フラッシュ498
2021年11月15日
 

中国側から見たG20サミットの注目点

 
真家 陽一
(一財)国際貿易投資研究所 特任研究員
名古屋外国語大学 教授

 

2021年のG20(20か国・地域グループ)はイタリアを議長国として、2月26日に開催された財務大臣・中央銀行総裁会議を皮切りに21回にわたる閣僚会合が繰り広げられた(「G20イタリア2021」公式ウェブサイト)。また、アフガニスタン問題臨時サミット(10月12日)も行われた。そして、これらの議論等も踏まえて、10月30〜31日にローマでサミットが開催されるに至った。

サミットの前段として、習近平国家主席は9月7日、イタリアのマリオ・ドラギ首相と電話会談を行った(「新華社」2021年9月7日)。習主席は「現在、新型コロナウイルス感染症との闘いと世界経済の回復は重要な時期にあり、G20は国際経済協力の主要プラットフォームとして、真の多国間主義を堅持し、団結協力の精神を発揚し、感染症対策や世界経済の回復、包括的持続可能な発展の促進などでより多くのコンセンサスを結集し、グローバル・ガバナンスを正しい方向にリードし、力を合わせて共通の課題に対応すべきだ。中国はこの面でイタリアが役割を十分果たすことを引き続き支持し、イタリアのG20ローマ・サミットの成功裏の開催を支持する」と強調した。

他方、ドラギ首相は「中国が気候変動対応に積極的に努力し、貢献していることを称賛する。アフガニスタン問題に対する中国の重要な影響力を非常に重視している。G20などの多国間の枠組みの中で中国と意思疎通と協力を緊密にすることを希望する」と述べた。同会談の内容から、中国は新型コロナ対策、世界経済の回復および包括的持続可能な発展の促進、気候変動対応、アフガニスタン問題などをG20サミットの重要トピックスとして捉えていることがうかがわれた。

一連のG20閣僚会合およびサミットは中国にとってどのような意義があったのであろうか。本稿は、2021年のG20を振り返り、閣僚会合における重要トピックスを確認するとともに、サミットに先立って10月12日に開催されたアフガニスタン問題臨時サミットにおける中国の動向を概観した上で、10月30日から開催されたサミットにおける習主席の演説内容を基に、中国側から見た注目点を検証してみたい。

1.G20閣僚会合におけるトピックス

2021年のG20においては21回の閣僚会合が行われたが(表参照)、中国のみならず国際社会にとっても、最大のトピックスは10月13日の財務大臣・中央銀行総裁会議において「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する2つの柱の解決策に関する声明」で示された最終的な政治的合意が支持され、巨大多国籍企業への課税権と最低法人税率に関する新制度が取りまとめられたことであろう(注1)。

中国の劉昆財政相は「新しい国際課税規則は、人類の経済活動のあり方の新たな変化に対応したものであり、多国籍企業のクロスボーダー所得税の国家間の分配不均衡の問題を緩和し、税源侵食と利益移転の抑制および各国人民の利益の擁護に有利であり、公平で合理的な国際経済秩序の構築にとって極めて重要な現実的意義と深遠な歴史的意義を持つ」と指摘した(「新華社」2021年10月14日)。

また、劉財政相は「中国側は引き続きG20および経済協力開発機構(OECD)の枠組みの下で積極的な役割を果たす。つまり、多国間主義の精神と開放協力の態度を堅持しつつ、具体的な技術設計および協議に参画することで、多国間条約の署名と実行に積極的に取り組む。そして、国際課税体系をより公平で、より安定的で、より持続可能な方向に発展させるよう促し、世界経済の回復と成長プロセスをより速く、より良い方向に邁進させる」と表明した。

 

表. 2021年のG20閣僚会合の日程

資料:「G20イタリア2021」公式ウェブサイトを基に筆者作成

 

2.アフガニスタン問題に対する中国の動向

中国の王毅外相は8月29日、米国のアントニー・ブリンケン国務長官と電話会談を行い、アフガン情勢などについて意見交換した(「外交部ウェブサイト」2021年8月29日)。また、9月8日には近隣6か国による初の「アフガニスタン隣国外相会議」が開催され、王外相は「我々はアフガン問題の歴史的経緯を客観的に判定し、米国とその盟友に対し、教訓を深くくみ取り、然るべき責任を果たすことを要求する」と強調した。その上で、王外相は「①アフガンの新型コロナウイルス感染症対策強化への支援、②国境の開放維持、③難民・移民の管理コントロールの強化、④人道援助の早急な実施、⑤対テロ安全保障協力の深化、⑥麻薬取り締まり協力の展開という6つの面で重点的に協力すべきだ」と表明した(「外交部ウェブサイト」2021年9月8日)。

こうした前捌きを経て、10月12日に開催されたG20アフガニスタン問題臨時サミットにおいて、習主席の特別代表として出席した王外相は米国を念頭に「自らのイデオロギーを人に押し付け、何かと言うとすぐに他国の内政に干渉し、さらに軍事的関与に訴えるというのでは、混乱と貧困をもたらし続け、深刻な人道災害を招くだけである」と指摘した。その上で、王外相は「G20はアフガンの主権、独立、領土保全尊重の基本原則を踏まえ、アフガンと地域の平和・安定と繁栄・発展のために貢献しなければならない」と強調した(「外交部ウェブサイト」2021年10月12日)。

中国にとってアフガン問題に対する関心の向き先はテロ組織や武装難民の流入リスクを踏まえ、とにかくアフガンの統治を安定させるというところにある。アフガニスタン問題臨時サミットにおける中国側の発言は「内政干渉はやめてタリバン政権による安定を目指すべきであり、それには人道的な支援が必要なので、その資金は米国ほかG20でしっかり提供せよ」という意図があるものと思われる。

3.G20サミットの注目点

こうした事前調整等も経て、G20サミットに出席した習主席は10月30日、オンラインにより「団結して行動し、共に未来を創ろう」と題する演説を行い、①団結・協力し、手を携えて感染症と闘う、②協調を強化し、回復を促進、③広く恩恵をもたらし、包摂し、共に発展、④イノベーション駆動で原動力を掘り起こす、⑤調和・共生を図り、グリーンを永続という5点を建議した(「新華社」2021年10月30日)。

習主席の演説から注目点を検証すると、第1に、いわゆる「ワクチン外交」を通じて、今般のG20の重要トピックスである新型コロナウイルス感染症対策の主導権を握ろうとしたことが挙げられる。

習主席は2021年5月の「世界保健サミット」において、「新型コロナワクチン国際協力フォーラム」の開催を提案し、8月に成功裏に開催したことや(注2)、「一帯一路」ワクチン協力パートナーシップ・イニシアティブを立ち上げたといった実績を基に(注3)、「世界ワクチン協力行動イニシアティブ」を提起した。具体的には、①世界保健機関(WHO)が打ち出した2022年までに全世界が接種する目標の実行、②ワクチンの知的財産権保護義務免除による開発途上国への技術移転の奨励、③開発途上国のワクチン取得のための金融支援などの措置を建議した。

第2の注目点は、開発途上国の代表としてG20をリードしていくポジションを明確に打ち出したことだ。習主席は演説において、以下のような発言を行い、開発途上国を擁護する立場を鮮明にした。

  • G20は引き続き世界貿易機関(WTO)改革のために政治的にリードし、開発途上国の権益と発展の余地を保障すべきだ。
  • G20は発展をマクロ政策協調における際立った位置に据え、2030アジェンダ行動計画を実行し、アフリカと後発開発途上国の工業化実現イニシアティブを実行し、既存の発展協力メカニズムとの相乗効果を図らなければならない。
  • G20は共通だが差異ある責任の原則を堅持し、「国連気候変動枠組み条約」第26回締約国会議(COP26)の成功を支援すべきだ。先進国は排出削減問題で手本を示し、開発途上国の特殊な困難と関心を十分配慮すべきだ。

第3の注目点は、西側諸国がいわゆる「対中包囲網」を形成しようとする動きに対抗して、中国独自の「仲間づくり」を通じて自国側の陣営を構築していこうとする思惑も見えたことだ。

習主席は、「産業チェーン・サプライチェーンの強靭性と安定に関する国際フォーラム」の開催を提案。G20メンバーと関係国際機関の積極的な参加を呼びかけた。また、9月に国連で発表した「グローバル発展イニシアティブ」に関して(注4)、「グローバル発展を後押しするG20の趣旨および重点方向と高度に合致しており、各国の積極的参加を歓迎する」と表明した。さらに、「デジタル経済パートナーシップ協定(以下、DEPA :Digital Economy Partnership Agreement)」への加盟申請を決定したことも明らかにし(注5)、「各方面と力を合わせ、デジタル経済の健全で秩序ある発展を図る用意がある」と強調した。

なお、中国のDEPA加盟申請に関して、商務部研究院EC研究所の杜国臣副所長は、「既存の貿易・投資協定以外に、デジタル経済の協定を単独で打ち出すというトレンドを代表していることで、世界初のデジタル経済に関する重要なルール設定となる」と述べた。その上で、杜副所長は「中国がこのたびDEPA加盟を申請したことから、グローバル経済ガバナンスに参加しようとする中国の決意がはっきり固まったことが見て取れる」との見方を示した(注6)。

米中対立が激化し、対中包囲網が形成されつつある中、中国は孤立を回避すべく、「一帯一路」や経済協力、感染症対策等を通じて関係国との連携強化を図ろうとしてきた。今般のG20サミットでは「産業チェーン・サプライチェーンの強靭性と安定に関する国際フォーラム」の提案や「グローバル発展イニシアティブ」への参加の呼びかけ、DEPAへの加盟申請の表明など、グローバル・ガバナンスのリードに向けた新たな動きを見せており、今後の推移を注視していく必要があろう。

 

注1. 第1の柱では、多国籍企業(全世界の売上高が200億ユ-ロ超、かつ税引き前利益率が10%超)の収入の10%を超える利益の25%をネクサス(課税の根拠となる結びつき)のある国・地域に配分する。また、第2の柱では、国際的な法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけるべく、最低法人税率(15%)を導入する。
注2. 習主席は5月21日、G20を中心に新型コロナ対策の国際協力について議論するために開催された「世界保健サミット」において行った演説の中で、世界の団結・防疫を引き続き支援するため、「ワクチン協力国際フォーラム」の設立を呼びかけた(「新華社」2021年5月21日)。これを受けて、8月5日に新型コロナワクチン協力国際フォーラム第1回会議が開催され、23か国による共同声明が発表された(「新華社」2021年8月5日)。なお、23か国はアルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、ハンガリー、インドネシア、ケニア、マレーシア、メキシコ、モロッコ、パキスタン、フィリピン、セルビア、南アフリカ、スリランカ、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン。
注3. 中国は6月23日、「一帯一路」アジア太平洋地域国際協力ハイレベル・オンライン会議を開催した。会議では29か国が共同で発起した「一帯一路」ワクチン協力パートナーシップ・イニシアティブが公表された(「外交部ウェブサイト」2021年6月24日)。なお、29か国はアフガニスタン、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、チリ、中国、コロンビア、フィジー、インドネシア、カザフスタン、キルギス、ラオス、マレーシア、モルディブ、モンゴル、ミャンマー、ネパール、パキスタン、フィリピン、サウジアラビア、シンガポール、ソロモン諸島、スリランカ、タジキスタン、タイ、トルクメニスタン、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、ベトナム。
注4. 習主席は9月21日、第76期国連総会一般討論で行った演説において、「新型コロナウイルス感染症による深刻なダメージに直面し、我々は世界の発展を均衡・協調・包摂の新たな段階に共同で進めなければならない」と指摘。①発展優先の堅持、②人民中心の堅持、③包摂の堅持、④イノベーション駆動の堅持、⑤人と自然の調和・共生の堅持、⑥行動志向の堅持を骨子とした「グローバル発展イニシアティブ」を提唱した(「中華人民共和国中央人民政府ウェブサイト」2021年9月22日)。
注5. DEPAはシンガポール、チリ、ニュージーランドの3か国がデジタル分野の協力強化を目的に2020年6月に調印した協定。
注6.「中国はなぜDEPA加盟を申請したのか?その影響は?」人民網日本語版 2021年11月4日