一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2004/08/11 No.71_4中国カードを強化するブラジル外交(4/5)

内多允
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学 教授

期待される人的交流の拡大効果

ブラジル・中国間のビジネス拡大によって、人の往来も増えている。バリグ・ブラジル航空は04年3月22日、北京事務所を開設した。バリグは5月24日、北京で中国国際航空とブラジル・中国間の直行便就航の覚書を取り交わした。直行便のルートはリオデジャネイロ・北京間を25時間で結び、ミュンヘン(ドイツ)を経由する。機種はボーイング777型機で、8月から週4便を予定している。ルラ大統領の訪中に同行したマレスギア観光相は中国からブラジルへの観光客は年間1万人に上るという予想を述べた。

ミュンヘン経由とした理由は発表されていないが、これについては米国とブラジルの入国手続きをめぐる対立が、ひとつのヒントとなろう。ブラジル連邦警察は04年1月1日から、入国する米国人のみを対象に顔写真と指紋の登録を実施するようになった。これは米国政府がテロリスト対策のための新しい入国管理制度で、ブラジルを含む25か国に対して04年1月5日より適用するようになった同様の措置を実施した事に対する報復措置である。米国政府は「米国人のみを標的とする差別である」と批判している。ブラジル国内でも反対の声が上がっている。

ブラジルでは米国への対抗措置として連邦検事が「米国のブラジル人観光客に対する非道な措置に対して報復すべきである」と提訴した。これを受けたマタグロッソ州の連邦判事が、「米国は入国管理を厳しくする権利がある。一方、主権の相互尊重の原則に従って、ブラジル側も同様の措置をとる権利を持つことになる」として検事の言い分を認めた。行政機関はこの判決に批判的であるが、司法が下した判断を一方的に変更できない難しさがある。在ブラジル米国大使館は1月5日、「リオデジャネイロ国際空港では最高9時間も待たされた米国人観光客がいた」とブラジル政府に抗議した。ブラジルの米国人に対する指紋押捺については当初は両手の指を全て対象としたが、その後親指のみとしている。また、12才以下の子供を登録対象から外して入国手続き時間の短縮に努めているという。しかし、このような報復措置がブラジル・米国間にしこりを残している事は否定できない。

ブラジル・中国間の人的交流にはブラジル人靴職人の中国への出稼ぎも一役買っている。1980年代まではブラジル製靴が中国市場を席巻していたと言われていた。しかし、90年代からは中国製靴に押されてリオ・グランデ・スル州の製靴産業は苦境に陥った。これを契機にブラジル人靴職人の中国への出稼ぎが始まった。在中国ブラジル大使館によれば91年以来、リオ・グランデ・スル州の靴技術者800人が、指導者としてブラジルよりもはるかに大きな規模の工場へ赴任している(ニッケイ新聞03年10月9日付)。

ブラジル式バーベキューともいうべきシュラスコの焼肉職人も、中国に進出している。中国で肉食が普及するに伴って、中国でのシュラスコレストランは400店に達していると報道されている(ブラジルサイト04年6月28日付)。この記事では上海でシュラスコ店で成功したブラジル人(44才、男性)を次のように紹介している。

それによると、彼はブラジルではトラック運転手であったが12年前に日本に渡航してシュラスコ店で働いていた。その後、上海のシュラスコ店の支配人にスカウトされた。そして、5年前に日本で稼いだ有り金をはたき共同出資者と上海でBrazilianSteakHouseというシュラスコ店を開業した。現在2店舗を経営しているが、現在3店舗目の開設を準備しているという。

このように、ブラジル人の中国への渡航も特定の政府関係者や大企業社員から未だ数は少ないだろうが、徐々にさまざまな職種におよぶ傾向もみられる。

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