フラッシュ221
2015年3月5日
 

東北発「世界と共有する防災・減災への取り組み」~第3回国連防災世界会議が仙台で開催~

 
山崎 恭平
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
 

1000年に一度といわれたM9.0の巨大地震と大規模な津波被害、それに東電第1原発事故による放射能汚染が複合した東日本大震災は、発生してから間もなく4年が経過する。復旧復興は遅れまだ道半ばであるが、2015年3月14日から18日まで被災地仙台市で世界193カ国や国際機関から5万人以上が参加する第3回国連防災世界会議が開催される。市内では初の5000人規模の収容能力がある本会議の国際会議場が完成し、350件以上のテーマのシンポやセミナー、展示から成る一般市民向けのパブリック・フォーラムの準備が着々と進んでいる。近年世界的に大規模な災害が頻発している中で、仙台での会議は被災経験や教訓、防災の知見をどのように世界に発信できるのか。会議の意義を準備状況から展望し、次に復旧・復興過程で見えてきた東北地方にとって注目される「防災ツーリズム」の可能性について考察する。

1.日本の被災経験を踏まえる国際防災戦略

近年、世界的に大きな災害が頻発して人類の安全・安心な生活が脅かされるようになり、国際社会は防災についての取り組みが急がれてきた。国連は、国際社会が一体となって防災の指針を議論するために第1回会議を1994年に横浜市で開催し、持続可能な経済成長のために「災害に強い社会をつくる防災戦略」の理念を初めて示した。その10年後の2005年には阪神淡路大震災を経験した神戸市で第2回世界会議を開催し、各国家が防災を優先課題として取り組むことや一般市民への早期警報体制の向上等の指針を示した「兵庫行動枠組」をまとめた。それから10年後の今年2015年の3月14日(土)~18日(水)には、第3回世界会議が東日本大震災で被災した仙台市で開催され、これからの防災戦略を話し合う段取りである。

これまでの3回の国連防災世界会議はいずれも日本での開催で、大きな災害を経験し防災の知見を積み上げてきた防災先進国の日本が開催地に選ばれている。IMF・世界銀行も、年次総会が東京で48年ぶりに開催された2012年に、開発を進める中で災害被害が大きくなっている状況を踏まえ、仙台市で「防災と開発」をテーマとする防災会合を併設した。

国連による国際的な防災に関する現行「兵庫行動枠組」の3つの指針や5つの優先行動は別表1に示した通りで、世界各国は2005年から2015年の10年間で「災害に強い国やコミュニティの構築」を目指してきた。この枠組みに対する実施状況の評価報告書(国連国際防災戦略事務局、2013年4月)によると、国レベルの防災制度・組織の整備や災害応急対応準備体制は比較的進展してはいるが、災害の経済的な被害は増加しインフラ整備等は比較的遅れている。そして、都市化の進展や気候変動、グローバル経済の進展による災害リスクが拡大しているとして、新たな課題への対応を強化してゆく必要性を訴えている。

このような評価の下に、第3回国連防災世界会議では兵庫行動枠組みの実施状況を点検し新たな課題を踏まえて、災害による犠牲者や経済損失等の被害軽減に向けて数値目標を盛り込み、より実効性のある後続取組案が議論される予定である。また、この2月に事前協議で仙台を訪れたマルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)は、東日本大震災の経験や復旧・復興の教訓は貴重であり、会議を機に日本の防災・減災策を世界と共有したいと期待を述べている。

会議の成果は新たな取組案やコミュニケで明らかにされるが、国際的な開発目標への防災の視点や気候変動に係る国際条約の取り組みにも反映される。すなわち、2015年は発展途上国の貧困の半減等をうたったミレニアム開発目標(MDGs)の最終年で、「ポストMDGs」の開発アジェンダが策定される運びである(注1)。また、地球温暖化防止の気候変動条約は、一定の成果を上げた「京都議定書」の取組(2008~2012年)の後続案がまとまらず、2030年をめどに2015年中にも合意が目指されている。地球全体の持続的な環境保全を図る開発と人類の安全・安心を守るための国際的な協力を推進する上で、間もなく仙台市で開催される第3回国連防災世界会議の意義は大きい。この会議で日本の知見や教訓が発信できれば、世界への国際的な貢献になると思われる。

2.東日本大震災の経験と教訓を世界に発信

第3回世界会議は、主催都市の仙台市にとってこれまでにない大規模で本格的な国際会議で、全国連加盟国や関連の国際機関から代表や関係者が5万人を超えての参加が見込まれる。仙台市自体も大きな被害を受けまだ随所に復旧・復興の現場を残すが、市は市民や企業と「協働」し「防災人」として会議をおもてなししようと積極的に準備を進めてきた。

会議は5日間にわたり、本体会議と関連事業から成る。本体会議は、各国の首脳や閣僚、国際機関代表がこれからの世界の防災戦略を協議するもので、新たに国際会議場を併設した仙台国際センターで行われる、もう一つは関連事業の「パブリック・フォーラム」で、一般市民も広く参加できる広範な取り組みで準備に力が入れられてきた。

このフォーラムは、大きく分けて3つの取り組みから構成される。第1は政府と地元実行委員会が主催し、より良い復興と新たな防災のあり方をテーマとする「東日本大震災総合フォーラム」が東北大学百周年記念会館の川内萩ホールで開催される。ここでは、日本政府や仙台市、学会の大震災の取り組みや防災対策が報告されるほか、文科省、UNESCO、宮城教育大学によるEDS(持続可能な開発のための教育)、JICAによる日本の防災文化と知見の国際防災協力に関するフォーラム等が開催される。第2は国内外の350以上の団体が開催するもので、テーマは防災、減災、復旧・復興に関するシンポジウムやセミナーから成り、会場は仙台市内、宮城県内のほかに、青森、岩手、福島の被災3県で行われる催しもある。第3は気軽に立ち寄り見学できるパビリオンや展示で、震災を乗り越え未来に向かって進む東北の姿を写真や映像で発信する「東北防災・復興パビリオン」、国内外の出展者が防災・減災・復興の取り組みや技術・製品開発を紹介する「世界の防災展」や「世界の減災産業展」で、230に及ぶ多彩な展示から成る。

今後10年にわたる国際的な新たな防災行動指針や枠組は本会議で議論されるが、パブリック・フォーラムのセミナーやシンポでは、身近な切り口で防災の重要性を取り上げ発表し意見交換するのが仙台会議の特徴である。仙台市は団体や企業を公募したところ370を超す応募があり、この中から350の事業を採用した。2005年の前回神戸会議の5倍以上となり、世界的な防災への関心の高まりを示すものとなった。

シンポやセミナーは多彩なテーマや切り口から防災を取り上げ、インフラやIT、医療、教育、宗教といった観点のほかに、ボランティア、女性や地域コミュニィ、町内会の防災といった身近な内容や四川(中国)、アチェ(インドネシア)等海外の災害経験も報告される。このうちいくつかは事前の催しで紹介されてきたが、市民を含めて多岐にわたる防災の担い手が多くの実践的な防災のあり方を発信することが期待されている。仙台市は、多くの最先端の取り組みを広く紹介するためにホームページのウェブサイトで発信するとともに、46ページからなる「第3回国連防災世界会議パブリック・フォーラムガイドブック」3万部を作成し配布している。仙台市はまた、道案内の通訳養成や「ハラール料理」の講習会を開催し、市内には無料の携帯の充電やWi-Fi設備を設置するなど準備を進めてきた。

これらのほかに、26コースから成る被災地の見学ツアーが用意される。被災直後の状況とは違っても被災地を訪れ体験するツアーは生の姿の「学びの場」として貴重で、防災教育や防災ツーリズムの振興に大きな役割を担っている。今回の国連防災世界会議は経済的にも大きな効果が期待され、19億円に及ぶとの試算がある。その大半は会議や5万人を超える多くの参加者によるものだが、将来的にはMICEに力を入れてより多くの誘客に結びつく観光・旅行業の発展が期待されている。近隣のアジア諸国・地域では災害が多発し被災額や犠牲者も多く、同じく災害の多い日本であるからこそ防災の知見を発信でき、これまでも多くの国際協力も行ってきた(注2)。その結果、昨年来の中国を中心とするアジアの富裕層の買い物ツアーほど訪日人数は多くないが、アジアを中心に海外の研究者や専門家の訪日研究や学生の防災教育での訪日が今後着実に増える見通しで、いわば「防災ツーリズム」の可能性が高まると考えられる。

3.「防災ツーリズム」を振興する資産や取組例

今回の国連防災世界会議に見られるように関連する国際会議や学会、防災展等が開催されると、多くの外国人の訪日が期待されよう。被災地は大きな被害を受けるが、その経験や教訓、防災の仕組みの発信は、国内のみならず海外から研究者や行政官、企業人を引き付けるであろう。今回の東日本大震災の被害の大きさは、それだけで現地に行って直に学ぶ機会が大きいし、自然災害の影響を受けた初めての原発事故の影響も加わり、類まれな学びや研究の場を提供している。

原発事故による放射能汚染問題は日本政府の関係者はできるだけ触れないようにしてきたようだが、防災世界会議を主催するマルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表は、東京電力福島第1原発事故は災害が起きた際に住民にとって身近な問題となったとし議論の対象にする意義を述べたと伝えられる。日本だけでなく科学技術が想定できなかった大きな事故を起こすこのような問題は避けてはならないし、世界初の自然災害による原発事故は貴重な教訓を残した。さらに、事故防止や放射能除染に有効な技術を研究し開発できれば世界的な貢献になるし、大きなビジネス・チャンスにもなる。これは防災ツーリズムに結びつく大いなる資産になりえよう。

災害や防災研究の観点からは、東北大学に新たな研究所が生まれた。これまでも関連の研究所はいくつかあったが、災害を極める学問の文理融合を図り、総合的に研究して実践的な防災学を構築し、世界との交流を図るコンセプトで「災害科学国際研究所」(IRIDeS:International Research Institute of Disaster Science)が東日本大震災を機に2012年に設立された。研究所は世界最先端の「実践的防災学」を追求するとし、別表2に示す通り7部門37分野の研究が始まり、今回の世界会議では研究成果の発信を行い、既に外国研究者の交流を始めている。また、原発事故を起こした福島県では、「ふくしま国際医療科学センター」や「福島再生可能エネルギー研究所」が設立され、活動を開始している。

被災地の被害状況や災害遺構、そして復旧・復興と防災の取り組みは、復旧・復興支援ツアー、語り部タクシー、さらに防災教育・訓練、教育・研修・体験旅行、スタディ・ツアー等の形で内外の見学者や訪問客を引き付けている。日本では南海トラフの大震災も予測される中で、太平洋沿海部の被災都市や港湾、震災遺構を視察する子供達や行政官も多く、生々しい災害の現場と防災の教訓を発信している。日本だけでなく、インドネシアやフィリピンのように類似の被災地域からの見学ツアーもあり、ハーバード大学が大学院学生を研究ツアーで送り込むような事例も増えている。また、被災地の東北地方では、政府が「三陸復興国立公園」を整備し、災害視察だけでなく豊かな自然や世界遺産の中尊寺等歴史資産も多く、今後観光客の増大が期待される。

ユニークな取組みとしては、「森は海の恋人」運動で知られる環境保全運動があり、大きな被害を受けた気仙沼湾のカキ養殖が湾に流れ込む上流河川の広葉樹のおかげでいち早く復興したとして内外の研究者や観光客を引き付けている。また、北上山地南部に国際的な大型の加速器プロジェクトのILC(International Linear Collider)建設計画があり、これが実現すると東北に日本初の国際的な科学研究都市が生まれ、そこに海外の研究者が居住し観光客が訪れる「科学ツーリズム」が発展する見通しもある(注3)。

4.行政だけでなく学問にも縦割りの弊害

国連防災会議を機に事前のシンポやセミナーが数多く行われ、そこでは東日本大震災をめぐる防災や復旧・復興の議論が活発に行われてきた。その中で反省すべき構造的な課題として指摘されたのは、大震災の被害が大きかったのは想定外であったとか、有効な対応ができなかったのは行政機関の縦割り構造の弊害、つまり省庁の利害が優先され復旧・復興の遅れやムダを生む事例の多さであった。また、こうした行政機関の縦割り構造の弊害は専門化する学問の間にも見られ、原因究明や改善・解決策を提案する過程で責任逃れや擦り合いもあった。大災害のような緊急時には人命救助や復旧・復興にいわば総力戦が求められ、時期を失せずに最善の対策を講じるためには、省庁や学問間で横断的総合的な協力が必須である。そして、各当事者の利害を統括し総合的な政策展開を図るのは政治のリーダーシップであろうが、今回の大震災や原発事故の対応でもこれがうまく機能しなかったとの指摘や反省が多く、まさかの緊急時における政治の弱体や未熟さが目立った。

政治や政府のリーダーシップの問題は、例えば2012年に仙台で開催されたIMF・世銀の「防災と開発」会合でも多くの国のケースで報告されたように難しい課題である。例えば、新しい学問として「総合政策学」が期待されてきたが、まだ十分に機能しているとは見られず、また日本の場合政治のリーダーシップは政治家がこぞって言う「政治は結果責任」がなかなか見えてこない。学問としても政治の在り方としても、防災を講じる過程で重要な課題が課されていると思われる。

 

<注>
1. MDGsの後続の取組として国連のワーキンググループで議論されている持続可能な開発目標(SDGs)は、発展途上国だけでなく国連の全加盟国を対象とし、経済的な開発目標に加えて、気候変動に対応するあらゆるレベルの行動、安価で持続可能、信頼できる現代的なエネルギーへのアクセス、海洋資源・海洋の安全、包括的、安全、持続可能な都市、平和で包括的な社会、グローバル・パートナーシップの強化・向上等が提案リストに挙げられている。
2. 日本は海外における災害には国際緊急援助隊の派遣や緊急援助物資の供与を行っているが、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、アジア地域における多国間防災協力の推進拠点として1998年に神戸市に「アジア防災センター」を設置した。現在のメンバーは30カ国で、①防災情報の収集・提供、②防災教育及び③人材育成の協力を行っている。防災教育では、例えば小学生や教員を対象に日本の教訓を活用した津波教材を配布したり防災教材の開発支援を行い、人材育成では2013年度末で26カ国から防災職員を延べ79名受け入れている。
3. ITIフラッシュ 2014年11月26日付けの筆者の報告「東北再生、日本再建に“国際リニア・コライダー”(ILC)の誘致決定を」参照。ILCはスイスとフランス国境に設置されノーベル物理学賞の対象となったヒッグス粒子の発見で知られるLHCという大型ハドロン型加速器の後続器で、これを運営するCERN(欧州合同原子核研究所)には運営する欧州20カ国のほか、米国、日本、韓国、中国など50カ国以上から研究者が集まる。常時6000人の研究者が滞在し(家族を含めると数万人)、素粒子物理学者や機材のエンジニアー等外国人訪問者が多い。したがって、ILCが日本に建設されると、日本で初の国際科学研究都市が生まれ、ここからいわば「科学ツーリズム」が発展すると期待されている。

 

別表1 兵庫行動枠組(Hyogo Framework for Action)2005-2015 ~災害に強い国・コミュニィティの構築~

1、3つの戦略目標
1) 持続可能な開発の取り組みに減災の観点をより効果的に取り入れる
2) すべてのレベル、特にコミュニィティレベルで防災体制を整備し、能力を向上する
3) 緊急対応や復旧・復興段階においてリスク軽減の手法を体系的に取り入れる

2、5つの優先行動
① 防災を国、地方の優先課題に位置づけ、実行のための強力な制度基盤を確保する(制度的、法的枠組みの整備等)
② 災害リスクを特定、評価、観測し、早期警報を向上する(リスクマップの整備・普及、災害リスクや脆弱性の評価指標の体系整備等)
③ すべてのレベルで防災文化を構築するため、知識、技術革新、教育を活用する(情報交換、研究、防災教育やメディアの取り組み促進で意識啓発等)
④ 潜在的なリスク要因を軽減する(重要な公共施設・インフラの耐震性向上等)
⑤ 効果的な応急対応のための事前準備をすべてのレベルで強化する(緊急事態対応計画の準備、防災訓練等)

3、各国のHFA実施状況
1) 国レベルの防災制度・組織の整備(優先行動①)や災害応急対応準備体制(優先行動⑤は比較的進展している。
2) 一方、経済的な被害は増加しており、潜在的なリスクを軽減させるためのインフラ整備等(優先行動④)は比較的遅れている。
3) HFAは防災対策の指針として認知されつつあり、基本的な要素は維持しつつ、新たな課題に対応し強化していく必要がある。

4、2005年以降の課題、状況
1) 都市化の進展や気候変動により、災害リスクにさらされる人口が増大している。
2) グローバル経済の進展により、災害リスクにさらされる企業活動は拡大している。
3) 各国の防災制度・組織の整備は引き続き大きな課題である。
4) 災害対応や予防活動の中心となる地方治自体、市民、様々なステークホルダーの能力強化が必要である。
5) 科学技術の進展を災害リスクの発見・周知に活用する可能性が拡大している。

(資料)内閣府大臣官房審議官佐々木克樹「国際防災と日本の役割」2014年3月1日
 セミナー「第3回国連防災世界会議1年前シンポジウム」のプレゼンテイションから

 

別表2  東北大学「災害科学国際研究所(IRIDeS)」の研究分野概要
                世界最先端の「実践的防災学」を追求する7部門37分野

1. 災害リスク研究
    地域地震災害、津波工学、災害ポテンシャル、広域被害把握、低頻度リスク評価、最適減災技術、国際災害リスク

2. 人間・社会対応研究
    災害情報認知、被災地支援、歴史資料保存、防災社会システム、防災法制度、災害文化、防災社会国際比較研究

3. 地域・都市再生研究
    都市再生計画、除染科学、地域安全工学、災害対応ロボテックス、国際防災戦略

4. 災害理学研究
    海底地殻変動、地震ハザード、火山ハザード、地盤災害、気象・海洋災害、宇宙災害、国際巨大災害

5. 災害医学研究
    災害医療国際協力学、災害感染症学、災害放射線医学、災害精神医学、災害産婦人科学、災害公衆衛生学、災害医療情報学

6. 情報管理・社会連携
    災害アーカイブ研究、災害復興実践学、社会連携オフィス

7. 地震津波リスク研究(寄附研究)

(資料)東北大学 IRIDeS(International Research Institute of Disaster Science)ホームページ