フラッシュ441
2019年11月11日
 

ITIタイ研究会報告(5)
タイ・ラオス第4メコン友好橋の開通と南北経済回廊の経済効果
~地元からは恨み節~

 
藤村 学
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
青山学院大学 教授

 

タイ・チェンライ県のチェンコンとラオス・ボケオ県のフェイサイを結ぶ第4メコン友好橋(全長480メートル)が開通したのは2013年12月。タイ側はタイ政府が、ラオス側は中国がそれぞれ折半による援助で建設された。タイ側はクルントン・エンジニアリング社、ラオス側は中鉄五局が工事を担当した。開門時間は6:30~22:00。橋の横断は、チェンコン・イミグレーションから国際バスでほんの5分程度の距離だ。

 

チェンライ商工会議所前会頭は、第4メコン友好橋によって中国とタイを結ぶ南北経済回廊の陸路が開通したことによる、タイの地場経済に与えた経済効果は、少なくとも地場の中小貿易業者、輸送業者、サービス業者にとっては純マイナス、むしろ中国の貿易業者に大きなプラス、タイの一部農家にとっては若干のプラスいったところではないか、としていた。実際はどうなのか。現地を視察し、関係者からのヒアリングをもとに、青山学院大学・藤村教授に評価していただいた。(聞き手・大木博巳)

Q. 第4メコン友好橋の開通で経済的な恩恵を期待していた地元のチェンコンでは、恨み節に近い声が上がっていました。チェンセン~チェンコン間のボート業者やゲストハウスなどの観光産業は、閑古鳥が鳴いていたようでした。

-現地の関係者の話を聞いたところでは、橋ができる前は外国人観光客(以前は船で渡ってくるバックパッカーが中心だったと推測)がチェンコンに宿泊し、地元観光産業にお金が落ちていた。ところが、現在は橋のおかげで移動のスピードが上がり、観光客がチェンコンを素通りしてしまい、地元にお金が落ちなくなった、という声が多いようでした。

国境通過のC.I.Q.機能が橋へ移ってしまったため、ボートによる往来をベースに商売をしていたボート業者は、マイナスの影響を受けたということです。今回チェンコン港を視察した限りでは、荷動きがなく静かな様子でした。

また、中国の地方都市とチェンマイやチェンライを結ぶ直行便が増えたので、中国人観光客も陸路から空路へ奪われ、チェンコンの観光業者にとって競争が厳しいようです。

 

Q.地元のチェンコンの貿易業者は、新規参入が起こり、競争が激しくなったと言っていました。

-チェンコンで建設資材卸売会社を経営するチェンライ県商工会議所チェンコン代表の女性社長によると、友好橋完成によって、チェンコン港を利用するメコン川貿易は、300t級以下の船舶に制限されたということです。第4メコン友好橋が完成したころから、チェンコンには運送会社が増え、陸路輸送が増えた。

架橋により、物資がノンカイ方面からこちらにも回るようになり、またラオス側にも新しい貿易会社が増え、一般にチェンコンの貿易業者にとっての「地の利」が減り、競争が厳しくなった。

チェンコンの業者は価格決定力を失い、取引マージンが下落した。以前なら1バーツのマージンがあったところでも、0.5バーツへとマージンが半減し、一方で法人税率が上がり、商売は厳しいとのことです。

Q. 第4友好橋の完成を機に地価上昇を見込んでタイ側、ラオス側ともに投機的動きや将来を見込んだ先行投資が起きましたが、あてが外れたようです。

-チェンコンから約15km南のチェンライ方向、Wiang Kaenあたりに、IBISホテル、博物館、動物園、工業団地などを誘致する計画があったが、誘致は進んでいないそうです。

橋を渡ったところのラオスのフェイサイ側でも先行投資が多くありましたが、今のところ勇み足の印象です。国境ゲートに向かって左手の丘に建っている派手な金色のM Bokeo Hotelは5年半前にも見かけました。今回そちらへ立ち寄り、フロントで聞いたところ、韓国の「AEC」という企業による投資で、韓国の団体ツアー客を主にターゲットとして開業し、9年経つそうです。橋が開通する3年前から先行投資したものですが、視察時に宿泊客の気配はなく、ゴーストホテルのようでした。

橋とフェイサイの町は10kmほど離れているので観光立地としては不便です。ホテルの敷地内の眺望がよさそうな別棟がありますが、工事を始めて途中で投げ出した廃墟でした。宿泊客需要を見誤って拡張を諦めたようです。その棟の2階へ登ると、国境ゲートの手前の空き地に、工事途中のまま放置されたカジノ施設が数件見えました。


 

Q.第4友好橋を往来するトラックや人の動きはいかがですか。

-ラオスのイミグレの話では、季節性がありますが、この国境を通るトラックは1日平均100~150台で、中国からタイへ運ばれる果物の輸送が多いとのことです。ボーダーパスを持つラオス人の通過は1日平均50人程度。主な目的はタイ側でのショッピングだという。ただし、ボーダーパス利用で持って帰れる携帯荷物には制限があるので、大量の荷物を持ち帰るには、長期滞在を前提とするパスポート利用のほうが有利だとのことです。乗用車の通過は1日に50台未満と少ないそうです。

 

Q.中国のトラックもタイのトラックも(2国間MOUによって)ラオスを走れるとのことですが、中国のトラックを見かけましたか。

-フェイサイ付近では思ったより中国のトラックをあまり見かけませんでした。この国境を通る中国の貿易品目は農産産が中心で、水運が多いためだと思います。一方、3号線沿線では、より中国国境に近いルアンナムタあたりまで行くと中国のトラックが増えます。国境に近いほど中国人商人やビジネスマンの居住が増えており、マーケットにも中国製の日用品が溢れています。

Q. 中国からの乗用車の乗り入れは、タイ側の規制措置によって減ったとのことでした。

-橋の完成によって、3年前までは中国人観光客が陸路を自家用車で月平均4,000台規模で押し寄せ、中国正月ともなると3~4万台が押し寄せ、タイ側は大混乱となったとのことです。

これに対し、タイ当局が、自家用車で越境する中国人渡航者に対し、1か月前までに申請すること、タイで運転する前に半日間の研修を受けること、自動車事故保険に入ることなどを義務付けた結果、中国人観光客の自家用車族はタイを敬遠して、ラオスのルアンパバンやビエンチャン方向へ転換したようです。

Q,チェンコン税関を通過する貨物は?

-チェンコン税関でのヒアリングによれば、この税関経由で中国へ輸出されるのはドリアン、マンゴー、ココナツ、ゴムなどの農産品で毎年増加しているそうです。輸出額が輸入額の3倍ほどあるとのことです。中国からの輸入品はリンゴ、桃、花(チューリップなど)など。中国の工業製品はここではなく主にレムチャバン港から入ってきたものが流通しているようです。ジェトロバンク事務所作成情報によれば、チェンコン税関の輸出総額のうち、中国向けが55%、ラオス向けが44%、ミャンマー向けが1%。一方、輸入総額のうち、中国が94%、ラオスが6%、ミャンマーが0%(2017年データ)です。(下表参照)

 

Q. チェンコン税関では海賊版やコピー商品の流入への対応策をとっているとか。

-ゴールデントライアングル地帯を通って中国製の海賊版やコピー商品が流入するのを防ぐため、税関スタッフをバンコク関税局本部の研修へ、年間7回、7人ほどずつ派遣しているそうです。コピー商品で被害を受けているブランドメーカー自身がここへ社員を派遣して研修活動を行うこともあるとのことです。メコン地域の陸路の連結性が向上すると、域内貿易・物流が活発化すると同時に、違法物資の流通も容易になります。日本ブランドの製品はコピーのターゲットになりやすいですから、各国地方税関では日本の官民もこうした対策に協力できるところはすべきだと思います。

Q チェンコンの発展戦略は、中国、ラオス、タイの3か国間の物流ハブとなることと聞きました。その可能性はいかがでしょうか?

-中央政府もその方向で後押ししていると聞きました。チェンライ空港の拡張整備を支援するほか、陸路ではOSSセンター建設がその発展戦略の一環です。

第4友好橋の手前に、One Stop Service (OSS) センターを建設中で、これまでC.I.Q.の手続きを行う場所がバラバラだったところ、新しいOSSセンターを中心に、「(国内)最大の貨物積み替え拠点biggest transit areaづくりを目指す」という戦略だそうです。同建設地を見に行きましたが、敷地面積は正確にわかりませんが、かなり広く、これが完成したら確かに大きな物流ハブになる可能性はありそうです。

(ITIタイ研究会は公益財団法人JKAの補助事業)