ITIコラム

2017年10月13日

 

北朝鮮の核・弾道ミサイル問題の出口を探る

宇佐美 喜昭
(一財)国際貿易投資研究所
客員研究員

 

北朝鮮の核・弾道ミサイル開発が加速している。2006年9月以降、核実験は6回行われている。弾道ミサイルも射程だけなら平壌近郊からグアム島に届く能力を有していることが実証され、米国中西部までを射程内に収めたICBMの実用化の可能性も取り沙汰されている。一方、武力行使による北朝鮮の核・弾道ミサイル開発の除去にはいろいろな制約がある。国際社会はまだ暫くの間、辛抱強い外交努力と経済制裁努力を続けざるを得ないだろう。

NPT体制を揺るがす北朝鮮

核拡散防止条約に基づくNPT体制では、米国、英国、フランス、ロシア、中国の5カ国だけが核兵器を保有できる。その他の加盟国は核兵器の製造・取得が禁じられ、原子力関連施設は国際原子力機関(IAEA)による保障措置を受け入れなければならない。

一方、5カ国以外にも核兵器を保有している、ないし保有しているとみられる国がいくつかある。このうちインド、パキスタン、イスラエルは核拡散防止条約には加盟していない。かつて、パキスタンの核技術がリビアやシリアなどに拡散しNPT体制を揺るがした例はあるが、現在のところ核・弾道ミサイル技術は政府レベルで適切に管理されているように見受けられる。

北朝鮮は、天然ウランが利用できるマグノックス炉と呼ばれる原子炉の建設を進めていたことが国際社会に知られるところとなり、ソ連の説得を受け1985年にNPT体制に加入した。1993年に、核開発疑惑に基づくIAEAによる査察を拒絶しNPTからの脱退を表明したが、米朝枠組み合意に基づく朝鮮半島エネルギー開発機構の発足で撤回した。

しかし2003年に再度脱退を通告、条約上は通告から3カ月を経て有効とされている。これに対しNPTの関係機関は、北朝鮮のネームプレートを議長が預かるという形で、北朝鮮の脱退を曖昧にするという措置を採っている。国連・安全保障理事会での北朝鮮関連の決議でも、NPTへの再加入ではなく、NPT脱退表明の撤回を求めるという表現となっている。

一方で、米国は、北朝鮮の度重なる弾道ミサイル実験により、北朝鮮が米国本土の一部を射程に収めた弾道ミサイル技術を獲得しつつあることに神経を尖らせている。そこには、将来的に核兵器を背景にした南侵や北主導による朝鮮半島統一といった脅迫に有効に対応できるのかという懸念、あるいは北朝鮮指導部が将来にわたり報復攻撃による被害のリスクを踏まえ核兵器の使用を自制するという「相互確証破壊」の論理の対象になりえるのかという疑問がある。

また北朝鮮はイランやシリアと核技術や弾道ミサイル技術で提携関係にあると目されており、新たな核拡散のリスクとなっていることも憂慮している。

先ず、北朝鮮の核兵器技術はどの程度のレベルにあるのだろうか。北朝鮮の核開発は、1956年、ソ連が東側諸国11カ国と共同で設立したドゥブナ合同原子核研究所に技術者を派遣したところからスタートした。その後、ソ連は北朝鮮にIRT-2000研究炉を供与し、1965年に臨界を迎えた。この炉はすでに運用を停止しているが、次いで北朝鮮は、5MWマグノックス炉を建設した。カナダで学んだ物理学者慶元河が英国の設計を基に建設を指導したとされ、1985年に臨界に達した。この炉からは、1年当たり原爆1個分のプルトニウムの抽出が可能とされる。この炉は米露日中韓朝の六者協議に基づき2008年に冷却塔を破壊して稼働を停止したが、2013年に修復して稼働を再開した。

空軍力が脆弱な北朝鮮にとり、実戦に投入できる核兵器は、運搬手段となる長射程の弾道ミサイルとセットで初めて有効となる。核兵器については弾道ミサイルに搭載できるだけの小型化技術が鍵となる。

過去、米国は1,000回以上、ソ連は700回以上、フランスは200回以上、英国は80回以上、中国は40回以上の核実験を行い、兵器としての性能を高めてきた。しかしながらコンピュータ・シミュレーション技術の進展で、弾道ミサイルに搭載する程度の小型化はそれほど核実験回数を必要としなくなっているとされる。

一度に複数の爆発実験を行うケースがあるため国際機関や核兵器関連の研究機関では正確な数をつかめていないものの、最大で6回核実験を行ったとされるインドは弾道ミサイルへの搭載が可能な核兵器を開発している。またパキスタンは最初の核実験前にすでに小型の核兵器を開発済みだったとされる。

イスラエルは、公式には核兵器保有を明らかにしていない。南アフリカの核兵器開発に協力し同国が1回行った核実験に参加したとされるが、自国では核実験を行っておらず、開発に携わった技師が英紙に暴露したことで核兵器保有国とみなされることとなった。

なお、南アフリカは1991年に核兵器保有と弾道ミサイル開発計画を明らかにした上でこれらを解体し、核兵器非保有国としてNPT体制に参加した。保有していた原爆の重さは約1,000kgだった。

これらに対し、北朝鮮の核実験は、パキスタンに委託したとみられる1回を含め計7回とされ、ある程度の小型化技術も習得したとみなされている。パキスタンは実験と引き換えに、弾道ミサイル「ノドン」(北朝鮮での名称は「火星7号」)を入手したとされる。

北朝鮮が開発したとされる核兵器は、各種映像から2,000kg程度と推定されている。ただし、中国の小型核兵器の設計図がパキスタン経由で北朝鮮に流れたという疑惑があり、この設計図に基づき開発が進められているならば、700~1,000kg程度の原爆開発に成功している可能性があると専門家の間で指摘されている。またブースト型核兵器が実用化されていれば500kg程度に小型化できるとの指摘もある。

 

北朝鮮の核実験

注:委託は、当時パキスタンがプルトニウムを保有していないにもかかわらず、実験後の大気からプルトニウムが検出され北朝鮮の関与が推測されているもの。

出所:各種資料より筆者作成。

 

ICBM実験にも成功

次に北朝鮮の弾道ミサイルの開発状況をみてみよう。ミサイル開発は1979年、エジプトから供与を受けた2基のソ連製ミサイル「スカッドB」の模倣からスタートした。

スカッドBの射程は300km。北朝鮮はスカッドBの燃料タンク部分を延長し弾頭を小型化して射程を1,000kmに伸ばしたスカッドERを800基以上配備している。この射程では、米軍の岩国基地、佐世保基地が射程内に入る。

ノドンはスカッドBの胴回りと全長を1.5倍に拡大しエンジンもパワーアップしたもので、射程は1,300km〜2,000km、配備数は300基、移動式発射台は50両とされる。

スカッド改良型に対し、グアム島を射程に収めることを念頭に開発がはじめられたのが「ムスダン」(北朝鮮での名称は「火星10号」)だ。ソ連崩壊の混乱時にマカエフ記念設計所のロケット技術者を招き、R-27潜水艦発射弾道ミサイルをベースに開発したとされ、R-27の全長9mを12mに延長している。メインエンジン1基と偏向可能な補助エンジン2基を束ね、射程は3,200~4,000kmとされるが、2016年に行われた8回の発射実験では、成功は1回にとどまったとされる。

これら一段式のミサイルに対し、多段式のミサイルの開発も進められてきた。1998年に三段式のテポドン1号を、2006年にはさらに大型化したテポドン2号の実験を行ったが、これらは多段式ミサイルのプロトタイプとされる。

実用化兵器として2017年に実験されたのが火星12号と火星14号だ。ともに一段目は主エンジン1基、補助エンジン4基からなる。衛星写真画像を解析した専門家によると火星12号は1,000kgの弾頭搭載時の射程が3,000kmとされる。

火星14号は火星12号と類似の一段目に二段目を加えて推力を強化している。2度の発射実験は高高度に打ち上げるロフテッド軌道で行われ日本海に落下したが、搭載重量を無視すれば射程はロサンゼルスやシカゴに届く9,000~10,000kmと推定され、米国は大陸間弾道弾(ICBM:射程が米国東海岸から旧ソ連西部国境までの5,500kmを超えるミサイル)の実験と断定した。ただし、火星14号の実験時の弾頭重量は試験機器のみで100kg未満、2,000kgの爆弾に置き換えると射程は1,000kmにとどまるとの見方もある。

ICBMは命中精度に加え、大気との摩擦のため弾頭部は6,000~7,000度に耐える耐熱性や起爆装置の耐震性も必要となる。北朝鮮は発表で、再突入も起爆も試験は順調だったと発表しているが、日本のメディアがとらえた火星14号の二回めの実験の画像解析では弾頭部分が焼失した可能性が指摘されている。

これらミサイルは全て非対称ジメチルヒドラジンを赤煙硝酸に触れさせて発火させる液体燃料方式を採用している。一方で、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と目される北極星1号、その派生型で地上発射の北極星2号は固体燃料を使用している。北極星1号は射程1,200km、北極星2号は2,000kmと推定されている。

 

北朝鮮の弾道ミサイル一覧

注:搭載重量により射程は伸縮する。

出所:各種資料より筆者作成。

 

重み増す国連・安全保障理事会決議

国連憲章7章は、「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」の規程で、うち、41条は非軍事的措置、42条は軍事的措置の規程となっている。

行動は安全保障理事会での決議に基づき決められ、常任理事国5カ国のいずれの反対もないこと、および常任理事国を含む理事国の賛成多数で可決される。決議内容は全ての国連加盟国に適用され、加盟国に行動を促す項目では「要請」、「要求」、「決定」という言い回しがある。このうち「決定」は強制性を暗示する表現である。

2006年7月5日の北朝鮮の弾道ミサイル実験を起点とすると、安全保障理事会は2017年9月までに10回の対北朝鮮決議を行ってきた。先ず、2006年7月15日には北朝鮮に六者会合への復帰とIAEA保障措置への早期復帰の「要請」を決議した。同年10月9日の第1回核実験に対しては、北朝鮮に、これ以上の核実験禁止、弾道ミサイル発射禁止、NPT脱退発表の撤回を「要求」とトーンを厳しくした。これらはその後、「決定」とさらにトーンが強くなっている。

また制裁についても、当初は他の加盟国に核、弾道ミサイル、大量破壊兵器の計画に関連する物資と資金の凍結を「要請」するとしていたが、決議の度にトーンが強まり対象も拡大してきた。

 

安全保障理事会による対北朝鮮決議

日付 決議番号 主な内容 対象事象
2006年
7月15日
1695号 ・核、弾道ミサイル、大量破壊兵器の計画に関連する物資と資金の凍結を加盟国に要請。
・北朝鮮に六者会合への復帰、IAEA保障措置への早期復帰の要請。
7月5日の弾道ミサイル発射
2006年
10月14日
1718号 ・北朝鮮に、これ以上の核実験禁止、弾道ミサイル発射禁止を要求。
・北朝鮮にNPT脱退発表の撤回を要求。
・指定された私人が所有する資産の凍結。
10月9日の第1回核実験
2009年
6月14日
1874号 ・1695号の要請を要求に変更。
・北への支援・援助の凍結を要求。
・北朝鮮に決議1718号の義務の順守を要求。
4月5日の弾道ミサイル発射
5月25日の第2回核実験
2013年
1月22日
2087号 ・加盟国に北朝鮮関連資金の移動への監視・警戒強化を要請。
・制裁対象の私人を追加。
2012年12月12日の光明星3号2号機の発射
2013年
3月7日
2094号 ・1874号の要求を決定に変更。
・北朝鮮との銀行取引、合弁企業設立、北朝鮮の銀行株取得の禁止と北朝鮮の金融機関員の追放を要請。
・北朝鮮にNPT脱退発表の撤回を要求。
・制裁対象の私人を追加。
2月12日の第3回核実験。
2016年
3月2日
2270号 ・過去決議の要請を決定に変更。
・加盟国機関による北朝鮮籍船舶の所有、リース、運航の禁止。
・北朝鮮に対しあらためて核放棄などに関する決定の履行を要求。
1月6日の第4回核実験
2月7日の弾道ミサイル発射
2016年
11月30日
2321号 ・北朝鮮に対しNPT体制への挑戦として非難。
・加盟国に対し人道支援と公館を除く北朝鮮における代表事務所、子会社、銀行口座の90日以内の閉鎖措置の決定。
・対北禁輸品目の拡大。
・北朝鮮外交団、領事機関職員の人数削減を要請。
・資金移転に関する要員の追放。
・北朝鮮からの石炭輸出の制限、銅、ニッケル、銀、亜鉛の輸出禁止。
・制裁対象の私人の追加。
9月9日の第5回核実験
2017年
6月2日
2356号 ・高麗銀行など4団体14個人を資産凍結、渡航禁止の制裁対象に追加。 4月~5月の4回の弾道ミサイル発射
2017年
8月5日
2371号 ・石炭、鉄、鉄鉱石、鉛、鉛鉱石、海産物の輸出禁止の決定。
・北朝鮮労働者の就労数増禁止の決定。
・北朝鮮との新規合弁、合弁事業拡大の禁止の決定。
・北朝鮮による化学兵器の配備、使用の禁止を決定。
7月の2回のICBM発射
2017年
9月12日
2375号 ・対北朝鮮石油輸出に上限枠設定。
・北朝鮮の繊維の輸出禁止の決定。
・北朝鮮労働者への新規労働許可発給禁止の決定。
・密輸疑い船舶の旗国同意の上での公海での検査の要請。
・北朝鮮籍船舶との船舶間の物品移転の禁止の決定。
・コンデンセート、天然ガス液、石油精製品の北朝鮮への供給禁止の決定。
・北朝鮮資本との合弁/共同事業の120日以内の解消の決定(ロシア産石炭のハサン~羅津港経由の輸出など一部例外あり)。
9月3日の第6回核実験

出所:外務省資料より筆者作成。

 

特に注目されるのは安全保障会議決議2371号で、北朝鮮による化学兵器の配備、使用の禁止を決定した。フセイン政権下のイラクに対する決議でも化学兵器を含む大量破壊兵器に関する項目があった。査察の拒否はその後、米国による開戦事由の一つとされた。

ハードルが高い武力行使

トランプ大統領は、外交的な解決ができない場合は武力行使も辞さないとしている。仮に米国が主体となり、先制攻撃で北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルを軍事力で除去する場合、どういう課題があるだろうか。まず法制面を検討してみる。

米国の戦争権限法は、大統領による軍事行動の決定について制約を設けている。例えば、戦闘に入った場合は48時間以内に下院議長および上院臨時議長への紙面報告が必要で、議会が宣戦布告する、ないし大統領に特別な授権をする場合を除き、戦闘期間は60日まで、さらに相手国領内から30日以内に退くことを義務付けている。

一方で国連憲章7章に基づく行動、同盟国との条約に基づく行動、外交関係処理権限並びに最高司令官及び執行権長権限に基づく行動はこの例外とされている。

しかしながら、議会は予算権限を盾に戦闘行為に介入することができる。このため歴代の大統領と議会は様々な駆け引きをしつつ対応してきた。

例えば1991年の湾岸戦争では、国連憲章7章に基づき開戦が決議されていたが当時の大統領は事前に両院の決議を要請した。1992年のソマリア介入では国連憲章7章に基づく活動として議会の承認は不要とされた。1993年のハイチ介入では、国連制裁を背景に外交関係処理権限並びに最高司令官及び執行権長権限によるとして議会承認は不要とされた。2001年のアフガニスタン攻撃では両院の決議を要請した。2002年のイラク侵攻では安全保障理事会による開戦決議はフランス、ロシア、中国の反対で諮ることができず、大統領は事前に議会に決議を要請した。2011年のリビア爆撃では、米軍の指揮権はNATOに委ねられていたことと、地上軍を派遣しないことで議会の決議は不要とされた。

これらからは、国連憲章7章の決議に関わらず、短期の収拾が見込まれ、あるいは大規模の地上部隊を派遣しないのであれば議会の決議を不要と考えていることがうかがわれる。一方で、議会の決議を得るには国連憲章7章による決議は錦の御旗となる。北朝鮮に対する軍事行動は、ある程度の長期化と地上軍の投入が必須とみられることから、議会の理解を得るためにも国連憲章7章による決議は重要だ。

安全保障理事会決議では、国連憲章7章「第何条」に基づいてと該当条項を挙げることがあるが、一連の対北朝鮮決議では条項に触れていない。開戦についてはロシアと中国の反対が予想される中、41条か42条か根拠を曖昧としていることは興味深い。

一方、議会を説得するには世論も大事だ。2017年9月初旬、北朝鮮による第6回核実験後にギャラップが行った世論調査によると、外交的・経済的手段で問題が解決しない場合の戦争支持が58%にのぼった。平和的解決は「可能」であるとの回答は50%、平和的解決は「できない」との回答は45%だった。

ただし世論は先制攻撃に懐疑的だ。9月中下旬にワシントンポストとテレビ局ABCが実施した世論調査では、米軍に軍事行動が許されるのは北朝鮮による米国ないし同盟国への先制攻撃があった場合に限るという回答が67%にのぼり、先制攻撃を許容する回答は23%にとどまった。また、米軍指導部を信頼するという回答が72%に及んだのに対し、トランプ大統領を信頼するという回答は37%だった。

北朝鮮関連のレポートを数多く掲載しているThe Atlanticでも、トランプ大統領の支持率では北朝鮮との戦争に踏み切れないだろうという見方が紹介されている。

武力行使の準備には相当の時間が必要

さて、全面戦争を想定した開戦判断には人的物的被害との天秤も考慮されなければならない。休戦ラインの北側にはソウルを射程に収める大量の多連装ロケット砲や長距離砲、短距離ミサイルが配備されている。また北朝鮮には日本を射程とするミサイルも多数配備されている。これらを短時間で無力化できなければ、被害は甚大なものとなる。

1994年の北朝鮮によるプルトニウム抽出のための核燃料再処理をめぐる軍事的緊張について、当時の米国のペリー国防長官は2017年4月28日、「私たちは戦争の準備をしていた。犠牲を出さずに効果的に計画遂行し、北朝鮮の核施設を完全に破壊する自信があった」と証言している。

一方で「もし先制攻撃すれば、北朝鮮から何らかの反撃があることも理解していた。韓国に対する総攻撃であれば、ソウル市民を中心に、何十万人という犠牲者が出たでしょう」とも語っている。当事、韓国政府などが試算した人的被害は、軍民あわせ100万人、経済損失1兆ドルというものだった。

しかしながら、戦争シミュレーションの専門家である現役軍人やイラクの大量破壊兵器の査察経験者などからなる米国の戦争シミュレーションの専門家チームは、2005年に次の試算を出している。

 

(1)8,000回/日の爆撃出撃で、最初の数日で核関連施設、ミサイル、長距離砲の殆どを壊滅できる。
(2)北朝鮮地上軍の南侵は阻止が可能。
(3)韓国側軍民の死者数(米軍含む)は10万人と予測。

出所:The Atlantic

 

米国が空母6隻を投入した対イラク戦でも1日の出撃回数は最大800回/日であった。8000回/日の出撃が可能かは疑問付が付くが、精密誘導兵器の導入で当時に比べて目標破壊能力は著しく向上しており、異なるシナリオの存在は注目されるべきだろう。

しかしながら、実際に米軍はすぐには動きがとれない。中東で続くIS勢力の掃討で兵器在庫に余裕がなくなっているため、そして北朝鮮の地下要塞化している基地を攻撃するための大型貫通弾の在庫と輸送手段が限られているためだ。

例えば空爆用の精密誘導兵器は中東軍の在庫だけでは足りず、欧州軍などから移送している状況とされる。国防省は新年度予算で精密誘導兵器の調達を進める計画だが、メーカーの生産体制の制約もあり、適正在庫を回復するには1年ほど要するとみられている。

北朝鮮の山地や丘陵下の要塞化された施設を攻撃するのに必要と考えられる大型の貫通弾GBU-57A/Bはもともと在庫が少ない上に、巨大さ故に運搬手段も限られる。このため米軍が小型の核兵器タイプの貫通弾、B61 Mod 11の使用も厭わないという懸念もある。

何れにしろ、トランプ大統領の言動とは裏腹に、米国としては武力行使の準備が整うまで、外交努力、経済制裁努力に尽力するしかない。北朝鮮に対して直接的な有効な手立てがない場合、矛先は対北朝鮮制裁におよび腰の国々と、北朝鮮と取引している企業のメインバンクに向かうだろう。米国はニューヨーク連邦銀行を通じて当該国の中央銀行や商業銀行の国際間のドル決済を凍結するという手段を有している。

依然として重要な外交的・経済的圧力

北朝鮮による実用的な核兵器と米国までの運搬手段の入手が間近であれば、米国が核兵器と弾道ミサイルの廃絶を北朝鮮との交渉で実行に移させることは至難だろう。鍵を握っているのは米国ではなく、国境を接する中国とロシアとなる。

このうち中国の指導部はすでに北朝鮮への経済制裁に舵をきった。両国の指導部の間には、現在、冷たい風が吹いている。これは核・弾道ミサイル開発をめぐる党機関紙での激しい非難の応酬にも見て取れる。2017年9月9日の北朝鮮の建国記念日では、ロシアのプーチン大統領とキューバのカストロ議長の祝電は披露されたにもかかわらず中国からの祝電は披露されなかった。

習近平体制と金正恩体制の発足後、両国間のパイプ役だった党長老は続々と粛清された。例えば中国側では朝鮮労働党65周年記念式典に参加した周永康・元党中央政治局委員、朝鮮戦争への中国人民志願軍参戦60周年式典で訪朝した徐才厚・元党中央軍事委員会副主席、北朝鮮側では張成沢・元党中央委員会政治局員などだ。うち徐才厚副主席は、瀋陽軍区のドンと目されていた。

もともと北朝鮮と接する瀋陽軍区(現在は北部戦区に改変)は北朝鮮との密貿易への関与を疑われていた。瀋陽軍区は人民解放軍の最精鋭の一方、中央の統制が効きづらいとされてきた。再編された北部戦区に対し、党中央軍事委員会の主席でもある習近平総書記が直接的な統制を試みているが、次期中国共産党大会で新執行部が発足すると拍車がかかり、その付随効果として密貿易にも影響が出てくるものと筆者はみている。

中国にはさらにいくつかの選択肢がある。現在の中朝友好協力相互援助条約には、相互防衛義務条項がある。しかし党機関紙のひとつ環球時報では、北朝鮮による米国・同盟国への先制攻撃時には中国は中立を保つべきとする見解や、政策的に北朝鮮にもっと関与するべきといった論調も見られる。

また経済制裁についても、2017年9月からガソリンなどの石油精製製品の禁輸を開始し、中国での北朝鮮資本が入る企業、北朝鮮にある中国系企業、第三国での中国と朝鮮の企業の合弁も2018年1月9日までに閉鎖するよう通達を出した。さらに中国は石油の禁輸という切り札を温存している。

あるいは、冷え切った関係の修復の条件として、ないし2021年に更新期限を迎えるこの上述の条約をめぐり、中国側が核・弾道ミサイル開発の停止を条件提示することもありえるかもしれない。

一方、安全保障理事会の決議にも関わらず、北朝鮮を擁護しているのがロシアだ。プーチン大統領は、国際社会に対し、北朝鮮とは対話で臨むよう繰り返し訴えている。

ロシアは北朝鮮の要望に応じて、北朝鮮との国境の街ハサンから鉄道を延伸し、羅津港までつなげた。2013年に開通したこの鉄道を使ってロシアは有煙炭を羅津港に輸送し貨物船で輸出している。この事業は2017年9月の安全保障理事会2375号決議でも制裁の例外となった。

また同月、北朝鮮が保有する貨客船「万景峰号」によるウラジオストクと羅津との定期航路の再開を認めた。10月にはロシア鉄道の子会社であるトランステレコムが北朝鮮の独占的なプロバイダー企業スター・ジョイント・ベンチャーにインターネット接続サービスの提供を開始した。これまでの唯一の接続先であった中国連合通信(国営)による接続遮断という新たな経済制裁の可能性に備えた措置とみられている。

経済制裁の効果をあげるにはロシアの参加が不可欠だ。米国は北朝鮮と取引があるロシア企業に独自制裁を加えることで効果の上乗せを狙ってくるだろう。

さて、パキスタンや北朝鮮の核・弾道ミサイル開発については、過去、日本企業のかかわりも指摘されている。パキスタンの原爆開発責任者であったカーン博士は、ウラン濃縮施設で使う無停電電源装置などを日本企業から調達したことを明かしている。北朝鮮関係ではスカッドミサイルの発射台への転用目的とされる中古のガソリンタンク車が日本から最終仕向け地を偽り輸出され、韓国の税関が押収したこともある。固体燃料製造に必要な装置が日本から輸出されたという話もある。

同じことは他国でも起こり得る。日本としては他国に対して北朝鮮の制裁逃れの手法を伝えエンカレッジしていくことも重要だろう。特に、北朝鮮のミサイルには、GPSでの誘導装置など民生品から転用された部品が多数使われているとされる。ミサイルに転用される民生品を遮断することは重要な施策となる。

何れにしろ、武力行使による解決はハードルが高い。当面、条件が整うまでの間は、国際社会が結束して地道に外交努力、経済制裁努力を続けていくしかないだろう。出口はまだまだ先のことになりそうだ。