2015年8月22日に開催された第47回ASEAN経済大臣会議(AEM)の共同宣言で、ASEAN経済共同体(AEC)ブループリントの優先主要措置の実施状況は、91.5%と発表された。昨年の8月の首脳会議では82.1%、今年4月の首脳会議では90.5%と発表されており、実施率は上昇している。CLMVの実施率は93.1%~94.5%とASEAN6より高くなっている。
91.5%については、506措置中463措置を実施したとの説明のみであり、詳細な内容は発表されていない。2015年11月の首脳会議にAECスコアカードレポートとASEAN統合レポートが提出されることになっており、詳細な実施状況が発表される見通しである。
本資料は、昨年9月に作成したAECブループリントの実施状況をASEAN事務局の公式な資料をベースに更新・再評価したものである。昨年の表を含め、評価に使用したデータは、ASEAN事務局の公表資料を基本とし、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)やジェトロ、ITIなどの研究調査報告などを参考にしている。報告は、速報性、一覧性を重視したため、下記の表に簡潔にまとめている。各分野についての目標、計画の経緯や背景などについては、表作成の関係者が執筆者として参加した『ASEAN経済共同体と日本』(文眞堂)に詳しく説明されている。
AEC創設への作業計画の実施状況と評価に関する資料として、参考にして頂ければ幸甚である。なお、下表の評価は、執筆者が所属する機関・組織の公式見解ではないことにご留意いただきたい。
分野 |
主な目標 |
現在までの成果(2015年8月) |
2015年9月~12月の追加的成果 |
評価 |
備考 |
全体評価 |
|
主要優先措置506中、463措置(91.5%)が実施済。 |
11月の首脳会議においてポスト2015ビジョンを公表 |
○ |
1)残余項目は2016年末までに実施すべく努力
2)実施率の評価手法(スコアカード)を2014年に変更 |
関税 |
関税撤廃 |
ASEAN6は99.2%撤廃、CLMVは90.8%(15年1月) |
(特になし) |
◎ |
CLMV諸国は2018年までに関税品目表7%分を追加撤廃 |
非関税障壁 |
非関税障壁撤廃 |
撤廃は進展なし、透明性向上の努力が継続 |
①ASEAN Trade Repositoryを11月に立ち上げ
②貿易投資関連紛争の簡略解決手続き(ASSIST)を11月頃に立ち上げ |
× |
|
原産地規則 |
継続的改善 |
選択的原産地規則導入とASEAN+1FTAに拡大、FOB価額不記載 |
(特になし) |
○ |
統一した自己証明制度導入は、2016年にずれ込み |
税関業務円滑化 |
|
ASEAN通関申告書、ASEAN統一関税分類(AHTN)など進展。2015年にAFAFGIT第7議定書に署名 |
(特になし) |
○ |
AFAFGIT第2議定書署名が残された課題。また、現場での施行が課題。 |
ASW〈シングル・ウィンドウ〉 |
NSWの導入(ASEAN6は08年、CLMV12年)
7カ国でASWを実施 |
フォームDとASEAN税関申告書の交換の7カ国の連結テスト |
パイロットプロジェクト第2ステージを年内に完了 |
△ |
|
基準認証 |
いくつかの産品について基準の調和と相互承認協定(MRA) |
化粧品統一指令の国内法制化、電気電子機器のMRAの実施、薬品製造検査のGMPのMRA策定、医療機器統一指令 |
自動車、調整食品、建築材料、鉄鋼のMRA、伝統的薬品とサプリメントの技術要件の調和 |
○ |
協定は進展、実効性が課題 |
サービス貿易 |
128分野の自由化、第3モードは外資出資比率70% |
2014年に第9パッケージ妥結(104分野の自由化) |
第9パッケージ署名 |
○ |
1)第10パッケージ、新サービス協定(ATISA)は、越年の可能性大。
2) 第4モードは極めて限定。15%柔軟性規定により自由化例外が残存 |
金融サービス |
保険、銀行、資本市場、その他の4分野で各国別に自由化するセクターを特定し2015年までに実施、その他は2020年。 |
AFAS金融第6パッケージ署名。適格ASEAN銀行(QAB)制度に合意。 |
(特になし) |
○ |
当初よりブループリントで2020年までの自由化を許容している点に留意、ASEAN6は銀行を15年までの自由化対象から除外 |
熟練労働者の移動 |
自由職業サービスのMRA |
エンジニアリング、看護、建築、測量技師、会計、開業医、歯科医、観光の8分野署名。会計は新しいMRA署名
自然人移動協定(AMNP)署名
ASEAN資格参照枠組み(AQRF)採択(2014) |
(特になし) |
△ |
実効性が疑問 |
投資 |
ACIA制定、「最小限の制限」を残して自由化 |
ACIA制定(2012)、留保表(12)、ACIA修正議定書(14) |
留保表掲載分野の削減に着手 |
○ |
留保分野の削減が課題 |
資本移動 |
資本市場統合 |
ACMFでの各種取組み:証券取引所の連携、域内のクロスボーダーでの起債のための会計基準などの共通化 |
2020年までながら、①資本勘定の自由化、②金融サービスの自由化が提言され、さらに長期では、③決済システムの統合、④資本市場開発も推進 |
○ |
これまでの取組みは、マレーシア、シンガポール、タイの3カ国が先行実施している項目が多い |
競争政策 |
競争政策、競争法の導入
地域ガイドライン作成 |
8カ国で導入済
地域ガイドライン作成 |
(特になし) |
○ |
残りの2カ国はカンボジアとラオス。 |
消費者保護 |
専門家会合設置など |
専門家会合設置済、9カ国が消費者保護法策定 |
消費者保護法地域ガイドライン策定 |
◎ |
|
知的財産 |
特許協力条約、マドリッド議定書に加盟 |
特許協力条約8カ国、マドリッド議定書4カ国 |
(特になし) |
△ |
|
輸送円滑化 |
ASEAN通過貨物円滑化枠組み協定(AFAFGIT)、ASEAN国家間輸送円滑化枠組み協定(AFAFIST)、ASEAN複合一貫輸送枠組み協定(AFAMT)の締結・発効 |
AFAGITは9議定書の3つ(越境交通路の指定、鉄道の国境駅・積替え駅、危険物)が未発効、2つ(国境交易・事務所、トランジット通関)が未締結・未発効、AFAFISTは批准が3カ国(タイ、ベトナム、ラオス)、AFAMTは批准が4カ国(カンボジア、フィリピン、タイ、ベトナム) |
|
△ |
AFAGITの最終化が優先課題 |
陸上輸送 |
ASEAN高速道路ネットワーク(AHN)は道路格上げ
シンガポール昆明鉄道(SKRL)の未通部分の建設、修復 |
ミャンマー区間を除き道路インフラは整備が進展、鉄道事業は経済性などから遅滞 |
|
△ |
AHNのクラス1への格上げは2020年以降に繰り延べ
SKRL(東回り)も2020年以降に繰り延べ。鉄道はAECの枠外での整備に留意が必要 |
海上輸送 |
単一海運市場の創設 |
47指定港湾能力の向上、RoRo船ネットワーク整備 |
|
△ |
実現は2015年以降。 |
航空輸送 |
単一航空市場創設
第3の自由(自国から外国への輸送)、第4の自由(外国から自国への輸送)、第5の自由(以遠権)までの実現が目標 |
航空輸送部門統合に向けたロードマップ(RIATS)により措置の実施 |
|
○ |
第6の自由(本国をハブとする第3国間輸送)、第7の自由(第3国間輸送)、第8の自由(カボタージュ、他国の国内輸送)は含まれていない |
エネルギー |
ASEAN電力網(APG)は、2015年までに15のプロジェクト
ASEANガスパイプライン(TAGP)は、4500キロに及ぶ二国間パイプラインを敷設 |
APGは4つが一部完成を含め継続中、3が建設開始、8が準備中
TAGPは8本2300キロは稼動している |
|
△ |
APGの完成目標は2020年に繰り延べ
TAGPは東ナツナ開発にインドネシア合意
ガスパイプラインとLNG併用が進む |
租税 |
二重課税防止のための二国間協定を締結(2010まで) |
二国間租税条約のためのフォーラム設立 |
|
× |
|
電子商取引 |
域内電子商取引のためのインフラと法的枠組みおよび電子商取引実現 |
ICTマスタープラン2015採択、電子商取引相互運用技術の枠組みについての研究など各種施策を実施 |
|
|
|
中小企業 |
情報、市場、人的資源、金融、技術などへのアクセス改善による競争力と強靭性の強化 |
情報サービス整備は進展、開発ファンド、金融ファシリティーなどは遅れ |
中小企業行動計画の措置の実施、2015年後の行動計画のビジョンと目標の策定 |
△ |
|
域内格差是正 |
|
ASEAN統合イニシアチブ(IAI)の作業計画1を完了 |
IAI作業計画2を実施中 |
○ |
|
域外FTA |
ASEAN+1FTA締結 |
5本のASEAN+1FTA締結、インドとのサービス貿易投資協定締結
RCEP交渉モダリティに合意 |
RCEP協定実質合意、ASEAN中国FTA物品協定の更新、ASEANオーストラリアNZ FTA第一議定書の発効 |
◎ |
ASEAN韓国FTA第三修正議定書が16年1月に発効 |
(注)◎ブループリントの想定どおりあるいは想定以上の成果をあげている、○は概ねブループリントの想定どおり施策が実施されている、△ ブループリントの想定より実行遅れているが一定の成果がみられる、×は実施が大幅に遅れている、ことを示している。ブループリントの目標達成度の評価であり、自由化・円滑化実現の評価ではないことに留意が必要。
(出所)2014年9月に作成した内容を2015年9月に福永佳史が中心となり更新した。昨年の内容は、ASEAN事務局の資料、ERIA資料などにより、石川幸一・清水一史・助川成也・福永佳史が作成、輸送とエネルギーは春日尚雄氏(福井県立大学教授)、金融サービスと資本は赤羽裕氏(亜細亜大学講師)の協力を得た。
(注)本表は、(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員の石川幸一(亜細亜大学教授)、清水一史(九州大学大学院教授)、助川成也(中央大学経済研究所 客員研究員)及び経済産業研究所コンサルティング・フェローの福永佳史氏の4名が分担して作成した。また、輸送とエネルギーについては、(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員の春日尚雄(福井県立大学教授)、金融サービスと資本については、亜細亜大学大学院兼任講師 赤羽裕氏にご協力を頂いた。