フラッシュ230
2015年5月13日
 

FTAを利用できる品目が少ない日本 ~低いミャンマー・カンボジアのFTA利用率~

 
高橋 俊樹
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
 

 

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7.ミャンマー・カンボジアのFTA利用拡大を妨げる国境貿易と経済特区

ミャンマーとカンボジアの政府関係者にFTAの利用率を聞くと、一様に非常に低いとの回答が返ってくる。しかも、ACFTAやAFTAにおいて、ミャンマー・カンボジアが2015年から関税を削減したとしても、その効果は利用率を大きく引き上げるほどのものではないという意見が多い。

現地の政府関係者などがFTA利用の拡大の可能性にネガティブな反応を示す理由として、まず第1に、中国やタイ、ベトナムなどとのボーダートレード(国境貿易)の割合が高いことを指摘することができる。国境での貿易においては、FTAを利用するケースは少ない。

第2に、ミャンマー・カンボジアの貿易形態は、繊維・履物に代表されるように、関税が免除される経済特区を活用した委託加工貿易型である場合があり、輸入時にFTAを利用する必要がないことが考えられる。

そして第3に、ミャンマー・カンボジアの貿易構造が、資源関連や繊維・履物に偏ったモノカルチャー的なものになっていることを挙げることができる。ミャンマーが資源を輸出する時、中国やインドネシア、タイの鉱物性燃料の輸入関税率は、MFN税率もACFTA/AFTA税率も0%か非常に低い税率であるため、FTAを利用するメリットはあまりない。

また、ミャンマー・カンボジアが繊維製品・履物を先進国に輸出する時は、特恵関税制度、IT関連製品ではITAを活用し無税にすることが可能である。例えば、日本はミャンマー・カンボジアを特別特恵関税適用国に指定しており、繊維・履物関連の多くの品目の関税が撤廃されている。

第4には、ミャンマー・カンボジアにおいては、海外から輸入した製品には関税の他に商業税(Commercial Tax)や登録税が上乗せされる。例えば、ミャンマーで2000㏄以上の自動車を輸入した場合は、関税率が40%であり、それに対する商業税が25%、さらに登録税の75%が加算される。したがって、FTAを利用して関税率を削減したとしても、自動車の輸入においては、依然として高い商業税や登録税が課税されるので、FTAの効果は薄れてしまう。この結果、FTAの利用を進める上での1つの障害になっている。

これらの要因が複雑に絡み合っているので、一般的には、ミャンマー・カンボジアのFTAの活用が一朝一夕に急拡大することはないと考えられている。

実際に、貿易を行っている在ミャンマーと在カンボジアの日系企業のEPA/FTAの利用状況を調べたジェトロ調査 (2014年度在アジア・オセアニア日系企業実態調査) によれば、両国のFTA利用率(在ミャンマー日系企業16.7%、在カンボジア日系企業27.8%)は、アジア・オセアニアの平均(43.7%)よりも低いという結果になっている。これまで在ミャンマー・カンボジアの日系企業のFTA利用率が低かった背景には、上記の要因の他に、両国とも既存のFTAの関税削減スケジュールが遅れていたことが挙げられる。

また、ミャンマー政府の内部資料によれば、ミャンマーの中国への輸出において、ACFTAの利用率(ミャンマーから中国への原産地証明書(Form E)利用額÷ミャンマーの対中国輸出額)は2012年度では4%、2013年度では4.4%、2014年度(4月~8月)では4.3%であった。つまり、ミャンマーの中国への輸出でFTAを利用している割合は5%以下にすぎないということである。

一方、ミャンマーの中国からの輸入においては、輸出と違う動きが見られる。ミャンマーの輸入におけるACFTAの利用率は、2010年度は0.2%にすぎなかったが、2011年度は1.3%に高まり、2012年度は11.0%、2013年度は16.5%と急速に上昇している。

こうしたミャンマー政府の中国とのFTA利用率の数字は公式統計ではないものの、ミャンマーの最近の中国からの輸入におけるACFTAの利用率の上昇は、2015年以降の関税率の削減効果に対するネガティブな見方をやや見直すことが可能であることを示唆している。

また、これまではミャンマーでの外資による輸入販売は原則禁じられていた。製造業者でも、自社生産のための原材料や部品の輸入は許可されるが、国内生産をしていない自社製品を輸入販売するには現地企業に委託しなければならなかった。しかし、2014年8月の通達で、小売り・卸売りなどの流通の外資参入の規制は取り除かれた。ただし、実際に認可が下りるかどうかは、ミャンマー政府の判断によるところが大きいので、今後の推移を見守る必要がある。いずれにしても、将来的には独力での輸入販売が自由化される可能性がある。これが実現すれば、FTAの活用が促進されることになる。

さらに、FTA活用を引き上げるには、企業がFTAを利用するかどうかの判断に資する有効な情報を、いかに的確でシステマティックに伝達できるかが重要なファクターになる。

2015年から2018年にかけてのミャンマー・カンボジアは追加的な関税削減を予定している。これを契機として、その関税削減効果を日本企業などに情報提供するならば、FTAを積極的に活用する企業が拡大する可能性がある。特に、中堅・中小企業への重点的な情報提供サービスやアドバイスが不可欠であると考えられる。

 

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