フラッシュ202
2014年8月26日
 

中南米における対内直接投資と多国籍企業の動向
-多国籍企業が進出する中南米における直接投資

 
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
内多 允
 

国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(英語略称ECLAC)は2014年5月29日、2013年の中南米における直接投資の動向を発表した。本稿では、同報告から対内直接と対外投資、クロスボーダーM&Aの特徴的な動向を紹介する。


Ⅰ.対内直接投資の動向

2013年の対内直接投資額は1,849億2,000万ドル(1849.2億ドル)で、前年比4.5%増加した。

しかし、これにはベルギー企業でビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)によるメキシコへの投資額132.49億ドルが含まれていることに注意する必要がある。これは中南米全体の対内直接投資額の7.2%を占め、1企業単独の投資額としては、ずば抜けた規模であるからである。ABインベブのそれを除外した対内直接投資額は1,716.71億ドルで、2012年の1,770.21億ドルに比べて3.0%減である。

中南米で最大規模の対内直接投資を計上している国は、2013年においてもブラジル(640.46億ドル)で、中南米合計の35%を占めた。次いでメキシコが21%を占め、両国で56%に上る。これにチリ11%、コロンビア9%、アルゼンチン5%を合わせると、これら5か国に中南米における対内直接投資の約8割が集中している(表1)。


表1. 中南米の対内直接投資(単位:億ドル. %)

2012年
2013年
前年比
ブラジル
652.72 640.46
−2
メキシコ
176.28 382.86
117
チリ
285.42 202.58
−29
コロンビア
155.29 167.72
8
アルゼンチン
121.16 90.82
−25
その他とも合計
1,770.21 1,849.20
4

(出所)ECLAC,Foreign Direct investment in Latin America and the Caribbean 2013

 

これら投資額上位5か国の中で、2013年の前年比伸び率を比較すると、メキシコの117%が一際高い結果を残した。これは前記のビール会社への投資が影響している。ベルギーのABインベブは2013年、既に株式の35%を所有していたメキシコのビールメーカーであるグルーポ・モデロの残り65%の株式を追加取得した。この追加取得のための投資額(132.49億ドル)は、同年のメキシコへの直接投資額(382.86億ドル)の35%を占めた。このビール会社への投資額を除いたメキシコの直接投資額は250.37億ドルでとなる。この数値で2012年に対する伸び率を計算すると、42%となりビール会社への投資額を含めた場合(117%)の半分以下となる。ベルギーのビールメーカーによる大規模な投資は、対メキシコ投資国の順位にも異変をもたらした。2013年の同国への最大の投資国はベルギー(投資額132.83億ドル、前記ビール関係とその他の合計)で、首位の常連であった米国が2位(112.55億ドル)となった。ベルギーの投資実績はメキシコの対内直接投資の動向に、これまでさしたる影響を与えるような実績は無く、2012年に至ってはゼロであった。2013年は異例の状況である。


1)欧州と米国が主要な投資元

中南米では、欧州が最大の投資グループである。2013年のデータによれば、2大直接投資受け入れ国であるブラジルとメキシコでも、欧州が最大の投資元である。ブラジルへの欧州の投資(オランダ、ルクセンブルグ、スペイン、スイスの合計)は280.41億ドルで、受入総額の44%を占めた。その内、オランダの投資(131.2億ドル)が同総額の2割を占めた。

メキシコでは欧州(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、イギリス、ドイツ)の投資が204.38億ドルで、前記のようにベルギーからの投資が最大規模である。欧州からの投資は受入額合計(382.86億ドル)の53%を占めた。

米国は単独の国としては、最大の投資元であるが中南米主要国におけるそのシェアは、低迷している。ブラジルでは2012年の21%から2013年は14%に低下、メキシコでも同期間に48%から29%に低下した。

アジアからの投資も2013年は特に目立った大規模な事例がなかった。そのために対内直接投資総額に占めるアジアのシェアは2012年12%から、2013年は5%に低下した。


2)対内直接投資の部門別動向

2013年の中南米における対内直接の部門別構成比率は、資源開発26%、製造業36%、サービス38%となっている。次に各部門の特徴的な動向を紹介する。


<資源部門の対内直接投資>

資源開発部門の主要な分野は、石油・天然ガスと鉱業である。石油・天然ガス分野の投資で、外資系企業が中心的な役割を果たしている国はトリニダード・トバゴとボリビアの2か国に過ぎない。一方、ベネズエラ、ブラジル、コロンビア、エクアドルやメキシコでは国営企業が主導権を握っており、外資系企業は補助的な分野に限られている。

メキシコやブラジル、コロンビア等の主要国の鉱業部門への対内直接投資は、石油関連の投資が好調であったことを反映して、2013年も比較的好調である(表2)。しかし、金属鉱業は次のような事情によって、成長に陰りが出ている。

 

表2 資源への対内直接投資(単位:100万ドル %)

2011年
2012年
2013年
ブラジル
6296 (−65.7)
9044 (43.6)
16782 (85.6)
メキシコ
866 (−38.6)
3015 (248.2)
3212 (6.5)
チリ
13793 (174.1)
15229 (10.4)
NA
コロンビア
7673 (66.7)
7807 (1.7)
8104 (3.8)
アルゼンチン
655 (−78.2)
2909 (344.1)
NA

(注)( )内の数字は、前年比伸び率
(出所)表1と同じ

 

鉱業部門では過去10年間において金属鉱産物の値上がりによってチリ、ペルー、コロンビア、ブラジル、メキシコ、ドミニカ共和国で、対内直接投資が増加した。しかし、2013年から金属鉱産物の値下がり傾向が、表れてきた。一方、採掘コストは上昇してきた。例えば、銅鉱石1ポンド当たりの平均採掘コストは2009年1.37ドルから、2012年には2.11ドルに上昇した。中南米における地下資源開発では、居住権や環境保護について、先住民からの権利保全の要求を巡ってプロジェクトの実行が中断される事例が続出している。投資企業にとって、事業実施地域における住民の理解と支持を得ることが、コストや収益の問題に劣らぬ重要な課題となっている。これに関する大規模な事例としては、Barrick Gold社(本社カナダ)によるPascua Lama金・銀採掘プロジェクトがあげられる。これはチリ・アルゼンチンにまたがる国境地帯で、世界最大規模の金・銀鉱石の埋蔵が確認されている。同プロジェクトの対象地域に居住する先住民からの居住権や環境保全についての要求を巡って、事業継続が難しくなったとして2013年4月、事業の凍結が発表された。Barrick Goldによれば、この事業凍結によって、同社の資産価値には、50億ドルの評価損が発生した。

ペルーでは米国企業のYanacocha鉱山が住民の抗議で、操業が中断した。そのためにペルーの2013年における金の輸出量は25%減少した。

鉱業が主要産業であるペルーとチリでは、紛争のタイプの違いをECLACは次のように指摘している。ペルーでは住民が企業に対する直接的な抗議活動が多く、これを受けて企業も交渉で解決に取り組んでいる。一方、チリでは紛争は裁判による解決を目指す傾向があると指摘している。

エネルギー資源の開発については、太陽光発電等の再生可能エネルギーへの関心も高まっている。外資の直接投資分野ではチリで、太陽光発電への投資が拡大している。チリは電力供給量が不足しており、隣国アルゼンチンからの供給にも依存している。特にチリの基幹産業である鉱業部門からは、電力供給量の拡大が切実に求められている。また、石油と天然ガスも輸入に依存している。そこで、電力不足を打開するために同国北部のアカタマ砂漠が、世界で最も好条件を具えた太陽光発電プラントの設置場所として注目されるようになった。同砂漠は雨が殆ど降らず、太陽光発電の適地である。チリの発電コストは1KWh(1時間当たりキロワット)0.25ドルで、米国の0.10ドルの2.5倍である。太陽光発電プラントは工事中と計画段階を合わせると(2014年)は9.9ギガワット(GW)に上る。なお、2012年現在の太陽光発電の設備能力は18.3GWである。

操業中の外資系太陽光発電プラントは2施設、工事中は5施設である。操業中の同プラントは米国企業(SunEdison)が操業している。その内容はLlano de Llampos発電所が2.41億ドルを投じて、93MWの発電能力を有している。また同社はSan Andrés発電所を1億ドルで建設、その発電能力は48MWである。建設中の外資系太陽光発電所の投資(5件)の企業国籍はスペイン(2社)に、米国とアイルランド。フランスの各1社である。これら5社の発電能力合計は537MWである。また投資額合計は213.3億ドルに上る。

さらに予定プロジェクト(scheduled)が5件、計画段階(Planned)が5件明らかになっている。これらは米国と欧州(スペイン、イタリア、フランス)企業の投資である。


<製造業部門の対内直接投資>

メキシコとブラジルが製造業への対内直接投資の2大受入国である(表3)。大規模な多国籍企業のグローバルな経営戦略が、中南米の製造業部門への投資動向に影響を及ぼしている。その具体例としてメキシコとブラジルにおける自動車産業とメキシコのビールメーカー買収、コスタリカにおけるインテルの工場閉鎖の3例を、取り上げる。

中南米における2大自動車生産国はメキシコとブラジルである。両国の自動車メーカーは全て外資系企業である。

 

表3 製造業への対内直接投資 (単位;100万ドル %)

2011年
2012年
2013年
ブラジル
31664(55.1)
25614(−19.1)
21140(−17.5)
メキシコ
9884(−22.3)
7591(−23.2)
28134(270.6)
チリ
1590(179.9)
3449(116.9)
NA
コロンビア
852(23.1)
1755(106.0)
2659(51.5)
アルゼンチン
5309(9.5)
4573(13.9)
NA

(注)( )内の数字は、前年比伸び率
(出所)表1と同じ

 

メキシコにおける製造業への主な業種別の対内直接投資額(2013年)では、自動車が最大規模(29.33億ドル)で、その他の業種では医薬品(5.16億ドル)、プラスチックス(5.96億ドル)、電力用ケーブル(14.72億ドル)となっている。自動車への投資額は前年比23.8%増加した。2000年から2013年にかけて、対内直接投資の8.2%が自動車産業で占められていた。2013年には自動車年産台数は300万台を超え、世界第8位の生産台数を記録した。メキシコの自動車生産拡大には、輸出が貢献している。最大の輸出先は米国である。生産台数の82%が輸出され、メキシコ国内向けは18%にすぎない。メキシコで操業している自動車メーカーは米国、欧州、日本から進出している。進出動機は米国向けの生産であり、これに加えてメキシコが世界の主要国とは自由貿易協定を締結していることから、輸出拠点としてのメリットを活用することである。2017年には年産400万台が実現して、その88%は輸出されるという予測も出ている。このように、メキシコは世界市場におけるハブ生産拠点としての地位を固めている。

一方、ブラジルの自動車産業への海外からの投資も2013年は262.1億ドルで、過去最高を記録した。また、この投資額は過去5年間における年平均の2倍である。2013年のブラジルにおける自動車生産台数374万台は史上最高記録で、前年比10%増であった。ブラジルの自動車輸出台数は世界第7位で、国内市場規模は同4位に成長した。自動車産業はGDPベースで工業部門の25%、GDP総額の5%を占めるようになった。2017年には自動車産業の投資額は340億ドルに達するという予測が、2014年に発表された。

輸出についてはメキシコの後塵を拝している。2013年の輸出台数は56万6,299台であるが、2017年には100万台に引き上げることを目指している。メキシコはNAFTAによって隣国である米国という大規模な市場を確保している。ブラジルの周辺国には米国に匹敵する規模の市場には恵まれていない。

ブラジルにおける自動車生産に参入しているメーカーは、欧米や日本から進出していることはメキシコと共通している。ブラジルの特色としては、韓国や中国のメーカーが進出していることがあげられる。南米各国では韓国や中国の自動車が人気車種であるが、これらはブラジル工場が輸出拠点となっている。

各国の自動車メーカーは今後もブラジルとメキシコを米州圏の2大生産・輸出拠点として、重視する経営戦略を強化している。

ビールの大手企業もグローバルな市場を確保する観点から、世界各国の主要な同業メーカーを支配下に取り込もうとしている。2013年にはベルギーのABインベブがメキシコのグルーポ・モデロを買収した(詳細は前記の「対内直接投資の動向」を参照)。この大規模な買収(株式の取得)は2013年の対内直接の資金源構成にも、次のような変化が見られる。 その構成データによれば、出資が191.18億ドルで対内投資総額382.86億ドルの約50%を占めた。この出資額は2012年の36.68億ドルに比べて約5倍の増加である。ABインベブによる買収分(132.49億ドル)を差し引いた出資は58.69億ドルで、この金額では前年比60%増である。

ABインベブは2008年に米国の大手ビールメーカーであるアンハイザー・ブッシュ(ブランドはバドワイザー)を買収している。グルーポ・モデロも米国市場でも有力企業の地位を固めたABインベブの傘下に入ったことによって、メキシコに加えて米国市場を拡大することが期待される。

世界的な大企業が小国に進出して、その後事業規模を縮小してその影響が注目された事例として、コスタリカで米国の半導体大手インテルが人員削減を断行したことがあげられる。2013年4月、全世界の従業員の約5%を削減する計画の一環として、コスタリカの組み立て・試験業務施設を閉鎖して1500人を解雇すると発表した。インテルの人員整理の理由は市場が縮小しているパソコン部門への依存度を下げ、市場が拡大している携帯電話関連品の生産を少数の工場に集中(特にアジア)させようとしている。インテルは1997年、コスタリカに進出した。2014年まで17年間にわたる投資額は9億ドルに上った。また、コスタリカの主要な輸出商品を生産した。インテルの事業規模縮小の影響は限定的であると見られている。その理由はインテルと現地企業との連携関係が稀薄であったことが指摘されている。

一方、インテルはエンジニアリングやデザインのサービス業務は残し、その従業員数1,000人の雇用が継続され、今後200人の増員を予定している。インテルの新しい業務体制で、コスタリカの同社は従来の製造部門のハブ機能から、ビジネスサービス・ハブに転換すると見られている。経済協力開発機構(OECD)の調査(2012年発表)によれば、コスタリカでは2009年から 2011年にかけて、グリーンフィールド投資による海外からの直接投資が3万4,000人以上の雇用を創出した。これには8,000人のビジネスサービス関係が含まれており、さらに、ホテル・観光に3,600人、医療機器分野で3,000人の雇用が創出された。医療機器の製造と関連のビジネスサービスの雇用拡大が期待されているが、その反面この分野では世界市場での競争が激化している。インテルに続いて、Bank of Americaもコスタリカのサービスセンターの閉鎖を決定して1,500人が失職した。一方、米国の病院グループであるAmericn World Clinics(AWC)がコスタリカで、医療ツーリズムの民間病院の開設を計画していることが、インテルの人員削減発表から1週間後に明らかにされた。これが実現すると250人の直接雇用が創出されると見込まれている。

コスタリカにおけるインテルの企業行動からは、海外からの投資受け入れにはリスクも抱えていることが明らかになった。インテルはコスタリカにおける17年間に、現地企業と強固な連携を構築しなかったし、またグローバルなサプライヤーを誘致できなかった。結局、より強固な連携先を求めて、アジアに新たな拠点を求めた。インテルは現地企業との連携が弱かったので、コスタリカの製造部門を撤退させることが可能であったとも言える。このような事例から、海外直接投資の受け入れ国には、アンカーとなり得る投資受入と現地との連携を強化する戦略が必要なことを示唆している。


<サービス部門の対内直接投資>

2013年はサービス部門における中南米の対内直接投資は前年のような金融機関や電気通信企業の大型買収がなかったために、低調であった。同部門の2大投資対象国であるメキシコとブラジルも、前年に比べて減少した(表4)。ブラジルでは公的機関が運営しているインフラ施設(空港や港湾)の民営化が進められている、この分野に外資が進出している。同国では過去2年間で、大規模な空港5施設で、外資系企業に運営権(所有権ではなく、経営権)が供与される民営化が実施された。今後もインフラ施設の民営化によって、外資の投資拡大が見込まれている。メキシコでは2013年3月、通信や放送分野における一層の自由化を促すためのに、関連の憲法条文の改定計画が発表された。計画が今後、どのように実行されるかはっきりしない状況のため、投資も控え気味であったことが影響した。主なサービス分野の投資額は小売業に17.09億ドル、観光10.58億ドル、電気通信9.11億ドルであった。メキシコ政府は2014-2018年国家インフラ整備計画で、5,860億ドルの予算を計上した。この40%は民間投資を予定している。

 

表4 サービス部門への対内直接投資 (単位:100万ドル %)

2011年
2012年
2013年
ブラジル
28493 (199.6)
30454 (6.9)
26001 (−14.6)
メキシコ
1235 (36.9)
7023 (468.7)
6940 (−1.2)
チリ
754 (−11.4)
11645 (1444.4)
NA
コロンビア
4880 (236.1)
5967 (22.3)
6009 (0.7)
アルゼンチン
4202 (100.1)
4553 (8.4)
NA

(注)( )内の数字は、前年比伸び率
(出所)表1と同じ

 

前記の2か国に次いで、サービス部門への海外投資が3番目に多いコロンビアでは、2013年におけるサービス部門の対内直接投資額(60.09億ドル)は前年比0.7%増加した。その主な投資分野は運輸・倉庫・通信へ17.4億ドル、小売り・観光15.84億ドル、金融15.78億ドルである。

中南米における過去10年間のサービス部門の成長が、海外からの投資を引き付けてきた。同部門の成長は、消費拡大が貢献した。所得増加が携帯電話を普及させ、銀行口座を開設する預金者を増やしてきたことがサービス関連産業の業績向上につながった。また、関連産業には、多国籍企業の進出が拡大した。

特に資本集約的な業態である金融や電気通信、電力の分野へは多国籍企業による直接投資が、中南米のサービス分野の成長を促した。一方、労働集約的なBPO(Business Processing Outsourcing)の分野への投資は、資本集約的な業種のように規模は大きくない。この分野の業種としては、電話によるサービスであるコールセンターから、高度な専門知識が必要な人的サービス業務が該当する。これらのサービス分野では賃金コストが高い先進国からより低い途上国への進出例が見られる。前記のコスタリカのように、中南米では小国では重要な雇用源となっている。ジャマイカでは米国のBPO企業Sutherland Global Servicesが、進出した。同社は世界各地に進出しており、ジャマイカでは約3,000人の雇用を予定していると言う。ジャマイカは英語圏の国である。従って、多国籍企業で要求される英語の能力を具えた人材の確保については、周辺のスペイン語圏の国よりは立地条件が恵まれている。

英語能力を高めることによって就労機会を得るために、エルサルバドルでは政府が年間650人を対象に英語の教育を実施している。その目的はコールセンターの業務に従事できる能力をつけるためであり、このような人材育成がコールセンターを経営する外資の進出を期待していることがうかがえる。

中米・カリブでサービス部門への対内直接投資の規模が大きい国は、パナマである。同国への海外投資の90%がサービス部門で占められている。パナマは運河の機能を活かして中南米における輸送ハブを形成している。サービス部門もこれに関連した企業が集中している。その中核的な地域がコロン・フリーゾーンである。コロン・フリーゾーンへの投資額は5.83億ドルに上り、カリブ地域への製造品の流通センターの役割を担っている。


Ⅱ.対外直接投資の動向

2013年の中南米における対外直接投資総額は326.17億ドルで、前年比31%減少した。主な対外投資国はアルゼンチンとブラジル、チリ、コロンビア、ベネズエラ、メキシコの6か国である(表5)。これら5か国の2013年(但し第1・4半期)の対外投資(ネット)合計は313.94億ドルで、中南米合計(322.17億ドル)の97.4%を占めた。ブラジルが2011年から3年連続して、マイナス(引上げ超過)を記録した。これはブラジル国内の金利上昇に対処するために、企業が国外企業からの資金調達を増やしたことが影響している。ちなみに、2013年の場合は借入金としてブラジルに流入した金額が、182.56億ドルに対して、国外への投資額が147.60億ドルで、対外投資の収支は34.95億ドルの入超(マイナス)となった。2013年に100億ドルを超える対外投資実績を上げているのは、メキシコとチリである。これについでコロンビアが2012年のマイナスから、2013年は76.52億ドルに回復している。

 

表5 中南米の対外直接投資(単位:億ドル %)

2000-05年平均
2011年
2012年
2013年
アルゼンチン
5.33
14.88
10.52
12.25
ブラジル
25.13
−10.29
−28.21
−34.95
チリ
19.88
202.52
273.3
109.23
コロンビア
11.57
83.04
−6.06
76.52
ベネズエラ
8.09
−11.41
24.6
21.52
メキシコ
29.09
126.36
224.7
129.37
その他とも合計
101.31
421.79
471.86
322.17

(注)数字は2014年5月8日現在のECLAC調査による。2000-05年は単純平均。2013年は第1四半期の数字。
(出所)表1と同じ

 

中南米における対外直接投資はわずか6か国に集中している。その反面、中米やカリブ地域の小国では対外直接投資の規模は小さいが、そのストックのGDPに対する比率が高い国が見られる。

2013年のデータで、中南米で最大の対外直接投資ストック保有国は、ブラジル(7246.44億ドル)でその対GDP比率は、33%である(表6)。同比率が最も高い国はジャマイカの84%である。同比率が50%以上を超えている国(2013年)はパナマ74%(但し2012年)、ニカラグア64%、ホンジュラス52%である。(なお、中南米の対外投資については企業の役割が大きいので、次のⅢとⅣを参照されたい。)

 

表6 対外直接投資のストックと対GDP比率(単位:億ドル %)

対外直接投資ストック
同ストックの対GDP比率
2012年
2013年
2012年
2013年
アルゼンチン
1122.19
na
24
na
ブラジル
7450.89
7246.44
33
33
チリ
2060.21
2154.52
77
77
コロンビア
1120.69
1278.95
30
34
ベネズエラ
490.79
na
13
na
メキシコ
3612.34
3890.83
31
30
ジャマイカ
119.88
120.95
81
84
ニカラグア
64.7
73.19
62
64
パナマ
267.62
na
74
na

(出所)表1と同じ

 

Ⅲ.クロスボーダーM A

中南米では直接投資の手段として、グリーンフィールド(更地)投資と並んでM&A(企業買収)も重要な役割を果たしている。中南米企業を対象とするM&Aには、域外の企業に加えて近年は、域内にも積極的な企業が増えている。本稿では中南米域外・域内企業によるM&Aによる海外直接投資の具体例を取り上げる。従って、本稿のM&Aは全てクロスボーダー(国境を越えた)M&Aである。

2013年に実施された買収金額上位20社のデータによれば、次のような傾向がうかがえる。この買収金額の合計は363.67億ドルで、買収対象は全て中南米における企業である。

その個別ケースで、最大の規模は既に記したベルギー企業によるメキシコ企業の買収である。この20社から上位10社の内容を表7に示した。同表の第一位が、ABインベブによるモデロ買収である。なお、同表では買収額(197.63億ドル)は、最初に記した金額(191.18億ドル)と異なる。

 

表7 中南米におけるクロスボーダーM&A (2013年) (買収額順位表)

買収企業
国籍
a被買収企業
aの所在国
aの国籍
業種
買収額(億ドル)
1..AB Inveb ベルギー Grupo Modelo (65%) メキシコ メキシコ 食品 飲料 197.63
2.United Health Group 米国 Amil Participacoes ブラジル ブラジル 医療 23.22
3.Bancolombia コロンビア HSBC Panama パナマ 英国 金融 22.34
4.Coca-Cola FEMSA メキシコ Spaipa ブラジル ブラジル 食品 飲料 18.55
5.MetLife 米国 AFP Provida(90%) チリ スペイン 金融 18.41
6.Royal Dutch Shell 和蘭英国 BC-10 block(23%) ブラジル ブラジル 石油採掘権 10
7.Nutresa コロンビア Tresmontes Lucchetti チリ チリ 食品 飲料 7.58
8.Yara International ノルウエー 肥料生産プラント ブラジル 米国 農業 7.5
9.E.ON ドイツ Eneva(25%) ブラジル ブラジル 電力 7.03
10.Blackstone 米国 AlphaVille Urbanismo(70%) ブラジル ブラジル 建設 6.61

(出所)表1と同じ

 

20社による買収額合計は、363.67億ドルである。1位のモデロ買収額は20社合計の54%を占めている。この内、上位10社による買収合計額は318.87億ドルで、20社合計額の88%を占めた。残り12%が下位10社(11位から20位)の買収額(44.8億ドル)である。買収対象となった企業・資産の所在国はブラジルの12件が最多で、次いでチリ3件、メキシコ2件、ペルーとパナマ、ホンジュラス各1件となっている。

買収を実施した企業20社の国・地域別の分布は、中南米6社(コロンビア3社、メキシコ1社)、欧州7社、米国4社、カナダ1社、インド1社である。以上の合計は19社である。20件の買収を19社が実施した理由は、4位(表6)のCoca-Cola FEMSが別の買収(16位4.48億ドルでブラジル企業対象)も実施したことによる。食品・飲料部門のような消費財関連の企業にとって、人口規模が大きい国は魅力的な市場である。ブラジル(2億人)とメキシコ(1.2億人)で、中南米の総人口(約5.9億人)の過半を占めている。20社による買収対象となった資産の所在国内訳はブラジル12社に次いでメキシコ2社、チリ3社、パナマとホンジュラス、ペルーに各1社の分布となっている。

20社順位表で唯一のアジア企業が、インドのOil and Natural Gas Corp.(14位)である。同社はブラジルの油田権益(持分12%)を5.29億ドルで買収した。インドは石油・天然ガスの主要な輸入依存先であるイランや中東地域の地政学的リスクを軽減するために、南米の資源確保に乗り出している。

買収対象が最多のブラジルに対する多国籍企業の投資傾向をみると、同国における今後の成長部門の一端が垣間見える。例えば、大規模海底油田の発見により、石油採掘への外資の進出が相次いでいる。前記20社の買収順位表では、ブラジルの石油関連で6位(ロイヤル・ダッチ・シェル)と14位の2例が計上された。ブラジルの石油部門への対内直接投資は108.92億ドルに上り、2012年より倍増した。同国の石油開発は国営石油会社(Petrobras)と並んで、外資を含む民間企業にも参入を認めている。既にブラジルの石油採掘には欧米の主要企業に加えて、中国企業も参入している。

買収順位表(表7)で8位に、肥料メーカーYara Internationalがブラジルで米国企業の生産プラント買収が計上されている。世界の食料供給拠点として、農業生産拡大への期待が大きい国ではある。しかし、肥料の国内供給力不足のために、輸入が増加している状況を打開するために生産拡大が求められている。


Ⅳ.トランス・ラティーナの投資動向

中南米で現地企業の中から、規模を拡大して国外に進出するまでに発展する事例が表れた。このような企業は「トランス・ラティーナ」(スペイン語Trans Latina 英語Trans Latin)と呼ばれ、中南米域内で多国籍化を進めた。その中からさらに域外へ進出して名実ともに多国籍企業に発展する例も見られる。

トランス・ラティーナが発展した背景としては地域の特性と自由貿易体制の普及が影響している。中南米の地域的な特性としては、言語がスペイン語を母国語とする人口が多いこと(なお、ブラジルの言語はポルトガル語)があげられる。また、言語と並ぶ文化的な背景(宗教、価値観、歴史)について、中南米各国間で共通性あるいは類似性があることが、域内で国境を越えても企業活動を展開しやすい環境に恵まれていることがあげられる。

1980年代以降は各国の経済・通商政策が経済自由化を進め、地域経済統合政策も相互に貿易・投資の自由化を認めたことも域内企業の多国籍化を進める要因を形成した。トランス・ラティーナの中には中南米域外においても、事業を展開する事例も現れている。例えば、メキシコのCemexは、セメント・メジャーに成長して世界各地の主要なセメント・メーカーをM&Aによって系列企業として、世界のセメント市場への影響力を拡大している。

トランス・ラティーナが中南米の対内直接投資における役割も高まっている。ECLACのデータ(2013年データ)によれば、対内直接投資に占めるトランス・ラティーナのシェアはコロンビアで30%、エクアドルで46%、中米地域で39%を占めるなど、各国で重要な地位を占めるようになっている。

トランス・ラティーナによるクロスボーダーM&Aの買収額上位20社の順位表によれば、その合計額は124.32億ドルである。その内訳は中南米域内における買収額(対象企業11社)が81.83億ドル、中南米域外のそれは42.49億ドル(同9社)となっている。同順位表の上位5社による買収額合計(70.72億ドル)は、20社合計の57%を占めている(表8)。

買収先企業の地域構成によれば中南米域内における買収企業数は6社、その買収金額合計は54.61億ドル、一方中南米域外のそれは14社、69.71億ドルである。買収額合計の構成比率は域内44%、域外56%である。買収企業数も域外で14社で、域内(6社)の倍以上を数える。トランス・ラティーナが今や、中南米域内から世界市場に視野を広げていることがうかがえる。

トランス・ラティーナによる買収上位20社の順位表では、食品・飲料企業の買収が5件に上っている。その中で、メキシコのCoca-Cola FEMSAによる買収が3件を占めている。その内訳はブラジル企業の買収が2件(順位表2位と10位)、そして6位にフィリピン企業買収である。これら3社の買収額合計は29.92億ドルに上る。

この20社順位表で、フィリピン以外に中南米域外企業を買収した例としては、3位のGrupo BTG Pactualが同じくブラジル企業から、アフリカにおける石油採掘で50%の利権を買収した。ブラジル企業は特にアフリカのポルトガル語圏(主にモザンビークとアンゴラ)との事業展開に取り組んでいる。ブラジル最大のバスメーカーであるMarcopolo社(同順位表19位)は、カナダのNew Flyerの株式を1.16億ドル(持ち株比率20%)で取得した。

メキシコの化学メーカーMexichem社(同15位)は、米国の合成樹脂生産プラントを2.5億ドルで買収した。米国でシェールガスが増産され、石油化学産業の生産コストが低下する状況が実現していることを踏まえて、中南米の石油化学産業界でも米国の石油化学原料の競争力が高まっていることに、関心が高まっている。

 

表8 トランスラティーナスのクロスボーダーM&A(2013年) (買収額順位表)

買収企業
国籍
a被買収企業・資産
aの所在国
aの本社所在国
業種
買収額(億ドル)
1.Bancolombia コロンビア HSBC panama パナマ 英国 金融 22.34
2.Coca-Cola FEMSA メキシコ Spaipa SA ブラジル ブラジル 食品飲料 18.55
3.Grupo BTG Pactual ブラジル 石油採掘(50%の利権) アフリカ ブラジル 石油 15.25
4.Grupo Nutresa コロンビア TresmontesLucchetti チリ チリ 食品飲料 7.58
5.Banco Safra ブラジル Bank J Safra Sarasin(50%) スイス スイス 金融 7
6.Coca-Cola FEMSA メキシコ Coca-Cola Bottlers Philippines(51%) フィリピン 米国 食品飲料 6.89
7.Grupo Aval コロンビア BancoBilbao Vizcaya Panama (99%) パナマ スペイン 金融 6.88
8.Grupo Aeropuerto del Sureste メキシコ LMM Airport プエルトリコ プエルトリコ 運輸 6.15
9.Cementos Argos コロンビア Lafarge Cementos Honduras(53%) ホンジュラス フランス セメント 5.73
10.Coca-Cola FEMSA メキシコ Companha Fluminense de Refrigerantes ブラジル ブラジル 食品飲料 4.48

(出所)表1と同じ