2009/06/08 No.124EU、2年以内にブルーカード制度を導入へ〜閣僚理事会がブルーカード導入に関する指令案を採択
田中信世
(財)国際貿易投資研究所 客員研究員
EUの閣僚理事会は、2009年5月25日、高い技能を持つ労働者の受け入れを促進するため、EUブルーカード(在留・就労許可証)導入に関する指令案を採択した。
EUの欧州委員会は、2006年12月に開かれた欧州理事会(EU首脳会議)でEU産業の競争力強化を図るために域外労働者の受け入れにつ EUの欧州委員会は、2006年12月に開かれた欧州理事会(EU首脳会議)でEU産業の競争力強化を図るために域外労働者の受け入れについて、(1)域外国労働者が加盟国で在留・就労するための申請手続きの簡素化に関する報告、(2)域外国労働者の種類(①高技能労働者、②季節労働者、③報酬を伴う研修生、④企業内転勤)別の受け入れ政策の導入などについて報告を求められた。これに基づき、欧州委員会では、上記(1)と(2)の②に関する指令案を07年10月に発表し、閣僚理事会や欧州議会などで協議を続けてきた(指令案作成までの経緯については、07年11月8日付フラッシュ101号「EU、域外国労働者の受け入れ政策で指令案を発表~ブルーカード導入へ一歩」を参照)。
5月25日の閣僚理事会で採択されたのは、上記指令案のうち、(2)の?の「域外国出身の高技能を持つ労働者の入国・在留に関する指令案」であり、EUブルーカード(在留・就労許可証)の導入によって、カード取得者の域内労働市場へのアクセスを容易にするとともに、いくつかの分野でEU市民と同等の社会的・経済的な待遇を与えることにより、高技能労働者の不足を解消し、EU産業の競争力強化に結びつけることを狙いとしている。
指令案には、高技能労働者が加盟国でEUのブルーカードを申請する際の要件として、次のような点が盛り込まれている。
- 当該加盟国における最低1年間有効な高技能雇用契約書の提示。
- 当該加盟国の法律で定められた(少なくとも当初3ヵ月間有効な)入国書類、(当該国の法律で定められている場合には)ビザ申請書またはビザの提示。
- (当該国の法律で定められている場合には)通常のリスクをカバーするような健康保険の提示。
- 雇用契約書に定められた総年収が当該国における平均的な総年収の1.5倍を下回らないこと。
また、ブルーカードの発行に関連して次のような規定も盛り込まれている。?ブルーカードの有効期間は1〜4年とする。雇用契約の期間がこれより短い場合には、雇用契約期間プラス3カ月有効のブルーカードを発行。?必要な高技能労働者の受け入れ数を決定する加盟国の権利は、この指令によって影響を受けない。?有効期間内においては、ブルーカード所持者はEUブルーカードを発行した加盟国に入国し、再入国し、滞在する権利を有し、指令案で認められた権利を行使することができる。?ブルーカードの有効期間内に失業した場合には、失業期間が連続して3カ月以内である場合(あるいは有効期間内に2度以上失業しない限り)、ブルーカードの取り消しは行われない(ブルーカード所持者は有効期間内に新たな就職先を探し、就職することができる)。?ブルーカード所持者は、最初の加盟国での労働・滞在期間が18ヵ月を超えた場合には、一定の条件の下で家族とともに高技能雇用のために他の加盟国に移動することができる。他の加盟国に移動した場合、ブルーカード所持者または雇用主はできるだけ速やかに(1ヵ月以内に)移動先の加盟国の監督官庁にEUブルーカードの申請書およびその他の条件を満たしていることを証明する書類を提出しなければならない。
さらに、指令案では、EUブルーカード取得者には次のような分野でEU市民と同等の待遇が与えられるとしている。
- 報酬および解雇、並びに職場での健康・安全要件を含む労働条件。
- 労働組合等への参加の自由。
- 教育や職業訓練への参加。
- 卒業資格、職業資格の認定。
- 社会保障や年金に関する国内法の規定。
- 物品の購入やサービス享受に関する権利(住宅取得や情報・相談サービスを得るための手続きを含む)。
- 加盟国内での自由な行動(ただし各加盟国の法律を遵守)。
指令案に盛り込まれている主な点は以上のとおりであるが、今後、各加盟国は2年以内に指令の内容を盛り込んだ国内法を整備して新制度が実施に移されることになる。なお、英国、アイルランド、デンマークの3カ国についてはEC/EU条約の付属議定書などにより、例外的に「人の移動」編の適用が免除されているため、指令では3カ国はこの制度に参加しないと記載されている。このため、この3カ国についてはブルーカードを導入するかどうかについて自由に決定できることになる。
EUは現在深刻な景気後退期にあり、失業率(09年4月のユーロ圏の失業率は9%台)も大幅に高まってきている。こうした状況の下で一時深刻な状況にあった高技能労働者に対する供給不足問題も一服感があるが、中・長期的にみて、高技能労働者の確保の重要性に変わりはなく、その意味で今後のEU経済に与える効果が期待される。
なお、欧州委員会の雇用・社会問題・機会均等総局の資料によれば、EU27の他国籍移住者(15〜64歳の労働人口)の受け入れは、総労働人口の2.3%となっており、このうち、域内国の国籍の移住者が0.9%、第三国の国籍の移住者が1.5%となっている。加盟国の中で他国籍の移住者の比率が高いのは、ルクセンブルク(8.1%)、スペイン(5.4%)、英国(4.0%)、オーストリア(3.9%)などとなっている。このうち、ルクセンブルクについては、課税等の関係でEU企業等の本社機能が集まっていることから、域内国の国籍の移住者の比率が高くなっているが、その他の国ついては、第三国の移住者の比率が高い(表1)。
また、表2はEUの移住者を教育水準別にみたものである。同表によれば、07年のEU27における「大学卒業以上の高度教育習得者」(この時点ではもちろんブルーカード取得対象者にはなっていないが、今後このクラスがブルーカード取得の対象になるものと思われる)の他国籍移住者総数に占める比率は約20%であった。同表からみる限り、「大学卒業以上の高度教育取得者」の受け入れ比率の高い国は、フィンランド(29.4%)、英国(28.1%)、アイルランド(28.1%)、ベルギー(28.1%)、デンマーク(27.1%)、スペイン(27.0%)、スウェーデン(27.0%)などとなっている。逆に、初等教育習得者の受け入れ比率の高い国は、ポルトガル(71.3%)、スペイン(49.3%)、イタリア(48.6%)、ギリシャ(41.0%)、また、中・高等教育習得者の受け入れ比率の高い国は、オーストリア(60.1%)、ドイツ(56.2%)、スウェーデン(52.4%)、フィンランド(45.0%)などとなっており、当該国の教育水準別にみた外国人労働者に対する需要を反映しており、興味深い。
表1 EUの他国籍移住者の受け入れ(単位;%)
表 2EUの他国籍移住者の教育水準別比率(2007年)(単位;%)
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