一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2016/11/01 No.300踊り場のメコン経済…現状と展望(7)韓国企業のチャイナ+1、ベトナムで存在感

百本和弘
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
ジェトロ海外調査部 主査

ASEANビジネスの歴史が長い日本企業と比較すると、後発の韓国企業はタイ、マレーシアといった日本企業のビジネス基盤が強く、人件費が相対的に高い国を避け、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国に高い関心を寄せている。特に、ベトナムは、韓国企業にとって米国、中国、香港に次ぐ第4位の投資先である。

韓国企業の対ベトナム直接投資の特徴の一つは製造業の比率が高いことである。対ベトナム直接投資全体(累計額ベース)に占める製造業の割合は60.4%に達している。ちなみに、世界全体に対する直接投資では製造業の割合は34.4%に過ぎない。対ベトナム直接投資で製造業比率が高いことは、生産拠点設立関連の投資が多いことを示唆している。つまり、韓国企業にとって人件費の上昇する中国に代わる低コスト生産拠点の確保が必要になり、ベトナムが「ポスト・チャイナ」の本命として直接投資が集中している。

また、メコン地域の市場開拓にも熱心で、韓流の普及を通じて消費市場の開拓にも攻勢を強めている。ヤンゴン市内では韓国企業の看板が目立っている。かつて、60年代からヤンゴンに住んでいる日本人から、字幕スーパーで韓国語の韓国ドラマが、朝晩放映されていると聞かされたことがあった。その結果、韓国語が若い世代でブームとなり、日本人と韓国人を区別できないヤンゴンの人が韓国語で話しかけてきたと悔しそうな顔をしていた。ミャンマーをはじめメコン地域でも韓流とサムスンをはじめとする韓国企業の圧倒的な物量攻勢の前に日本ブランドは守勢に立たされているのではないか。

韓国企業のメコン地域おける事業展開をITIメコンサプライチェーン研究会(公益財団法人JKAの助成事業)のメンバーである百本和弘ジェトロ海外調査部主査より聞いた。(聞き手は大木博巳ITI事務局長・研究主幹)

Q.韓国企業は、人件費が割安なメコン地域(CLMV)への直接投資に高い関心を寄せています。メコンの中では、タイでは日系企業の存在感が大きく、入る隙間もないことも韓国企業のCLMVへの進出意欲を高めている。韓国企業のCLMVへの投資の現状を伺います。

-韓国企業の対外直接投資(実行ベース、以下同様)をみると、2000年代前半から半ばにかけて、対中直接投資が急増した。しかし、現地の人件費上昇などを受け、対中直接投資は2008年以降、伸び悩みに転じた。それに代わって注目されたのがCLMV諸国だ。特に、ベトナムに直接投資が集中している。直近の2016年6月末時点の対ベトナム直接投資累計額は137億4,400万ドルで、米国、中国、香港に次いで第4位の投資先になっている。製造業に限ると、83億800万ドルで、中国、米国に次いで第3位の投資先だ。

Q.ベトナム投資の特徴は?

-製造業が多いのが特徴だ。これは、韓国企業にとってベトナムが「ポスト・チャイナ」の本命になったことを示唆している。

-製造業の内訳をみると、2000年代中ごろまでは繊維・衣類、靴・皮革、電子部品など、労働集約型中小企業の直接投資が主体だった。しかし、2010年ごろからは、エレクトロニクス産業の進出が活発化している。きっかけはサムスン電子の携帯電話工場建設で、その後、同社はホーチミン市に、LG電子はハイフォン市にそれぞれ大規模な家電工場を建設している。

Q.サムスン効果でベトナムは、一夜にして携帯電話輸出大国に変貌しました。なぜこうしたことが可能になるのでしょうか。

-ベトナムの携帯電話輸出額は2015年に302億ドル。サムスン電子は2009年にバクニン省で携帯電話生産を開始(第1工場)、2014年にタイグエン省でも生産(第2工場)を開始している。第1工場の生産開始時には、現地は組み立て中心で、必要な部材は中国・韓国から輸入した。ベトナムは、安価で優秀な労働力のみならず、中国・韓国から近いために部材の調達に有利なことが大きなメリットだ。ただし、第2工場建設以降は、韓国の関連企業が現地工場周辺に進出し、企業集積が進みつつある。

Q.韓国の政府系シンクタンク産業研究院(KIET)は早晩、労働コスト目当ての進出は行き詰まると警鐘を鳴らしています。その兆候は出てきていますか。

-KIETは「ベトナム内の韓国多国籍企業の現況と示唆点」(「KIET産業経済」2016年6月号)を発表し、「在中韓国系企業や韓国国内企業が労働コストのみを考慮してベトナムに進出する戦略は、早い時点で困難に直面する」と警鐘を鳴らしている。実際、すでに人件費上昇に直面しており、今後は労働力確保が難しくなるとの見方もある。それでも、「ポスト・ベトナム」として誰もが注目する国はなく、当分、ベトナムに対する高い関心が続く見通しだ。

Q.ベトナム投資は、製造業の次は消費市場の獲得を目指した投資が活発化しているようです。これらの動向は?

-2000年代末ごろから韓国の外食チェーン、デパート、大型スーパーなどがハノイ、ホーチミンに進出している。特に、ロッテ・グループ、CJグループの進出が目を引く。前者はロッテ百貨店、ロッテマート、ロッテリア、ロッテホテルなどが、後者はベーカリーチェーン「トゥレジュール」、テレビ通販のCJオーショッピングなどが進出している。

消費市場狙いの韓国企業が共通して挙げるのが「先占(ソンジョム)」というキーワード。日本語で「先取り」に相当する韓国語だ。他社に先駆けてベトナムでの市場地位を固め、今後、消費市場が本格的に立ちあがった際に、成長の果実を得る狙いである。

Qカンボジア投資の特徴は?

-建設・不動産を中心に2000年代半ばから後半にかけて盛り上がったが、2010年以降は減少基調になっている。当時の建設・不動産の投資は全般的に十分な成果を上げていない模様だ。製造業では中小アパレル企業の進出が多い。その他では金融・保険分野でも進出がみられる。

Q.割安な労働力に恵まれているのはミャンマーです。韓国企業のミャンマーへの進出は?

-一時、ミャンマーへの関心が高まったが、最近は関心が低下している感がある。実際、対ミャンマー直接投資は2013年をピークに、2014年、2015年と減少が続いた。2016年6月末時点の対ミャンマー直接投資累計額は26億700万ドルで、23位の投資先、ベトナムの5分の1以下だ。特に、製造業に限ると、2億7,000万ドルで、33位の投資先、ベトナムのわずか3%の水準に過ぎない。韓国企業は、ミャンマーは人件費こそ安いものの、物流をはじめとしたインフラが不十分で、製造業にはあまり適さないとみているようだ。

Q.ミャンマーにおける石油・ガス田開発事業で、韓国企業は存在感を発揮していまが。

-ポスコ大宇(旧大宇インターナショナル)がそれで、同時に、韓国企業にとってミャンマー事業で成功した唯一の大型案件だ。同社はミャンマー沖の鉱区でガス田開発を行っており、2008年に中国・国有企業の中国石油公社(CNUOC)と約30年間にわたる天然ガス販売契約を締結している。

Q.ラオスでの活動はいかがでしょうか。韓国車の販売が好調と聞いています。

-対ラオス直接投資は限定的で、2016年6月末時点の累計額で3億2,200万ドルに過ぎない。他のメコン地域諸国とは大きく異なり、製造業の進出はほとんどない。目立つのは韓国西部発電、韓国水資源公社などの水力発電事業での進出だ。

自動車販売で、存在感があるのが1997年に韓国人企業家が現地で起業したコラオだ。中古車ビジネスから始めたが、ラオス経済の発展段階に合わせ事業分野を拡大し、現在では二輪車・四輪車の生産・販売、家電・家具販売、金融などにビジネスを拡大している。

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