フラッシュ71

2004年8月11日

 

中国カードを強化するブラジル外交(3/5)

 
(財)国際貿易投資研究所  客員研究員
名古屋文理大学教授 内多 允
 

対中関係を牽引するブラジル資源産業

  両国の直接投資の規模も拡大に向かっている。中国側の数字(04年5月21日新華社電)によれば03年末現在でブラジルにおける中国資本の企業は73社(出資総額1億2,900万ドル)である。一方、中国におけるブラジル企業は312社(同8,900万ドル)であると伝えている。特に資源関連企業の投資プロジェクトへの投資規模が拡大している。中国の工業発展に対応するための資源を安定的に確保するためには、海外からの輸入が不可欠である。ブラジルはこのような中国の期待に応え得る国である。中国は鉱業資源を安定的に確保すべく、ブラジルへの直接投資に着手している。その主なパートナーはCVRD(リオドセ社)とペトロブラス(国営石油会社)である。

  リオドセは世界最大の金属鉱石(主に鉄鉱石)の生産・販売会社である。同社にとって中国は極めて重要な輸出先である。同社は04年7月より、同社として始めての銅鉱石の採掘をカラジャス鉱山で開始したがこれも主な輸出先が欧州と並んで中国を狙っている。この銅鉱山の開発には02年から4億1,300万ドルが投入された。銅鉱石の品位(トン当たり)は銅1%、金0.26グラムと評価されている。その鉱石から銅精鉱への加工量は年間46万7,000トン(14万トンの銅に相当)を見込んでいる。今後、リオドセは2010年までの銅生産への投資額を20億ドルと予想し、銅精鉱の年産量を65万トンに引き上げる計画である。

  中国はブラジルからの鉄鉱資源の供給体制を一層強化するために、リオドセとの関係を長期買付け契約に加えて投資におけるパートナー関係をも強化している。中国最大の鉄鋼メーカーである上海宝鋼集団公司(Baosteel)とリオドセ両社は04年2月、ブラジルで合弁製鉄所建設の事業化調査を始めることに合意した。同調査はドイツと中国のエンジニアリング会社であるFerrostaal AGとCISDI Engineering Co.,Ltdが担当する。

  リオドセの発表(04年2月2日)によればブラジル東北部のマラニョン州で、年産能力370万トンのスラブ生産の高炉一貫製鉄所建設を目指している。詳細な計画は公表されていないが、報道によれば15億ドルを投資して、07年か08年に鉄鋼年産能力370万トンの工場を立ち上げ、将来はこれを750万トンに引き上げることを計画している。この鉄鋼プロジェクトは、中国にとってかってない規模の海外直接投資である。

  中国は鉄鋼産業原料である石炭とコークスについては、リオドセと中国で合弁投資による生産を決定した。石炭を原料とするコークスは高炉の中で鉄鉱石を還元する材料として、製鉄部門では欠かせない。中国では鉄鋼生産の拡大により、コークスの需要も増加している。これらの投資プロジェクトはルラ大統領訪中の時期に合わせて、発表された。リオドセと中国側2社(Baosteel、永城媒電集団)による合弁企業は中国有数の産炭地である河南省で石炭を生産する。永城媒電集団(Yongcheng Coal & electricity Group)が所有する3鉱山における石炭の年産能力は合計800万トンに上る。

  コークス生産についてもリオドセは、中国で合弁企業設立に同意した。そのパートナーであるYankuang Groupのコークス年産能力は20万トンである。その合弁生産は2006年に始まり、生産量の25%をブラジル輸出する計画である。リオドセはYankuangが山東省で所有する鉱区での石炭生産も検討している。これが可能なら2007年からの操業を予定している。

  中国では需要が増え続けているアルミニウムを増産するためには、その主要原料であるアルミナの確保を迫られている。そのために、アルミナを国外で確保するための合弁生産のパートナーにリオドセを選んだ。アルミナの生産と販売もリオドセの重要な事業部門である。中国最大のアルミメーカーである中国=業(=は金偏に呂 日本語訳は中国アルミ、英語名称はthe aluminum Corporation of china Ltd.略称 Chalco)は5月24日、リオドセと合弁でブラジルでボーキサイト採掘とアルミナ生産とその対中輸出を取り決めた。アルミ産業は大量の電力を必要とする。中国の電力事情は必ずしも楽観できないだけに、ブラジルでの生産はアルミの安定供給に役立つ。この取り決めによれば、リオドセとChalcor両社はブラジルのパラ州でアルミ精錬工場を建設するための共同調査始める。パラ州で設立予定の同工場のアルミナ年産能力は07年に180万トンからスタートして、最終的には720万トンに引き上げる計画である。

  中国は供給拡大に迫られている石油についても、ブラジルの国営石油会社(ペトロブラス、PETROBRAS)との提携を強化して安定的な供給源確保を目指している。中国の石油企業は第3国における石油資源開発についても、ペトロブラスとの提携に強い関心を持っている。ペトロブラスはルラ大統領訪中時(5月22日)に北京事務所を開設した。この開設セレモニーにはルラ大統領も出席して、石油資源確保についても両国の提携関係強化の姿勢を内外にアピールした。ペトロブラスはビジネスの進展状況によっては、中国で子会社を設置する意向も示唆している。この日にペトロブラスと中国石油化工(SINOPEC、シノペック)は油田開発や石油生産に関わる提携協定を締結した。同協定の有効期間である06年6月までの具体的な提携内容については今後の協議に委ねられている。中国側は鉄鋼部門と同様にブラジルへの投資によって、石油や天然ガスの確保にも関心を持っている。例えば、ペトロブラスは新しい石油精製プラントを共同投資の形態(投資額10億ドルで原油処理能力は日量20万バレル)で、建設する事を計画している。同計画による建設は07年に着手して、10年か11年初めに稼動する予定である。また中国はブラジル国内における天然ガスのパイプラインや液化プラントの建設にも注目している。シノペックは04年8月に予定されているブラジル国内における第6回石油鉱区探査・採掘権の入札に、ペトロブラスと共同で参加する事を予定している。

  また、両社の提携対象には南米や中東、アフリカにおける石油資源の共同開発も協議テーマとなっている。技術的な面では、シノペックはペトロブラスの深海採掘技術に、ブラジル国内の資源についてはこれから本格的な採掘が予定されているサントス海域の天然ガスにそれぞれ関心を示していると報道されている。第3国での共同開発については、エクアドルやイランでの石油採掘が取りざたされている。

  ペトロブラスは中国海洋石油(CNOOC)と中国領海での石油探査を共同で行う交渉を開始している事も明らかにした。CNOOCはペトロブラスに対してインドネシアやオーストラリア、ナイジェリアでの共同石油探査を提案している。

  ブラジルからの報道によれば、ペトロブラスは前記のエタノール(燃料アルコール)・同生産技術の対中輸出についても商談を開始しているという。ブラジル国内ではペトロブラスの系列輸送会社であるTranspetroが、今後4年間に2億ドルを投資してエタノール輸送パイプライン拡大を計画している。この計画によればサンパウロの精製プラントからリオデジャネイロのペトロブラス・ターミナルに至る790キロメートルのパイプラインと関連インフラを建設して、エタノールを輸送する構想である。これが実現すれば同社のエタノール年間輸送量は15億リットルから40億リットルに増大する。ブラジル政府はエタノール輸出市場としては日本と中国を有望視している。そのための輸送インフラを充実させるためには、ペトロブラスと企業による合弁投資も受け入れる方針である。

  中国政府はブラジルからの農産物や地下資源を安定的に確保するために、ブラジル国内のインフラ部門への投資にも関心を払っている。具体的な投資案件はまだ実現していないが、鉄道や港湾施設への投資が期待されている。ブラジル政府は輸出拡大に役立つインフラ部門である道路や鉄道、港湾への投資拡大のためには、外資を含む民間投資の受け入れも考慮している。中国側はブラジルの輸送・港湾インフラを充実させることのよって、農産物や鉱業資源の輸入コストが下がる効果を狙っている。

  中国の南米へのインフラ・資源への主な投資はまだ他の投資国に比べて小規模である。その主な投資はベネズエラでの石油生産やペルーでの鉄鉱石鉱山買収である。今後ブラジル国内での投資が拡大すれば、南米における中国の存在感は一層高まるだろう。これに加えて、中国に関係の深い企業の活動も無視できない。例えば、中国と国交関係がないパナマでは中国との関係が深いと見られている香港企業のハチソン・ワンポアの現地法人(Panama Ports company)が、パナマ運河をつなぐバルボア港(太平洋側)とクリストバル港(大西洋側)のコンテナー港を運営している。両港はパナマにおける港湾民営化実施の際に経営権(コンセッション)がハチソン・ワンポアに供与された経緯がある。金融部門ではロンドンを本拠地とするHSBCグループが中南米で、系列銀行のネットワークを構築している事も無視できない。香港や中国との金融取引に強固な地盤を築いている香港上海銀行も同グループの重要な金融機関である。ちなみにHSBCは香港上海銀行が1991年にロンドンで設立した持ち株会社で、97年に英国の殖民地である香港が中国に返還されることに対するリスクに備えた措置であったと指摘されている。中国からブラジルへの資源やインフラへの投資が具体化するようになれば、中国と香港の主要企業によるチャイナグループの南米における重要性は南米・アジア間の経済活動に加えて、外交関係にも微妙な影響を及ぼすことも予想されよう。