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フラッシュ169 |
2013年6月6日
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EUの海外直接投資は回復に向かう
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(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員 田中 友義 |
〈対内投資、対外投資ともに回復の兆し〉EUの海外直接投資は、リーマン・ショック後の金融危機による世界的な信用収縮の影響によって史上最高値であった2007年以後2008年から3年連続して、対外投資、対内投資ともに大幅に減少したが、2011年にはいずれも回復の兆しをみせた。これは、主として業界再編によるクロスボーダーM&A(国境を越えた企業の合併・買収)件数・金額が増加したことやEU景気の減速による親会社への在外子会社からの資金回収が活発化したことなどの要因によるものである(注1)。 EUの海外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)について過去5年間の推移をみたのが、表1(EU統計局EUROSTAT発表の数値)である。 まず、EUの対外直接投資についてみてみると、ピーク時の2007年の1兆2,781億ユーロから2010年まで大幅に減少した後、2011年には対前年比24.0%増の7,259億ユーロを記録、2007年の約56.8%の水準にまで回復した。 これを対域内と対域外と地域別に分けてみてみると、対域内投資の水準はピーク時の2007年の7,139億ユーロに対して2011年の3,608億ユーロと2007年の50.5%の水準に回復するに止まった。一方、対域外投資は、2007年の5,642億ユーロに対して2011年の3,651億ユーロへと2007年の64.7%の水準にまでかなり回復したが、これは対米投資や対アジア投資が大きく貢献したことによるものである。 他方、EUの対内直接投資については、ピーク時の2007年の1兆654億ユーロから2010年まで3年連続して大幅に減少した後、2011年には対前年比35.6%増の6,521億ユーロへと2007年の61.2%の水準にまで回復した。とくに、EU諸国からの対内投資の回復が大きく貢献している。一方、EU域外からの対内直接投資では、米国からの対内投資が活発で、大幅に増加したことが目立つ。 なお、2007年から5年間のEUの対外直接投資と対内直接投資の推移をみてみると、EUの純流出傾向が相変わらず続いていることが指摘できる。 〈クロスボーダーM&Aも電力・医薬品分野で活発化〉次に、EUの海外直接投資を牽引してきたクロスボーダーのM&Aの動向を簡単にみてみよう。 トムソン・ロイター社のデータによると(注2)、EU企業に対するクロスボーダーM& A(被買収国・地域)の動向(完了した案件)については、2004年から拡大が続き、2007年に8,055.3億ドル(3,963件)と過去最高額を記録したのち、リーマン・ショックによる金融危機の影響を受けた企業のM&A活動の後退により、2008年から2年連続して減少したが、電力・医薬品など業界の再編が続いている分野でのM&Aの活発化によって2010年は前年比18.2%増の2,373億ドル(3,136件)、2011年は前年比52.1%増の3,609.9億ドル(3,443件)と金額、件数ともに大幅な回復を示した。 表1 EUの海外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー、10億ユーロ)
(注)香港を除く。 (出所)EUROSTAT: Direct investment outward(inward) flows by main country of destination(by main investing country), EU direct investment outward(inward)flows by extra EU country of destination(by extra EU investing country) (http://epp.eurostat.ec.europa.eu) (2013/04/03)から作成。 他方、EU企業によるクロスボーダー M&A(買収国・地域)については、2007年の8,420.1億ドル(4,129件)のピーク時以後2008年から2年連続して激減した。しかしながら、2010年は前年比1.9%増の2,075.4億ドル(3,472件)と微増した後、2011年は資源価格の上昇により石油・天然ガスなどの部門でのM&A案件が急増した結果、対前年比78.6%増の3,705.8億ドル(3,608件)と大幅な回復を記録した。 なお、EUのクロスボーダーM&Aは、被買収国・地域側でみると、全世界の金額の37.5%、総件数の36.8%のシェアを、買収国・地域側でみると、全世界の金額の38.5%、総件数の38.5%を占めた。このうち、EU域内のクロスボーダーM&Aが1,601億ドル(1,695件)となった。 2011年には買収金額100億ドル以上の大型クロスボーダーM&A(メガディール)も多くみられた。EU企業が関係する主要な事例としては、英国の電力企業インターナショナルパワー(IPR)による仏GDFスエズ・エナジーヨーロッパ&インターナショナル(ベルギー)との経営統合(250.6憶ドル)、オランダ通信サービス大手ヴィンぺルコムによる伊通信サービスのウィンドテレコムニカチオーニの買収(223.8憶ドル)、仏医薬品大手サノフィ・アベンティスによる米バイオ医薬品ジェンザイムの買収(208.6憶ドル)、英飲料大手SABミラーによる豪ビール最大手フォスターズ・グループの買収(124.2憶ドル)、米パソコン最大手ヒューレット・パッカード・ビジョンによる英ソフトウェアーサービスのオートノミー・コーポレーションの買収(103億ドル)があり、100億ドル超の7つの買収案件のうち5件がEU企業関連の案件であった。 このほかに、石油・天然ガスなど資源価格上昇の追い風を受けたエネルギー関連のM&Aが活発化した。とくに英国企業による大規模M&A案件が活発であった。主要の事例として、石油・天然ガスの分野では、英石油最大手BPによるインド石油・天然ガスのリライアンス・インダストリーズのガス田の採掘権の取得(90億ドル)、英石油・天然ガスのエンスコによる米石油・天然ガスのプライド・インターナショナルの買収(86.9憶ドル)、英BPによる米デボン・エナジーポープアセットの買収(70億ドル)などがあった。 〈投資残高は対外・対内でほぼ均衡〉最後に、EUの海外直接投資の2つの特徴点について簡単に述べておきたい。 まず、第1の点はEUの対外直接投資規模と対内直接投資規模がほぼ均衡していることである。EUROSTATの統計によると(注3)、2011年末のEUの対外直接投資残高(ストック)は11兆9,200億ユーロ、対内直接投資残高(ストック)は10兆1,197億ユーロとなっている。したがって、金額を基準にみた場合、対外直接投資の規模は対内直接投資の規模の約1.18倍とほぼ均衡している。 また、UNCTAD(国連貿易開発会議)の統計によると(注4)、EU主要国のうち、ドイツの2011年末の対外直接投資残高は1兆4,416億ドル、対内直接投資残高は7,137億ドルとなっており、対外直接投資の規模は対内直接投資の規模の約2.02倍とやや不均衡を示しているが、フランスの対外投資残高は1兆3,723億ドル、対内投資残高は9,638億ドルで対外投資の規模は対内投資の約1.42倍、英国の対外投資残高は1兆7,311億ドル、対内直接投資残高は1兆1,392億ドルで対外投資の規模は対内投資の約1.52倍とほぼ均衡している。 他方、米国の2011年末の対外直接投資残高は4兆5,000億ドル、対内直接投資残高は3兆2,931億ドルで対外投資の規模は対内投資の約1.37倍と、ほぼ均衡しているが、日本の場合、2011年末の対外直接投資残高は9,628億ドル、対内直接投資残高は2,258億ドルで、対外直接投資の規模は対内直接投資の規模の約4.26倍と大幅な不均衡となっている。 ちなみに世界の対外直接投資残高の第1位は米国で、以下第2位英国、第3位ドイツ、第4位フランスなどとなっており、日本は第7位である。また、対内直接投資残高では第1位米国、以下第2位英国、第4位フランス、第6位ドイツなどとなっているが、日本は第21位に止まっている。 第2の点は、EUの対外直接投資規模と対内直接投資規模が1国の経済規模を示していると考えられるGDP(国内総生産)と比較して非常に大きいということである。世界全体の対GDP比と比較してもこの事実が表2からも裏付けられる。 表2 EUと投資主要国の海外直接投資残高(ストック)対GDP比(2007年、2011年)
(注)上段数値:2007年、下段数値:2011年 (資料)UNCTAD:World Investment Report2012からジェトロ作成。 (出所)ジェトロ・ウェブサイト資料から作成(http://www.jetro.go.jp)(2013/04/06)。 EUの2007年と2011年の対外直接投資残高の対GDP比はそれぞれ51.5%、52.4%、対内直接投資残高の対GDP比はそれぞれ44.2%、41.4%となっている。 EU主要国にみてみると、フランス、英国の海外直接投資規模が自国の経済規模と比べて非常に大きいが、ドイツはEU平均を下回っている。EUは市場統合、通貨統合を通じて対外・対内経済開放度を高めつつ、相互依存度を深化させてきたが、海外直接投資の面でEU投資主要国間に格差が生じていることがわかる。 他方、米国の対外投資規模はそれぞれ37.5%、29.8%、対内投資規模は25.3%、23.2%と、ドイツに近似している。日本の対外投資が12.4%、16.5%、対内投資が3.0%、3.9%と極端に低い実態が明らかである。 いま、日本は「アベノミクス」への期待が大きく膨らんで、円安・株高の流れが、加速し、日本企業の本年度3月期の決算や14年度の業績見通しでは相次いで大幅な増収益(予想)が発表されている。急速な円安は、確かに日本からの輸出を容易にするだろうが、そうかといって、グローバル戦略を本格的に展開している日本企業(中小企業を含めて)が、海外に移転した海外生産(工場)を日本に簡単に移転できるような状況ではない。 さすれば、EUの海外直接投資の2つの特徴点から読み解く教訓としては、「アベノミクス」の3本の矢のうちの「成長戦略」の一つとして、日本経済の空洞化が懸念される中で、海外から外国企業の受け入れ余地がまだまだ大きいということである(注5)。 (注1) ジェトロ『世界貿易投資報告』(2012年版、21~22頁)。
(注2)トムソン・ロイター社データ(ジェトロ作成)(http://www.jetro.go.jp)(2013/04/03)、ジェトロ 前掲書、Thomson Reuters:Mergers & Acquisitions Review(2011)ほかによる。
(注3)EUROSTAT: EU direct investment outward stocks detailed by extra EU destination country, Direct investment outward stocks by main destination 、Direct investment outward stocks by main destination(http://epp.eurostat.ec.europa.eu) (2013/04/03)、 EUROSTAT: EU direct investment inward stocks by extra EU investing country ,Direct investment inward stocks by main origin of investment, (http://epp.eurostat.ec.europa.eu/) (2013/04/03)。
(注4)ジェトロ・ウェブサイト資料から作成(http://www.jetro.go.jp)(2013/04/06)。
(注5)日本経済新聞(2013/05/06)朝刊。
参考資料:
1. ジェトロ『世界貿易投資報告』(2012年版)http://www.jetro.go.jp/world/gtir/2012/pdf/2012-1.pdf)(2013/04/03)
2. ジェトロ・ウェブサイト資料(http://www.jetro.go.jp)(2013/04/06)
3. トムソン・ロイター社データ(ジェトロ作成)(http://www.jetro.go.jp)(2013/04/03)
4. 日本経済新聞
5. EUROSTAT: Direct investment outward(inward) flows by main country of destination(by main investing country), EU direct investment outward(inward)flows by extra EU country of destination(by extra EU investing country) (http://epp.eurostat.ec.europa.eu) (2013/04/03)
6. EU direct investment inward stocks by extra EU investing country ,Direct investment inward stocks by main origin of investment, (http://epp.eurostat.ec.europa.eu/) (2013/04/03)
7. Thomson Reuters:Mergers & Acquisitions Review(2011)
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