フラッシュ457
2020年3月27日
 

ITIタイ研究会報告(10)
タイ経済における中国の影響~洪水のように押し寄せてくる中国果物と仲買人~

 
Trin Aiyara(トゥリン・アイヤラ)
ワライラック大学政治法律学部講師

 

中国とタイとの農産品貿易は一連の自由貿易協定によって大きく拡大した。その一例が青果の輸出である。国連商品貿易統計データベース(2019年)によると、タイから中国への野菜の輸出額は、2000年の約420万米ドルから2005年には2億9,600万米ドルへと尋常ではない急増を示した。タイから中国への青果の輸出額も、2000年の約2,200万米ドルから2005年には約1億米ドルへと急増している。同様に、中国からタイへの青果の輸入額は、2000年の約2,900万米ドルから2005年には1億2,200万米ドルへと上昇した。中国―タイ間の青果貿易は、農産物の関税の自由化が一因と考えられる。2003年6月18日、中国とタイの両政府は農産品に特化したアーリハーベストプログラム(EHP)に基づいて早期関税自由化に関する協定を締結した。この協定は2003年10月1日以来、現在も有効となっている。この協定が発効される前には、中国―タイ間の青果の貿易規模は小さく、取り引きされる青果品の種類も限られていた。

中国―タイ間の青果品の貿易額は、2010年で、タイの青果品輸出額は野菜が8億300万米ドル、果物が2億500万米ドルであった。2015年には、タイの中国への野菜の輸出額は15億7,000万米ドルに跳ね上がる一方、果物の輸出額は2倍の4億7,900万米ドルになった。ところが、2018年では、野菜の輸出額は9億700万米ドルに落ち込んだが、果物の輸出額は10億1,000万米ドルへと急増した。同様に、青果品の対中輸入額は2010年の野菜1億3,900万米ドル、果物2億600万米ドルから2015年にはそれぞれ2億6,300万米ドルと4億3,600万米ドルへと伸びた。2018年になると、野菜の輸入額は徐々に増え続けて4億8,100万米ドルになったが、果物の輸入額は4億300万米ドルとわずかではあるが減少した。

タイは近年、対中国で青果品の貿易黒字の状態になっている。具体的には、2018年、タイの青果品の貿易黒字額はそれぞれ野菜4億2,500万米ドル、果物6億1,400万米ドルを記録した。

数字だけを見れば、2国間の自由貿易協定は青果品の関税自由化をはじめ、青果品の貿易数量、金額を押し上げたばかりでなく、タイに貿易黒字という利得をもたらした。おそらくこの協定を足掛かりとして、タイの農業従事者は青果品を中国へ輸出し利益を獲得していったものと思われる。とはいえ、タイの農業従事者はこの協定からの恩恵を充分に受けているとは思われない。たとえば、一部の農業従事者はより強い競争力をもつ中国の仲買人や安価な輸入品などとの熾烈な競争に直面している。洪水のように押し寄せる中国農産物と中国の仲買人の存在が、タイにおける青果品業界の現状と将来にどのように波及していくのかを詳述する。

洪水のように押し寄せてくる中国商品:温帯果物(リンゴ、ブドウ、柑橘類)、ニンニク

2003年にEHPに基づいて締結された関税自由化協定は、ニンニク、温帯果物などの中国農産物が洪水のように押し寄せてくる契機となった。この協定の後押しがあり、これらの中国農産物がタイの市場を席捲した。2010年から2013年の間、中国はリンゴ、ブドウ、柑橘類など温帯果物のタイへの最大の輸出国であった。同期間、中国産のリンゴ、ブドウは全輸入農産物数量の60%を占めており、柑橘類にいたっては数量で90%という数値を記録した。特筆すべきは、2010年から2013年の間、リンゴ、オレンジ、柑橘類はタイが輸入した温帯果物の最上位に位置しており、取引額は年間2億米ドルを超えていたということである。

国連商品貿易統計データベース(2019年)に基づいて筆者が計算してみると、中国がタイの温帯果物市場で独占状態となる流れはその後も続いた。2018年における中国産果物の輸入量は、リンゴ72.78%、ブドウ78.59%、柑橘類85.04%を占めていた。次に、同年の中国産果物の輸入額を見てみると、リンゴ69.72%、ブドウ60.55%、柑橘類80.77%という数字になっている。この統計数値から判断すると、中国からの輸入果物は、数量面での割合の方が金額面に比べて高いことがわかる。すなわち、中国産のリンゴ、ブドウ、柑橘類は他と比較して安価であるために購入されていることを示唆している。

このことを裏付けるような報告が一部のジャーナリストによってなされている。Thairath(2014年10月22日)によると、タイの消費者は国立食品研究所が明らかにしたように、より安価な温帯果物を希望していることが、これら中国産の安価な果物の購入の動機となっているという。中国産の低価格の果物は、タイに拠点を置く事業者の購買意欲を高め、中国からの輸入をさらに押し上げた。タイで中国産リンゴの輸入が拡大している主因として生産コストが低い点が指摘されている。中国の温帯果物が他よりも安価であるということは、これらの果物の生産面で、中国はタイよりも優位性があることを意味する。

中国の果物生産者との競争に勝てないタイの生産者は、安価な中国産の温帯果物が洪水のように流入してきて苦しんでいる。たとえば、タイのタンジェリン生産者は、合法、非合法問わずにタイに流入している中国産柑橘類に苦慮している。この流入によってタイにおける柑橘類の供給量が増えた結果、タイ産柑橘類の価格が低下したのである。加えて、Matichonのインタビューに応じたタイの仲買人(2016年3月6日)によると、タイの低価格商品志向の消費者は、地元のタンジェリンではなく安い中国産のタンジェリンを購入している。このため同市場において、流入し続けている安価な中国産柑橘類が、高価なタイ国内産タンジェリンよりも売れているという。

EHPによる関税自由化はまた、ニンニクなど中国産野菜の輸入増につながった。柑橘類の場合と同様に、タイ国内では中国産のニンニクがタイ産のニンニクよりもよく売れている。中国産ニンニクは国内産よりも味は落ちるが、タイの消費者は安価な輸入ニンニクを好んでいるのだ。中国産の安価なニンニクも、安価な生産コストの産物である。タンジェリンとニンニクの例に見るように、これらの生産物の市場において、タイの農業従事者よりも優位に立つ中国の農業従事者が、自由化の動きに乗じて競争に打ち勝っている。

自由化の波に加えて、市場メカニズムの働きを促進させようとしたタイ国政府は同時に、国内のニンニク生産者を保護する政策を十分にとってなかった。というのも、タイ国政府は、ニンニク価格を安定させるどころかニンニク生産者の規模を減じるという、いわゆる介入策を実行に移したのである。2004年から2006年の間、タイ国政府はニンニク生産地の規模を縮小して新しい収穫物を生産するようニンニク生産者に奨励し、補助金も供与した。国連商品貿易統計データベース(2019年)の統計が示すように、タイ国政府のこのような「市場動向に対応した」政策は、近年になってもほとんど変化していない。2017年から2018年にかけて、中国産ニンニクは、数量的にも価格的にも、輸入ニンニク全体の90%以上をも占めていた(注1)。つまるところ、農作物の関税自由化とタイ国政府の「市場動向に対応した」政策が相まって、温帯果物やニンニクなど中国農産物の優勢を許してしまったのである。

タイ国政府はこれまで、中国からの輸入品を統制する狙いを持った安全基準等の非関税障壁をほとんど実施していない。このほどタイ国会の「農業部門における化学物質使用の統制に関する特別委員会」が発表したところによると、一部の税関、たとえばチエンラーイ県のチエンコーンの境界には、中国製品の化学物質の含有について無作為検査をする施設がないという(Post Today, 2019年10月25日)。ただし、Komchadluek(2019年11月2日)がインタビューしたトラック運転手は、輸入企業は通常、検査のために製品サンプルをタイ当局に送っていることを明らかにした。

近年では、中国産の安価な青果品の輸入管理を実施する一次機関として、タイの小売業者と中国企業等が挙げられる。中国からの輸入品は、中国の冷蔵コンテナトラックがチエンコーンの境界を経由して輸送している(Workpoint News、2019年7月4日)。一方、中国の仲買人の中には、タイで最大規模の青果品卸売市場であるThalardthaiにおいて一定の場所を賃借し、新鮮な商品が後日になっても販売できる販売箇所を開設して、そこに冷蔵庫を設置しているケースもあった。中国産の生産品輸入に中国企業等が介在しているということは、すなわち、タイ国政府は輸入品の輸送だけでなく、輸送に携わる人の動きまでも自由化したことを示唆する。この中国企業等の介在は、タイから中国への熱帯フルーツの輸出にも多く見受けられる現象である。

中国仲買人の進出:ドリアン

このEHPによる農作物の関税自由化を足掛かりとして、中国産の温帯果物と同じように、タイの熱帯フルーツ生産者、とくにフレッシュドリアンやリュウガンの生産者たちが中国市場に進出していった。中でも、タイ産のフレッシュドリアンは中国市場を席捲した。国連商品貿易統計データベース(2019年)の2014年から2018年を対象とした調査結果によると、タイ産のフレッシュドリアンは、中国国内のシェアをほぼ100%獲得したという。とりわけ注目に値するのは、2017年のタイから中国へのフレッシュドリアンの輸出量と輸出額がそれぞれ2億2,400万㎏、5億5,000万米ドルから、2018年には4億3,100万㎏、10億9,000万米ドルへと急激な伸びを見せたことである。つまり、タイのドリアン生産者が中国市場におけるすべてのフレッシュドリアンを供給したことを意味する。

タイのフレッシュドリアンが中国市場を制圧できた主因としては関税自由化が考えられるが、要因はこれだけではない。中国政府が実施している選択的許可制という政策があるが、これはフレッシュドリアンの輸入をタイに限定することを目的とした政策なのである。この選択的許可制という政策は、マレーシアなど他のドリアン生産国の収穫法抜きには語れない。タイのドリアン生産者はドリアンが熟す前に収穫するが、マレーシアの生産者はドリアンが熟して落下するまで待って集めるという方法をとっている。この方法では、土などがついて汚れたり、ペストの危険性が存在するなど、ドリアンに混合物が入り込む可能性が高くなる。そこで、中国はマレーシアに対し、フレッシュドリアンではなく冷凍パルプドリアンのみ輸出を許可した。中国産の温帯果物やニンニクが洪水のように流れ込んできたときとは事情とは異なり、タイ産のフレッシュドリアンが中国の市場を席捲した背景には、自由化と制約化という中国の政策が絡んでいるのだ。

ドリアンを中国へ輸出する業界はタイ人によって統制されるだけでなく、中国人業者の存在、とくに仲買人がドリアン供給のサプライチェーンを管理しており、その影響が近年増大しているという。ドリアンを輸出する初期段階においては、中国の小売業者はドリアンを購入するため、タイの仲買人との契約締結が必要であった。その後、中国の小売業者はタイ国内業者への依存を回避することをもくろみ、こうしたタイの仲買人の経営手法を自ら取り入れようとした。彼らの試みは功を奏した。中国の小売業者はこの経営手法の下で、タイ国内のドリアン生産者と交渉してドリアンの販売、選別、梱包を直接手がけることができるようになった。中国企業等がこうして直接、さらに深く関与した結果、タイの仲買人はドリアン輸出のサプライチェーンから徐々に姿を消すこととなった。その結果、中国の仲買人はタイのドリアン生産者そして中国の消費者と直接つながる関係を構築するに至った。

このように中国の小売業者がドリアン生産者と直接交渉を進められるようになったことから、統計が示すとおり彼らはタイの仲買人との競争に勝利を収め、タイのドリアンのサプライチェーンに影響力を及ぼすようになるまで発展していった。ラヨーン県・チャンタブリ県ドリアン・マンゴスチン輸出協会会長のPanuwat Maikaew氏にインタビューしたThansettakij(2019年6月2日)では、2019年、タイの仲買人を買弁として雇用している中国専門業者は609業者あると記している。特筆すべきは、これら中国専門業者の大半において、全資金を中国の小売業者から得ているという点である。タイの関係者から全ての資金を得ている中国専門業者の数は10にも満たないという。以上のデータは、タイの最重要のドリアン生産地として知られるラヨーン県とチャンタブリ県におけるドリアン生産業の実態を如実に示している。また、以上の情報を踏まえると、中国企業等とタイの仲買人との力関係は時を経ると共に逆転してしまったことが示唆される。

ドリアン輸出業界にあって中国小売業者の優位性が保たれているのは、彼らの順応力のみならず、ビジネス戦術の巧みさも寄与していると考えられる。具体的には、第一に、中国小売業者はドリアン生産者と卸売契約を結んだ後、ドリアン生産者がドリアンを維持管理できる資金を前もって与える方法をとっている。タイの仲買人は、資金に限りがあるため、そのような方法をとることは困難であった。第二に、主としてさまざまな輸出品を手がける中国小売業者は、タイの同業者に比べて低コストのビジネスを享受できる。さらに、中国小売業者は法人税を納める必要がないのに、タイの同業者はタイの法律によって納税義務がある。以上の条件から、近年中国の小売業者はタイのドリアン製品の最大購買者となっている。

タイのドリアン生産者の収入は農場直売の価格が元になっているため、中国小売業者の営業活動から必然的に影響を受ける。たとえば、中国小売業者が同業者同士で競争していたときは、タイの生産者はより高い価格でドリアンを販売することができた。ときには、予定していた価格よりも高い価格で販売価格を決定できたこともあった。さらに詳しく見てみると、2019年、ラヨーン県とチャンタブリ県のドリアン生産者は当初1キロ当たり100バーツでドリアンの販売を予定していたが、実際には140から150バーツで販売できたのである。

他方、タイのドリアン生産者は、中国小売業者が談合してドリアンを安価で販売すると価格が下がり、そのため苦境に立たされることとなる。Wirawin(2017年)に掲載されたあるドリアン生産者のコメントによると、市場の働きを歪ませる手法として、中国小売業者が行う談合が懸念であったという。一例として、中国小売業者が出荷不可としている生ドリアンを大量に市場に出すことがあった。この動きはレモン市場をもたらし、ドリアンの市場価格を下落させることとなる。ドリアン生産者協会の中には、このような中国小売業者の動きを牽制しようと試みたところもあった。

このような中国小売業者の談合が行われる可能性が強まっている背景として、ドリアン生産地の拡大、そして中国小売業者に対するタイ国政府の対応策の不備が要因に挙げられる。タイの農業経済局によると、パラゴムの価格が下落したことを理由にゴムの木を切り倒した生産者が、価格が上昇しているという理由でゴムの代わりに匂いのきついドリアンを生産したと報告している(Kasetvoice、2019年5月24日)。こうした生産者の動きがドリアン生産に拍車をかけた。この状況下でドリアンの生産量が膨らんでいく中、ドリアン購買者としての中国小売業者は、タイの同業者よりも競争優位に立っているのだ。

一方で、このような強大になりつつある中国小売業者の影響力に対応できる首尾一貫した対策を、タイ国政府は打ち出していない。中国の小売業者がタイの同業者に比して不当な利得を得ていることについて、タイ国政府は税、外国人による商業活動、農産物基準に法規制の網をかけることで、こうした中国小売業者の活動を抑え込もうとしてきた。しかしながら、タイ国政府は中国小売業者が市場や価格決定に及ぼす影響力までも統制できる方針を打ち立てることはなかった。しかも、タイ国政府は中国小売業者の活動に対処する国内ドリアン生産者団体をうまく活用できていない。中国への輸出手続等は外国の業者が全面的に掌握しているからである。まとめると、タイ国政府は干渉主義的政策による中国小売業者の圧倒的な影響力を抑え込むことをせず、代わりにタイの税制面、産業構造という枠組みに中国小売業者を取り込むことに力を注いだのである。

(本報告は公益財団法人JKAの補助事業で実施した)

 

1. 国連商品貿易統計データベースを元に筆者が算出。