一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

Menu

フラッシュ

2004/07/02 No.67改革に揺れるイタリアの年金制度(2)〜至れり尽くせりの制度が財政を圧迫〜

長手喜典
(財)国際貿易投資研究所 欧州研究会委員
釧路公立大学 非常勤講師

フラッシュ66「改革に揺れるイタリアの年金制度」に続き、イタリアの年金制度について紹介する。イタリアの年金制度は、何事にもバラエティーに富むお国柄だけあって、次の10種類がある。

  1. 勤続年金(後述)
  2. 老齢年金(後述)
  3. 労働不可能者年金(肉体的、精神的な重度の障害により働けない場合に支給されるが、治癒度に応じ減額される)
  4. 障害者年金(前項に比べ軽度であり、通常の3分の1程度以下の労働能力しかない場合)
  5. 遺族年金(わが国より対象も広く手厚い)
  6. 最低保障年金(生存に必要な最低保障。インフレ率等を考慮して、毎年決定される。2004年は月額418.18ユーロ)
  7. 付加年金(INPS=イタリア社会保障保険公社への積み立てが年金受給条件に満たない場合の救済措置)
  8. 社会的年金(65才に達するイタリア在住のイタリア人が収入皆無かきわめて少額の場合、救済的に支給されるもの)
  9. 視力・音声・聴力未達者年金(この3分野にハンディーを負った無収入の障害者が対象)
  10. 国際年金(欧州連合=EUほか、米国、アルゼンチンなどイタリア系移民の多い国で、所定の取り決めのある場合に支給される)  

  このうち3、4、9項は、わが国の障害年金に含まれるが、イタリアでは細分化され、きめ細かなケアがなされている。しかし、制度を悪用し、何ら身体的不自由のない者が受給している例も後を絶たない。小さな村で驚くほど多数のこの種年金の受給者がいて、話題になったこともある。また、最低保障年金と社会的年金の区別などは、いまひとつはっきりしない。国際年金については、とくにEUの拡大発展にともない、域内における労働について、横断的な年金が受けられる仕組みと考えられる。

  一方、イタリア政府は2003年10月、対EU向けのコミットメントを果たすため、平均退職年齢を引き上げることにより、早期退職者をさらに削減する政労合意を取り付けることができた。これには2000年代に入っても、相変わらず年金財政の赤字が続いている危機的な背景がある。最近の予測によれば、年金への公的支出は2000年の対GDP比13.8%(EU平均は10.4%)から2030年には15.7%に上昇すると見積もられ、さらなる対策は焦眉の急となっている。

  次項では、これら10種類の年金のうち最も一般的な勤続年金と老齢年金について、その現状を紹介する。

イタリア年金制度の現状

1.勤続年金

  この年金は次項の「老齢年金」の年齢条件を満たす前に、所定の年齢と保険料支払期間に達した場合、対象者の申請にもとづいて支給されるもので、わが国にはない制度で、かって、「ベビー年金生活者」を生む元になった仕組みである。これまでの改革は、ここに大きなメスを入れるもので、将来的には「勤続年金」を限りなく「老齢年金」に近づけようとする意図が汲み取れる。

勤続年金受給要件:
  サラリーマン(一般の給与生活者)の場合は、男女とも57才かつ保険料支払期間35年。自営業者(手工業者、商業・農業従事者)の場合は、男女とも58才、35年。ただし、サラリーマンについては37年間、自営業者については40年間保険料を支払えば、年齢に関係なく年金を受給できる。

  だが、サラリーマンについても、2008年までに、この保険料支払期間の制限を下表の通り、段階的に40年まで引き上げることとしている。また、勤続年金を受給するには、退職することが条件となるが、自営業者は仕事を継続できる。

受給年齢に制約のない保険料支払期間

サラリーマン自営業者
2004年から38年間すべて40年
2006年から39年間すべて40年
2004年から40年間すべて40年

2.老齢年金

  この年金を受給するには、1)年齢、2)保険料最低支払期間、3)退職の3要件を満たさねばならない。ただし、自営業者に対しては、第3項は不要である。年齢と保険料支払期間に応じて、年金の計算方法が「支払い済み保険料」に基づくか「給与額」に基づくかのバリエーションが出てくる。

保険料基準計算方式:
  現行ないし今後行われる制度で、支払われた保険料の総額もとにして、国内総生産の動向による再評価を加え算出する。

支給開始年齢男女とも57~65才間で、この年金を取得できるが、65才以前に年金を取得する場合は、社会的年金の20%以上を条件に支給される。
保険料支払い期間正規の労働による少なくとも5年間以上の支払期間があること。

給与基準計算方式:
  労働の最終期間(サラリーマン10年、自営業者15年)の給与をもとに計算される。ただし、1995年12月31日までに、少なくとも18年保険料を支払った者は、本方式が認められる。

支給開始年齢男子65才、女子60才ただし、通常の20%程度の労働能力、および目の不自由な場合は、男子60才、女子55才。
保険料支払い期間少なくとも20年の支払期間があること。 ただし、1992年12月31日までに15年間保険料を支払った者は、本方式が認められる。

混合方式:
  1995年12月31日現在で、保険料支払いが18年未満の者は保険料基準/給与基準の混合方式で計算される。

(参考)

・フラッシュ66「改革に揺れるイタリアの年金制度」(長手喜典)

フラッシュ一覧に戻る