フラッシュ181
2014年3月19日
 

EUの東方への拡大とウクライナ

 
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
田中 信世
 

1.さらなる東への拡大に動くEU

EUは1958年の原加盟国6カ国による創設以来拡大を続け、2004年5月の10カ国(注1)と07年1月の2カ国(注2)の新規加盟(いわゆる第5次拡大)により加盟国は27カ国に拡大した。さらに13年7月には旧ユーゴスラビアのクロアチアが新たに加盟し、現在の加盟国は28カ国である。

このほか、現時点で、マケドニア、アイスランド、モンテネグロ、セルビア、トルコがEUから加盟候補国としてのステータスを与えられており、このうち、トルコとは2010年6月に、アイスランドとは12年10月に、さらにモンテネグロとは13年12月に加盟交渉がスタートしている。また、正式な加盟候補国としてのステータスはまだ与えられていないが、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボの名前が潜在的な加盟候補国として挙がっている。

以上のようにEUの拡大は、いわゆる東方への拡大という意味では、旧ユーゴスラビアの南東ヨーロッパの諸国などを除くと、2004年と07年の第5次拡大で一段落した感がある。しかしEUの東方への拡大の動きはこれにとどまらず、東への更なる拡大を視野に入れた動きを見せている。すなわち、EUはアルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、グルジア、モルドバ、ウクライナの6カ国との間で、04年に欧州近隣政策(European Neighbourhood Policy =ENP)の枠組みを構築し、さらに09年には「東方パートナーシップ」(Eastern Partnership=Eap)という名前の共同イニシアティブを立ち上げた。この「東方パートナーシップ」でEUは、ベースとなる共通の価値基準として、①民主主義と法の支配、②人権と自由の尊重、③市場経済へのコミットメントの3つを掲げるとともに、二国(地域)間関係では、①建設的な二国間関係の新たな構築、②EU経済への統合、③EUへの旅行手続きの簡易化、④エネルギー・輸送部門での協力、⑤経済および社会の発展、⑥金融支援6つの柱を打ち出した。

そして、こうした二国(地域)間関係の強化をベースに、EUは、これら6カ国との間で、政治的な連携の強化、政治対話の強化、および公正・安全保障問題に関するより深い協力関係を構築するために連合協定の締結を目指している。連合協定は協定締結国の将来のEU加盟を前提としたものであり、EU加盟国として政治的、経済的な責務を果たせることが締結の条件となっている。また、グルジア、モルドバ、ウクライナとの連合協定には、①商品貿易やサービス貿易に対するアクセスの改善、②関税撤廃・数量制限・貿易障壁の削減、③安定した法的環境の確保、などを内容とする「ディープで包括的な自由貿易地域」(Deep and comprehensive free trade area=DCFTA)の創設も含まれる。

連合協定締結後、締結国が加盟の基本的な前提条件を満たすことが可能と判断された段階で、EUとの間でヒト・モノ・カネの自由移動など合計35の分野(注3)ごとに加盟交渉が開始される。加盟交渉で、加盟候補国は合計35の分野で総体としてのEUの法体系(アキコミュノテール)を受け入れることができるか、受け入れられない場合には受け入れまでの暫定措置をどのように設定するかを具体的に詰める。加盟交渉が終了して初めて、加盟候補国は、欧州理事会などの承認を経て晴れてEUの加盟国となる。

2.親ロ派政権の誕生で連合協定の調印を見送り

EUとウクライナの間では、ソ連邦消滅後の1998年に連携・協力協定(Partnership and Cooperation Agreement=PCA)が締結され、経済構造改革の主要な分野におけるEUとウクライナの協力のための包括的な枠組みが用意された。さらにEUは前述のように東方パートナーシップ政策によりウクライナとの二国関係強化に努めるとともに、2007~11年に新たな連合協定締結に向けた交渉を行い、11年12月には仮調印にこぎつけた。

一方、ウクライナでは、2012年10月の議会選挙により親ロシア派のヤヌコビッチ政権が樹立されたが、EUの欧州議会は同年12月に、①ウクライナが(リトアニアの首都ビルニウスで13年11月に開催される東方パートナーシップサミットまでに)3つの分野で決定的なアクションを起こし、はっきりとした進展を示せば、既に仮署名したディープで包括的な自由貿易地域を含む連合協定に署名するという約束を再確認する、②署名によって協定の一部分の暫定的な適用への道が開かれる、といった内容を盛り込んだウクライナに関する決議を採択した。この決議の中で欧州議会が述べている3つの分野とは、①12年の議会選挙が国際的なスタンダードに基づいて実施されたかの確認、②そのフォローアップ・アクション(是正措置)、および③双方が合意に達した司法改革やその他改革の実施、の3つである。

しかし、ウクライナ政府は13年11月に至って連合協定への署名を一時中止することを閣議決定した。その後ウクライナでは、首都キエフなどでEUとの連合協定の調印を見送りロシアとの関係強化に傾いたヤヌコビッチ政権に対する不満が高まり、親欧米派の激しいデモによりヤヌコビッチ政権が崩壊した。さらに、その後ロシアはクリミア半島に軍事展開するなどヤヌコビッチ政権後の親欧米政権に対して圧力を強めつつあり、ウクライナでは政治的に極めて不安定かつ不透明な状況が続いている。しかしEUとしては、連合協定締結の時期は不透明になったものの、その後もウクライナ支援の観点から、ウクライナの準備が整えばいつでも協定に署名する用意があるとの態度を明確にしている。

 

ウクライナの独立後の動き

1991年8月

ウクライナ、独立宣言

1991年12月

ソ連邦崩壊。ウクライナを含む旧ソ連11共和国が参加して独立国家共同体(CIS)結成

1991年12月

ウクライナで完全独立の是非を問う国民投票と初代大統領選挙

1996年

ウクライナ、独自通貨フリヴニャを導入

2002年10月

ロシア、ウクライナと「天然ガスの分野における二国間協力協定」に調印

2004年

親欧米派が抗議集会(オレンジ革命)

2004年12月

親欧米派のユーシェンコ氏が大統領に就任

2006年

天然ガス価格を巡りロシアと紛争

2006年

親ロ派のヤヌコビッチ内閣が発足

2007年

最高会議選で親欧米派が過半数

2010年

親ロ派のヤヌコビッチ氏が大統領に就任

2013年11月

EUとの連合協定の調印見送り

2014年2月

親欧米派のデモにより、ヤヌコビッチ政権が崩壊

2014年3月

ロシア軍がクリミア半島を掌握

2014年3月16日

クリミア自治共和国で自治共和国の独立とロシアへの編入の是非を問う住民投票


3.停滞するウクライナ経済

親欧米か親ロシアかで大きく揺れるウクライナであるが、そのウクライナの経済の最近の状況について以下に簡単に見てみよう。

 

表 ウクライナの主要経済指標(単位;%)

 

2009

2010

2011

2012
(推定)

2013
(予測)

GDP成長率

-14.8

4.1

5.2

0.2

-0.5

インフレ率(各年末)

12.3

9.1

4.5

-0.2

-0.1

財政収支のGDP比

-11.3

-9.5

-5.3

-5.3

-7.4

経常収支のGDP比

-1.5

-2.2

-6.3

-8.1

-8.0

純外国直接投資(100万ドル)

4,654

5,769

7,015

6,672

4,500

対外債務のGDP比

88.2

86.0

77.2

76.6

n.a.

総外貨準備高のGDP比

22.6

25.3

19.5

13.9

n.a.

民間部門に対する融資/GDP比

73.4

62.4

56.5

53.7

n.a.

(出所)EBRD(欧州復興開発銀行)


<景気は2012年から低迷>

ウクライナのマクロ経済は2009年の経済危機からの回復が遅れており、欧州復興開発銀行(EBRD)によれば12年の実質国内総生産(GDP)成長率は2%と低迷し、13年にはマイナス0.5%と景気後退が見込まれている。干ばつによる農産物生産の不振、対外経済環境の悪化による輸出の低迷、12年の議会選挙後の国内需要の停滞、欧州サッカー選手権(12年に開催)後の投資の大幅な減少などが景気の低迷をもたらした。民間部門と公的部門の債務額は非常に大きく、そのほとんどが外貨建てで返済期限が満期が短い。そして外部融資に対する需要は非常に大きいが、世界からの資金調達環境は悪化してきている。

また外貨準備は大幅に減少しており、ウクライナの国際金融市場へのアクセスは実質上閉ざされた状態になっている。

議会選挙期間中に実施された公的部門の賃金引き上げの結果、2012年の財政赤字のGDP比は5.3%に高まり、13年には7%を超える財政赤字が見込まれている。民間部門に対する銀行融資は政府の突然の政策金利の引き上げや、銀行のバランスシート上の不良債権の突出(13年6月現在19%と推定される)によって抑制された。

2012年の輸出は509億2,100万ユーロ、輸入は608億5,100万ユーロで、99億3,000万ユーロの貿易赤字となった。主要貿易相手国(地域)はEUとロシアである。輸出ではEU向けが全体の40.7%、ロシア向けが24.1%、輸入では全体の25.3%がEUから、24.1%がロシアからとなっており、輸出では全体の70.3%、輸入では49.4%がEUとロシアに依存するという構造になっている。このように、貿易関係ひとつとってみても、両国(地域)との経済的な相互依存関係は極めて大きく、ウクライナにとっては、いずれに偏っても経済に大きな影響を受けることは避けられないことは明らかである。ウクライナの輸出全体に占める商品別の構成をみると、付加価値の低い鉄鋼と化学品の割合が高いのが特徴となっている。

中央計画経済から市場経済への移行国(移行経済国)における市場経済化に向けた改革の進展状況を毎年取りまとめている欧州復興開発銀行(EBRD)の「トランジション・レポート(市場経済移行報告書)」(2013年度版)は、今後、ウクライナ経済が持続的な回復を図るためには、政府による徹底的な制度改革の実施が必要と指摘している。同報告書によると、天候の回復に伴う農業生産の回復、および農産物に対する高い対外需要によって、農業部門の成長が持続することが期待される一方、金融部門は2008~09年の金融危機の時期に積み上がった不良債権の大きな山に引き続き苦しんでおり、自国通貨フリヴニャ建ての長期の貸付資金は引き続き限られている。そして、金融部門は欧州全体の銀行が欧州債務危機で大きな変化の過程にあることから、ウクライナの銀行も対外金融市場へのアクセス能力がより限られたローカルのオーナーに取って代わられており、このことがウクライナの国際金融市場からの資金調達を困難にしている。また鉄鋼などウクライナの伝統的な輸出品に対する対外需要は弱くなっており、国内需要を刺激するための金融部門の能力も限られている。こうしたことから、外国からの直接投資の誘致や国内投資を活発にし、経済成長を加速するためには、更なる経済構造改革やより弾力的な金融政策の実施により世界市場へのアクセス(特に連合協定の締結を通じたEUへのアクセス)を強化する必要があると同報告書は指摘している。


表1 ウクライナの主要経済指標

 

表2 ウクライナの対世界貿易の推移(2008~12年)

 

表3 ウクライナの主要相手国地域

 

<緩慢な経済改革の進展>

1991年のソ連崩壊後、旧ソ連邦を構成していた東欧の社会主義国は政治的には自由選挙や複数政党制などの民主化を進める一方、経済面では市場経済への移行を開始した。東欧の旧社会主義国でいち早く90年代の初期に市場経済のへの移行を開始したいわゆる移行先行国はハンガリー、チェコ、ポーランドなどの中欧諸国であり、これよりやや遅れて、ブルガリア、ルーマニアなどの東欧諸国の市場経済への移行が始まった。ウクライナの市場経済への移行が始まったのはさらに遅く90年代の後半になってからである。

EBRDの移行報告書2013年版によりこれら諸国の移行の進捗状況をみると、移行先行国や、国の規模が小さく市場経済化を進めやすかったバルト3国などでは、EBRDの移行指標(表4の注参照)でほぼ「先進工業国並み」に市場経済化が進んだ項目が多いのに対して、後発のウクライナでは特に企業統治や競争政策などの面での遅れが目立つ。

 

表4 国別の移行指標(2013年)

 

企業

国内販売および貿易

 

大規模企業の民営化

小規模企業の民営化

企業統治・企業改革

価格の自由化

貿易・外為制度

競争政策

ハンガリー

4

4+

4-

4↓

4↓

3+↓

ポーランド

4-

4+

4-

4+

4+

4-

スロバキア

4

4+

4-

4+

4↓

3+↓

ルーマニア

4-

4-

3-

4+

4+

3+

ブルガリア

4

4

3-

4+

4+

3

エストニア

4

4+

4-

4+

4+

4-

ラトビア

4-

4-

3+

4+

4+

4-

リトアニア

4

4+

3

4+

4+

4-

ウクライナ

3

4

2+

4

4

2+

(注)表の移行指標の数値は、中央計画経済時代と比べてほとんど変化のない状態を「1」とし、先進工業国の基準に達した状態を「4+」として、移行の進展度合いをEBRDの専門家グループが数値化したもの。数字の右側の上下の矢印は前年より1ランク上がった(または下がった)ことを示す。

(出所)EBRD“Transition Report 2013”より作成


こうした市場経済化の遅れを反映して、ウクライナではビジネス環境の改善の遅れが指摘されている。世界の国々のビジネス環境については世銀がビジネス環境調査(Doing Business report)を実施して毎年ランク付けしているが、同調査ではウクライナはビジネス環境の改善が進んでいない国のひとつに挙げられている。遅れている経済構造改革を進展させ、停滞している経済を活性化させるためには、外国から直接投資を受け入れ、外国の進んだ生産技術などを取り入れることが必要不可欠である。市場経済への移行過程での外国からの直接投資受入れの重要性についてはハンガリーやポーランドなど移行先行国の事例が示しているとおりである。


表5 EUのウクライナへの直接投資(単位:10億ユーロ)

(出所)EU統計局(Eurostat)


表6 EUのウクライナからの直接投資受け入れ(単位:10億ユーロ)

(出所)EU統計局(Eurostat)


このためウクライナではビジネス環境の改善が喫緊の課題となっており、特に制度改革の推進や根強い汚職の撲滅が当面の優先課題になっている。また、企業に収益税を前納させるように課税規則が変更されるなどの政府の税収増加策がビジネスにおける企業経営上の圧力の高めており、政府による企業への付加価値税の還付の遅れも指摘されている。

このため、政府は2012年末に、徴税効率の向上と課税管理の単純化を図るため、課税と関税機関の責任官庁を、新たに創設した歳入・国税省に統合した。さらに13年には一連の汚職防止関連法を採択した。また、ヤヌコビッチ大統領は世銀のビジネス環境調査におけるウクライナのランキングを引き上げるというコミットメントを宣言した。そしてこのコミットメントに基づき政府は、企業の登記手続きの簡素化の向上や電子課税システムの導入を含む各種の政策を実施するための法律を発効させた。

金融部門では、預金保証基金を2012年末に支払協会(pay-out institution)から本格的な銀行解散処理機関(bank resolution agency)に移し、13年1月1日には商業銀行会計の国際財務報告基準(IFRS=International Financial Reporting Standards)への移行を実施した。さらに、13年6月、議会は国際金融機関(IFIs=International Financial Institutions)に自国通貨フリヴニャ建て国債を発行することを許可する法律を採択し、中央銀行は国際金融機関によるフリヴニャ勘定の利用を自由化した。政府はまたプロジェクトに関連した資金調達活動の障害を取り除くために、プロジェクト関連の融資を行う国家開発銀行の創設を発表した。

こうした一連の改革が功を奏して、2014年版の世銀のビジネス環境調査においてウクライナは前年よりランクを28も上げ、同年における世界で最も速くビジネス環境が改善した国となった。しかし、こうした顕著な改善にもかかわらず、ウクライナの世界におけるビジネス環境の総合ランクは世界の調査対象国189カ国中112位(欧州および中央アジアの調査対象国28カ国中23位)と依然として低水準にとどまっている。また分野別に特にランクの低かった分野は、電力調達(172位)、投資家保護(128位)、課税164位)、輸出手続き(148位)、破産手続き(162位)などであった。

4.東西の狭間で揺れるウクライナ

ロシアとEUの間に位置するウクライナは長い歴史のなかで、東西の地政学的な対立の焦点となってきた。

歴史的にオーストリアやポーランドの領土だったことがある西部や首都キエフを抱える中部は親欧米色が強い。一方で東部や南部は17世紀以降にロシア帝国の領土に組み込まれた時期もあり、親ロシア色が濃厚である。こうした歴史的な経緯もあって、どちらの路線をとるかについてのウクライナ国内の世論の統一はきわめて困難であり、その時々で親欧米路線に傾いたり、親ロ路線に戻ったりを繰り返してきた。そして欧米路線をとって西を向いた時には背後からロシアからの圧力にさらされてきた。

これまでにも旧ソ連圏であったポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中欧諸国や、旧ソ連邦の共和国を構成していたエストニア、リトアニア、ラトビアのバルト三国が、ソ連圏から離れ、EUに接近するという局面があり、それなりのロシアからの圧力も見られた。しかし、当時は、ソ連邦が崩壊して間がないためロシアに積極的な外交を展開する余力がなかったこと、バルト三国の場合は旧ソ連の共和国といってもいずれも小国であり、これらの国のソ連圏からの離脱の影響は限定的であると判断されたことなどから大きな問題になることはなかった。しかし、4,500万の人口を抱え、ソ連邦崩壊後も独立国家共同体(CIS)を構成し、「特別な兄弟国」とみなしてきたウクライナがEUとロシアのどちらに接近するかは、この地域の勢力図を塗り替える可能性を秘めるため、ロシアにとってウクライナは戦略的な重要性を持つ。

今回のウクライナでの親欧米政権の誕生に対してもロシアは圧力を強めている。2014年2月下旬以降、ロシアはウクライナ国債の購入を見合わせる措置をとった。事態の推移によっては、13年12月にウクライナとの間で合意していた150億ドルの支援を撤回する可能性も考えられる。

ロシアの圧力は金融支援にとどまらず、軍事面にも及んでいる。2月にはロシア軍がウクライナとの国境沿いで演習を行い、68年のチェコのプラハの春の時と同じような手法で圧力がかけられた。さらに、3月に入ると、ロシア系住民が6割を占めるクリミア半島にロシア軍が展開し、3月16日にはロシアの実効支配の下でクリミア自治共和国議会がのウクライナからの分離独立とロシアへの編入の是非を問う住民投票を実施するなど、クリミア自治共和国の将来のロシアへの併合を視野に入れた布石を次々と打ち出している。

こうした緊迫した状況の中で、ウクライナの対外債務は銀行や民間企業を含めた総額で1,300億ドルを超えて、同国の国内総生産(GDP)の約75%に達したことに加え、外貨準備がすでに輸入額の約2カ月分しかないなど、債務不履行(デフォルト)の危機がにわかに高まってきている。

ウクライナのデフォルトを回避するための緊急支援についてIMFや欧米諸国が協議した結果、米国が3月4日にいち早く10億ドルの債務保証を発表したのに引き続き、3月5日にはEUも総額110億ユーロ規模の包括支援策を発表した。EUの支援策は、①ウクライナの対外収支悪化に伴うデフォルト回避に向けた融資(約16億ユーロ)、②近隣国向け支援制度などを用いた経済開発支援の供与(約14億ユーロ)、③政策金融機関である欧州投資銀行(EIB)によるインフラ整備などへの融資(最大30億ユーロ)、④欧州復興開発銀行(EBRD)による経済構造改革向けの融資(80億ユーロ)、⑤ウクライナの輸送システムの近代化やガス供給支援、⑥FTAを含む連合協定の早期発効、などが柱となっている。

前述のクリミア自治共和国の独立を巡る住民選挙については、米国、EUなどの欧米諸国はウクライナ憲法に違反するとしてその正当性を認めておらず強く反発している。

今後の展開は不透明ながら、いずれ欧米諸国はロシアに対する制裁を強め、ロシアも欧米諸国からの制裁に対して欧州諸国のアキレス腱ともいえる天然ガス輸出制限などの報復措置をとる可能性が高いと思われる。こうしたウクライナを巡る緊張の高まりは制裁措置を通じてロシア経済に打撃を与え、それに対する報復措置によって欧州経済にも大きな影響を与えることが懸念されている。

ウクライナを巡る緊張の高まりは直接対峙しているロシアと欧米への影響にとどまらず、北方領土問題を抱える日本の対ロ関係にも御妙な影を落とすことも考えられる。そして、何よりも忘れてはならないのは、紛争がウクライナ経済に与える深刻な影響であろう。今回の紛争によってウクライナ経済は大きな打撃を受けることになり、経済構造改革にも大きな影を落とすことになるのは必至と思われる。


<注>
1)ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニアの東欧8カ国とキプロス共和国、マルタ)の地中海2カ国。
2)ブルガリア、ルーマニアの2カ国。
3)加盟交渉の対象となる35の分野は次のとおり。1.商品の自由移動、2.労働者の自由移動、3.設立およびサービス提供の自由、4.資本の自由移動、5.公共調達、6.会社法、7.知的財産法、8.競争政策、9.金融サービス、10.情報社会・メディア、11.農業・農村開発、12.食品安全・動植物衛生、13.漁業、14.運輸政策、15.エネルギー、16.税制、17.経済・通貨政策、18.統計、19.社会政策・雇用、20.企業・産業政策、21.汎欧州ネットワーク、22.地域政策、23.司法・基本的人権、24.公正・自由・安全保障、25.科学・研究、26.教育・文化、27.環境、28.消費者保護・健康、29.関税同盟、30.対外関係、31.外交・安全保障・防衛政策、32.金融コントロール、33.財政、34.公共機関、35.その他。