ITIコラム

2012年6月12日

 

日本の国際競争力改善に米独から何を学ぶか

(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹 高橋俊樹

   
 

ジュネーブに本部を置く世界経済フォーラム(WEF、World Economic Forum)の2011-2012年国際競争力レポートは、日本の競争力の高さとして、モノ作りのサプライチェーンの質が高く製造工程が洗練されていること、企業の革新力があること、などを挙げている。つまり、日本の競争力の根源は、品質の高いモノ作りのプロセスにあると見ている。

これに対して、米国の競争力の高さは、「研究水準が高い大学と企業との連携」がうまく機能しており、これが科学者・人材の活用や発明・特許件数や水準の高さにつながっていることにあると指摘している。また、GMの例に見られるように、採用や余剰人員の解雇が柔軟であることが、経営効率やコストの削減に結びついていると考えている。

一方、ドイツに対してはどう見ているのであろうか。ドイツ経済の強みは、輸送などの高いインフラの質、効率的な生産工程や流通過程、世界で最も革新的でR&D支出が高いこと、企業レベルでの最新技術の吸収能力が高い、国内市場の規模が大きく輸出割合も高いこと、にあるとしている。

こうした世界経済フォーラムの見方は、正に正鵠(セイコク)を得ている。しかし、このような競争力の違いを列挙しただけでは、日本の競争力改善の手がかりとしては十分ではない。今、日本に必要なことは、台湾・韓国・中国企業の追い上げや、米国やドイツ企業との収益力格差を、どうすれば解消できるかを明らかにすることだ。そして、その打開策を実行することにある。

米国企業から学ぶこととして、モノ作りに固執しないビジネスモデルへの柔軟な対応が挙げられる。米国の独立時の生産システムは、経済が短期間で急速に発展したため、当時の英国のような生産と販売が分離しておらず、川上の原材料から川下の流通・販売まで一貫した垂直統合型であった。

これが1980年代以降、製造業が海外に移転し、サービス産業に重点をおいた産業構造への転換が進んだ。90年代からは、IT技術やグローバル化の進展に伴い、垂直統合からアウトソーシング(製造委託)を中心とするビジネスモデルを推し進めている。

この台湾などの製造委託企業(ファウンドリー)へのアウトソーシングが可能になったのは、MITのグローバル研究によれば、80年代の米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)におけるプロジェクトの成果によるものであった。

すなわち、チップの設計者からファウンドリーへのコンピューター上のデータ交換をするための標準フォーマットの開発を成し遂げたのであった。これは、米国が日本の官民連携の半導体プロジェクトをヒントに、時代にあった柔軟なビジネスモデルへの転換に成功したことを意味する。

リーマンショック以降、米国経済の海外からの収益力は拡大している。それは、海外子会社からの配当金収入が増加しているためである。例えば、米国親会社の海外子会社からの特許・著作権収入が増加しているし、金融や専門技術サービス(販売管理、コンサルティング、リース・メンテナンス等)の分野での利益率が高い。

2011年の日本の海外からの特許・著作権使用料の黒字は、7,878億円 (約100億ドル) で、米国における840億ドルの黒字の1割強にすぎない。米国の海外との金融・専門技術サービス取引の黒字は890億ドルであり、特許・著作権使用料と同じくらいの黒字を獲得している。これに対して、日本の金融・専門技術サービスの収支は赤字であるので、収益性の面では米国と比較にならない。

したがって、日本はこれまで以上に特許・サービスで海外からの利益を得るビジネスモデルへの転換が不可欠である。幸いなことに、最近はアジアを中心に、金融・保険、コンビニ・スーパー、宅配、外食産業などの進出が盛んである。この傾向を一段と進めながら、海外子会社を活用した工業権、商標、フランチャイズ、リース・メンテナンスなどの事業を拡大することが求められる。

また、日本企業は、ドイツ企業が国内市場だけでなく、輸出市場でシェアを広げている点を参考にすべきではなかろうか。ドイツは、ユーロ圏だけでなく、アジアや中国市場への投資・輸出を拡大している。ユーロと違い円高のため、日本企業の輸出はなかなか進まないとは思われるが、長期的な観点から、アジア以外の新興国に対しても海外子会社を活用した輸出促進が期待される。

さらには、ドイツの小売業では、メトロが早くから世界に進出しており、中東欧だけでなく、ベトナムなどのアジアでも展開している。自動車産業では、ディーゼルエンジンなどの既存の技術を改良した独自のエコ戦略が成功している。こうしたグローバル展開や技術の革新や応用に基づくブランド力の確立では、ドイツ企業は群を抜いている。日本企業には、ブランド力に直結する製品開発に集中することが望まれる。

(注)グラフの目盛の1〜5はその項目の順位を表しており、中心に近いほど競争力が高いことを意味している。

(資料)世界経済フォーラム(WEF、World Economic Forum) 2011-2012年国際競争力レポートより作成

 

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