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フラッシュ367 |
2018年4月2日
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マクロン改革「強いフランス」「欧州の再生」の先行き
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田中 友義
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員 |
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エマヌエル・マクロン大統領は2017年5月14日、就任演説で「強いフランス」「欧州の再生」を目指し、構造改革への決意を力強く宣言した。同大統領は「選挙で分断が露呈した国民の団結をはかり、国の再生に全力を尽くす」「運命共同体である欧州やその価値観を守り、欧州の再活性化に取り組む」「世界と欧州は今以上に強いフランスを望んでいる」などと強調した(注1)。仏政治史上最年少39歳のニューリーダーは、大統領支持政党「共和国前進」が下院議会(国民議会)選挙で単独過半数の議席を獲得するなど盤石のスタートを切った。 その後、政治的「ハネムーン」といわれる100日(昨年8月21日)はとうに過ぎ、就任後1年になる2018年5月14日が一段と近づく。大統領就任後の諸改革の取り組み状況や先行きの課題などを追ってみる。 世論調査、不支持が支持を上回るマクロン大統領は大統領選公約の諸改革を急ぐも、フランス国民に痛みを強いる不人気な政策が先行している。資産税(富裕連帯税)廃止、法人税減税、社会保険料の事業者負担の軽減など、比較的裕福な人や企業を優遇する対策が実施される一方、解雇規制緩和を含む労働法改正や年金受給者向け増税などの対策が労働者階級と年配の有権者の間で不満を高め、支持を低下させている。 また、EU改革を推進するに当たって、フランスの立場を強めるうえで、順守できていない財政規律達成(財政赤字を対GDP比3%以内)を優先させなければならない。財政健全化目的の国防費削減や公的部門雇用者数削減も、軍部関係者や労組の間の反発を強めている。 マクロン大統領のどちらかというと、いささか強権的な取り組み姿勢や「怠け者にはくみしない」などと挑発的な発言を連発したことも反発を呼んで、支持率が大統領選挙直後の64%から、昨年9月以降40%台に急落、フィガロ・マガジンの世論調査によると、不支持が支持を上回る状況が続いている(注2)。 選挙後の高揚感が消えた今、マクロン大統領は支持基盤の中核をなす高学歴、高所得のリベラル派以外の層への支持を高めるのに苦慮している。ちなみに、フィガロの世論調査では、高学歴層は支持51%・不支持47%、また、高所得層は支持66%・不支持32%となっている。 昨年9月24日に実施された上院議会(元老院)選挙で、マクロン大統領が率いる中道新党共和国前進は改選前の29議席から28議席にとどまり、先の国民議会選挙での圧勝の勢いは続かなかった。マクロン大統領は、公約で議会議員定数の削減や多選制限などの国政改革を提案しているが、実現には下院のみならず上院の決議を伴う憲法改正が必要である。共和国前進は、下院で577議席のうち、309議席を占めるが、上院の28議席を合わせても337議席となり、憲法改正に必要な議席数(上下両院の5分の3の555議席以上が必要)が確保できず、国政改革が困難な状況になった。
表1 マクロン政権の支持率の推移(%)
(出所)BAROMÈTRE FIGARO POLITIQUE MAGAZINE(Mars2018)
国内改革、財政再建・労働市場活性化を先行マクロン大統領はフランスの財政赤字をEUの安定・成長協定の国内総生産(GDP)比3%の水準まで減らす決意である。ユーロ圏19か国の中で未達成国はスペインとフランスの2か国のみである。マクロン大統領がEU改革を進めるためにも財政健全化の取り組みは最優先課題である。 2018年財政健全化策として、財政赤字対GDP比を2.7%に抑えることを目指す。法人税軽減、資産税廃止など200億ユーロの減税措置を賄うために、社会保険料引き上げ、社会保障給付の見直しなど、困難な歳出削減がさらに行われる。マクロン財政改革では、大統領任期5年以内に、500億ユーロの景気刺激策を実施する一方、600億ユーロの歳出削減をする方針を示している。12万人の公務員削減や社会保障給付の見直し、地方交付金削減が予定されており、これを警戒する公務員や地方議員などの反発は根強い。 エドアール・フィリップ首相は2017年9月11日、衰退するフランス製造業の再生をはかるための政策を発表した(注3)。法人税率を現行の33.3%から2022年までに段階的に25%まで引き下げるというものである(2015年EU平均:25.6%)。また、社会保険料の事業者負担の軽減策について、2019年から年間で約210億ユーロ軽減される見通しである。 この企業投資活性化策は、マクロン大統領が、フランスの製造業再生プログラムの一環として選挙公約に掲げていたものである。フランスの製造業の衰退が「生産設備投資、イノベーション、職業訓練」という3つの不足が原因で引き起こされたとして、製造業の高付加価値化に向けた企業投資拡大の必要性を主張していたものである。 さらに、個人投資家の投資意欲を刺激し、貯蓄から投資への動きを支援するため、資産総額130万ユーロ超の高額所得層に課税される「富裕連帯税(ISF)」を2018年から廃止する。 フランスの世論の反発を掻き立てた労働市場改革法(オルドナンス:政府の委任立法権限の基づく法律)が2017年9月23日、施行された(注4)。マクロン大統領の目標は、なかなか下がらない現在10%程度の高失業率を2022年までに7%に引き下げ、国内経済を勢いづけることである。労働市場改革は長年、フランスの懸案であった。歴代の政権は事実上すべて、労働法を改正しようとしてきたが、CGT(仏労働総同盟)などの労働組合の強い反対によって、失敗に終わっている。政権にとって労働市場改革は鬼門といえるだけに、マクロン大統領としての手腕が問われる。 マクロン改革は、労働市場の柔軟性を高めることを狙っている。企業による従業員の解雇を容易にする。具体的には、解雇時に企業が払う罰金を「就業期間が30年で、給与20か月分」などと新たに上限を設ける。企業にとっては解雇のリスク上限がつかめて経営判断を下しやすい。多国籍企業もフランス国内の経営状況だけを理由に、人員整理を労働者側に提案できるようになる。中小企業でも、従業員との話し合いで労働条件を変えられるようにするというものである。 マクロン大統領は、「改革を進め、ドイツとの信頼関係を強めたい」と繰り返し述べている。フランスが経済再生に成功し、一強のドイツ経済と2つの経済大国が連携を強めることで、EU改革を強力に進めることできるし、地球温暖化、難民対策など世界的課題での発言力も強まる。
表2 マクロン大統領の国内改革案
(出所)筆者作成による。
EU改革で主導権、6月合意を目指すマクロン大統領はドイツ連邦議会選挙結果が判明した2017年9月26日、パリのソルボンヌ大学で演説をし、欧州再建のための「主権を有する、結束した、民主的な欧州のためのイニシアティブ」を提案した(注5)。マクロン大統領は、現在の欧州は「弱すぎ、遅すぎ、非効率すぎる」として、EU改革に向けて、EU加盟国が防衛や移民などの問題で、より緊密に連携するとともに、ユーロ圏の共通予算を創設するように呼び掛けた。 アンゲラ・メルケル独首相が率いる与党・キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が、単独過半数を下回る議席数に止まり、右翼ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」(AfD)以外の党との連立協議入りが必至というタイミングを見計らって、EU改革の主導権を握ろうとの狙いがあった。 マクロン大統領は、この演説の中で、難民や国境警備、法人税、情報共有、防衛、金融安定を含む広範な問題でEU加盟国間の連携を深化させる必要があると指摘し、欧州の再生が将来を保障する唯一の道筋だと訴えた。そして、2018年夏(6月頃)までに合意することを提案している。 マクロン大統領は、EU統合深化に共に主導するドイツについて、「ビジネス法から倒産法にいたるまで、企業に同じルールを適用することで、2024年までに市場を完全に統合する。フランスは、この新しい共通の野心を盛り込むために、エリゼ条約(仏独友好条約)の改正に着手する」と提案している。また、メルケル首相に対しては、選挙後の連立政権樹立に向けた協議でフランスの提案を考慮に入れることを望むと語った。 これに対して、メルケル首相は昨年9月28日、エストニアの首都タリンで開催されたEU非公式首脳会議直前のマクロン大統領との会談で、同大統領が提唱する野心的なEU改革案を称賛し、EUの将来を見据えた独仏の強固な協力関係の基礎になる可能性があるとの見方を示した。また、「詳細を詰める必要があるが、欧州はじっとしているわけにはいかず、発展を続ける必要があると強く認識している」と強調した(注6)。
表3 マクロン大統領のEU改革案
(出所)筆者作成による。
「欧州の再生」に向けて、仏独連携の強化欧州のリーダーは誰か。2017年9月のドイツの連邦議会選挙までは、4選への道を着実に歩み続けていたメルケル首相であった。ところが、メルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党と勝利したものの、得票数と議席数を大幅に減らし、過半数を下回る議会勢力に陥った。その後、自由民主党(FDP)、緑の党との連立交渉が失敗し、総選挙前の社会民主党(SPD)との大連立政権発足まで6か月近くも政治空白が続いた。この間、メルケル首相は、姉妹政党CSUや第2党のSPDとの交渉で大きな譲歩をせざるを得なかったことから、メルケル首相の影響力は弱まったとみられている。 他方、マクロン大統領は2017年9月26日にEU改革案を発表し、一躍脚光を浴びた。「過去10年間、EUという舞台でバックコーラスに甘んじてきたフランスが再び中央に立てるか否かは同氏の欧州政策次第といえるし、長年、不可能と思われてきたフランス国内改革の成否にもかかっている」(注7)。 2017年12月15日のユーロ圏首脳会議でEU改革について議論が行われたが、マクロン改革の目玉とも見られていたユーロ圏共通予算やユーロ圏財務相の設置などは時期尚早だと判断された。欧州版IMFの創設や銀行同盟の完成の2分野を最優先することで、2018年6月のユーロ圏首脳会議で合意を目指すことになった。 メルケル首相は2018年3月16日、政権4選決定後の最初の訪問先としてマクロン大統領を選ぶことで、独仏主導でEU改革を進める姿勢を示した。マクロン大統領は、EU改革について「ユーロ圏や移民政策、防衛政策、貿易、研究、教育などの分野で、明確で野心的な行程表を2018年6月までに提示する」と述べた。メルケル首相も「独仏には共通の目標があり、それを成し遂げることができると確信している」と強調した。 マクロン大統領は、幅広いEU改革案を提示し、欧州統合推進に積極的である。しかし、ドイツの財布に頼る構図に変わらないなら、説得力に欠けるといえよう。政治力の低下が懸念されるメルケル首相は、そう簡単に手を携えてはくれないだろう。 フランスの財政赤字はEUの基準(対GDP比3%)を超える。失業率も10%近い。低成長が続くなど、ドイツとの格差は広がっている。脆弱過ぎるフランス経済の立て直しが先決である。経済再生のために、減税などの税制改革や規制緩和を進めようとしているものの、フランス国民の不満がくすぶる。仏独連携強化ができるかどうかの成否は、反EU のうねりを抑えながら、改革を進め、強いフランス経済を築けるかどうかにかかっている。 フランスが「EUの力の源泉ではなく経済の安定を脅かす存在であり続ければ、大統領はドイツの首相の隣に立つ脇役にしかなれない」(注8)。
表4 フランス・ドイツの主要経済指標
(注)上段:フランス 下段:ドイツ
注・参考資料
1)Discours d’investiture du président de la République(15Mars2017)(http://www.elysee.fr)
2)BAROMÈTRE POLITIQUE FIGARO MAGAZINE(Mars2018)(http://www.lefigaro.fr/politique)
3)法人税減税・社会保険料負担軽減措置など詳細については、ジェトロ「世界のビジネスニュース)(フランス)(2017/09/22)参照のこと。
4)労働市場改革法の経緯や改正の主要点については、ジェトロ「世界のビジネスニュース)(フランス)(2017/10/16,2017/10/17)参照のこと。
5)Initiative pour l’Europe “Une Europe souveraine,unie,démocratique” (Emmanuel Macron,26septembre2017)(http://www.elysee.fr)
6)Reuters(2017/09/29)
7) The Economist(2017/09/30)
8)ibid
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