一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

Menu

フラッシュ

2011/12/15 No.149FTAが牽引するASEAN‐中国貿易 ~2012年にさらなる関税削減が見込まれるACFTA( ASEAN中国FTA)~
(1.ACFTAの経済規模は7.7兆ドルで19.3億人の人口)

高橋俊樹
(財)国際貿易投資研究所 研究主幹

(1/5ページ)

日本のTPP交渉参加の表明は、アジアにおける経済統合の流れを急速に変えつつある。ASEAN++のFTAに向けた話し合いが新たな段階を迎える中で、ACFTA(ASEAN中国FTA) は現時点でアジアと中国を結ぶ最大の自由貿易協定として、ますますその存在感を高めていくものと思われる。本稿においては、ACFTAの役割や協定の特徴、日本企業はどのようにすれば活用できるのかについて、解説することにしたい。

1.ACFTAの経済規模は7.7兆ドルで19.3億人の人口

流れがASEAN++へ

野田首相は2011年11月11日夜、記者会見で環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に向けて、関係国と協議に入ることを表明した。その理由として、アジア太平洋地域の成長力を取り込むためであることを強調した。

日本の交渉への参加表明により、TPPの魅力が大きく増したことは事実である。このことを証明するかのように、APEC(アジア太平洋経済協力会議)ハワイ会議に出席したカナダのハーパー首相は11月13日、オバマ大統領と会談し、TPP交渉への参加に意欲を示した。メキシコも同様に、参加表明を行った。TPPはAPECの枠組みの中で最も先行する自由貿易経済圏であるが、成長するアジア市場を取り込むことが可能なFTAとして、その存在感が急に高まっている。

これに伴い、TPPの土俵から外れた中国は、それに代わる経済統合として日中韓FTA やASEAN+3(日中韓)などを推進・主導する気配を見せている。ASEANは、自らの立ち位置を脅かすTPPや日中韓FTAに対して、ASEANを核とした数カ国の経済統合を意味するASEAN++で自らの存在感を示したいところである。

成長するアジアの市場を取り巻く主導権争いは激しさを増している。アジアでの経済統合の流れは、明らかにTPPや日中韓FTA、ASEAN++に向かっている。その中で、ACFTAは現時点においては、中国との自由貿易における最大の架け橋である。ASEAN++が機能するまでの当面の間は、ACFTAは大きな役割を果たすものと思われる。

相対的に低いACFTAの域内貿易比率

ACFTAは、ASEANと中国との間の包括的で質の高いFTAを目指したものである。財だけでなく、サービスや投資の協定を含んでいる。2000年に研究を開始し、2002年11月に全体の骨格を形成する「包括的枠組み協定」に調印。2004年11月には、ASEANと中国は具体的な自由化規則を盛り込んだ「物品貿易協定」に調印した。そしてACFTAは、ASEANにおいては2005年7月1日、中国では2005年7月20日から発効した。

ACFTAの設立においては、その90%の品目の関税を、ASEAN先行6カ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)は2010年まで、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)は2015年までに撤廃することで合意している。

2010年から自由化が大きく進展したACFTAであるが、その世界経済や貿易に占める影響力はどの程度なものであろうか。

世界経済は、各国のGDPを積み上げると、2010年で63兆ドルになる(表1)。TPP参加9カ国の経済規模は、その27%に達する。ASEAN+3はTPPよりも少ない22.6%であった。ASEAN+6(日、中、韓、インド、豪、NZ)は、TPPとほぼ同じの27.2%であった。

ACFTAの2010年における経済規模は7.7兆ドルである。したがって、世界のGDPに占める割合は12.2%であり、TPPとASEAN+6 の半分弱の経済規模ということになる。一方では、ACFTAの人口は19.3億人となり、実に世界の28.3%に達する。これはTPP9カ国の約4倍に相当する。  

表1  ACFTAの基本経済指標(2010年、%) 

(資料) ASEAN事務局統計、日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部「環太平洋戦略経済連携協定(TPP)の概要」、日本貿易振興機構J-FILE、から作成 

また、ACFTAの域内貿易比率は22.3%であった。これは、ASEANのみの域内貿易比率の26.4%よりも低い。もしも、ACFTA域内からASEAN域内の貿易を除き、中国とASEAN間の域内貿易比率を算出すると、11.3%に減少する。したがって、ASEANと中国との貿易は、これからであることが読み取れる。

ASEAN+6の域内貿易比率は45%にも達しており、当然ではあるが、ASEAN+1よりも大きな経済統合のほうが自由化の効果が大きいことを示唆している。TPPの域内貿易比率は12.8%であり、ACFTAの域内貿易比率の半分程度にとどまっている。ACFTAの域内貿易比率がTPPよりも高い理由は、明らかにASEAN域内の貿易比率の高さが反映されているためである。

ちなみに、図1のように「世界貿易に対するACFTA域内貿易額」の割合は2010年で3.6%であった。その割合は、ASEAN+3域内貿易(9.4%)の半分以下、ASEAN+6(12.2%)の3分の1ということであった。また、NAFTAの6.3%よりも低かった。このことからも、ACFTAの域内貿易の規模は、まだまだ発展途上にあることが理解できる。

  (資料) 日本貿易振興機構 J-FILE、より作成

一方、図2のように、2010年の世界の輸出額に占めるACFTA( ASEAN+中国)合計の輸出額の割合は14.8%に達している。この割合は、NAFTAの16.2%やASEAN+3の21.5%と比べても、それほど劣る数字ではない。

これは、ASEANと中国が世界の主要生産基地となっており、ここで製造された製品・部品が主要国に供給されていることを物語るものである。ACFTAの域内貿易比率が低くとどまっているのは、この供給構造がASEANと中国との相互貿易よりも、ASEAN域内やそれ以外の地域との貿易取引に反映されているためと考えられる。

  (資料) 日本貿易振興機構 J-FILE、より作成

次ページ>

フラッシュ一覧に戻る