一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2007/08/16 No.99ドイツのCO2排出削減に向けた取り組み

田中信世
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

1997年に締結された国連気候変動枠組み協定の京都議定書は、2008〜12年におけるCO2など地球温暖化ガスの削減目標を1990年比で、全体で5%とし、主要国(地域)の削減目標を日本6%、アメリカ7%、EU8%などと取り決めた。

EUは2007年3月の欧州理事会でこの削減目標(8%)を改めて確認するとともに、地球温暖化の進行を食い止めるためには第一次拘束期間(2008〜12)以降も、さらに高い目標値を掲げる総括的枠組みの設定が必要であるとして、国連を中心に2009年までにこれを整えるべきであるとする姿勢を鮮明にした。そして、EUは独自の「ポスト京都」目標として、2020年を目指して以下の点について合意した。

  1. EUは温室効果ガス排出の削減を、他の先進国が同等な排出削減を約束し、かつ新興経済国が適切な寄与を行うという条件で、90年比で30%削減する。
  2. 国際気候変動枠組み交渉で他の国から上記の譲歩を得られない場合でも、EUは単独で最低20%の削減を実現する。
  3. 第一次エネルギー利用において、再生可能エネルギーの割合を最低20%に引き上げる。
  4. エネルギー効率の引き上げにより、日常生活レベルでエネルギー消費量を20%削減する。

さらにEUはその後、個別燃料に関する目標として、1)石油とディーゼル燃料供給に占めるバイオ燃料の比率を現在の5.75%から2010年に10%に引き上げる、2)電力生産に占める再生可能エネルギーの比率を2010年までに21%に引き上げる、などの目標値を取り決めた。

<2020年に90年比で40%削減>

EUが全体としてこのような野心的な目標を立てるなかで、ドイツは2020年におけるCO2排出量を90年比で40%削減することを取り決めた。ドイツがEU全体の削減を大幅に上回る削減目標を取り決めた背景には、EUの中でもCO2削減の先頭ランナーとして走るドイツが、ポスト京都の気候変動枠組み交渉において世界をリードして行く必要があると判断したことによるものとみられる。

ドイツ連邦環境庁(Umwelt Bundesamt;UBA)の資料(“Climate Change−Klimaschutzin Deutschland:40%-Senkungder CO2-Emissionbis 2020 gegenueber 1990”によれば90年におけるドイツのCO2排出量は9億7,400万トンであった。これを部門別にみると、エネルギー産業のCO2排出量が全体の約44%の4億1,500万トンと最も多く、以下、交通の1億6,200万トン(17.1%)、工業1億5,400万トン(16.3%)、家庭1億2,900万トン(13.6%)、手工業・商業・サービス8,700万トン(9.2%)の順となっている。2020年に90年比で40%削減するということは、全体で3億7,600万トンのCO2排出を削減しなければならないことを意味する。しかし、ドイツは前述の京都議定書におけるEUの削減目標(8%)の加盟国別配分において21%の削減を受け入れており、05年までの時点でこのうちすでに18%の削減を達成している。したがって、ドイツが20年に40%の削減目標を達成するためには、05年比で考えると、残りの22%(2億2,400万トン分)のCO2を削減する必要があるということになる(表1)。

ところで、ドイツはこのような大幅なCO2の削減をどのようにして実現しようとしているのであろうか。前述のドイツ連邦環境庁の資料によれば、重点的な施策として、次の8つが挙げられている(表2)。

  1. 効率的な電気器具の導入、待機電力の削減などによる電力消費の削減(⇒CO2排出量を4,000万トン削減)。
  2. 火力発電所施設の近代化、火力発電所燃料の石炭から天然ガスへの転換(⇒3,000万トンの削減)。
  3. 電力生産に占める風力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギー比率の26%への引き上げ(⇒4,400万トンの削減)。
  4. 熱・電力併給タイプの電力生産の倍増(⇒1,500万トンの削減)。
  5. 住居等建造物の改修、効率的な暖房設備の導入などによる暖房エネルギー消費の削減(⇒4,100万トンの削減)。
  6. 暖房における再生可能エネルギー比率の引き上げ(倍増)(⇒1,000万トンの削減)。
  7. 自動車の性能改善、燃料課税の見直しなどによる輸送分野におけるエネルギー消費の削減(⇒1,500万トンの削減)。
  8. 交通機関を使った不要不急な移動の自粛と貨物輸送の鉄道、内陸水運へのシフト(⇒1,500万トンの削減)。

なお、同資料では、上記1)〜3)の施策が実施された場合、2020年におけるドイツの電力生産ミックスは、石炭32%、天然ガス30%、再生可能エネルギー26%、ウラン6%、その他燃料(石油、非バイオ廃棄物など)になるとしている。また、上記のCO2排出量の計算においては、火力発電所から排出されるCO2の捕捉および補足したCO2の地下貯留によるCO2の削減は除外されている。これは、CO2の捕捉、貯留技術の本格的な実用化が実現するのは2020年以降になるとの判断による。

以上が、ドイツ連邦環境庁が掲げているCO2排出40%削減(90年比)を実現するための主な施策であるが、これらを実現するためには、同庁では既存の再生可能エネルギー法(Erneuerbare-Energie-Gesetz;EEG)の有効活用のほか、熱・電力併給法(Kraft-Waerme-Kopplungs-Gesetz;KWK-G)の改訂、エネルギー節約規則(Energieeinsparverordnung;EnEV)の制定などの法的整備が必要になるとしている。また、ドイツ連邦環境庁ではドイツが40%の削減を実現するためには、CO2削減対策を講じなかった場合と比べて、2020年までに年110億ユーロ(1ユーロ=約163円)のコストが発生すると予測しており、これによる家計の負担増は月25ユーロ以下であると試算している。

ドイツ連邦環境庁の上記資料によれば、「飛行機を使ってカリブ旅行をするだけで1人当たり6トン以上のCO2排出の原因になる」「都市交通における乗用車利用の5%が公共交通機関の利用に切り替わり、走行距離5キロ未満の乗用車利用の30%が自転車利用に切り替わった場合、CO2の排出量は2020年までに約300万トン減少する」などの表現もみられる。実際にCO2排出削減のための施策がどの程度厳格に実施されるのかは現時点では不明であるが、削減措置が本格的に実施された場合には、前述のコスト負担に加えて、ドイツ人の間で人気の高いカリブ海でのバケーションを我慢しなければならなくなるといったことも考えられ、CO2削減は個人の日常生活にも大きな影響を及ぼすことになりそうである。

表1  ドイツの部門別CO2削減目標(単位;100万トンCO2)

部門1990200520202020の90年比削減量2020の90年比削減率(%)
手工業、商業、サービス875343-44-50.6
家庭12911374-55-42.6
交通162164134-28-17.3
工業15410373-81-52.6
エネルギー産業415362247-168-59.5
合計947795571-376-39.7
  (出所)ドイツ連邦環境庁(Umwelt Bundesamt;UBA)“Climate Change-Klimaschutz in
    Deutschland:40%-Senkung der Co2-Emission bis 2020 gegenueber 1990”より

 (出所)ドイツ連邦環境庁(Umwelt Bundesamt;UBA)“Climate Change-Klimaschutz in
    Deutschland:40%-Senkung der Co2-Emission bis 2020 gegenueber 1990”より作成
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