フラッシュ370
2018年4月20日
 

第四次メルケル政権の成立とその課題

 
新井 俊三
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

総選挙後5ヶ月以上経って、やっと第四次メルケル政権が誕生した。

2017年9月24日に連邦議会選挙が実施された結果、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、社会民主党(SPD)という2大政党が議席を大幅に減らし、ポピュリズム政党、ドイツのための選択肢(AfD)が第3党として始めて議会に進出、自由民主党(FDP)が復権し、多党化が進んだ。当初、SPDが連立政権入りを拒否したため、CDU/CSUとFDP、緑の党の3党で連立協議を行ったが、難民の受入れ、環境政策などの意見の違いからFDPが連立交渉から離脱し、協議は失敗に終わった。

再選挙では、政治的空白が長期化する恐れなどもあり、シュタインマイヤー大統領がSPDに呼びかけ、SPDとCDU/CSUとの連立協議がスタートした。連立交渉は何とか妥結し、SPDは党員投票による決定を行い、3月4日に賛成が発表された。3月14日に連邦議会での宣誓が行われ、第四次メルケル政権が誕生した。

連立政権成立まで難航し、政権基盤は弱体化しており、困難な課題をかかえていることからメルケル政権の前途は多難である。

選挙結果

9月24日に連邦議会選挙が実施された。結果は、従来連立を組んでいたCDU/CSUとSPDがいずれも得票を減らし、AfDが第3党としてはじめて連邦議会に進出、前回姿を消したFDPは10.7%を獲得し復帰、緑の党、左派党はほぼ前回並みの得票で議席を確保した。6党(CDUの姉妹党で、バイエルン州だけの政党であるCSUを別の党とみなせば7党)が議会に進出し、多党化時代を迎えた。CDU/CSUとSPDの2大政党の得票率をあわせても53.4%しかなく、中道政党の退潮が目立った。

選挙は小選挙区比例代表並立制で実施された。有権者は2票を持ち、小選挙区での立候補者へ1票を投じるとともに、もう1票は比例区で政党を選択する。当選者はまず比例区での得票で政党別に割り振るが、小選挙区での直接当選者は優先的に当選者となる。したがって、選挙区によっては比例で決定された当選者よりも多くの当選者が出てくる場合もあり、いわゆる超過議席が生じることもある。少数政党の乱立を防ぐために、比例で5%以上、小選挙区で3つの当選者が出ない政党は議会に進出できないという制度も導入されている。

ところが、超過議席が生じることは平等の原則に反するという訴えが憲法裁判所に対してなされ、それが認められたため、2013年の選挙から、それを修正するための調整議席も設けられた(注1)。

その結果、制度的には小選挙区議席299、比例区議席299、合計598と定められた議席数が、調整の結果709(超過議席46、調整議席65)と大幅に増加してしまった。超過議席だけでは小選挙区で強さを発揮できる大政党に有利であったが、調整議席が設けられた結果、単純な比例選挙制とほぼ変わらない結果となったともいえよう。5%条項があるとはいえ、制度的には多党化を促進することとなるかもしれない。

比例代表制による選挙は多党化をもたらし、多党化は政権の樹立を困難にする。隣国であるオランダでは最近の選挙で、政権ができるまでに7か月かかっている。

 

連邦議会選挙結果 2017年9月24日

 

連立政権与党への批判票が増加

選挙結果から見ると、連立を組んでいた2大政党が得票率を減らし、それがAfDとFDPへと流れたと見ることができる。好調な景気が続き、失業者が減少しつつあるにもかかわらず、政権与党への批判票が多かった、といえる。批判の矛先は第一に大量の難民を受け入れたことに向けられた。人道上は国際的にも評価され、国内でも受入れに協力的なボランティアが多数いるにもかかわらず、大量の難民はさまざまな軋轢をもたらした。

また、これはドイツだけに限ったことではないが、格差の拡大、グローバル化への不安、緊縮財政により政治から忘れられたという有権者の不満もあった。政策を積極的に評価されたわけではなく、批判票を多く集めたというのがAfD、FDPの躍進の理由であろう。

ジャマイカ連立交渉の破綻から大連立へ

第1党の座を確保したCDU/CSUであったが、SPDは選挙直後に政権入りを拒否し、旧東独の社会主義統一党(SED)の流れをくむ左派党およびポピュリズム政党であるAfDとは連立を組む意向もないため、過半数確保という意味からも、FDPと緑の党と連立を組むという選択しかなかった。

ドイツでは各政党にシンボルカラーがあり、CDU/CSUが黒、FDPが黄色、緑の党が緑で、この3色を使用した国旗がジャマイカのものであるため、3党連立はジャマイカと呼ばれている。この3党の連立交渉は、特に難民政策および石炭火力発電所の削減のテンポ、自動車の内燃エンジンの禁止などの環境政策でFDPと緑の党の違いが大きく、FDPが連立交渉の離脱を宣言することにより、決裂した。

残された道は再選挙か、少数内閣かであったが、再選挙でも安定した政権ができるかどうかが不安視され、政治空白が長期化するという恐れもあったため、SPD出身のシュタインマイヤー大統領がSPDを説得し、大連立に向けて協議を開始することとなった。

連立協定

SPDが連立協議に入ることは党大会で決定されたが、その過程では特に党の青年部からの反対があった。選挙で敗れ、そのうえ大連立政権入りすれば党の独自性がさらに失われる恐れがあるため、野党に留まり、福祉の充実、公正さをさらに追及し、左に舵を切ることにより党の再生を図るべき、という主張である。

合意が成立した連立協定は13章177ページという分量であるが、主な合意事項は、まずヨーロッパ政策では、長期的な経済の安定と格差是正のため、投資的財源を増加させることとなった。シュルツSPD党首(当時)はこれを「緊縮策の強要(Spardiktat)の終わり」と評価している。欧州安定メカニズム(ESM)についてはこれを欧州通貨基金(EMF)とすることでも合意。争点となっていた私的健康保険と公的健康保険の一本化についてはCDU/CSUが反対し、そのかわり、両保険制度下で差がある医師の報酬について、委員会を設置し、検討することとなった。研究開発費については、2025年までにGDP比3.5%とすることで一致している。住宅については社会住宅の建設と住宅補助金により、今後4年間で150万戸の建設を目指す。難民およびその家族については、年間の受入れ上限を22万人とすることとなった(注2)。

連立協議では閣僚ポストの配分も交渉の対象となる。注目されたのは連邦議会議長に転出したショイブレ財務相の後任に誰がなるかということであったが、SPDのハンブルグ市長であったショルツの就任が決まった。ギリシャ支援の際には、緊縮財政を強いて、ギリシャの一時ユーロ離脱さえ提案したショイブレだが、財務相の交代によりユーロ政策が変わるのかどうか注目される。CDUの右派のホープであり、メルケル批判を行っているシュパーンが保健相として入閣が決まった。また、バイエルン州の地域政党であるCSUのゼーホーファー党首は内相として入閣することとなっている。

一時は下野を選択し、その後方針を変更したSPDは党内に混乱を招いている。責任を取ってシュルツ党首は辞任を表明、元欧州議会議長という経験から外相への就任を希望していたが、現職のガブリエル外相の抵抗にあい、それも断念した。外相にはマアス法相(SPD)が転出する。

発表されて注目を浴びた閣僚人事は、フランツィスカ・ギファイ家族相(SPD)である。彼女は市よりさらに小さな行政単位の長であり、中央での政治経験もなかった。前職はベルリン市のノイケルン区の区長だが、ベルリンに12ある区のうち、約33万の人口をかかえるノイケルン区は、住民の4分の1が生活保護であるハルツⅣの受給者であり、移民の出身者も多い。こうした地域の区長としての経験を連邦レベルで生かすことが期待されている(注3)。

連立交渉において、財務相、予算規模が大きい労働・社会相、また姉妹党とはいえCSUに譲った内相など主要閣僚を失ったことへの批判がCDU内部からもでている。また、連立協定をAIで調査すると、その文章の70%がSPDの文書に見られるものだという(注4)。 メルケルは首相ポストを維持するために譲歩しすぎたのではないかとも言われている。一方政権をまとめあげたメルケルの手腕を評価する声もあり、組閣の評価は今後の政権運営をみてみないとわからない。

SPDでは合意された連立協定を約46万人いるという党員投票にかけた。郵送による投票結果が3月4日発表され、66%の賛成で承認された。これで連立合意が最終的に確定し、3月14日連邦議会でメルケルが宣誓し、第四次メルケル政権が発足した。

メルケル新政権の課題

メルケル首相は3月21日、施政方針演説を行った(注5)。冒頭、選挙から組閣まで171日かかったことに言及し、このような困難は、好調な経済、低失業率などにもかかわらず、社会が大きく変わりつつあり、国民が将来に不安を持ったことを意味するとした。なかでも難民の大量流入が大きな課題として、国内を分裂させてしまったとし、難民に関する現状分析、対策などを紹介している。

国民生活については、家族への支援、保育園の充実、住宅建設の促進、介護人の増加などについて発言。経済については、ノキア衰退の例を取り上げて国際競争の激しさを紹介し、デジタル時代に米国、アジアの優位に対抗する必要を強調し、教育を充実させるとともに、研究開発費をGDP比3.5%まで増額することを約束した。

問題となっているディーゼル車については、連邦政府の課題として取り組み、環境と自動車産業での雇用の安定などを考慮しつつ、ディーゼル車を購入した消費者がバカをみないような対策を取るとした。一部の都市で認められたディーゼル車の規制を全国レベルのものにすることは拒否している。

EUについてはその重要性を強調し、ユーロ圏については長期的な安定と銀行同盟、ESMのEMFへの転換などについて議論する時期に来ている、とした。

第四次メルケル政権の課題として第1に挙げられるべきは難民対策であろう。2015年のような大量の難民の流入は起こらないであろうが、これからも難民は発生するであろうから、EU諸国と協力しつつ流入の管理が重要である。またすでに受け入れた難民のドイツ社会への統合も大きな課題である。ドイツ語および市民社会に必要な知識を教え、職業教育を施し、ドイツでの社会生活をおくれるようにする。テロ対策ももちろん必要である。選挙でAfDが議会に初めて進出し、野党第1党となったのも、難民の大量受け入れが原因であることから、CDUとして党勢を巻き返し、次回の選挙で奪われた議席を回復するためにも重要な課題である。

EU政策、ユーロ政策については、ショイブレ財務相が交代したこともあり、政策の変化が注目されている。フランスのマクロン大統領はEMFの設立、共通の財務相などを提案し改革に熱心であるが、ドイツとしても6月の欧州首脳会議に向けて、フランスと協力して改革案を準備することとなっている。

政権が成立するまでに5か月以上かかったということは、政権与党の一角を担っていたCDUの退潮、AfDの躍進の結果であるが、それも最大の原因は難民の大量受け入れであった。それを決断したのはメルケル首相であり、準備が不十分であり、影響を甘く見積もっていたと反省はしているものの、その責任は大きい。党内からも批判の声があがり、右派のホープを閣内に取り込まざるを得なかったし、従来から難民受け入れに批判的であったCSUのゼーホーファー党首を内相に起用している。指導力の低下が懸念される。

 

注1:議席の配分は、第2票である比例票の得票率によって行われるのが原則であるが、第1票の小選挙区での当選者は優先して当選者とみなされるため、定数より多い当選者が出る選挙区が生じる。これが超過議席である。超過議席が生じたことにより、比例区の得票率に応じて配分されるという原則が崩れるため、今度は原則に沿うよう、さらに議席を増やし調整を行っている。これが調整議席である。詳しくは以下を参照。
https://www.bundeswahlleiter.de/dam/jcr/992a9841-b869-49a6-b7b9-0b1366bf2589/btw17_erl_sitzzuteilung.pdf
注2:”Keine Zeit für 177 Seiten? Worauf sich SPD und Union verständigt haben”,Zeitオンライン、7.Feb.2018
連立協定全文はCDUまたはSPDのウェブサイトから入手可能。CDUでは;https://www.cdu.de/koalitionsvertrag-2018
注3:“Diese Neuköllnerin ist bald überall” , Zeitオンライン 8. März 2018
注4:“Koalitionsvertrag zu 70 Prozent aus SPD Feder” Frankfuruter Allgemeine Zeitung オンライン 2.02.2018