フラッシュ217
2014年12月26日
 

ベネズエラの援助力低下で危惧されるカリブ海諸国の財政破綻

 
内多 允
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
 

ベネズエラでは1999年2月に就任したチャベス大統領が、国内政治と外交関係にわたって、過去の歴代政権と大きく異なる政策を展開した。その政策の特徴は社会主義体制の構築と、米国が主導する市場経済体制に批判的な各国との関係強化であった。ベネズエラが反米的な立場の各国との連携を強化する手段として、石油収入を活用した。チャベス大統領は国内の石油資源を独占している国営石油会社(PDVSA)が輸出から得た外貨収入を、反米的な立場をとる諸国への経済支援に投入した。チャベス大統領のこのような外交姿勢は中南米で2000年代に顕著になった米国を除外した地域統合の推進にも影響を与えた。米国流のネオリベラリズムでは貧困や経済格差の解決に、貢献しないという批判の高まりも米国への批判を高めた。チャベスの外交も、米国を外した中南米の統合推進を重視した。

その具体例として、Petrocribe(以下、英語発音のペトロカリブと表記)を本稿で取り上げる。ペトロカリブはベネズエラの石油(原油と石油製品)をカリブ諸国に優遇的な価格で供給する石油協力機構の名称である。これらの機構を利用してベネズエラはカリブ地域(一部は中米諸国も含む)との関係を強化した。

しかし、近年はベネズエラが反米同盟のネットワークを構築する上で、活用してきた石油収入が減少していることによって、その外交戦略の前途が危惧されている。原油の国際相場の下落が、ベネズエラ経済の停滞に拍車をかけている。ベネズエラ原油の平均価格(1バレル当たり)は2012年平均103.42ドルが、2014年(12月1日―19日平均)には51.26ドルに50%も低下した(表1)。

このような状況を反映してカリブ諸国が依存度を高めているベネズエラからの低金利融資による外貨供給の打ち切りも取り沙汰されている。ベネズエラの経済援助の断絶が、カリブ諸国の財政破綻を招きかねない事態を国際金融界も警戒している。

 

表1 ベネズエラ原油価格の推移

 

  2014年

期間

 2012年

2013年

1Q 

2Q 

3Q 

10月 

11月 

12月 

価格

103.42

98.08

96.14

97.70

92.42

78.94

70.17

51.26

(注)価格単位はドル。各期間の1バレル当たりの平均価格。2014年12月は1日から19日の期間における平均価格。1Qから3Qは各四半期。

(出所)ベネズエラ石油・鉱業省

 

カリブ諸国がベネズエラ政府の資金協力の継続について心配する理由は、チャベス大統領が2014年3月5日に死去したことも影響している。その後任にはマドゥーロ副大統領が就任した。マドゥーロ大統領は、チャベス前大統領の政策を継承すると明言している。

しかし、チャベス政権の時期からベネズエラの財政状態は悪化している。これに対してカリブ諸国は、「果たしてベネズエラからの援助が継続されるのか」という不安観を拭い切れないでいるであろう。本稿ではベネズエラのカリブ諸国への援助の動向を取り上げる(なお、本稿では一部の中米諸国についても記載する)。

    目次

1 ベネズエラ・カリブ関係を強化したペトロカリブ

2 特異な石油代金融資の返済方法

3 憂慮されるカリブ諸国の債務増加

4 米国・キューバ国交回復機運の波紋

 

1 ベネズエラ・カリブ関係を強化したペトロカリブ

ペトロカリブ創設の協定(ペトロカリブ・エネルギー協定)は、2005年6月にベネズエラが主催した第1回カリブエネルギーサミットでベネズエラとカリブ14か国によって、締結された。なお、同協定の締結国は表5のエルサルバドルとグアテマラ、ハイチ、ホンジュラス(これら4か国は後に加盟)を除く11か国とバハマ、セントルシア、ベネズエラ3か国を加えた14か国である。バハマとセントルシア両国は、加盟国ではあるが石油供給をまだ受け入れていない。更にニカラグアも加盟した。従って、ペトロカリブ加盟国は発効時の加盟国14か国に、その後の新規加盟5か国の合計19か国である。

同協定の目的はベネズエラがカリブ諸国への影響力を強化することを狙い、国際相場より安価な石油供給と長期融資を取り決めた。なお、キューバは同協定に調印したが、ベネズエラによる同国への石油供給については別途、両国間の協定が締結されている。

 

表2 ペトロカリブ融資比率

石油価格帯

融資比率(%)

≧15

5

≧20

10

≧22

15

≧24

20

≧30

25

≧40

30

≧50

40

≧80

50

≧100

60

≧150

70

(注)石油価格は1バレル当たり(単位:ドル)

(出所)ペトロカリベ協定

 

ペトロカリブの融資は、ベネズエラに支払うべき石油輸入代金の延払い資金を運用して実施されている。その規定概要は次のようになっている。

この融資制度は支払い対象である石油代金の一定割合を、ベネズエラが融資する制度である。つまり、ベネズエラは石油代金を全額受け取らない段階で、その一定割合を貸し付けることになる。その割会と償還条件はは支払い対象となる石油代金の1バレル当たりの単価が40ドルを境に、異なる。

1バレル当たりの単価が高いほど、石油代金が融資対象となる比率が高くなり、ペトロカリブ加盟国の石油輸入負担を軽減させようとしている。例えば1バレル40ドル以上50ドルの輸入取引額に対する融資比率は30%である。これが80ドル以上100ドル未満の取引では、輸入国は対象輸入額の50%相当額が、ベネズエラから融資される。

40ドル以下の石油代金の延払い方法は2年間の据え置きと償還期間17年間の延払いで、金利は2%である。40ドル以下の融資条件は15ドル以下から40ドル以下まで、6段階の融資条件が決まっている(表2)。

40ドル超については、これらの融資条件は2年据置で償還期間25年、金利1%である。50ドル未満から150ドル以上まで4段階の融資条件が設定されている(表2)。

ベネズエラからペトロカリブへの石油供給量(b/d バレル表示の日量)は2012年には12.1万b/dバレルを記録した。一方、同年のキューバ向けのそれは9.1万b/dであった。

 

表3 ベネズエラの石油供給量(単位1,000b/d)

 

歴年

ペトロカリブ向け

キューバ向け

合計

原油

製品

合計

原油

製品

2008

86

51

35

93

76

17

2009

110

57

53

93

84

9

2010

99

54

45

98

84

14

2011

95

52

43

96

91

5

2012

121

45

76

91

85

6

(注)製品は石油製品。合計は原油と製品で構成。

(出所)David L.Goldwyn and Cory R.Gill,Uncertain Energy The Caribbean’s Gamble with Venezuela, Atlantic Council, July 2014, Washington D.C. U.S.A. P.8 Figures 2 &3より作成

 

表4 ベネズエラと米国の供給量推移(単位:1,000b/d)

 

歴年

ベネズエラ

米国

原油

石油

原油

石油

2008

18.8

66.7

46

58

2009

29.3

80.6

40

69

2010

21.3

77.9

46

82

2011

27.1

67.5

53

116

2012

40.7

80.3

56

104

(注)数値はペトロカリブ対象諸国向けの供給量。石油は原油と精製品の合計。同表の数値は表3の出所とは別の情報源であるため、異なっている。

(出所)表3の出所資料 P.10Figure5

 

ペトロカリブによる石油供給の現状について、2014年11月20日に開催されたペトロカリブ担当相会議の際にラミレス・ベネズエラ外相は、「ペトロカリブは発足以来、3億100万バレルの石油を供給した。ペトロカリブ対象諸国における石油需要の40%を、ペトロカリブが供給している。その石油供給量は2007年5.7万b/dから、現在は10万b/dに増大している」と、順調な発展状況を強調した。

ベネズエラが石油供給体制の充実に努めているとはいえ、カリブ地域では米国が依然として、重要な供給減である。ベネズエラと米国のペトロカリブ諸国向けの供給量(表4の石油)を2008年から2012年の推移を比較すると、ベネズエラからの供給量が米国のそれを上回った年は2008年と2009年の2年間だけである(表4)。同表の石油(原油と精製品の合計)供給量で、ベネズエラの米国に対する比率は2008年115%,2009年117%であるが、2010年から2012年にかけては100%以下(つまり、米国がベネズエラより供給量が多い)である。なお、キューバは米国から石油を輸入していない。

ペトロカリブは2013年、14か国と石油供給協定を締結した(表5)。

 

表5 ベネズエラのペトロカリブとキューバ向け石油供給量2013年(単位:1,000b/d)

 

協定

供給実績

アンティグア・バーブーダ

4.4

1.1

ベリーズ

4.0

2.6

ドミニカ国

1.0

0.3

エルサルバドル

7.0

6.4

グレナダ

1.0

0.7

グアテマラ

20.0

――

ガイアナ

5.2

4.4

ハイチ

14.0

14.0

ホンジュラス

20.0

――

ジャマイカ

23.5

22.3

ドミニカ共和国

30.0

28.6

セントクリストファー・ネビス

1.2

0.9

セントビンセント及びグレナディン諸島

1.0

0.5

スリナム

10.0

3.3

キューバ

98.0

99.3

(出所)ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)、Informe de Gestión Anual 2013,155頁より抜粋。

 

同表によれば、ペトロカリブ対象14か国の協定による供給量合計は、14.23万b/dである。これに対して供給実行量合計は8.51万b/で、協定の履行比率は約60%である。供給実行量の対象国内訳によれば、ドミニカ共和国への2.86万b/dが最多で、次いでジャマイカ向けが2.23万b/d、ハイチ向け1.4万b/dであった。これら3か国合計6.49万b/dは総供給量の約46%を占めた。ペトロカリブの平均販売価格(1バレル当たり)はRBC(Royal Bank of Canada)の推定によれば2013年においては44.08ドルで、2014年には46.56ドルに引き上げられると予想している(出所はRBC Caribbean Economic Report 2014年11月号)。RBCの同出所によれば、ペトロカリブ発足時からの石油供給額は283億ドルに上り、その内、関係諸国が支払った額(延払いの対象外の石油代金)は168億ドルである。

2014年に値上げが予想されていることからも、ベネズエラの財政状況が逼迫していることがうかがえる。

ベネズエラで発表された見解によれば、ベネズエラで生産される石油に対して、正常な支払いが行われるのは取引量全体の約45%から50%である。ベネズエラの外交政策によって、ペトロカリブに加えて、他の国に対しても通常の価格よりも低い支払い条件で輸出していると考えられる取引が行われている。ちなみにペトロカリブ向けの供給量は、ベネズエラの石油取引を独占している国営石油会社(PDVSA)の取引量の20%から25%を占めている。PDVSAにとって逆ざやとなっている国内向け販売量は約16%を占める。ベネズエラでは国内の重要な輸送手段は自動車に依存している。従って、ガソリンの値上げは政治的にも極めて困難である。対外債務の返済に向けられる割合は、取引総量の約7%を占める。

これは、中国向けの石油輸出収入が同国からの借款返済に充当されている。(これらの石油代金の状況についての出所は次のとおり:Resource Reveniew Management in Venezuela、byOsmel Manzano and Jose Sebastian Scrofina,Universidad Catolica Andres Bello and Instituto de Estudios Superiores de Administración (IESA),Caracas,2012 24頁)。

 

2 特異な石油代金融資の返済方法

前記でしたように、ベネズエラの石油収入構造には問題を抱えている。これに関連してペトロカリブの石油代金の延払い方法にも、問題がある。その一つが延払い代金の返済に、商品あるいはサービス提供の方法を認めていることである。

 

表6 石油代金返済によるベネズエラ向け商品輸出額(単位:100万ドル)

暦年

輸出額

2008

25

2009

115

2010

296

2011

494

2012

872

2013

739

2014

191

以上合計

2,732

(注)2014年は第1四半期

(出所)PetroCaribe2014年第1四半期報告書

 

ちなみに、サービスの返済についてはキューバがベネズエラからの石油供給の見返りに、サービスを提供している。これはチャベス政権が重視するようになった貧困層への医療活動のために、キューバから派遣された医師が従事している。

ペトロカリブ諸国が石油供給の見返りに、ベネズエラ向けに輸出した合計(2008年から2014年第1四半期)は27.32億ドルに上る(表6)。

このシステムによる輸出を実施した国(2012年と2013年実績)はガイアナ、ニカラグア、ドミニカ共和国、ジャマイカである。各国の輸出品目数(2013年)はガイアナ2品目、ニカラグア15品目、ドミニカ共和国3品目、ジャマイカ1品目である。その主な商品は農産物である。例えばモミ米はガイアナから10万2,702トン、ニカラグアから2万トンがそれぞれ輸出された。またガイアナは精米も11万8,395万トンを輸出した。その他の食料には砂糖やコーヒー、パーム油、食肉、ミルクなど多岐にわたる。

 

3 憂慮されるカリブ諸国の債務増加

急激な石油価格の下落によって、石油収入への依存度が高いベネズエラもその対応に苦しんでいる。ベネズエラでは外貨収入の90%、そして政府歳入の45%を石油輸出に依存している。The Bank of Americaの推定によれば、石油価格1ドルの低下は、ベネズエラの年間歳入が7億7,000万ドル減少すると試算した。従って、ペトロカリブのような石油輸入国にとって寛大な延払い輸出のための、財政負担の継続が不可能になる事態が、避けられないと予想されている。ペトロカリブによる融資は各国のインフラ整備や、さまざまな政府の歳出に充当されている。例えば学校の教科書の無償配布、農業振興、社会開発分野など多岐にわたる。ジャマイカでは動物園の運営経費にも支出されていることが、伝えられている。一方、ペトロカリブによる融資増加が、カリブ諸国の債務返済負担が危機的状況を迎えていることを、国際通貨基金(IMF)は警告している。IMFによれば、ベネズエラが現行の財政負担を継続するためには、石油を1バレル120ドルで売ることが必要であると指摘している。もはや、このような石油価格は現実離れしている。ベネズエラが累積したペトロカリブに、有効な救いの手立てを講じることも困難であろう。

ペトロカリブ債務国で、2013年において石油輸入額がGDPに占める比率が上位6か国が、主要な債務国である(表7)。ドミニカ共和国の石油輸入額の対GDP比率は7%であるが、ペトロカリブ諸国で最多の債務(111.2億ドル)を抱えている。

石油価格の低下は、輸入国の外貨負担を軽減する効果をもたらす。しかし、ペトロカリブ加盟国は、ベネズエラの財政難が石油供給に関わる優遇措置が削減されることを懸念している。既に10月にはベネズエラが、ペトロカリブの石油供給量を前年同月に比べて削減したという報道もでている。

 

表7 ペトロカリブ債務額(単位:億ドル,%、b/d)

債務額 

対GDP比率 

石油消費量

ジャマイカ

68.4

16

7.5万

ベリーズ

6.4

14

7,000

アンティグア・バーブーダ

4.7

13

4,700

ガイアナ

9.1

11

1万

グレナダ

2.0

9

2,200

セントクリストファー・ネビス

1.8

9

(注)出所の表から債務額の対GDP比率の上位6か国のデータを抜粋して作成。対GDP比率は2013年における石油輸入額が、GDPに占める割合。債務額は2005年-2012年の合計。対GDP比率は2013年のデータ。

(出所)RBC,PetroCaribe:A handout,not a hand-up,which may soon run out, May2013

 

4 米国・キューバ国交回復機運の波紋

ペトロカリブの行方については、ベネズエラ国内の政治動向の影響も無視できない。チャベス前大統領の後任であるマドゥロ現大統領の支持率低下が、外交政策にも影響するだろう。チャベス前大統領が石油収入を利用して、ベネズエラの反米色の強い各国との連携を強化する外交政策には、反チャベス派は批判している。チャベスやその理念を引き継ぐ後継政権に反対する政治グループが政権を奪えば、ペトロカリブ政策は破棄すべきであるという主張もある。また、国内経済を立て直して、政府が国民の支持を繋ぎ止めよとするなら、石油収入をペトロカリブのように外交のために使うことよりも、国内を重視することへの転換が迫られるだろう。

国際関係においても、ベネズエラの反米を基調とする外交を見直す事態が生まれた。それは、12月17日にオバマ米国大統領が発表したキューバと国交を回復する交渉するという方針である。キューバ政府も、米国政府の方針転換を歓迎している。キューバの方針転換は、中南米における反米的な主張にも変化を及ぼすのではないかという見方もある。ベネズエラの反米を基調とする各国との連携も揺らぐことも予想される。

シェールガスの増産で、世界のエネルギー事情への影響力を強化した米国が、カリブの石油輸入国にどのような外交を展開するのか注目される。