ITIコラム

2012年7月3日

 

韓国の日本の部材への依存度は増しているのか
〜対日赤字を大きく相殺する対中黒字〜

(一財)国際貿易投資研究所
研究主幹 高橋俊樹

   
 

韓国のグローバル・マーケットにおける躍進が目覚しい。アジアはもともと日本優位の市場であった。しかし、近年はLGエレクトロニクス、サムソン電子が廉価で現地専用モデルの投入により、販売のシェアを伸ばしている。LGはインドネシアでデング熱を媒介するネッタイシマカを撃退するエアコンを発売しているが、現地の需要にマッチしたことから売上を大きく伸ばした。

中東地域における韓国のプレゼンスは大きく高まっている。トルコにおける韓国家電製品のイメージは、中国製品よりも高品質で日本製品よりも低価格であるというもの。サムソンは広告宣伝費が潤沢で、日本企業はこの点で水をあけられているようだ。さらに、利益を上げると考えたものを短期間で商品化し、量産してしまうのも強みとなっている。トップダウンによる意思決定の早さと、量産化のスピード、さらにはウオン安、官民一体の売込みが功を奏している。

また、中東では韓国車はアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアのような高所得層が多い国では日本車の後塵を拝しているが、中所得国であるトルコでは2009年にはウオン安もあり、現代自動車のシェアは欧米メーカーのルノー、フォード、フィアットなどを抑えて1位となった。エジプトでも、乗用車販売における韓国車のプレゼンスが非常に高い。

中南米では、メキシコの家電産業におけるサムソン、LGのシェアが高まっており、もはや安価な価格でボリュームゾーンを攻めるだけの企業ではない。強いブランド力を武器に値引きをしなくてもハイエンドな高機能商品を販売する力があるようだ。また、韓国企業は、日本企業が商品を投入していない白物家電にも積極的に参入している。

アフリカでは、ナイジェリアでの韓国の家電は、テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の分野で大きなシェアを獲得。LGは、食品大手ネスレと組んだプロモーション活動を行い、輸入販売しているブラウン管テレビ1台当たり蚊帳1張を無料で提供。また、ラゴス大学にデザインラボを設置するなど、宣伝が巧みだ。

このように、韓国の家電はインドなどの南アジア、中東、アフリカ、ロシア・CIS、中南米の市場で日本製品よりも優位に立っている。ASEANや中国や欧米などの市場では、日本製品と拮抗しているが、近年は韓国製品がシェアを伸ばしている。

これに対して、自動車では、韓国車が明確に日本車よりも優位に立っているのは中東の中所得国であり、ASEANとオセアニアは逆に日本の自動車の方が優位である。その他の地域の自動車マーケットでは、韓国車は欧米や中国、ブラジルで見られるように、日本車を激しく追い上げているというのが実情である。

したがって、韓国としては家電での世界市場における成功を、自動車部門でも実現することが次の目標になる。自動車でも韓国の台頭が進めば、日本の国際競争力が剥がれ落ちるような錯覚に陥るが、事実はそう単純ではなさそうである。

一般には、スマイルカーブという考え方によれば、唇のスマイルの形を表すU字型の両端に位置する川上の商品企画・素材・部品及び川下のサービス・メンテナンスの方が、真ん中の下端に位置する製造組み立てや販売よりも利益が高いといわれる。日本は素材、部品などの川上に近い中間財に競争力があり、この分野で利益を上げている企業も多い。

例えば、液晶パネルの中で光の通過と遮断を制御する「偏向板」、軽量化素材である「炭素繊維」、ハイブリッド・電気自動車関連の部品やバッテリー材料、スマートフォンなどの組み立てに用いられる各種部品・加工品、などの分野においては、依然として日本企業が優位を保っている。

日本と韓国との貿易においては、日本の中間財(部品・加工品)が輸出超過であり、図1のように、2010年の日本の対韓中間財貿易は237億ドルの黒字であった。2005年には158億ドルの黒字であったので、5年間で79億ドルの黒字が増加している。日本の2010年全体の対韓黒字は321億ドルであったので、対韓黒字の7割以上が中間財で占められている。

韓国の対日赤字は2000年代から着実に増えている。その大きな原因は、製品に組み込まれる中間財を日本に依存する割合が高まっているためである。つまり、韓国が製品を生産するたびに、日本からその部品や材料などを輸入しなければならない構造が定着している。

したがって、液晶テレビなどの最終製品では韓国が優位にあるものの、組み込まれる高付加価値な材料・部品は日本が供給しているため、家電製品の売上利益が一方的に韓国に流れるわけではない。日本と韓国の家電の製造プロセスにおいては、現時点では補完関係が強化されている。

しかしながら、韓国としては中間財の対日依存の高まりはなんとしても是正したいところである。このため、韓国国内に日本の部品産業などを誘致する動きが活発化している。同時に、日本の技術者を雇用し、技術のキャッチアップに努めている。しかし、その成果は、対日赤字の改善にはまだ目に見える形で表れてはいない。

韓国にとって明るい材料として、対日依存を打ち消す対中黒字の拡大を挙げることができる。図2のように、2010年の韓国の中国との中間財貿易は実に595億ドルの黒字に達しており、2005年から215億ドルも増加した。すなわち、2005年から2010年までの中間財における韓国の対中黒字の増加は、対日赤字の増加分の約3倍にも達した。しかも、2010年における韓国の対中貿易黒字に占める中間財の割合は9割であった。また、韓国は中国だけでなく、米・EUとの中間財貿易も黒字幅を拡大している。

最近の韓国におけるTPP参加や、日中韓FTAにおける交渉開始姿勢にこうした韓国の中間財貿易の影響が色濃く現れている。日本とは、中間財貿易で赤字が拡大するようなTPPや日中韓FTAの締結はできるだけ避け、中国とのFTAを優先している。

すなわち、韓国としては、対日輸出を増やすことにより対日依存をできるだけ減らし、同時に一層の中国への中間財輸出の促進と定着を図ることが、今後のFTA戦略における1つの大きな目標になるのではなかろうか。

(注)ここでの輸出の業種分類は、国連のBEC分類に基づいている。各国の国別輸出額(FOB)を基に輸出入マトリクスを作成しているので、輸入もFOBとなり、貿易黒字は通関ベース(FOB‐CIF)よりも、やや大きくなる。