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海外ビジネス余話…「新興国企業とのビジネスの進め方」 |
2014年5月23日 |
エジプト企業と日本のフードフランチャイズ交渉 |
川合 麻由美 |
エジプトのE社から日本の食品加工業J社のフランチャイズ契約を得たいとしてコンサルティングを依頼された。E社は既にJ社とメールのやり取りで交渉を重ねた末、J社から交渉打ち切りを通達され、当方に打開策を求めてきたのだった。 メールのやりとりで浮き彫りになったのは双方の誤解である。E社は初めから重要なフランチャイズ交渉過程をとばし、価格・材料のコスト面の詰めやエジプトでのロケーションの確認などに固執し、一方的に要求する態度がJ社の嫌気を呼んだ。フランチャイズ交渉未経験のうえにゴリ押しばかりの態度に、J社は交渉を打ち切った。E社がメールで要求した情報、そのスタイルはエジプト人にしてみれば異例のものではない。実務的で簡潔なのだが、英語圏の人間からはビジネスマナーに外れたメールであった。残念なことに、そのような意図を持って書かれたものではなく、実際に対面で会えば全く違う印象を与える方であるので、メールのやり取りが取り返しのつかない誤解を生み交渉決裂に至った最たる例である。 まずJ社が最終的にE社との交渉を断念したのかどうか問い合わせた。分かったことは、E社との交渉を打ち切った後、新たにエジプトのX社がJ社のマスターフランチャイズ権獲得の交渉に参入していた。X社は既にE社と競合するフランチャイズをエジプト国内で展開していた。このためまだ勝算ありと判断し、E社の利点を強調した。実際J社のフランチャイズ商品に対するE社の入れ込み様は相当なもので、海外出張の際には同様商品を写真に撮る、試食する、重さ・サイズを図る、揚句は店主に投入資金を聞き出すほどであった。E社のこうした努力をJ社は知る由もなかった。幸い弊社の仲介でコンサルティングを含め代理人として行うことを通知、交渉再開まで漕ぎつけた。 E社はもっぱら中国との取引を主にした資金力豊かな同族企業で、食品・フランチャイズ関連事業は初めてであった。概ねJ社からの契約資料には目を通した程度で、細部まで読み込んでいなかった。替わって当方が権利獲得までのプロセス、必要とされる人材、品質基準に合致した原材料調達、可能なマーケティング等を説明したうえ、マスターフランチャイズ権獲得交渉の意思を確認した。E社の顧問弁護士もフランチャイズが初体験であったため、説明は念入りに行う必要があった。また実際にフランチャイズが獲得できた際の事業運営が可能かどうか、事前の心構えを促す意味合いもあった。一般的に途上国の高めの関税はコストアップの要因になる。E社も必要食材の配合度合いにより関税が変わるため、食材の詳細や輸送のコストにこだわった。E社からの照会に対して、「そういう話はもっと煮詰まってから」というのがJ社の常識のようだった。一方のE社にしてみれば、前金でコストはかさむし、輸入原材料のコストも最優先の判断材料だった。交渉当時のエジプトはイスラム同胞団が経済を安定させることができず、お世辞にもビジネスを拡大する客観情勢にはなかった。現在に至っても同様であるが、当時も停電が多く、港湾の倉庫における保管状態に不安もあった。J社の標準的フランチャイズ交渉の条件にそぐわない点があったことは確かだ。そのためJ社に多少融通に欠ける点もあったが、E社の熱意が勝って最終段階まで漕ぎ着けた。最後のヤマは前金の支払いだった。契約書に記載があるとは言え、前金の概念を理解させるのが一苦労だった。 一難去ってまた一難。エジプトポンドが対ドルで大幅に下落した。一層下落するという見方もあった。当然E社の支払い負担は下落分だけ膨らむ。必要な食材の輸入コスト、ドル払いのロイヤリティーが大方の利益を食いかねない。のっけからJ社との支払問題が発生する可能性も否定できない。敢えて支払いを行いサインすればマスターフランチャイズ交渉権獲得という土壇場で、交渉の停止・延期を助言した。最終決定はエジプト企業が行い、交渉の一旦停止となった。 この例はエジプトがフランチャイズに向かないということではない。 E社という特定の企業が結果的にフランチャイズ交渉を断念した事例である。不安定な経済環境も足を引っ張った。マクドナルド、KFC、スターバックス等をはじめ、エジプトには欧米系のフードフランチャイズが多々あり、成功を収めている。また、コールドストーンクリーマリー, アンティアンズ等の前述のフランチャイズより知名度の低い企業も進出している。こういったフランチャイズのマスターフランチャイズ権獲得企業には、大企業のみならず資金のある、やる気に燃える若手起業家グループなども見受けられる。欧米企業に負けることなく、フードフランチャイズに限らず、エジプトでいつか日本のフランチャイズ展開がされることを望みたい。 |
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