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フラッシュ141 |
2011年6月2日
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通商戦略の潮流と日本の選択 |
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杏林大学総合政策学部/大学院国際協力研究科教授 (財)国際貿易投資研究所 客員研究員 馬田 啓一 |
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(2/4ページ) U.東アジアの地域統合化 1.広がる二国間FTAのネットワーク ASEANをハブとしたFTAに加えて、ASEANの周辺6カ国間のFTA交渉の動きも活発化している。韓国は2009年にインドとのFTAが発効しており、豪州、NZとは交渉中である。中国はNZとのFTAが2008年に発効済みで、豪州と交渉している。日本は今年2月にインドとのFTAに署名し、豪州と交渉中である。豪州とインドも今年5月にFTA締結交渉を始めることで合意している。 表2 東アジアのFTAネットワーク
(注) ●は発効済み、○は署名済み、△は交渉中。ただし、日韓は中断中。
東アジアのFTAは2000年以降すでに30件近く締結され、東アジアの域内貿易の大半はFTAを締結した国同士の貿易になっている。ASEANに日中韓、さらに印豪NZの6カ国を加えた「ASEANプラス6」の域内貿易総額のうち、域内のFTA締結国との貿易が占める割合は2010年に55%を占めており、交渉中を含めると7割を超える。 二国間FTAで関税撤廃が進めば相互の市場アクセスが容易になり、域内貿易の拡大が期待できるが、そこには意外な落とし穴がある。FTA締結国でつくられたかどうかを示す「原産地規則」など、FTAごとに異なるルールが設けられると、企業は実際の貿易実務が非常に煩雑となる(注5)。このような弊害は、麺が絡まった状態に例えて「スパゲティ・ボウル現象」と呼ばれている。二国間のFTAはゴールではない。点から線、さらに面へとより広範な地域をカバーするFTAの締結を目指すべきである。 2.難しい日中韓のFTA締結
(注) 2008年時点。
日本がFTAに関する共同研究を最初に行った相手は韓国である。2003年から日韓でFTA締結に向けての交渉が始まったが、日本が中国産ノリの輸入を解禁したことに韓国が反発し、2004年末から中断したままだ。2008年から交渉再開に向けて実務者協議が行われているが、韓国側は対日貿易赤字の拡大や、日韓FTAを実現してもマクロ経済的には日本に比べ韓国の利益の方が小さいことなどを問題にしている。 中韓のFTAは2007年から産官学の共同研究が始まっており、年内に具体的な交渉が始まる。日中のFTAが最も遅れており、民間による共同研究も始まる気配はない。中韓のFTAが締結されれば日本に与える影響は大きい。 一方、日中韓三国間のFTAに関する民間研究は2003年から始まったが、2009年の日中韓サミットの議論を受けて、2010年から産官学の共同研究に格上げされた。当初2012年までに報告を出す予定であったが、今年5月の日中韓サミットで1年前倒しして今年中に終えることで合意、来年からFTA交渉を開始する見通しである。 日本にとっては日韓、日中の二国間FTAを締結するよりも、日中韓三国間でのFTA締結を一気に目指した方が得策かもしれない。しかし、日韓と中国との間では農業や知的財産権などが大きな争点となっており、日中韓のFTA実現は決して容易でない。日中韓FTAを締結できるかどうかは、東アジアの広域FTAを実現する上での試金石になっている。(次ページにつづく) (注5)FTAの原産地規則には、関税番号変更基準と付加価値基準の2つの基準があり、企業がどちらかを選択できる選択型と両方ともみたさなければならない併用型の4種類がある。また、原産地証明取得手続きには、第三者証明制度と自己証明制度に大別され、その中間に認定輸出者制度や認定商品制度がある。 |