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フラッシュ246 |
2015年9月3日
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10年後の「真の欧州経済通貨同盟(EMU)」実現目指す
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田中 友義 (一財)国際貿易投資研究所 客員研究員 |
3段階からなるロードマップギリシャ金融支援交渉が緊迫化する中、欧州委員会のユンケル委員長は6月22日、トゥスク欧州理事会常任議長(いわゆるEU大統領)、デイセルブルム・ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)議長、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁、シュルツ欧州議会議長と連名で、経済通貨同盟の強化に向けた今後10年間の行動計画を提案した報告「欧州経済通貨同盟(EMU)の完成に向けて」(以下、「ユンケル・プラン」と記す)を発表した1)。EUの主要5機関の代表連名のEMU完成計画は、異例である。それだけにこのEMU完成に向けたEUトップレベルの思い入れが感じられる。 ユンケル・プランは、昨年10月のユーロ圏首脳会議でのEUの経済成長と雇用増大とEMUの円滑な機能の実現ための、経済政策の緊密な連携の必要性に関する合意を受けて、ユンケル委員長がユーロ圏における経済・財政ガバナンスの改善に向けた検討結果をまとめたものである。 ユンケル・プランは、今般のギリシャ危機を教訓として、深化した真のEMUの実現にはグローバルな競争力ある経済と、高度の社会的一体性を実現する必要があると指摘している。 ユンケル・プランは、遅くとも2025年までに、「市民に安定と繁栄をもたらす進化した真のEMU」を実現するため、3つの段階の目標を提案している(表1)。
(1)第1段階(2015年7月1日~2017年6月30日) この時期の目標は、既存の政策手段や現行の諸条約に基づき、競争力や経済構造の収斂を促進するとともに、欧州財政諮問委員会を創設し、EU加盟国とユーロ圏レベルで責任ある財政政策を実現、金融同盟(統合)を完成し、ヨーロピアン・セメスター2)を強化するなど、民主的な説明責任を強化することである。
(2)第2段階(時期は明示されていない) EUレベルでの責任を負う、ユーロ圏財務省の創設や、法的性質を持つ共通の収斂基準の設定により、収斂プロセスの拘束力を一層強めるためのより広範な施策を実施することを目標にしている。
(3)最終段階(遅くとも2025年) すべての施策が完全に実施されれば、深化した真のEMUが完成し、EUの全市民にとって、単一通貨ユーロを共有する、安定と繁栄した領域となり、(現在9ヵ国ある)非ユーロ加盟国がユーロに参加したいと望むような魅力的な場を提供できるとしている。ただし、具体的な完成像は今のところ示されていないが、今後のEUあるいはユーロ圏の首脳レベル、閣僚レベルの議論を経て、最終的の完成像が次第に明らかにされていくだろう。 欧州委員会は2017年春、第1段階の計画の進捗を評価し、EMU完成に必要な法的・経済的・政治的な前提条件について検討し、第2段階に進むために必要な施策の概要を示した白書を発表する予定である。これは、かつてのドロールEC委員長が発表した「1985年域内市場白書」をモデルとするものであり、その後の単一市場創設の法的根拠となった「単一欧州議定書(SEA)」へと繋がった。
表1.ユンケル・プランのロードマップ(2015~25年)
(注1)欧州安定メカニズム(ユーロ圏の常設の金融支援網、2012年10月始動)
ファンロンパイ・プランの進展2012年12月に発表された「ファンロンパイ最終報告」(以下ファンロンパイ・プラン)は3)、2010年以後の金融危機の収束や再発防止に向けた財政・金融統合の行程表を取りまとめたものであった(表2)。その後、ユンケル・プランが発表されるまでの約2年半の間に、4つの統合の分野で何が実現されたのだろうか。 まず、金融統合(銀行同盟)の分野では、銀行監督一元化(Single supervisory mechanism; SSM)が昨年11月から導入され、ECBがユーロ圏の大手銀行128行を集中的に監視・監督する権限を付与されている。 SSMに次いで重要なステップと考えられていた破綻処理制度一元化(Single resolution mechanism; SRM)については、今年1月に導入され、来年1月から始動する。 銀行同盟の制度設計で残された預金保険制度一元化((Deposit guarantees scheme; DGS)については、調和化が進む一方、加盟国間の意見対立が最も深刻であり、一元化の議論は先送りされていて、ユンケル・プランでも取り組むべき課題の一つになっている。 さらに、ユーロ圏の常設の金融支援網である欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism; ESM)による各国政府を経由しないで、経営不振の銀行に直接資本注入について、本年から可能となった。 次に、財政統合(財政同盟)の分野では、EUやユーロ圏の財政ガバナンス強化のための6つの法制(シックス・パック)が2011年12月に、2つの法制(ツー・パック)が2013年5月に、EMUの安定・協調・ガバナンスに関する条約(TSCG,通称、財政協定)も、2013年1月にそれぞれ発効し、財政統合に向けての着実な前進が見られた。 しかしながら、ファンロンパイ・プランの経済統合(経済同盟)分野については、あまり大きな進展は見られなかった。フランス、ギリシャなどの加盟国で構造改革が、遅々として進展せず、北部欧州と南欧との格差拡大を強めている。政治統合(政治同盟)の分野でも、反緊縮、反EUなどポピュリスト的な動きが内政面で高まる中で、予想以上に各国政府の内向き志向が強まり、ギリシャ問題での各首脳の対応ぶりをみても、国益を優先する意見対立が先鋭化するなど、欧州統合を深化しようという政治的意思が明らかに弱まりつつある。
表2 ファンロンパイ・プランのロードマップ(2012-13年から約10年間)
(出所)European Council(2012)、田中(2013)などから作成。
「欧州の結束」が問われている勝者も敗者もない「欧州流の解決」でひとまず、今回のギリシャのユーロ離脱は回避され、3年間で最大860億ユーロの第3次のギリシャ金融支援交渉がまとまった。今回の「欧州流の解決」が一時的な破綻を回避したに過ぎず、債務残高が増え続け、支払能力の低下からギリシャ問題が再び浮上し、ユーロ圏あるいはEU経済を大きく揺らすことは大いにありうるとの見方が強い。 EMUやユーロ誕生の政治的・経済的理由については、これまでも様々な視点から論じられてきているが、金融統合(ECBが統一金融政策を遂行)のみで、財政統合(ユーロ圏財務省のような単一機関がないので、統一的な財政政策が実施できない)・政治統合を欠くという、もともとの構造的欠陥を抱えているがゆえに、EMUおよびユーロは不安定である。 したがって、現下のユーロ危機やギリシャ危機をEMU改革のチャンスと捉えて、統合深化を優先させ、ユンケル・プランの果敢な取り組みによって、EMUおよびユーロの持続可能性を回復させる必要があろう。ユンケル・プランは今秋以降、EU財務理事会、ユーロ圏財務会合(ユーログループ)などのレベルでの討議を幾度も重ねて、最終的には今年末開催のユーロ圏首脳会合、欧州理事会(EU首脳会議)に正式に合意される予定である。今まさに、「欧州の結束」の政治的意思が問われている。
注および参考資料:
1) European Commission, Completing Europe’s Economic and Monetary Union(Brussels,22June2015)。
概要については、European Commission Press release(IP/15/5240,Brussels,22June2015),ジェトロ「世界のビジネスニュース」(通商弘報)(EU,2015年07月24日)を参照のこと。 2)EU加盟国間の経済・財政政策の協調サイクル。毎年上半期(1月-6月)にEU加盟各国は自国の財政政策および経済政策が、EUレベルで合意された目的に合致しているかどうか相互に確認し、もし合意の目的から外れている場合、調整するなどして、下半期(7月-12月)以降の自国の財政政策・経済政策の決定に反映させる一連のサイクルをいう。
3)European Council(President):Towards a Genuine Economic and Monetary Union
(Brussels,5December2012)。田中友義「EU統合深化の行方―ファンロンパイ報告から見えてくる道筋」(『季刊国際貿易と投資』2013年夏号No.92、91~104ページ参照のこと。 |
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