フラッシュ245
2015年8月18日
 

国際化に向けて動き出すミャンマー

 
大木 博巳
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
 

今月初め(2015年8月2日から7日)に、ヤンゴンを訪問する機会を得た。2013年8月に訪問して以来、2年ぶりのヤンゴンである。目に見える変化の一つが大通りの野外広告の大看板(ビルボード)の数が増えていたことであった。日本企業の看板もエアコンや文房具など多く見られたが、目立っていたのは、欧州の高級自動車メーカーによる新車の看板であった。ヤンゴンの自動車市場が、中古車から新車にマーケットがもうじき変わる予感を醸し出していた。2年前に訪問した地方都市のマグウェでは、ユニリーバの商品広告が街路に溢れていたが、今回はヤンゴン市内のいたる所にユニリーバの広告を見ることができた。ベンツ、BMW、ネスレ、ユニリーバ等欧州企業のマーケティング戦略の意気込みを感じた。

因みに、2012年1月に面談したマレーシア系広告会社の話では、ヤンゴン市内の看板は、ヤンゴン経済開発委員会(YEDC)が仕切っていた。看板の値段はオークションで決まる。一番高いところは、インヤー湖沿いの道路で当時、年間500万円もすると言っていた。当時、看板を出していた企業は、主にローカル企業が中心で業種としては石鹸、洗剤、シャツ、インスタントコーヒーなどであった。外国企業では、サムスン、LG、パナソニック(テレビ、冷蔵庫)、化粧品企業など。新規参入組のサムスンが、市内で集中的に攻勢をかけて、勢いがあった。広告の特徴としては、俳優+商品というパターンが主流であった。

日本企業は日本人商工会議所の登録企業数で250社(2015年7月時点)に達しているが、まだ様子を伺っている企業が多いというが、ティラワ経済特別区開発の工事が順調に進んでいることで変化が期待される。ティラワSEZ先行開発区域「ゾーンA」の第1期(211ha )工事は2015年6月に完了した。第2期(150ha)は2016年に工事が完了する予定である。すでにゾーンAの敷地面積の7割が完売している。内訳は、「ゾーンA」の開発を進めているMJTD(ミャンマー日本ティラワ開発)社と土地サブリース契約締結している企業が35社(170ha)、このうち日本企業は自動車関連や電子部品、縫製等18社、これに土地予約契約を締結している企業が13社(62ha)、うち日本企業が6社となっている。合計48社が「ゾーンA」で操業・開業を予定しているが、すでに11社が工場着工済みとなっている。これを起爆剤としてミャンマー投資、特に製造業の進出が活発化することが期待されている

ヤンゴン市内での人の動きはゆったりとしており、2年前と変わったようには見えなかったが、経済改革を進める政府もグローバル化に直面しているミャンマーの企業も動き出している。

委託加工ビジネス(CMP)、最低賃金いかんでは見直しも

最初に、ヤンゴン市内にある縫製工場を訪問した。韓国系企業が経営するレンタル工場を借りて、日本市場向けにジャケット、コートを生産していた。生産ラインは5ライン、従業員は十代の若い女性ばかり430人が、冬ものジャケットやコートを生産していた。操業時間は、45分の休息(昼食時間)を挟んで、8時から19時30分まで。この縫製工場には、中国人と韓国人が指導員として活躍していた。

この縫製工場では、レンタルをするのは工場だけでなく、機械や従業員も含まれている。70点から100点余りの部材のうち現地調達できる品目は、糸、袋、箱の3点のみ。他は中国、台湾、日本からの輸入である。

ミャンマーでは、委託加工ビジネスのことをCMP(Cutting, Making and Packing)と呼んでいる。CMPとして登録すると原材料の輸入免税が受けられる。ミャンマーでの資材調達が難しいため、この措置がないと外資は、操業は不可能。縫製品以外にも医療用針、デジカメのレンズ、自動車部品製造に利用されており、縫製品以外にも広がっている。

懸念は9月にも予定されている最低賃金がどの水準で決定されるか。

政府の国家最低賃金策定委員会は2015年6月29日に、法定最低賃金を全国一律で日額3,600チャット(約2.8ドル、約360円、換算レートは1ドル=1,267チャット、1円=10チャット、2015年8月17日)にすると発表した。地域や職種に関わりなく一律に1時間あたり450ks(約45円)で1日通常8時間労働として3,600チャットに定めている。 ただし、職員15人以下の家族経営などの小規模の仕事には適用されない。

当初、最低賃金決定委員会は、世帯の支出額の調査によって、労働者の最低賃金を日額3,000チャットにする提案をしていた。これに対して労働組合は5000チャットを求め、他方、縫製や靴製造など労働集約的な産業は「日額1,500チャットが限界」(ジェトロ通商弘報2015年5月22日)と反発していた。繊維業界では、労働者に対し、日給1500~2000チャット(約150円~200円)を支払っているといわれている。政府は、国内の企業や労働組合などの意見を聞いたうえで、正式に決めるという。

実際、面談した縫製工場幹部は、3,600チャットでは利益が出ないという不満を漏らしていた。中国経験が豊富な工場幹部によれば、ミャンマーの生産性はほぼ中国の2分の1程度であるという。中国の労働者と比べてミャンマーでは経験が不足しており、それが生産性の低さに影響している。また。気候面でミャンマーの方が暖かいことも少しは影響しているようである。ただし、ミャンマーの労働者は中国と比べて素直であるという。日額賃金を1500チャットと仮定すると月にドル建てで約36ドル、これが3,600チャットになれば85ドルとなる。これは、バングラデシュの縫製業の非熟練工の最低賃金(月額)68ドルを上回ってしまう。これ以上、賃金が所上昇すると経営も苦しくなり、中国のみならずバングラデシュと比べてミャンマーの割高感がでてくる。ただし、ミャンマーの次は、今のところまだ見つかっていないようである。

続々とオープンする自動車ショールーム

ミャンマーの自動車市場は、日本の中古車が市場の9割を占めているといわれるほどの日本車天国である。2012年5月に個人に対する自動車輸入が大幅緩和されて中古車の販売価格が大幅に値下がりし、2012年には日本からの乗用車輸入台数は9万3,000台に急増した。その勢いは、2014年にも続き、日本からの乗用車輸入台数は16万台に達した。日本のミャンマー向け輸出の実に7割が中古自動車となっている。

中古車販売の売れ行きは、今後の新車販売への期待感をもたらしている。ミャンマーにおける新車需要の拡大を見込んで、トヨタ、日産、マツダなどの日系メーカーはもとよりベンツ、BMW、ジャガー、シボレー等の欧米メーカー、韓国の現代、KIAもヤンゴン市内にショールームをオープンさせた。特に、BMWは、2014年11月にアジア最大のショールームを開業している。ヤンゴン市内でベンツやKIAの新車を見かけたが、中古市場から新車市場への転換期を迎えているようである。

新車市場の立ち上がりを睨んで、本格的な自動車整備・修理工場の新規設立が進んでいる。その走りが、マレーシアの財閥タンチョングループが立ち上げたE-Garageである。タンチョンは、タイやカンボジアの農村地帯でE-Garageを展開している。2013年7月にヤンゴンでは市内の中心にあるカマユ地区に第1号店を出した。E-Garageの第1号店には、日産自動車のショールームが併設されていた。

自動車の整備・修理ビジネスへの関心は、日本の中小企業にも及んでいる。今回のヤンゴン訪問で、ヤンゴン郊外で自動車整備・修理工場を立ちあげた日本企業と面談することができた。旅行業や中古車販売など手がけているヤンゴンの地場企業と合弁で整備工場を設立した。ヤンゴン市内の土地代はニューヨークより高く、郊外に拠点を構えた。ヤンゴンでの事業の立ち上げは、地場企業のサポートを受けても、計画通り事が運ばない。例えば、店内で使用する来客用の椅子、一つを調達しようとしても満足するものがなくどこで売っているのか皆目わからず、地場の人でも探し出すのに苦労したという。さらに、自動車整備に必要な機材の輸入でも迅速にことが進まない。整備工場の施工にあたっても、施工ミス等いろいろな問題を抱えた。

ミャンマーで自動車整備・修理サービスを始める上で、課題の一つは、技能工の確保である。タンチョンのE-Garageでは、ヤンゴン工科大学や高等専門学校から採用していたということであるが、マレーシアやカンボジアに派遣して現場を経験させて技能を磨く必要があると話していた。

今回面談した日本の自動車整備・修理工場のケースでは、6名のメカニックを採用していた。工業学校出身者が3人、地場の職業訓練学校出身者が3人。彼らの技能レベルは、新車を整備した経験がないことから、まだ、わからない。社内教育で一から訓練するとのことであった。

MBAブーム

ヤンゴンではMBAブームに沸いている。ヤンゴン経済大学のMBAコースには、70人の定員に700人が応募した。名門大学であること、授業料が割安であることで人気が高まっている。特に企業に就職している若手の間ではMBAでスキルアップをしたいという欲求が強いようである。

今回は私立大学のMIC(ミャンマーインペリアルカレッジ)を訪問した。MICはヤンゴンの私立大学で、経営系では有力な大学の1つ。英国の大学と提携して英語による国際標準のカリキュラムに基いた教育を実践している。新築の校舎は、スイスのジュネーブの高級住宅地でみられるようなヴィッラ(villa)風のパラッツォである。校舎に入るとホテルのロビーを思わせるレセプションがある。3階にはカフェテリア、4階はフットサルができる室内運動場があった。2階には仏壇が置かれている。MICのジェネラルマネージャーは、30代のドイツ人であった。

ミャンマー商工会議所や商務省傘下のTTI(Trade Training Institute)公的機関でも国際ビジネスコースを開設して、将来を担う企業の若手が熱心に学んでいる。

授業内容は、TTIが主催しているグローバル・ビジネスコースでは、国際貿易の理論、INCOTERMS、セールス・コンタクトの仕方、企業設立、外国投資法・ミャンマー市民投資法、輸出・輸入業の登記、輸出ライセンスの取り方、輸入ライセンスの取り方、貿易のIT化、米国食品医薬局(FDA)認可の取得、中小企業の貿易促進、株式市場、保険、ビジネストーク、原産地規則、通関書類の書き方、競争戦略、顧客に対する貿易サービス、出荷前検査、グローバルロジスティック、ビジネス関連の法律の基本、海外の貿易手続き(特にインドと中国)、経済発展論、標準化政策・テクニカルレギレーション、ミャンマー商工会議所による民間部門支援、フィールドツアー、外国為替取引、貿易関連の消費者保護法、ミャンマーの中小企業振興策、輸出種類の作成実務、市場調査、グローバルサプライチェーンとバリューチェーン、ビジネス倫理、税金、ビジネストーク、CSR(企業の社会的責任)、ASEAN諸国の輸出入手続き(特にタイとベトナム)というカリキュラムを組んでいる。主に民間企業のCEOや企業幹部を対象にしているため、授業は週3回、午前中(9:30~12:30)、6か月をワンタームとして3年間ですべての科目を終了する。最終試験に合格すれば、修了書がもらえる。

ミャンマーにおける国際化の動きは、こうした企業エリート層だけでなく、一般の人々の関心も呼んでいる。日本で技能実習生として応募するミャンマーの若者が増えているからである。2013年に第1期生を送り出した日系学校によれば、現在、約300人のミャンマーの若者が日本語の研修など3年間は日本の生活に耐えられるよう準備を進めている。応募しているミャンマー人は18から28歳。授業料は年間80万チャットと割高であるが、日本で3年間働き、300万円貯めることが目標であるという。3年後に帰国して、日本で身に付けた技能がミャンマーで事業活動に結びつくことが期待されている。

ミャンマーで事業活動を進める上での課題は、投資の認可、輸入手続きの不透明性等など数が多くある。中長期的な課題は、産業化に適応した人材や起業家の育成であろう。人材や起業家の育成では、芽が出てきているようである。