一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2001/10/29 No.6情報発信が国の命運を決定する

内多允
国際貿易投資研究所 客員研究員

今日、グローバリゼーションが世界の大きな潮流を形成している。その影響は個人や企業、文化と広範囲に及んでいる。個人や組織も、世界と何らかのかかわりを持つことが当たり前のことになっている。グローバリゼーションによる自由競争は国家をも巻き込んでいる。企業の活動基盤を形成する国や地域もその評価を巡って、世界的な競争にさらされている。企業が国境を越えることへの制約がなくなり、今や「企業が国を選ぶ時代」となっている。従って地域の発展に貢献する企業を誘致して定着させるには、積極的な世界への働きかけの努力が求められる。日本は資源の保有状況や経済力の状況から、国際社会との相互依存関係を絶対必要としている。日本が相互依存関係を発展させるためには恩恵を受けるだけではなく、世界に向かって評価に値する貢献を果たす義務も課せられている。

(1)国の魅力は最強の安全保障策

国際社会での相互依存関係を発展させることは経済や文化の発展に必要であり、同時に安全保障を維持するためにも不可欠である。国の安全保障は武力や経済力、文化、資源等さまざまな要因で構成される。ここでは、世界の相互依存関係を進めるグローバリゼーションの下で経済を発展させるには何が必要かを考えたい。安全保障については1990年代に冷戦体制が崩れるとイデオロギーを背景とする武力対立の二極構造が無意味になり、米国でも国家の安全保障を維持する資源についての戦略転換が検討されるようになる。この検討から引き出された見解は「武力という物質が安全を保障する」ことからの発想の転換である。そして、「国の魅力」が安全保障の議論で一層重視されるようになる。経済活動の相互依存も国家の安全保障の構成要因であるから、国の魅力の内容は経済活動とも決して無縁ではない。米国ではこれについて、次のような見解が発表された。

ジョセフ・ナイ(クリントン政権で国防次官補を歴任)とウイリアム・オーエンズ(同統合参謀本部副議長を歴任)連名の論文「アメリカの先端情報戦略」(1996年、フォーリンアフェアーズに掲載)では「21世紀最大の安全保障資源は情報であり、その情報の威力の本質は魅力(アトラクティブネス)」と述べている。サミエル・ハンチントン・ハーバード大学教授は「魅力」の定義として「人々がある地域に自分の子弟や資金、物品を送っても良いと判断する引力」(1997年発表の論文「アメリカの国益の侵食」)とした。すなわち、自分の子供を海外に留学させるために国や地域を選定する基準であるとか、投資先を判断する基準が「魅力」という言葉で表現されている。ズビグニュ・ブレジンスキー(カーター大統領特別補佐官)は米国が覇権国家となった要因として「世界展開できる軍事、世界を牽引する経済、世界の先端を行く技術と共に、世界の若者が憧憬してやまない文化の魅力である」(1997年、著書『ザ・グランド・チェスボード』)と説いている。

このような国家の安全確保を巡る議論では、「国の魅力」や「情報」がキーワードとなっている(以上については次の報告書より参照、引用した。科学技術庁『21世紀の日本の資源に関する調査報告―新しい社会構造に対応する長期ビジョンー』(資源調査会報告第122号、1998年7月29日)。

(2)「地域力集積」と「国の魅力」

グローバリゼーションは「企業が国を選ぶ」時代を意味するが、これは「地域を選ぶ時代」をも意味する。今日、中央集権から地方分権への変革が時代の趨勢なら尚更地域社会のグローバリゼーションへの取り組みが一国の命運を左右する。地域経済が海外と関係を持っていることによって、その地域の企業がグローバリゼーションへの適応力を高めることが期待できよう。海外から企業に加えて人や文化も流入して、地域社会に刺激を与えて新しい文化や産業を生み出す効果もあろう。グローバリゼーションの時代は「国・地域の魅力の集積」による競争力が評価される時代でもある。かつては国際競争力といえば鉱物・食糧資源等の有形資源(別名、ハード資源)が重視された。国や地域の魅力を高めるには無形のソフト資源が重要な役割を担っている。ソフト資源は社会の活力・成長力・創造力の源となる能力やシステムなどの基礎的な力である。これらを限られた地域内で得ることよりも、海外を含む外部から導入することによる相乗効果が大きい事に注目したい。海外や異民族からの文化が混入することによって地域が活性化して、文化の発展に寄与したことは人類の歴史が示している。最近の経済分野の具体例では、米国のシリコンバレーの発展があげられる。シリコンバレーの企業には多くの中国系ややインド系、その他世界各地から馳せ参じた専門家が活躍して、この地域の発展に貢献している。

ソフト資源が国境を越えて地域経済の発展に寄与するためには情報が重要な役割をはたしている。日本各地の地域経済活性化のためには、各地元の魅力についての情報を世界のどこに活躍の拠点を築くか考えている企業や個人に発信する義務がある。何故なら、日本の企業や個人も世界からこのような情報の恩恵を受けているからである。日本側の都合や打算だけに基づいて情報発信に消極的になることは、経済の相互依存を前提とするグローバリゼーションの時代では公正な国際関係とは言い難し、反って国際競争の場で敗者になりかねない。地域経済のグローバリゼーションに関係の深い外資系企業の誘致活動についても同じことがいえる。日本の対内・対外直接投資の差が縮小傾向を示していても、各地域は世界の企業に向かって企業環境や地域の特徴についての情報発信を継続することによって、グローバリゼーション時代の国や地域の評価基準になっている情報開示やアカウンタビリティの責務を実行できるからである。

世界各国の中央政府や地方自治体とその関連機関は、企業誘致と地域情報を積極的に提供するサービスを継続している。継続的な情報発信によって地域への理解が浸透してこそ企業誘致や貿易、観光客誘致の成果が期待できる。その成果は短期的には期待できない。企業誘致とは分野が異なるが、米国や英国、ドイツ、フランス等の先進国が言葉の普及や文化交流の専門機関として世界各地で活動している。その中には、充実した図書館を設置してその情報提供機能が高く評価されている国がある。この成果によって、その国や地域への親近感を持ちつづけるファンを着実に増やしている。日本では今年「日本におけるイタリア2001年」と称して、イタリア政府や民間企業、経済・文化団体が一体となって日本各地で、さまざまなイベントを展開している。日本の百貨店や商店街でのイタリア製品の売込みにもイタリア政府機関が協力しており、イタリアに対する日本でのイメージを一層定着させようとする戦略性がうかがえる。
これらの機関は国際社会における自国の存在感や影響力を拡大するために、長期的な国家戦略に基づいて活動している。海外との相互依存無くして存続できない日本が、これらの機関の戦略性に着目する必要がある。企業誘致やその他の経済交流の活動についても、当てはまる。しかも、グローバリゼーションの時代の世界経済は自由度が高まる反面競争条件は苛烈である。中央政府も地方自治体も世界経済の中での地位を高めるためには、持続的な情報提供や広報活動の国際競争力が問われている。

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