フラッシュ210
2014年9月29日
 

ASEAN経済共同体の進捗状況を評価する

 

国際貿易投資研究所編(注)

 

2014年8月25日に開催された第46回ASEAN経済大臣会議(AEM)の共同宣言で、ASEAN経済共同体(AEC)ブループリントの実施状況は、82.1%と発表された。2013年末までに実施予定の229の優先主要措置の82.1%を実施しており、第4フェーズ(2014~15年)については、52措置が実施されているとしている。ブループリントの実施状況はスコアカードで評価することになっている。スコアカードは、2012年に第1フェーズと第2フェーズについて公表されて以降、詳細なものは発表されず、2013年10月の第23回首脳会議の議長声明で79.7%、279措置を実施という数字が発表されていた。本来であれば、フェーズ3(2012~13年)までのスコアカードが2014年前半に公表されるはずであったが、発表は行なわれなかった。スコアカードは、ブループリントで行動計画としてあげられている措置数を分母としているが、今回は優先主要措置数を分母としており計算方法が異なっている。スコアカードの計算方法ではスコアが低くなってしまうために変更したと推測されている。また、全体数字のみで分野別の詳細は発表されていない。

AECは2015年末に創設予定であり、進捗状況への関心は高まっている。そのため、主要分野について進捗状況(2014年8月末時点)を確認し、ブループリントのスケジュールを基準として評価を試みた。評価に使用したデータは、ASEAN事務局の公表資料を基本とし、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)やジェトロ、ITIなどの研究調査報告などを参考にしている。今報告は、速報性、一覧性を重視したため、下記の表に簡潔にまとめている。各分野についての目標、計画の経緯や背景などについては、表を作成した4名が執筆者として参加した『ASEAN経済共同体と日本』(文眞堂)に詳しく説明されている。また、今回の表の各項目については、「季刊国際貿易と投資」などで詳しく解説していく予定である。なお、下表の評価は、国際貿易投資研究所および執筆者が所属する機関・組織の公式見解ではないことにご留意いただきたい。

<表の見方>
◎は2007年ブループリントの想定どおりあるいは想定以上の成果をあげている、○は概ねブループリントの想定どおり施策が実施されている、△ ブループリントの想定より実行遅れているが一定の成果がみられる、×は実施が大幅に遅れている、ことを示している。

分野

主な目標

現在までの成果(2014年8月)

2015年までの追加的成果

評価

備考

全体評価

 

2013年末までに実施予定の229の優先主要措置の82.1%を実施、第4フェーズ(2014~15年)52措置実施

優先度の高い措置を先行して実施ポスト2015AECアジェンダの作成

 

スコアカードによる評価を2014年に変更

関税

関税撤廃

ASEAN6は99.2%撤廃、CLMVは72.6%〈13年12月〉

CLMVは2015年(関税品目表7%分は2018年)

 

非関税障壁

非関税障壁撤廃

撤廃は進展なし
データベース作成

撤廃の進展は見込めないが、3措置(備考)は進む。

×

①データベース更新、②省庁間横断組織、③具体事例マトリックス

原産地規則

継続的改善

選択的原産地規則導入とASEAN+1FTAに拡大、FOB価額不記載

統一した自己証明制度導入

2つの自己証明制度パイロットプロジェクト実施

税関業務円滑化

 

ASEAN通関申告書、ASEAN統一関税分類(AHTN)など進展

AFAFGIT第2、第7議定書の署名

 

ASW〈シングル・ウィンドウ〉

NSWの導入(ASEAN6は08年、CLMV12年)
7カ国でASWを実施

フォームDとASEAN税関申告書の交換の7カ国の連結テスト

7カ国で実施

全書類についての連結テスト実施

基準認証

いくつかの産品について基準の調和と相互承認協定(MRA)

化粧品統一指令の国内法制化、電気電子機器のMRAの実施、薬品製造検査のGMPのMRA策定、医療機器統一指令

自動車、調整食品、建築材料、鉄鋼のMRA、伝統的薬品とサプリメントの技術要件の調和

協定は進展、実効性が課題

サービス貿易

128分野の自由化、第3モードは外資出資比率70%

2014年に第9パッケージ妥結(104分野の自由化)

第10パッケージ妥結は遅れるか
新サービス協定(ATISA)締結

第4モードは極めて限定。開放は実態的にはアナが多い

金融サービス

保険、銀行、資本市場、その他の4分野で各国別に自由化するセクターを特定し2015年までに実施、その他は2020年。

AFAS金融第5パッケージ署名
各国がポジティブリスト方式で自国で可能な自由化領域を明示

AFAS金融第6パッケージ署名

当初よりブループリントで2020年までの自由化を許容している点に留意

熟練労働者の移動

自由職業サービスのMRA

エンジニアリング、看護、建築、測量技師、会計、開業医、歯科医、観光の8分野署名。会計は新しいMRA署名
自然人移動協定(AMNP)署名
ASEAN資格参照枠組み(AQRF)採択(2014)

 

実効性疑問

投資

ACIA制定、「最小限の制限」を残して自由化

ACIA制定(2012)、留保表〈12〉、ACIA修正議定書(14)

留保表掲載分野の削減に着手

 

資本移動

資本市場統合

ACMFでの各種取組み:証券取引所の連携、域内のクロスボーダーでの起債のための会計基準などの共通化

2020年までながら、①資本勘定の自由化、②金融サービスの自由化が提言され、さらに長期では、③決済システムの統合、④資本市場開発も推進

これまでの取組みは、マレーシア、シンガポール、タイの3カ国が先行実施している項目が多い

競争政策

競争政策、競争法の導入
地域ガイドライン作成

5カ国で導入済
地域ガイドライン作成

若干の国が導入

5カ国はフィリピン、ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー

消費者保護

専門家会合設置など

専門家会合設置済、9カ国が消費者保護法策定

消費者保護法地域ガイドライン策定

 

知的財産

特許協力条約、マドリッド議定書に加盟

特許協力条約8カ国、マドリッド議定書3カ国

加盟国の増加

 

輸送円滑化

ASEAN通過貨物円滑化枠組み協定(AFAGIT)、ASEAN国家間輸送円滑化枠組み協定(AFAFIST)、ASEAN複合一貫輸送枠組み協定(AFAMT)の締結・発効

AFAGITは9議定書の3つ(越境交通路の指定、鉄道の国境駅・積替え駅、危険物)が未発効、2つ(国境交易・事務所、トランジット通関)が未締結・未発効、AFAFISTは批准が3カ国(タイ、ベトナム、ラオス)、AFAMTは批准が4カ国(カンボジア、フィリピン、タイ、ベトナム)

 

AFAGITの最終化が優先課題

陸上輸送

ASEAN高速道路ネットワーク(AHN)は道路格上げ
シンガポール昆明鉄道(SKRL)の未通部分の建設、修復

ミャンマー区間を除き道路インフラは整備が進展、鉄道事業は経済性などから遅滞

 

AHNのクラス1への格上げは2020年以降に繰り延べ
SKRL(東回り)も2020年以降に繰り延べ

海上輸送

単一海運市場の創設

47指定港湾能力の向上、RoRo船ネットワーク整備

 

実現は2015年以降。

航空輸送

単一航空市場創設
第3の自由(自国から外国への輸送)、第4の自由(外国から自国への輸送)、第5の自由(以遠権)までの実現が目標

航空輸送部門統合に向けたロードマップ(RIATS)により措置の実施

 

第6の自由(本国をハブとする第3国間輸送)、第7の自由〈第3国間輸送〉、第8の自由(カボタージュ、他国の国内輸送)は含まれていない

エネルギー

ASEAN電力網(APG)は、2015年までに15のプロジェクト
ASEANガスパイプライン(TAGP)は、4500キロに及ぶ二国間パイプラインを敷設

APGは4つが一部完成を含め継続中、3が建設開始、8が準備中
TAGPは8本2300キロは稼動している

 

APGの完成目標は2020年に繰り延べ
TAGPは東ナツナ開発にインドネシア政府合意
ガスパイプラインとLNG併用が進む

租税

二重課税防止のための二国間協定を締結(2010まで)

二国間租税条約のためのフォーラム設立

 

×

 

電子商取引

域内電子商取引のためのインフラと法的枠組みおよび電子商取引実現

ICTマスタープラン2015採択、電子商取引相互運用技術の枠組みについての研究など各種施策を実施

 

 

 

中小企業

情報、市場、人的資源、金融、技術などへのアクセス改善による競争力と強靭性の強化

情報サービス整備は進展、開発ファンド、金融ファシリティーなどは遅れ

中小企業行動計画の措置の実施、2015年後の行動計画のビジョンと目標の策定

△か○

 

域内格差是正

 

ASEAN統合イニシアチブ(IAI)の作業計画1を完了

IAI作業計画2を実施中

 

域外FTA

ASEAN+1FTA締結

5本のASEAN+1FTA締結、インドとのサービス貿易投資協定締結
RCEP自由化率は合意遅れ

RCEP協定締結、AJCEPサービス投資協定署名、ASEAN香港FTA妥結

 

(出所)ASEAN事務局の資料、ERIA資料などにより、石川幸一・清水一史・助川成也・福永佳史が作成、輸送とエネルギーは春日尚雄氏(福井県立大学教授)、金融サービスと資本は赤羽裕氏(亜細亜大学講師)の協力を得た。

 

(注)本表は、(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員の石川幸一(亜細亜大学教授)、清水一史(九州大学大学院教授)、助川成也(中央大学経済研究所 客員研究員)及び東アジア・ASEAN経済研究センター・上級政策調整官の福永佳史氏の4名が分担して作成した。また、輸送とエネルギーについては、(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員の春日尚雄(福井県立大学教授)、金融サービスと資本については、亜細亜大学大学院兼任講師 赤羽裕氏にご協力を頂いた。