ITIコラム

2014年7月25日

 

クールジャパン・観光立国でサービスの黒字は可能か

(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹 高橋俊樹

 

2013年の訪日外国人旅行客は1,036万人と初めて1,000万人の大台を超えた。その中で、観光客は796万人と約8割を占める。ビジネス客は146万人であった。台湾からの訪日観光客が最も多く207万人で、次は中国の197万人であった。

2014年に入っても訪日外国人客の増加は続いており、訪日外国人客が日本で使った金額から日本人が海外で支払う金額を差し引いた「旅行収支」が4月に黒字に転じた。これは44年ぶりのことであり、翌5月の旅行収支は赤字に戻ったものの、これまで絶えず赤字であった日本のサービス収支(注1)の構造に変化の兆しが現れたと考えられる。

日本の外国人旅行客数は27位

2013年に訪日外国人の数が1,000万人を超えたといっても、世界の観光客数ランキングでは日本はトップ20位にも入らない27位であった。世界のトップであるフランスの外国人旅行客は8,000万人以上であるし、2位の米国は約7,000万人に達する。3位はスペインの6,000万人、次いで中国が5,500万人であった。

しかも、日本の国際観光収入は、世界観光機関によれば2013年には149億ドルで、米国の約10分の1であった。外国人旅行客数では日本は米国の7分の1であったので、収入面ではもっと差がついている。

米国の外国人旅行客数は2003年には3,500万人であったので、その後の10年間で2倍になっている。2013年の米国の外国人旅行客数を見ると、カナダからが最も多く2,339万人、次いでメキシコからが1,434万人であった。日本からは英国に次ぐ4番目で、373万人であった。ちなみに、日本の2003年の外国人旅行者数は521万人であったので、その後の10年間で米国と同様に約2倍になっている。

オバマ大統領は2014年5月22日、外国人旅行客の拡大を目的として、ニューヨーク州クーパーズタウンにある米国野球殿堂博物館を訪れた。訪問と同時に、外国人旅行客を米国に取り込み雇用と経済成長の拡大を目指す方針を表明した。

既に、ブラジルと中国に対して、2011年に100日かかったビザの手続きを2013年には5日以内に短縮する措置を講じている。観光ビザ免除で入国できる台湾、チリの旅行客の数を拡大しているし、自動入国審査端末の導入などで空港での入国審査と税関の待ち時間短縮を実現している。同時に、国際会議やスポーツの誘致促進や、米国の食に関する観光キャンペーンを展開する方針だ。

成長戦略は功を奏するか

オバマ大統領は積極的に旅行・観光業を促進しているが、アベノミクスでも同様に成長戦略の一環として訪日外国人旅行客の拡大やクールジャパンの推進により、日本経済の一層のグローバル化を図っている。

2013年6月14日、アベノミクスが掲げる日本経済の再生に向けた「3本の矢」のうちの3本目の矢である、成長戦略、「日本再興戦略-JAPAN is BACKー」が閣議決定された。この中にクールジャパンの推進及び訪日外国人旅行者の受入れ拡大により、徹底したグローバル化を進める成果目標が掲げられている。

<クールジャパンの推進及び訪日外国人旅行者の受入れ拡大成果目標>
◆2018年までに放送コンテンツ関連海外売上高を2010年(63 億円)の3倍に増加させる
◆2013年に訪日外国人旅行者1000 万人、2030 年に3000 万人超を目指す


クールジャパン推進の具体的な方法としては、コンテンツや関連商品の海外への売り込みを強化するため、①海賊版対策の抜本的強化、②海外現地放送局・配信サイトにおける日本コンテンツの流通枠の確保、③現地のコンテンツ規格への対応、④相手国の文化ニーズに合わせたコンテンツ供給の増加等を行うとしている。

また、訪日外国人観光客の拡大のために、日・ASEAN 友好協力40 周年の節目を踏まえ、今後増大が見込まれるASEAN 諸国からの観光客に対してビザ要件を緩和することを盛り込んだ。これに沿って、2013年7月から、タイとマレーシアは免除。ベトナムとフィリピンは数次化(そのビザが有効である間、何度でも出入国できることを許可するビザ)し、インドネシアでは数次ビザの滞在期間を延長している。これらの効果は、顕著にその後の訪日観光客の増加に結びついているようだ。

こうしたアベノミクスの成長戦略が功を奏し、2020年の訪日外国人旅行者が2倍の2,000万人なったとする。その結果、2013年の訪日外国人からの旅行受取150億ドルは、2020年に2倍の300億ドルになると推定される。もしも、2013年の日本人の外国旅行支払220億ドルに変化がないとするならば、2020年には旅行収支が80億ドルの黒字に転換する。つまり、2020年の旅行収支は2013年から150億ドルの黒字が増加することになる。

これに対して、クールジャパンの影響はどうであろうか。成長戦略は、2018年までに放送コンテンツ関連海外売上高を2010年(63 億円)の3倍に増加させるとしている。少し拡大解釈ではあるが、この増加率を2010年の日本のサービス収支における外国からの著作権等使用料(ソフトウエア、文芸、美術、音楽、映像、キャラクター等の使用料、上映・放映権料、ビデオ化料等)の受取16.3億ドルに応用すれば、2018年の著作権等使用料の受取は2010年の3倍の48.9億ドルに達する。同じような伸びが2020年まで続くとすると、61.1億ドルになる。

したがって、2010年における著作権等使用料の外国への支払の74.2億ドルが横ばいで推移すれば、2020年の収支は13.1億ドルの赤字に縮小する。つまり、2020年の著作権等使用料の収支は、成長戦略を推し進めれば、2010年から44.8億ドルの改善の可能性がある。2013年の著作権等使用料の受取は20.2億ドルであったので、2013年からは40.9億ドルの改善となる。

日本の旅行収支と著作権等使用料は、成長戦略により2020年には2013年からそれぞれ150億ドルと40.9億ドルの改善が見込まれる(合計190.9億ドル)。2013年の日本のサービス収支は357億ドルの赤字であったので、その他の条件が一定とすれば、2020年には成長戦略の成果によりサービス赤字の5割強が解消されることになる。

もしも2030年に訪日観光客が3倍になれば、外国人からの旅行受取は450億ドルとなり、2013年よりも300億ドルの黒字増が発生する。同様に、さらなるクールジャパンの推進により著作権等使用料の受取が2020年から2030年に2倍になるとすれば、2030年には2013年よりも102億ドルの黒字増の要因になる。その場合、両方の効果は約402億ドルになり、2030年のサービス収支は45億ドル弱の黒字を達成することになる。

当然のことながら、成長戦略の目標が2030年まで必ずしも継続して達成されるとは限らないし、その他の条件が一定であるわけがない。また、クールジャパンの成長戦略は放送コンテンツ関連海外売上高の3倍増を掲げたもので、本稿で計算しているように著作権等使用料の3倍増を狙ったものではない。

しかし、日本企業のグローバル化により、産業財産権等使用料(特許権、意匠権、商標権、ノウハウ、フランチャイズ等の使用料、販売権の許諾料等)は、自動車を中心に黒字が拡大する傾向にある。これにクールジャパンや訪日観光客拡大、海外医療サービスの促進等の成長戦略を長く積極的に推し進めていくならば、日本のサービス収支の黒字化が少しずつ見えてくると思われる。


(注1) 経常収支は、「貿易収支」、「サービス収支」、「第1次所得収支」、「第2次所得収支」の4つに大別される。この中で、「サービス収支」は、「輸送」、「旅行」、及び「その他サービス」に分類される。「その他サービス」は、委託加工サービス、維持修理サービス、建設、通信、保険・年金、金融、情報、知的財産権等使用料、仲介貿易、業務・専門サービス、文化・娯楽サービスなどの項目から成る日本独自の区分である。その中で、知的財産権等使用料は、さらに産業財産権等使用料と著作権等使用料に分かれる。


(参考文献)

「サービス輸出の拡大で経常黒字を保持できるか」、ITIコラム NO.8 2013年3月4日

「急速に拡大するアジアでの現地生産・現地販売」、ITIコラム NO.6 2012年12月3日

「拡大する米国の海外収益~日本に求められる特許・サービスで利益を生み出すビジネスモデル~」、国際貿易投資研究所 季刊 国際貿易と投資 Summer 2012/No.88