世界の成長エンジン」と位置づけられるアジアとの連携が遅れていることである。
表2 メガFTAの世界シェア(%)
(注1)当該国・地域の輸出入合計額または対外・対内直接投資合計額を示す。 (注2)世界の輸出入合計額または対外・対内直接投資合計額を示す。 (出所)表1から作成したもの。
米国は2つのメガFTAに参加しているが、規模的にはEUよりもやや有利なポジションを占め、TPP参加によってアジアとの連携強化を図っている点で、EUよりも均衡が取れていている。中国は現在までのところ、RCEPにのみ参加することから、人口規模を除いて世界シェアがいずれも最も低い。 次に、表3は日本、EU、米国、中国の4大経済パワーの現行EPA/FTAカバー率とEPA/FTA締結後のカバー率を示したものである(注2)。現行のカバー率は米国39.4%、EU26.9%と相当高いのに対して、日本18.8%、中国16.6%と低い。3つのメガFTAに参加している日本が、もしEPA/FTA協定を締結した場合、カバー率が73.5%と飛躍的に高まることになり、これら4国・地域間で米国の63.8%、EUの44.5%、中国の36.5%を抜いてFTAカバー率では一躍首位に躍り出ることになる。ただし、EUの場合、域内貿易依存が高いにも拘らず(輸出62.7%、輸入60.6%、2012年)、表3では、この部分が除外されているため、FTAカバー率が低くなっていることに留意する必要がある。
表3 4大経済パワーのメガFTA締結後のFTAカバー率(%、2012年末、往復貿易ベース)
(注1)TPPとRCEPでの重複があるため各FTAの積み上げ数値は合計と一致しない。 (注2)EUは域内貿易を除く。 (注3)中国は香港、マカオを除く。 (出所)ジェトロ『世界貿易投資報告』(2013年版)56ページから作成。
EUのFTA戦略、日本のFTA戦略本節では、EUのFTA戦略と日本のFTA戦略および現在までのEPA/FTA締結状況を論述する。 まず、EUのFTA戦略については、欧州委員会は2006年10月、新通商戦略のための政策文書「世界で競争するグローバル・ヨーロッパ:EUの成長・雇用戦略への貢献」(注3)を発表、その中で日本、米国に後れを取っているアジア地域において、ASEAN、中国、韓国、インドなどとのEPA/FTA交渉を最優先する国・地域に挙げている。EUが経済成長や雇用の創出を促すために、急速に発展するアジアの経済成長を強力に取り込もうとする戦略である。この時点では、日本を最優先国とはせずに経済連携協定には慎重なスタンスをとっている。 その後、欧州委員会は、2008年に発表した「グローバル・ヨーロッパ-グローバル経済におけるEUのパフォーマンス」(注4)の中で、世界経済の成長センターであるアジア地域との経済連携では日本、米国、中国の他の3極とは明らかに遅れをとっており、将来性が最も高い市場で、EUが不振であることが、長期的にはEUの世界貿易における地位を損なうとの危惧を表明している。 さらに、2010年11月に欧州委員会が発表した政策文書「貿易、成長、世界情勢:EU2020戦略の中核的要素としての通商政策」(注5)の中で、EUの経済成長の強化、雇用の増加など貿易の利益がEUに還元されるために、米国、日本、中国、ロシア、インド、ブラジルなどの戦略的パートナーとの通商関係の強化を図ることを強調している。 EUは、表4にみるように、33カ国・4地域とのEPA/FTA締結など全方位的にFAT戦略を展開しているものの、アジアの国・地域との間でEPA/FTAを締結・発効できたのは、韓国(2010年、11年から暫定適用)、シンガポール(2013年)の2カ国に過ぎない。また、EUが目指したASEANとの地域レベルのFTA締結は実現していない。 このように、アジア諸国とのFTA交渉が停滞する一方で、欧州委員会は2012年に発表した報告書「成長の外部要因-EUの主要経済パートナーとの貿易・投資関係の進捗報告」(注6)の中で、EUは、より高度のFTAを締結することができ、より大きな経済効果も期待できる日本、米国とのFTA交渉に着手することを明らかにした。 他方、日本のEPA/FTA戦略は、アジア太平洋地域の国・地域を中心に展開されてきており、4つのメガFTAのうち、3つのメガFTAに参加するなど、4大経済パワーの中で最も優位なポジションを占めていることは前節で検証したところだ。今後、日本は多面的に経済連携を進めていき、貿易相手国・地域の大部分をカバーする「経済連携のネットワーク」の構築を目指す(2018年までにFTA比率70%達成)(注7)。表4に示したように、日本は12カ国1地域との間で欧州諸国との間でEPA/FTAがすでに発効しており、5カ国・5地域と交渉中である。今後、アジア太平洋地域以外の主要国・地域として最大の貿易相手先である日EU経済連携との締結交渉も本格化してくる。日本がこれまでに欧州地域・国とEPA/FTA条約締結できたのはスイス(2009年)のみであり、また、日本にとっては先進国との間では最初のEPA/FTA条約である。
表4 4大経済パワーのEPA/FTA締結状況(2013年10月現在)
(注)カッコ内の数字は協定の発効・署名・妥結年を示す。 (出所)経済産業省『通商白書』(2013年版)59ページ、ジェトロ『世界貿易投資報告』(2013年版)64ページ、134ページ、European Commission(MEMO/13/734、Brussels,1August2013)などから作成。 (以下次号に続く)
注
1.世界の主要国・地域におけるEPA/FTAの動向については、ジェトロ『世界貿易投資報告』(2013年版)53~74ページを参照。
2.主要国・地域のFTAカバー率については、ジェトロ『世界貿易投資報告』(2013年版)56ページ参照。
3.European Commission: Global Europe、competing in the world. A Contribution to the EU’Growth and Jobs Strategy(October2006)
4.European Commission: Global Europe.EU performance in the Global economy(October2008)
5.European Commission: Trade,Growth and World Affairs、Trade policy as a core component of the EU’s 2020 Strategy (November2010)
6.European Commission: External sources of growth-Progress report on EU trade and investment relationship with key economic partners(July2012)
7.日本の経済連携推進の方針と取り組み状況については、『通商白書』(2013年版)59~68ページを参照。
参考資料:
経済産業省『通商白書』(2013年版)
(http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2013/2013honbun_p/index.html)
ジェトロ『世界貿易投資報告』(2013年版)
(http://www.jetro.go.jp/world/gtir/2013) European Commission: External Sources of growth-Progress report on EU trade and investment relationship with key economic partners
(http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2012/july/tradoc_149807.pdf) European Commission: Trade,Growth and World Affairs、Trade policy as a core component of the EU’s 2020 Strategy
(http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2010/november/tradoc_146955.pdf ) European Commission: Global Europe.EU performance in the global economy
(http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2008/october/tradoc_141196.pdf) European Commission: Global Europe-competing in the world A Contribution to the EU’Growth and Jobs Strategy
(http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2006/october/tradoc_130376.pdf) European Commission:The EU’s bilateral trade and investment agreements-where are we?
(MEMO/13/734,Brussels,1August2013) UN :National Accounts Statistics2011,
(http://unstats.un.org/unsd/nationalaccount/sdPubs/AMA-2011.pdf) UN:World Population Prospects ;The 2010 Revision,
(http://esa.un.org/unpd/wpp/index.htm) UNCTAD :World Investment Report2013,
(http://unctad.org/en/PublicationsLibrary/wir2013_en.pdf) |
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