一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2004/08/11 No.71_5中国カードを強化するブラジル外交(5/5)

内多允
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学 教授

交流分野を拡大する両国政府

ブラジル・中国間の資源(農産物や地下資源)を巡る関係強化には、政府間ベースの協力関係の成果も貢献している。両国政府も資源分野のビジネス拡大の重要性を認識しており、またその基盤強化を後押ししている。政府間の協力事業において具体的な成果を挙げている分野としては、資源関連があげられる。それは地球資源探査衛星の共同開発である。共同開発の衛星は全て、中国で打ち上げられた。同衛星の第1号(CBERS-1)は99年に打ち上げられた。これの第2号(CBERS-2)は03年10月21日、打ち上げに成功した。この衛星はブラジル宇宙空間研究所と中国宇宙空間技術研究所が共同で開発した。その重量は1,550キログラム、設計寿命2年である。99年10月4日に打ち上げられた第1号も、軌道飛行を続けている(03年10月21日付中国通信社の報道による)。資源衛星の目的は国土資源の変化を監視することや耕地面積の測量、森林蓄積量、農作物の作柄と生産量、自然災害の被害状況、環境汚染状況、地下資源探査と資源地域の確定、資源の合理的開発等にわたっている。

両国政府は資源衛星の共同開発を「南南協力の手本」と評価している。中国国家宇宙局の孫来燕局長は5月25日、中国・ブラジル地球資源衛星の第2回利用者総会で明らかにしたところによれば、今後も資源衛星の後続機(3号と4号)を共同で開発する政府間契約に両国は調印した。後続衛星には新たにグローバル測位システム(GPS)とセンサーが搭載され、測位データの精度が向上する。中国側は今まで打ち上げられた1号―2号衛星は中国の農業や林業、水利事業、環境保護、都市計画、災害観測などの情報商品に応用されて、社会や経済活動に大きな利益をもたらしていると評価している。

北京大学にブラジル文化センターが開設されたことも、両国の関係を発展させる人材育成と文化交流の基盤形成に重要な意味を持っている。同センターは5月25日、ルラ大統領を迎えて発足した。ルラ大統領は同大学での講演で、ブラジル文化センターが文化や教育、科学の分野におけるブラジル・中国両国間の協力関係を発展させることを期待していると述べた。北京大学は中国各界に指導者を輩出しているだけに、ブラジルや南米との交流に貢献する人材育成の効果が期待される。同センターは中国で最初のブラジルの文化や政治、経済、言語(ポルトガル語)についての本格的な教育・研究組織となる。北京大学ではポルトガル語教育担当の教授がブラジルから既に派遣されている。

ブラジルと中国は30年前に国交関係を結んだが、両国間の本格的な交流は、最近10年間のことである。このような状況を踏まえてルラ大統領が中国訪問して、両国首脳は会談を通じて今後の関係強化を確認した。ルラ大統領と胡錦涛国家主席の会談では、両国関係を発展させるための次の4原則に合意した。

  1. 対等な協議を維持して、政治的に相互信頼を深める。
  2. 相互の利益を維持して、経済・貿易の交流を拡大する。
  3. 協議・協調を維持して、国際理解を進める。
  4. 民間交流を推進して、相互理解を進める。

この4原則を貫徹・実行するために、積極的な措置を取ることについても両国首脳は合意した。

ルラ大統領の訪中によって、ブラジル・中国関係強化の基盤が強化される成果を生んだ。ブラジルの対中関係強化の狙いには両国の経済関係強化に加えて、対外政策上のさまざまな目的も含まれている。ブラジルは外交政策上の目的達成のために中国との「戦略的パートナー関係」を強化することを重視している。目的のひとつに国連安全保障理事会の常任理事国のポスト獲得があげられる。ブラジルはこのポスト確保を支持国を増やす外交活動を展開している。中国もブラジルの国連安保理常任理事国入りを支持している。中国外務省の劉建超報道官は5月20日、記者会見で「ブラジルは西半球最大の発展途上国として、中国との戦略的パートナーを強化したい」と述べ、さらに国連安保理に関して「常任理事国の構成に地理的不均衡があり、発展途上国に優先的に与えられるべきである」と発言して、ブラジルの要望を理解する姿勢を示した。

通商問題についてもブラジルは中国との連携を強化することによって、発展途上国側の立場を代弁して先進国をけん制している。ブラジルは資源保有国としての立場と中国のように国際関係に発言力のある国との連携国としての立場とを活用して、存在感を高めている。日本は中南米地域ではメキシコとの経済連携協定について合意が成立して、近い将来の締結が予定されている。ブラジルに対しても、日本はメキシコと同様の協定締結が望まれる。その理由は、ブラジルが日本経済にとって不可欠な資源を供給する能力を有しており、その農産物や地下資源の供給動向は世界経済全体に影響力を及ぼしている。また、ブラジルが中南米における経済統合や域内の国際関係において、強い影響力を保持していることも忘れてはならない。

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