フラッシュ409
2018年11月8日
 

アメリカ中間選挙後の政治経済動向

 
木村 誠
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

 

11月6日に行われたアメリカの中間選挙は、事前の予想通り、連邦上院は共和党が過半数を維持する一方、下院は民主党が2010年以来、8年ぶりに過半数を奪還した。この結果、上院と下院で異なる政党が多数を占める「ねじれ議会」(split Congress)となった。本稿では、中間選挙後のアメリカの政治経済動向を展望する。(本稿は11月7日に執筆)

<歴代大統領は中間選挙で軒並み敗北>

大統領選挙の2年後に行われる中間選挙、とりわけ全議席が改選される下院選挙は、大統領1期目の2年間の業績に対する「通信簿」(score card)といわれている。アイゼンハウアー大統領(共和)以降、この通信簿で及第点をとった大統領はジョージ・W・ブッシュ(共和)のみで、当時共和党は下院で8議席(上院で2議席)増やした。これに対してオバマ(民主)は63議席減、クリントン(民主)は52議席減と大敗し、レーガン(共和)は26議席減、アイゼンハウアーは18議席減となった。(表)

 

それにもかかわらずオバマ、クリントン、レーガン、アイゼンハウアーは中間選挙の2年後の大統領選挙で、いずれも再選されている。2期目を目指して落選したのは、フォード、カーター、(父)ブッシュの3人である。今回の中間選挙での民主党の躍進を「blue wave」とする報道があるが、下院で共和党は議席を27(日本時間11月7日時点)減らしたものの、上院では3議席増えている。中間選挙で所属政党の上院議席数を3議席増やしたのはケネディ以来となる。「blue wave」は「red wall」にやや阻まれたとみるほうがよく、今回の中間選挙結果の2年後の大統領選挙への影響は大きくないといえよう(注)。

<税制改革2.0法案、医療保険制度の見直しは暗礁に>

しかし、上下両院が「ねじれ議会」となることで、トランプ政権の政策運営が難しくなることは否定できない。アメリカでは法案提出権は上下両院議員のみであるが、付託された法案をどう審議するかは、常設の委員会の委員長およびその傘下の小委員会の委員長が決める。今回下院の多数派が民主党に変わることで、これら委員長ポストはすべて民主党に変わる。従って今後はトランプ色が強い予算や法案が下院を通りにくくなる。

焦点となる1点目は税制改革2.0法案である。トランプ大統領は、2017年末成立した税制改革法(TCJA:Tax Cuts and Jobs Act)をさらに進め、中間所得層(個人と一部事業主)の10%減税などを内容とするTCJA2.0の成立を目指している。中間選挙前には、ホワイトハウスと議会共和党は関連する法案の成立を急ぐとした共同声明を発表していた。民主党は、共和党が進める減税第2弾には反対している。

2点目は、医療保険制度改革法(ACA いわゆるオバマケア)の見直しである。トランプ大統領は2017年就任後最初の大統領行政命令(Executive Order)でオバマケア廃止を掲げたように、オバマケア見直しはトランプ大統領の最優先課題である。しかし廃止法案成立には民主党議員も含む上院の2/3の賛成がないと不可能であったため、これまで実現できていない。他方、今回民主党が下院多数を占めたことで、医療保険制度改革法の適用範囲の拡大などの期待が高まっていくとみられる。しかし、上院は共和党が多数を占めており、現行の医療改革法の見直しは進みそうにもない。

3点目は連邦政府機関閉鎖の回避である。アメリカでは2019年度(2018年10月〜2019年9月)の予算については、国防、労働・健康福祉、教育関連などの通年予算は今年9月に成立しているが、通年予算が成立していない一部政府機関の資金繰りは、12月7日までの暫定予算で賄っている。12月7日まで、第115連邦議会のレームダック会期が16~20日間残っているが、それまでに必要な法案を成立させておかないと、一部連邦政府機関が閉鎖されることになる。トランプ大統領は、かねてより、「民主党は、減税の偉大な成功を弱めるために政府閉鎖を望んでいる」とツイートしている。

<インフラ対策では民主党と連携も>

トランプ大統領は、中間選挙の結果を受けて、11月7日に議会民主党との連携を呼び掛けている。また民主党の下院トップであるペロシ院内総務も、今後は共和党と協力して超党派の課題に取り組んでいくと表明した。この超党派で取り組む可能性が高いのはインフラ対策である。民主党はトランプ大統領が当初掲げた1兆ドル(約113兆円)規模と同様の(道路や鉄道を中心とする)インフラ支出拡大法案を民主党議会指導部が提出する可能性が高い。インフラ拡大はトランプ大統領も積極的で、なんらかのかたちで民主党案を受け入れる余地がある。この場合連邦予算上限の引き上げ、連邦債務の拡大につながる可能性がある。民主党はインフラ支出拡大のための財源確保として法人税の25%への引き上げ、富裕層を対象とする所得税の引き上げを企図しているが、この案では共和党は乗ってこない。他方、共和党の一部議員からはインフラ支出拡大の財源として、連邦ガソリン税、連邦ディーゼル税の引き上げが提案されている。財源上の課題は残るが、仮にインフラ支出拡大で与野党の合意ができれば、道路や鉄道の補修・近代化に向けて、素材産業も含め一定の波及効果が期待できる。

<10年債利回りは低下し、イールドカーブはフラット化>

中間選挙の結果、経済・財政政策が手詰まりとなると、成長に与える影響は追い風(tailwind)から中立的(neutral)となる。金融市場では10年債利回りが下落し、2年債の利回りとのスプレッドは縮小、イールドカーブはフラット化していくと見られている。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)が引き締めを続ける一方で、モデレートな成長と抑制されたインフレが続くと、長期債利回りの上昇を抑えていくためだ。しかし、来年以降もイールドカーブがフラット化し、仮に長短金利が逆転に向かう場合は景気後退のシグナルとなるので要注意だ。

また「ねじれ議会」がドル安を進めるとの見方もある。しかし、金融当局が利上げを休止する可能性は低く、ここまでの流れであるドル高が中間選挙結果によって一変する可能性は低いとみる市場関係者が多い、中間選挙の結果が伝えられる中で、株価やドル相場が大きく上下に変動したが、今後はファンダメンタルズや、対中通商政策をにらむ展開に回帰すると思われる。

 

(注)
下院民主党が多数を占めたことで、下院が大統領弾劾を発議できることになる。下院は過半数の同意により訴追を行うが、それに基づき弾劾裁判を行うのは上院。大統領の弾劾裁判は、最高裁長官を議長として行われるが、大統領を罷免するためには、上院の3分の2以上の同意が必要なため、共和党優位の現在の上院では大統領を罷免できない。