一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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2008/01/22 No.106ドイツ車に厳しい自動車CO2排出規制案〜欧州委員会が規制案の詳細を発表

田中信世
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

欧州連合(EU)の欧州委員会は2007年12月19日、EU市場で販売される自動車の二酸化炭素(CO2)排出規制案の詳細を発表した。欧州委員会では昨年2月の段階で、EU市場で販売される新車のCO2排出量について、2012年までに自動車メーカーの努力で130グラム/キロメートルに削減し、道路の改良などで10グラム/キロメートルを追加削減して、最終的に120グラム/キロメートルとするという基本方針を発表していた。

今回発表された規制案は、前述の基本方針そのものには変わりはないが、昨年2月以降の議論や業界のロビー活動などを踏まえて、より具体的な内容を盛り込んだものとなっており、(1)CO2排出量を車両重量ごとに新たに設定するとともに、(2)規制値を達成できない自動車メーカーには罰則規定を適用する規定を新たに盛り込んでいる。同規制案によれば、車両重量に応じた具体的な規制値は次の計算式に基づいて算出されることになっており、図1は計算式に基づいて算出した規制値を車両重量別に図示したものである。また、表1は06年時点における自動車メーカー別の平均車両重量、平均CO2排出量等をまとめたものである。

図1車両重量別の許可排出量

(出所)EUホームページに掲載の“Question and answers onproposed regulation to reduce CO2 emissions from cars”

 表1  自動車メーカー別の平均車両重量、平均CO2排出量、販売台数(2006年)

自動車メーカー平均車両重量
(キログラム)
平均CO2排出量
(グラム)
販売台数
BMW1,453182739,993
ダイムラー/クライスラー1,472184860,816
フィアット1,1121441,050,885
フォード1,3191621,490,276
GM1,2571571,424,783
ポルシェ1,59628239,069
PSA1,2011421,882,210
ルノー1,2341471,232,236
フォルクスワーゲン1,3661652,744,849
トヨタ1,214152773,329
日産1,202164273,983
三菱1,245169101,124
ホンダ1,261153229,791
マツダ1,296173229,135
スズキ1,152164178,614
スバル1,38421631,541
ヒュンダイ1,349165461,880
平均/合計1,288.8159.213,744,424
  (出所)図1と同じ。
【CO2許可排出量の計算式】
CO2の許可排出量=130+a×(M−M0)
M=車両重量(キログラム)、M0=1289.0(定数)、a=0.0457(係数)

ダイムラー/クライスラーを例に、上記計算方式に基づいて許可排出量を計算すると、表1から、同社が生産する自動車の平均車体重量は1,472キログラムであることから、138グラムが2012年における同社のCO2排出量の上限ということになる。また、06年のダイムラー/クライスラー車の平均CO2排出量は184グラムであるので、この規制案に基づけば、同社は2012年までにCO2排出量を06年に比べて46グラム削減しなければならないということになる。

同様に、欧州で自動車を販売している主要メーカーについて、必要とされるCO2の削減量を計算すると、PSA16グラム、ルノー20グラム、フィアット22グラム、フォルクスワーゲン31グラム、BMW45グラム、ポルシェ138グラムなどとなり、車両重量を勘案した規制方式が採用されるようになったとはいえ、小型車の多いフランス車やイタリア車に比べて、大型車の多いドイツ各社がより大幅な削減努力を求められていることは一目瞭然である。

ちなみに、日本車の必要削減量は、ホンダとトヨタが各25グラム、日産38グラム、スズキ、三菱、マツダが各41グラムという数字になっている。

一方、今回新たに設けられた罰則規定には、単位排出量未達1グラムにつき2012年20ユーロ、13年35ユーロ、14年60ユーロ、15年以降95ユーロの罰金が盛り込まれた。罰金は新車の販売台数に乗じて算出されるため、販売台数の多いメーカーにとっては極めて大きなコスト負担につながる可能性がある。

もっとも、規制案では、目標達成が難しいメーカーを救済するため、目標達成を必ずしも1社だけで行う必要はなく、排出量の取引を通じて数社共同で1キロメートル当たり130グラムを達成しても良いことを認めている。このため、規制案が実施された場合、目標達成が難しいドイツ車メーカーが、目標達成が容易なイタリアやフランス車メーカーからCO2排出量の権利を購入するといった対応をとることも考えられるが、ドイツ車など車体重量が大きい自動車を生産するメーカーが大きな負担増を強いられることは避けられないものとみられる。

今回の規制案に対して、欧州自動車工業会(ACEA)は「欧州委員会の規制案には失望した」とコメントしており、大きな負担を強いられることになるドイツの自動車メーカーなども、規制案が厳しすぎるとして政府も巻き込んで反発を強めている。2007年12月20日付のドイツ経済紙ハンデルスブラットは「ブリュッセルの計画、ドイツ自動車産業にショックを与える」「欧州委員会のCO2排出規制案に激しい批判起こる〜メルケル首相とグロス経済大臣は規制案に対する反対を表明」といったタイトルの下で、欧州委員会の規制案の中身を大きく報じており、「環境の最小限の改善のために自動車産業に最大限の打撃を与える欧州委員会の規制案は容認しがたい」(グロス経済大臣)や「目標未達成の場合の罰金が高すぎる」(ドイツ自動車工業会)などの発言を紹介している。

いずれにしても、欧州委員会のCO2規制案は今後、正式の採択に向けて閣僚理事会や欧州議会で議論されることになるが、ドイツを中心とする自動車業界の反発が強いことなどから、採択されるまでにはなお多くの曲折が予想される。

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