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フラッシュ213 |
2014年10月29日
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EUの通商政策とFTA戦略の展開(その1)-全方位のFTAネットワークの構築- |
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田中 友義 (一財)国際貿易投資研究所 客員研究員 |
49カ国・8地域とFTA締結済みか交渉中EU(欧州連合)が通商政策をグローバル展開する上で、様々な方法・手段でFTA(自由貿易協定)戦略を駆使してきた。EUは現在(2014年9月)、49カ国・8地域とFTA締結(発効・署名・合意)するか、あるいは交渉中であり、全方位のFTAネットワークを構築しつつある。ちなみに、日本は、17ヵ国・6地域とFTA締結済みか交渉中である(注1)。 EUがこれら諸国・地域と締結してきたFTAの名称は様々であり、そのうえ、関税障壁や数量制限撤廃を中核とする、いわゆる伝統的なFTAのほかに、サービス、知的財産権、投資、競争、資源、公共調達などの条項を含む高度包括的なFTA(日本ではEPA(経済連携協定)と称されている)、政治対話や経済協力などの要素も含む連合協定などの一部として含まれるFTAなど、協定の内容も多様である。 もっとも、このように多様なFTAも、国・地域や協定の目的によって、概ね3つのカテゴリーに分けることができる。 第1のカテゴリーには、主として、EU(EEC,ECを含めて)の統合・拡大過程において新規加盟を目指す欧州諸国との間で締結してきたFTAあるいは連合協定、同じように、EU加盟を前提として2000年代に中・東欧諸国などと締結した一連の連合協定の一部としてのFTAがある(表-1)。 第2のカテゴリーには、EU加盟国の旧植民地・海外領土などとの政治・経済関係の強化・維持の手段として締結されたFTAあるいは連合協定もしくはEPAがあり、いずれもEU加盟を前提とするものではない(表-2)。 第3のカテゴリーには、2000年代以降、新興国、アジア、日米など先進諸国との間で締結される高度包括的FTAが多い(表-3)。 欧州・近隣諸国へのFTA戦略の展開EU(EEC,ECを含めて)が拡大過程において新規加盟を目指す欧州諸国との間でFTAあるいは連合協定を締結している。EU(当時のEC)はEFTA(欧州自由貿易連合)(1973年発効、スイス、オーストリア、ポルトガル、スウェーデン)、ノルウェー(1973年発効)、アイスランド(1973年発効)との間でFTAを締結、EFTA加盟国であった7ヵ国のうち、英国を含む5カ国(オーストリア、デンマーク、ポルトガル、スウェーデン)がEU(あるいはEC)加盟を果している。また、1981年にEC加盟したギリシャは1962年に連合協定を締結していたし、現在EU加盟交渉中のトルコも1963年に連合協定(アンカラ協定)を締結している。 1990年代に入ると、1994年にEUはスイスを除くEFTA3カ国(アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン)とEEA(欧州経済領域)を設立、EU・EFTA間の経済面の共通化を一段と進めるなかで、アイスランドは2009年にEU加盟申請し、現在加盟交渉中である。 さらに、冷戦崩壊後の1990年代後半以降、EUが中・東欧諸国などと締結したFTAの多くは、EU加盟への「準備段階」として位置付けられる連合協定に含まれることが多い。事実、2004年5月のマルタ、キプロス(南側のギリシャ系キプロス共和国)を含む中・東欧など10カ国および2007年1月のブルガリア、ルーマニアの第5次EU拡大、2013年1月のクロアチアとの間で締結された連合協定(欧州協定と称される)は、これら諸国での政治的・経済的改革の促進を目的としており、EUの法体系(アキ・コミュノテール)の採択や政治的対話の枠組みの創設の受け入れまでを求めるものであるが、FTAが連合協定の一部として規定されている(注2)。 その後、西バルカン諸国(マケドニア、アルバニアなど5カ国)に対して、経済・政治・人権などの諸改革、財政的・技術的支援、全面的あるいは部分的な貿易自由化を含む、EU加盟への準備段階として締結した安定化・連合協定 (注3)やEUの東方パートナーシップ(注4)の対象である旧ソ連諸国(ウクライナ、グルジアなど6カ国)に対するDCFTA(深化した包括的自由貿易協定) (注5)を含む連合協定を締結している。
表-1 EU・欧州諸国・地域とのFTA締結状況(交渉中も含む)
(注)発効・署名・合意したFTA協定は2014年9月現在のものを示す。 ■地中海連合:EU28カ国、ENP地中海諸国9カ国、安定化・連合協定3カ国、モナコ、トルコ、モーリタニアの合計43カ国 旧植民地諸国・海外領土などへのFTA戦略の展開EUとEU加盟国の旧植民地・海外領土などとの政治・経済関係の強化・維持の手段としてFTAや連合協定、あるいはEPAが締結されているが、いずれもEU加盟を前提としないものである。広域的・包括的な枠組みとして、最も古くからある連合協定は、1964年に発効したアフリカ・マダガスカル18ヵ国とのヤウンデ協定である。その後、ヤウンデ協定は、1976年に発効したACP(アフリカ・カリブ海・太平洋)46ヵ国への開発援助の枠組みを定めたロメ協定(1976年第1次協定から1990年の第4 次協定)へと継承され、2003年に発効したACP77ヵ国との政治対話・開発協力・貿易の枠組みを定めたコトヌー協定は、WTOに整合的なFTAを2020年までに設立することを目指している。コトヌー協定ではACP諸国を7つの地域(注6)に分け、このうち、CARIFORUM(カリブ海地域フォーラム)諸国とは2008年から、東・南アフリカ諸国とは2012年からすでにEPA(経済連携協定) (注7)が暫定発効している。 また、フランスの旧植民地との二国間のFTAとしては、チュニジア(1998年発効)、モロッコ(2000年発効)、アルジェリア(2005年発効)などとの連合協定がある。なお、モロッコ、チュニジアとは、2013年からDCFTA交渉が開始されている。シリアとは1977年に協力協定、イスラエルとは2000年に、ヨルダンとは2002年に、エジプトとは2004年にEUとの連合協定がそれぞれ発効している。 スペイン、ポルトガルなどと歴史的関係が深い中南米地域とのFTAとしては、メキシコとのEPA(2000年発効)、チリとの連合協定(2003年発効)がある。また、MERCOSUR(南米南部共同市場、メルコスール)とは何度かの交渉が頓挫していたが、2010年からCFTA(包括的自由貿易協定)交渉が再開されている。メキシコ、チリとの連合協定は、これら2国がNAFT A(北米自由貿易協定、North American Free Trade Agreement、1994年1月発効), FTAA(米州自由貿易圏、Free Trade Area of the Americas、 2005年までに設立することに合意したが、現在は交渉中断)とFTAを締結することによるEUの競争上の不利益を回避するためのものであった。アンデス共同体については、ペルー、コロンビアとは2013年に、それぞれ貿易協定が暫定発効し、エクアドルとは2014年に貿易協定に合意している。また、中米共同体については、2013年から連合協定の貿易協定部分が発効している。 この他、従来の2国間ベースのFTAをより一層包括的にいくつかの連携国を束ねて交渉する動きがある。EUの領域と境界を接する地域を対象とするENP(欧州近隣政策)(注8)やEU・地中海諸国間の政治対話、多国間関係の促進などを目的として、地中海沿岸諸国15カ国が参加する地中海連合(バルセロナプロセス)が2008年7月に発足している(注9)。
表―2 EU・旧植民地・海外領土などとのFTA締結状況 (交渉中も含む)
(出所)表―1と同じ。 日米、新興国,アジア諸国などへのFTA戦略の展開これまで「最恵国待遇」(Most-Favoured Nation :MFN)ベースでの関係があった北米、アジアなどの諸国との関税障壁・数量制限撤廃を中核とする伝統的なFTAがある。しかし、2000年代後半以降、中国・インドなどの新興国、ASEAN(東南アジア諸国連合、Association of South-East Asian Nations)などのアジア、日米など先進諸国との間で、締結されるFTA戦略の中核となるFTAは、「新型FTA」あるいは「第2世代」と呼ばれる高度包括的FTAである。 北米地域では、カナダとは2009年からFTA交渉が開始されて、2013年にCETA(包括的経済貿易協定、Comprehensive Economic and Trade Agreement)に合意した。2013年からは米国との間でTTIP(環大西洋貿易投資連携協定、Trans-Atlantic Trade and Investment Partnership Agreement)が開始されている。これらのFTAはいずれも高度包括的FTAである。 アジア地域についてみると、ASEANとのFTA交渉が2007年に開始されたものの、2009年には交渉を中断して、個別交渉に移行している。シンガポール(2010年)、マレーシア(2010年)、べトナム(2012年)、タイ(2013年)とのFTA交渉を開始、このうち、シンガポールとは2013年に交渉合意に至り、2015年以降の発効を目指す。インドとのFTA交渉が2007年開始されたものの、現在交渉継続中である。 こうした中で、韓国とのFTA交渉が2007年に開始され、2011年暫定発効にこぎつけた。EU韓FTAは、EUが目指す新型FTAの第1号である。中国とは、2013年から包括的投資協定交渉が継続中であり、2013年からは日本とのEPA/FTA交渉(経済連携協定/自由貿易協定)が開始された。 WTOドーハ・ラウンド交渉が行き詰っている限り、2010年以降の通商政策の転換と相俟って、EUの通商政策やFTA戦略の展開は、これら地域・国へとその重心を移していくことになろう。
表―3 EU・アジア新興国・日米などとのFTA締結状況(交渉中も含む)
(出所)表-1と同じ。 通商政策の転換EUは、ブラジル、ロシア、インド、中国など新興国の台頭による世界経済の一段のグローバル化の深化に伴って、EUの従来の通商政策を見直し、大きく方向転換を図って来ている。 新たな通商政策やFTA戦略は、2020年までのEU中期成長戦略である「ヨーロッパ2020」の対外的側面の不可欠な要素を構成するものであるとして、米国、日本、中国、ロシア、ブラジル、インドなどの戦略的パートナーとFTA締結を大々的に進めることを重要目標にしている。 (次号につづく) 注:
1.日本のEPA(経済連携協定)締結・交渉状況は以下の通りである(2014年7月現在)。
①発効国・地域:シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN(東南アジア諸国連合),フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー(12ヵ国1地域) ②署名・合意国:オーストラリア、モンゴル(2カ国) ③交渉国・地域:TPP(環太平洋戦略的経済連携), RCEP(東アジア地域包括的経済連携), EU,日中韓、カナダ、コロンビア、韓国、GCC(湾岸協力理事会)(3カ国5地域) 2.EU加盟に関するコペンハーゲン基準(1993年)によると、①政治的基準(民主主義、法の支配、人権、少数者の尊重と保護を保証する安定した制度を有すること)、②経済的基準(市場経済が機能していること、域内の競争圧力と市場の力に対応できる能力)、③EUの法体系(アキ・コミュノテール)を受容することを満たしているかどうかなど、35の分野で審査される。また、2006年からの新基準として、EUが新規加盟国を受容できる能力に基づく審査が追加されている。
3.SAA(Stabilisation and Association Agreement)は、EU加盟を希望する欧州諸国との間で締結され、EU加盟の正式候補国としての経済・政治・人権・貿易などの諸改革を図るもので、その見返りとして、部分的・全面的な関税減免措置や財政的・技術的支援が与えられる。SAAは、概ねEUの法体系(アキ・コミュノテール)に基づいており、この法体系を程度の差はあれ、大部分対象国が受け入れることとなる。対象国は、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、セルビア、モンテネグロの西バルカン5ヵ国で、(注8)のENP(欧州近隣政策)の対象国に含まれない。
4.EP(Eastern Partnership)は、EUのENP(注8参照)のうち、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ、アルメニア、ベラルーシの旧ソ連6ヵ国に対する地域的協力関係を強化するために締結する連合協定。グルジア、モルドバ、ウクライナ、アルメニアといった潜在的EU加盟候補国が含まれる。2009年5月にスタートした東方パートナーシップは、地域の安定化のために、対象国との協力関係を4つのプラットフォーム(民主主義・良い統治・安定、経済統合・EUとの政策との収斂、エネルギー安全保障、人の交流)に沿って実施される。
5.DCFTA(Deep and Comprehensive Free Trade Area)は、連合協定の一環として締結されることもあるFTA。物品に関する関税の減免を対象とするFTAより広い範囲に及ぶだけでなく、政治・経済・安全保障上の紐帯を強化する意図がある。
6.南東部アフリカ(ケニアなど5カ国)、西部アフリカ(ナイジェリアなど23カ国)、中部アフリカ(カメルーンなど6カ国)、南部アフリカ(13カ国)、カリブ海(CARIFORUM15カ国),太平洋(パプアニューギニアなど15カ国)の7地域。
7.EPA(Economic Partnership Agreement)は、EU加盟国の旧植民地・海外領土などを対象とする開発支援(貿易発展、持続的成長、貧困の縮小など)を柱とする包括的協定をさす。日本などが呼称する高度包括的FTAであるEPAと区別する必要がある。
8.ENP(European Neighborhood Policy)は、2004年の大規模な中・東欧に対するEUの東方拡大に伴い、EU域内と域外との間の新たな断絶が生じないようにEUの領域と境界を接する近隣諸国との、より安定的な関係強化を推進する必要性が高まったために、2004年EUがこれら諸国との外交政策の枠組みとして発足させたもの。ENPは、北アフリカ、中東、東欧、コーカサス地域の16ヵ国を対象としており、EUは、これら諸国との関係の緊密化、民主化の推進、社会改革、経済改革を目指している。
しかしながら、ENPの対象国が地域的に広範囲にわたり、そのうえ、多様な価値観や文化、独自の歴史を有する国々が含まれることから、2008年以降、統一的な政策と国・地域の状況に適合した個別の政策を同時並行的に進めていくこととなり、その一環として、2009年からは、(注4) の東方パートナーシップがスタートしている。他方、地中海諸国(9カ国)は、EU加盟を前提としていない。 9.地中海連合(The Mediterranean Union)は、EUと地中海諸国間の政治対話レベルの格上げ、両地域間での多国間関係の促進、具体化のための様々なプロジェクトの実施を目的として、2008年7月スタートした。地中海連合の参加国はEU(28カ国)、地中海諸国・その他15カ国である。EUはEUの領域と境界を接する近隣諸国との安定的な関係を構築するために、すでに、2004年から(注8)のENPを進めてきている。また、1995年から取り組んできた「バルセロナプロセス」と呼ばれる枠組みの中で、政治・経済・文化的関係の強化を進めてきた。地中海連合は、この「バルセロナプロセス」を強化するものである。
参考資料:
ジェトロ(2013)「海外ビジネス情報・FTAの潮流と日本・世界のFTA一覧」(2013年11月)
European Commission(2013)、The EU’s bilateral trade and investment agreements-where are we?(MEMO/13/1080、Brussels,3 December2013)
European Commission(2014),Overview of FTA and other trade negotiations(Updated 16 September 2014)、
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