フラッシュ130
2009年9月15日
 

インドにおける外資系小売業の参入

 
(財)国際貿易投資研究所
研究主幹
   増田 耕太郎
 

  インドは外資系企業による小売業分野での参入を原則として認めていない。例外として進出できる分野は、フランチャイズ形態と出資比率が51%以下の単一ブランドの商品を販売する専門小売店(単一ブランド小売店)の2つの業態である。

  2006年に認めた単一ブランド小売店分野の投資累計額は、2007年末の168万ドルから2009年6月末時点の4,534万ドルに増えている(下図参照)。

  図  対内直接投資累計額の推移 〜 小売業(単一ブランド小売店)〜(単位:100万ドル)

  (注) 時点は2000年4月から各年末までの累計額。ただし、2009年は6月末時点の累計額を示す。2006年以前のうち、2004年以前は「小売業」の分類がない。2004〜2006年は不詳である。
  (出所) インド対内直接投資統計(国際貿易投資研究所「世界主要国の直接投資統計集」)

外資の関心は単一ブランド小売店での出店

  外資系企業の関心は単一ブランド小売店の出店にある。出資比率の上限(51%)を引き上げ100%出資の子会社の設立を認める、単一ブランドではなく複数のブランドを扱うことができるマルチブランド小売店を認める、などの規制緩和への期待が大きいためだ。

  単一ブランド小売店で販売可能な商品に対する規制(ガイドライン)は、販売する商品が「単一のブランド」の製品に限る、販売する商品のブランド名は同製品が国際的に使用している同一ブランド名である、ブランド名を製造工程で付与することの3要件を満たすことである。

    単一ブランド小売店の進出例(進出予定を含む)
  • 高級・高額なブランド品の専門店
  • NIKEなどのスポーツ用品店、
  • Samsungなどのエレクトロニクス店
  • TopShop(英国、ファースト・ファッション)
  • ZARAブランド゙のIndeitex(スペイン、アパレル)
  • DKNY(Donna Karan Studio:米国、アパレル)
  • Marks and Spenser(英国、アパレル、家庭用品)
  • Benetton(イタリア、アパレル)
  • Jean-Claude Biguine(フランス:美容サロン・化粧品)
    出所:インドの現地報道および各社のホームページ

小売業部門の完全開放は見通せず

  外資系企業が100%出資の子会社を設立し小売部門に自由に参入できる時期を見通すことができない状況のようだ。規制緩和を進め外資参入を進めるべきとの意見がある一方、外資規制を強めるべきとの意見も根強い。1,200万を超える零細な家族経営の個人商店(mom-and-pop stores)と4,000万人を超える従事者に与える影響が大きいからだ。2009年6月9日付のインド各紙は、国会上院の商業常任委員会の報告書が小売業への外国直接投資規制を強化すべきとの提案であることを伝えている。

  外資系企業がインド小売市場に参入する選択肢は限られている。

  第1は、卸売店として進出し、インドの消費市場での橋頭堡を築く。マルチブランドを扱う小売店の進出が認められていない現時点では、100%出資が可能で自動承認されるキャッシュ・アンド・キャリー型卸売店形態で進出する。
  小売業世界1位のWalMart(ウオルマート)、2位のCarrefour(カルフール)、4位のTESCO(テスコ)、5位のMETRO(メトロ)は、いずれも卸売専門店を開設あるいは開設の予定だ。小売店の出店自由化を見越した進出ではあるが、当面は小売店やホテル・レストランなどを顧客にしたキャッシュ・アンド・キャリー型卸売店で参入する(フラッシュ127号)。ただし、商業常任委員会報告を伝えた記事では、外資系キャッシュ・アンド・キャリー型卸売店を『裏口から小売業に参入するカムフラージュ』であるとし規制を強めることを求めている。

  第2は、現行の規制範囲内での小売店の展開を図る。インド企業と合弁会社を設立し単一ブランド小売店で事業展開を進める、フランチャイズ形態を選ぶ、あるいは既存のフランチャイズ形態から単一ブランド小売店へシフトするなど。

  フランチャイズ形態から単一ブランド小売店への事業展開を選んだ企業の例に、Marks&Spencer(英国)、Vision Express(オランダ)がある。Marks & Spencerは事業のあり方を見直し、合弁会社を設立し単一ブランド小売店への進出を決めた(2009年4月)。 インドでの事業拡大にはインド企業との合弁が望ましく、合弁先からインドの事業展開に不可欠な「資産(店舗立地)」、「ロジスティクス&サプライチェーンの構築」、「インド市場の経験などの情報」から得る必要をあげている。

  単一ブランド小売店の出資比率の上限(51%)の壁を理由に当面の出店を断念した例に、スウェーデンの家具メーカーのイケア(IKEA)がある(2009年6月)。同社は100%出資の店舗展開が可能になると見込み、10億ドル規模の大型投資を行う計画で2011年の開業を目指していた。ただし、IKEAは完全にあきらめたわけではない。100%出資を認めるようにインド政府に働きかけを続けるとしている。

  総人口約11億人のインド市場は、外資系小売業にとって未開放の最大市場である。高い経済成長が見込まれ、中間所得層の増加は消費市場を確実に拡大させる。AT Kearneyの国際小売市場比較指数(Global Retail Development Index)では、インド小売市場を総合評価の1位に選んでいる(下表)。

  表  国際小売市場比較指数(2009年)

  (注) 総合指数(GRDI)は構成項目を各25%のウエイトの加重平均で算出
  (出所) AT Kearney“Global Retail Development Index”2009年版より抜粋

  中間所得層の消費が広がる生活関連産業分野を想定すると、主力商品は高い関税を払い輸入に頼るものではない。インド国内に生産拠点や調達拠点があり品揃えができるものが中心になる。小売業分野の市場開放の見通しが不透明の状況の下で、インド市場の参入にむけサプライ・チェーンの構築をどのように進めていく戦略を採るのか興味深い。

(参考)フラッシュ127号:“キャシュ・アンド・キャリー型卸売店の進出が相次ぐインド”(2009年6月30日)