フラッシュ198
2014年7月15日
 

TPPでの著作権保護期間延長は日本の文化創造発信力に何をもたらすのか

 
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
児玉 徹
 

1. 著作権保護期間延長はTPP最大の懸案事項のひとつ

本年5月に、日本のコンテンツ産業界にとって非常に気になる報道が一斉になされた。その内容は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の参加国は、最大の懸案事項のひとつである「知的財産」分野において、著作権の保護期間を「創作時から著作者の死後70年」に統一する方向で調整に入った、というものだ。もしこの方向でTPPが妥結されるのなら、日本では、現行の著作権法上の著作権保護期間(創作時から著作者の死後50年まで)をさらに20年延長することになる。ただしその後の報道を見る限り、まだこの点についての交渉は継続しており、予断を許さない状況だ。

TPP交渉の場で参加国の著作権保護期間を死後70年に統一することを強く主張しているのは、アメリカだ。そしてそのことは大いに予想された事でもあった。なぜなら、USTR(米国通商代表部)が作成したとされるTPP条文案が、アメリカのNGOによって2011年にネット上でリークされ、そこに「著作権保護期間の死後70年への統一」や「著作権侵害の非親告罪化」などを含んだ「知的財産」分野に係る米国の要求項目が列挙されていたからだ。また、そこに記されていた要求項目の主な部分は、同年春に東京で開催された「日米経済調和対話」での米国要望事項とも一致していた。

TPP交渉参加12カ国の著作権保護期間をみると、日本、ベトナム、ニュージーランド、ブルネイ、マレーシア、カナダの6か国は著作者の死後50年、米国、オーストラリア、シンガポールなど5か国は70年、メキシコは100年と定めている。世界的には、著作者の死後50年までの著作権保護期間を最低限保証することを義務づけるベルヌ条約の加盟国のうち、4割を超える国(米・EU含む)がすでに70年に延長しており、数でみれば50年国のほうが多いが(日本・中国を始めアジアの多くの国が含まれる)、市場規模でいえば米・EUの市場を含む70年国の市場規模の方が大きい、と言われている。

著作権法は、文化芸術の創造と発信・流通、そしてコンテンツ産業の基盤を支える最も重要な法制度である。そして日本の現行政府は、日本の有望産業のひとつであるコンテンツ産業の国際競争力強化等を目的とした種々の政策を実施してきた。では今回のTPPにおける著作権保護期間の延長は、日本の文化芸術やコンテンツ産業に如何なる影響を及ぼすのか。

これまで日本では、弁護士や大学研究者、著作権管理団体、コンテンツ関連企業、ジャーナリスト、国の著作権政策担当者等を巻き込みながら、著作権保護期間延長の是非について、延長賛成・容認派及び延長反対派の双方から多様な論点が提示され、活発な議論が展開されてきた。以下、そうした日本国内での議論に係る主要な論点の幾つかを、適宜関連する海外での議論について言及しながら、ごく簡単に概観してみたい。

2. 延長の是非に係るこれまでの議論

論点1:コンテンツ創作意欲への影響

そもそも著作権法は、人々の著作物(=コンテンツ)に対する創作意欲・活動を高め、それによって文化の発展に資することをひとつの目的としている。では、著作権保護期間をさらに20年延長することがその分だけ人々の創作意欲をさらに高め、ひいては日本の文化芸術のさらなる活性化につながるかどうか。

この点につき、日本国内の延長賛成・容認派は、著作権保護期間の延長は人々の創作意欲の向上に資すると主張してきた。この主張は、著作者の死後50年という現行の保護期間は著作者とその子及び孫(著作者の子孫の最初の2世代)に保護を与えることを意図したものだが、人の平均寿命が延びたことによりその保護期間ではもはや著作者の孫の世代までの利益を保護するには不十分であるところ、保護期間を死後70年に延長すれば孫の世代までの利益をより保護することにつながり、それが人々の創作意欲の向上にむすびつく、といった理由に基づく。

他方で日本国内の延長反対派からは、著作権保護期間をさらに20年延長することが人々の創作意欲のさらなる向上につながるなどということは常識的に考えられないと強く主張されてきた。そしてこれに付随して、①著作者の孫の代の利益までを補償することは著作権法の本来の目的ではないのではないか、②コンテンツ市場においては、ほとんどのコンテンツは短命に終わり、長期間に渡って著作権ライセンス収益を著作権者にもたらす高収益コンテンツはごく少数であるところ、著作権保護期間の延長はそうしたごく少数の高収益コンテンツの著作権者を利するだけであり、そのために種々のデメリットの多い著作権保護期間延長を容認することはできないのではないか、といった主張がなされてきた。

こうした著作権保護期間延長がもたらす「創作意欲への影響」についての議論は、海外でも頻繁になされてきた。例えば、1993年のEU指令は、EU域内における著作権保護期間を死後70年に延長したことの理由のひとつとして、「人の平均寿命の延長」「子孫の利益保護」を挙げている。アメリカでも、1998年法のもとで著作権保護期間が50年から70年に延長された際、それを支持する論拠として「人の平均寿命の延長」「子孫の利益保護」が挙げられた一方で、同国の延長反対派からは上述の①及び②と同じ反論がなされた。イギリスにおいて2006年から2007年にかけて著作隣接権の保護期間延長の是非が議論された際には、英国政府からの要請を受けて作成された政策レポート「ガワーズレビュー(Gowers Review of Intellectual Property)」において、保護期間延長が人々の創作意欲をより高めることについて疑問が呈せられている。

なお日本では、延長賛成派が、TPPという「外圧」を利用して著作権保護期間延長の実現を画策する可能性を危惧する声もある(城所2013, pp.192-193)。

 

論点2:コンテンツ投資意欲への影響

<論点1>は「創作意欲」に係るものであったが、コンテンツビジネス分野における「投資意欲」に係る論点もある。

この点について、日本国内の延長賛成・容認派からは、①著作権保護期間の延長は、コンテンツに対する投資費用の回収期間を延長する、つまりはコンテンツの市場価値をより高めることになり、それが新規コンテンツへの投資や(著作権保護期間満了の)既存コンテンツの保全・再流通を活性化させることにつながる、といった主張や、②著作権保護期間の延長は、高収益コンテンツに係る収益をさらに向上させ、そこから得られる収益が高収益コンテンツの著作権者によって他の投資リスクの高い新規コンテンツ創作への投資や(著作権保護期間満了の)既存コンテンツの保全・再流通に振り分けられることになる、といった主張がなされてきた。②の主張は、そうした投資サイクルが、多様なコンテンツの創作やそれへの投資を波状的に後押しする効果を持つ、という意味合いを含んでいる。

これらの主張は、欧米での議論でも見られるが、他方で延長反対派から反論もなされてきた。アメリカにて1998年法のもとで著作権保護期間が死後50年から70年に延長された際には、同国の延長賛成派から上述の①や②と同様の主張がなされたが、同国の延長反対派からは、コンテンツ企業が余剰利益を既存コンテンツの保全等に振り分ける保証はどこにもない、そもそも著作権法の目的は人々の創作意欲を高めることであり、コンテンツ投資意欲を向上させることではない、といった反論がなされた。また上述の英国のガワーズレビューにおいても、延長反対の立場から、米国Eldred事件において同国裁判所に提出された「著作権保護期間の延長は新規コンテンツへの投資判断にほんのわずかな影響しか与えない」とするノーベル経済学賞受賞者らによる意見書等が引き合いに出された。


論点3:コンテンツの二次利用活動への影響

日本国内の延長反対派からは、著作権保護期間の延長は、①保護期間満了コンテンツのアーカイブ化活動(例:国立国会図書館や青空文庫によるデジタルアーカイブ活動)や保護期間満了コンテンツに基づく二次的著作物の創造活動といった、保護期間満了コンテンツの多様な二次利用活動に直接的な影響を及ぼす、②その結果として文化芸術活動の全体的な停滞につながる、との主張もなされてきた。さらに、③著作権者を見つけ出して利用許諾をとる手間の煩雑さや探索コスト・交渉コスト等の高さから、誰からも利用されていない保護期間満了コンテンツは、膨大な数が存在すると考えられる中、著作権保護期間の延長は、そうした保護期間満了コンテンツの放置状況をさらに増幅させてしまう、つまりはコンテンツの「死蔵」現象をより深刻化してしまう、という主張もある。

まず、この①の主張を真っ向から否定することは難しいだろう。他方で、著作権保護期間の延長がそのまま文化芸術活動の停滞につながっていくとの②の主張には、いくつかの反論がなされてきた。

例えば延長賛成・容認の立場からは、著作権保護期間の延長は、保護期間満了の既存コンテンツの市場価値を高め、そうした既存コンテンツへの投資やその再流通を促進することになる、との意見がある(上述<論点2>参照)。

また、著作権法はコンテンツの「表現」部分を保護対象とする一方で「アイデア」部分については保護対象とはしていないが、保護期間満了コンテンツの「アイデア」をうまく利用して新たなコンテンツを創作することは頻繁に行われており(そこにこそクリエイターの腕の見せ所のひとつがあると言える)、さらに一定の要件を充たせば保護期間満了コンテンツを無許諾で利用することは著作権法上認められているのだから(例:「引用」)、著作権保護期間の延長が文化芸術活動の停滞にダイレクトにつながると紋切り型に主張するのは妥当ではない、との反論もなし得る。実際のところこの点は、アメリカにおいて1976年法のもとで初めて著作者の死後50年という著作権保護期間が初めて導入された際に、延長賛成派から主張された点でもある。ただし、ではどこまでが著作権法上の保護対象となる「表現」に該当し、どこからがその保護対象とならない「アイデア」に該当するのかはセンシティブな問題で、日本国内でも様々な訴訟において争われてきた(児玉2006)。

著作物死蔵現象をどう解決するかについては、日本だけでなく世界各国で問題となっており、その解決の障害となっている著作権利用許諾に係る「オプトイン方式」を、どう「オプトアウト方式」に転換していくのかといった課題を含め、様々な観点から議論されてきた(城所2013, pp.156-165)。日本にとってこの問題は、TPPでの著作権保護期間延長問題の帰結にかかわらず、早急に解決されるべき問題だろう。


論点4:著作権保護期間の国際的な不統一がもたらす弊害

延長賛成・容認派からは、著作権保護期間が国によって違う状況は、コンテンツの国際的な流通に悪影響を及ぼすとの指摘もある。

例えば、著作権保護期間の不統一が「非関税貿易障壁」の役割を果たしうる可能性がある、という指摘だ。この意味するところを考えるのに格好の材料を提供してくれるのが、EU内で起きたある訴訟事件(いわゆるPatricia事件)である。この事件では、デンマークにおいて著作権(著作隣接権)保護期間の満了したレコードを、当該著作権(著作隣接権)の保護期間が満了していないドイツに輸出することをドイツ著作権法に基づいて差止請求することは、EEC設立条約30条(輸入制限の禁止)に反するかどうかが問われたが、1989年にEC司法裁判所は、当該差止請求はEEC条約の当該条項に反しない、との判断を下した。1993年のEU指令が、当時EU内で最長だったドイツの著作権保護期間に合致させる形でEU内の著作権保護期間を死後70年で統一したのは、まさにこうした事態を回避することをひとつの目的としていた。そしてこのEUの事例と同じ観点から、相互主義を採用しない他国(例えばアメリカ)と日本との間でも、著作権保護期間の不統一が国際貿易阻害要因として働いてしまうのではないか、ということだ。

他にも、コンテンツの国際的なインターネット流通が当たり前の時代にあって、あるコンテンツを、その著作権保護期間が満了している国のサーバからネット上にアップロードして公衆により無料ダウンロードできるようにした場合、そのコンテンツの著作権保護期間が未満了の国でも(本来なら課金できるにもかかわらず)無料ダウンロードできてしまうという事態は簡単に起こり得るが、こうした事態を回避してコンテンツ保護の実効性を高めるためには著作権保護期間の国際的調和を図る必要がある、といった意見もある。

こうした点については、日本国内の延長反対派から、①延長賛成派が指摘するような事態を回避するためにより著作権保護期間のより長い国に合わせて日本の保護期間をわざわざ延長する(結果として、本来であれば日本国内で保護期間満了により自由利用可能であったコンテンツが、そうならなくなる)という発想は合理的でない、②そもそも実務の世界では、コンテンツビジネスを著作権保護期間の満了している国と未満了の国にまたがって実施する場合には、未満了の国の著作権保護期間に合わせて著作権利用許諾を取得するため、著作権保護期間の不統一が問題になる事はない、③米国内でも著作権保護期間は統一されておらず、米国では保護期間が切れているのに日本ではまだ保護期間が切れていないコンテンツも多い、④国境を越えたコンテンツのインターネット流通の問題と著作権保護期間延長の問題は関係がない、といった主張がなされてきた(例えば福井2012や、福井・玉井対談2013における福井氏意見を参照)。

なお、著作権ルールの国際的不統一がコンテンツの国際流通にもたらす不都合としては、他にも、米国内で米国著作権法上のフェアユース規定のもとで創作されたコンテンツが、日本に輸入された途端、日本の著作権法のもとで著作権侵害とされてしまうケースが考えられるが、米国型のフェアユース規定が日本の著作権法に導入される日が来るかどうかは、未だ見えない(城所2013, pp.42-62)。


論点5:コンテンツ貿易に係る国際収支への影響 —貿易収支、相互主義、国際共同製作—

国内の延長反対派からは、世界最大のコンテンツ輸出国である米国がTPP交渉の過程においてコンテンツ輸出先の国における著作権保護期間の延長を要求するのは当然であるところ、対米コンテンツ貿易では圧倒的に貿易赤字にある日本にとって、著作権保護期間の延長は、米国に対する著作権料支払期間の延長を意味する、との主張もある。つまり著作権保護期間の延長は、日本のコンテンツ貿易に係る対米貿易赤字をさらに悪化させることにつながる、という意見だ。

他方で延長賛成・容認派からは、コンテンツ輸出振興に力を入れる日本としては、TPPの枠組みで参加各国が著作権保護期間を70年に統一することは、長期的に見ればTPP域内における(特にアジアのTPP参加国に対する)日本のコンテンツ貿易収支の改善にむすびつくのではないか、という意見がある。

またTPPとは直接関係ないが、死後70年の著作権保護期間を採用するEU域内への日本製コンテンツの輸出という事を考えると、EUでは相互主義が採用されているために、同域内では日本製コンテンツは死後50年までしか保護されないが、日本での著作権保護期間を死後70年に延長して日本製コンテンツのEU内での保護期間も死後70年に延長させることができれば、それは対EUコンテンツ貿易に係る国際収支の改善に結びつくのではないか、という意見もある。(なおこれと同じロジックから対EUのコンテンツ貿易収支を改善させることが、アメリカが1998年法のもとで死後50年から70年への著作権保護期間延長を決めたことの理由のひとつであった。)

また現在、日本政府は、日本と外国の国際共同製作によるコンテンツの創作及びその国際市場展開(とくに当該外国市場での展開)を政策的に推進しているが(文化庁HP「国際共同製作映画への支援」)、仮に日欧の国際共同製作によるコンテンツを日本で最初に公開すれば、日本が当該コンテンツの本国となり、相互主義を採用するEUでは死後70年ではなく50年の著作権保護期間が適用されることになる。そうした事態を回避するために、日本では国際共同製作コンテンツを最初に公開しない傾向がでてくるかもしれず、それが結果的に国際共同製作コンテンツの日本における空洞化につながってしまうかもしれない、との懸念の声もある(文化審議会配布資料)。

なおちなみに、EU域内では、異なるEU加盟国出身の複数の制作者が国際共同製作によって映画を制作することを振興する国際的な政策が活発に実施されていることもあって、映画の国際共同製作は活況を呈している(児玉2007)。その活況には、EU域内において統一的な著作権保護期間(著作者の死後70年)が導入されている事も、一役買っているのかもしれない。


論点6:文化外交政策の観点から

著作権保護期間延長により日本製コンテンツの海外流通が促進されるのなら、それは日本のコンテンツ産業活性化のみならず、日本の文化外交政策にも資することとなる。なぜなら、自国製コンテンツを海外流通させることは、コンテンツに含まれる自国のポジティブな文化情報・イメージも一緒に海外流通させることになり、それによって自国の国家ブランドイメージが向上し、自国とコンテンツ流通先の国との関係の深化・良好化や、両国間における貿易投資や人的交流の活性化、自国への観光客増加といったことに結びつく可能性があるからだ。

こうした思惑のもとに、コンテンツの海外流通を国家的な外交政策に利用することは、長い間さまざまな国で行われてきた。例えばアメリカは、「映画は貿易を先導する」というスローガンのもとに、1920年代にハリウッド映画の輸出推進政策を集中的に実施した。韓国も文化外交政策の一環として自国製コンテンツの海外輸出を積極的に推進しており、韓国製テレビ番組の輸出額は日本の2倍以上あると言われている。他にも、バヌアツ共和国における中国中央テレビ(CCTV)の進出の背景には、バヌアツが中国にとって地政学的重要性を持っているからであるとの指摘もある(渡辺2011)。先ほど述べたEU域内における映画の国際共同製作促進政策も、いわば対ハリウッド文化を意識した文化外交政策上の目的がある。

日本政府も、いわゆるクールジャパン政策の一環として、経済産業省にクール・ジャパン室を設置したり、官民ファンドであるクールジャパン機構を設立するなどしてきたが、その重要目的のひとつは日本製コンテンツの海外流通の促進である。もしTPPの枠組みにおいて全参加国の著作権保護期間が著作者の死後70年に統一されることになり、それによって日本のコンテンツ事業者による日本製コンテンツの海外流通が活性化されるのなら、それは日本の文化外交政策とコンテンツ産業政策の双方に資することになる。

3. 包括的通商交渉における「交渉材料」としての著作権保護期間延長

最後に、TPPにおいて著作権保護期間延長問題が「交渉材料」のひとつとして扱われる可能性について触れておきたい。この可能性は、「TPPのような包括的通商交渉においては、ある項目で譲歩しつつも他のより重要な項目で有利な条件を獲得し、全体でプラスにもっていくような戦略が必要である」という観点に基づく、著作権保護期間延長の賛成・容認の立場からの以下の主張に如実に示されている。

第一に、TPPのような包括的通商交渉においては、個々の品目の貿易収支にとらわれるのではなく、全ての品目の貿易収支を全体的に眺めながら交渉すべきであり、たとえ著作権保護期間延長の結果として日本のコンテンツ貿易収支に係る貿易赤字が増えることが見込まれるとしても、他のより重要な品目(例:自動車やエネルギー資源)に係る条件交渉がうまくいって、全体で見れば日本の貿易収支が黒字になるような状況が見込まれるのであれば、日本は著作権保護期間延長については妥協すべき(つまり死後70年に統一する事を承諾すべき)である、という意見がある(福井・玉井対談2013における玉井氏意見)。

そして第二に、米国がTPP交渉の過程で導入を主張するであろう(或いはもう主張したかもしれない)「著作権侵害の非親告罪化」に比べれば、著作権保護期間延長の方が日本に与える負の影響は少ないのだから、もし米国から著作権侵害の非親告罪化と著作権保護期間延長の両方を突きつけられた場合には、日本としては、後者を容認する代わりに前者を交渉過程から外させることも考えるべき、との意見もある(福井・玉井対談2013における玉井氏意見)。

TPP交渉の厳しさを考えれば、著作権保護期間延長を容認することの見返りとして、相手(主に米国)から別の項目で譲歩を引き出していく、という交渉戦略が日本に必要になる可能性は高い。日本は結局、TPP交渉において、何を譲歩した結果、何を得ることができるか。日本政府の交渉力が問われている。


<参考文献>
城所岩生, 『著作権法がソーシャルメディアを殺す』, PHP新書, 2013年.
児玉徹, 「エンタテインメント・ビジネスと著作権制度の交錯点に係る一考察 ~エンタテインメント・ストーリーの模倣と再創の狭間で~」芸術工学研究, 2006年, Vol. 5, pp.27-pp.40
児玉徹,「映画の国際共同製作に係る欧州各国の協力的振興政策について」文化経済学会, 2007年, Vol.22, pp.67-pp.86
福井健策, 『「ネットの自由」vs. 著作権 —TPPは終わりの始まりなのか』, 光文社新書, 2012年.
三菱UFJリサーチ&コンサルティング編, 「著作物等の保護と利用円滑化方策に関する調査研究 —諸外国の著作物等の保護期間について」, H19年度文化庁委託調査研究(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/gaikoku_hogokikan.pdf
渡辺靖, 『文化と外交 —パブリック・ディプロマシーの時代』, 中公新書, 2011年.
<その他ウェブ掲載情報>
2013年11月5日に情報通信学会・情報知財研究会の場で実施された弁護士・福井健策氏と東大教授・玉井克哉氏の対談議事録(http://tarareba7222.hatenablog.com/entry/2013/11/05/153425
第23回文化審議会 著作権分科会(2007年10月)配布資料, 「過去の著作物等の保護と利用に関する主委員会における検討状況」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07092813/002/004.htm
文化庁ホームページにある「国際共同製作映画への支援」情報  http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/03eiga_sien/index.html