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去る6月末から7月初めにかけて、イタリアの主要誌紙には、"Blackout"という英字が踊ったが、
かつて(1977年7月)のニューヨークの大停電を思わせるタイトルに目をひかれた。
実際には、ローマで一時間とか一時間半程度の停電、ボローニャあたりでは皆無、
ミラノでもそう大きな被害は伝えられていない。
しかし、なかには、冷凍庫のものがとけだしたり、エレベーターに閉じこめられて、大騒ぎした市民も出た。
これは、普通の年ならまだ電力に余裕のある6月に、イタリア半島が何百年ぶりとも言われる猛暑に襲われたため、
電力需要が急増し、最大供給能力 5万5,250メガワットの限界まで需要が近づいたためである。
イタリアでは、国民投票の結果、1988年末をもって原発は中止されており、
その後、15年近く慢性的な電力不足を抱えながら、フランス、スイス、スロベニアなどアルプスの向こうの隣国からの輸入で、
かろうじて電力需要をまかなってきた。
表1 イタリアのエネルギー源
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公称発電能力(Mw) |
国産供給能力(Mw) |
水力
火力
地熱
風力 |
20,439
55,100
665
746 |
13,450
34,750
550
200 |
| 合計 |
76,950 |
48,950 |
最大供給能力 国産供給能力
最大輸入量 |
55,250 Mw 48,950 Mw
6,300 Mw |
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最大需要電力
(2002.12.2現在) |
52,950 Mw
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(出所:2003年6月28日 La Repubblica)
イタリアは原発先進国フランスが主要輸入相手国で、同国に輸出余力がない場合は致命的事態となる。
今回も予定されていたフランスからの買電800メ ガワットをカットされたのが、直接的原因と言われる。
もちろん、この辺の危機的意識がイタリアにないわけではない。
主要紙の論調なども、イタリア半島は電力マーケットという観点からすると、
EU市場から切り離されており、安全保障上はまさに孤島並と警鐘を鳴らしている。
欧州も大陸諸国は火力か水力か地熱か風力か、さらには原子力かと各国の自由な選択に任せているが、
イタリアには原子力という選択肢がない(表2参照)。
せいぜい議論されているのは、イタリア南部に大規模な火力発電所を建設するという、
まだ具体化されていない計画があるだけだ。
表2 種類別電力生産と電力消費(%)


(出所:2003年7月10日 Le'spresso)
もう一つの問題は、イタリアの発電所は稼働停止状態のところが多い点である。
最近のL'espresso誌によると、発電能力のうち30%は休止しているし、
本格稼働は16ステーション中、わずか3ステーションとみられている。
また、ほとんどの施設がコスト高に陥っており、発電コストが優良と目されるのは、
ポルト・トッレ(サルジニア島)とブリンディジ(南伊プーリア州)だけと指摘している。
ENEL(イタリア電力公社)のパオロ・スカトローニ社長は、12カ月以内に、
1,200メガワットを再稼働し、また、2年以内に1,600メガワットを 追加できると明言、
さらに、2004年中には、新たに5,000メガワットの供給を約束しているが、需要側は従来の実績から、
それをそのままには受け取っていない。
そして、常にイタリア電力業界に潜在しているのは、原子力発電回帰へのノスタルジーである。
保守系の現ベルルスコーニ政権と、かつて、「オリーブの木」を率いた現EU委員長プローディとの間の原子力に対する考え方は、
明らかに相違している。原発の是非を蒸し返すことは、あたかもわが国の憲法9条をめぐる与野党の対立のように、
聖域を前にして足踏みしているようにも見える。
いずれにせよ、冷夏と原発再開のニュースで、電力不足がやや遠のいた感のあるわが国ではあるが、
先進国の中で東の日本と西のイタリアは、電力不足を抱える、まさに、列島と半島の2国であろう。
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