フラッシュ149
2011年12月15日
 

FTAが牽引するASEAN‐中国貿易
〜2012年にさらなる関税削減が見込まれるACFTA( ASEAN中国FTA)〜

(2.関税削減の効果が現れ始めたACFTAと日系企業の対応)

 
(財)国際貿易投資研究所
研究主幹
   高橋 俊樹
 

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2.関税削減の効果が現れ始めたACFTAと日系企業の対応

動意が見られるASEANと中国との貿易

ACFTAの域内貿易の割合は2割強であり、EUやASEAN域内と比べて相対的に低い。もしも、ASEAN域内を除くならば、その割合は半分にまで低下する。

その理由の1つとして、ASEANと中国との貿易が「素材や電気電子部品」を輸出し、「繊維製品や電気製品」を輸入するというように、まだ異なる業種間で行われていることが多いためと考えられる(垂直的分業)。もしも、「一般・工作機械」や「自動車部品」などの同じ業種内で貿易が進展すれば(水平的分業)、ASEANと中国との貿易はさらに拡大するものと思われる。

また、分業体制だけでなく、関税削減スケジュールでAFTA( ASEAN自由貿易地域)に比べて遅れていることも、現段階でACFTA域内貿易の割合が相対的に低い原因と考えられる。AFTAの共通実効関税制度(CEPT)は93年から発効し、2010年には先行6カ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン)の域内関税は例外を除きほぼゼロになっている。

これに対して、ACFTAは2005年に発効したばかりである。このため、中国とASEAN先行6カ国においては、早期に関税を引き下げるアーリーハーベスト品目(EHP、主に農水産物やその加工品)の関税が2006年にゼロ。2010年には、一般スケジュールどおりに関税削減を実施する自由化品目(ノーマルトラック、NT)の関税がゼロになったばかりである。

したがって、ACFTAにおいては、依然として全体のおおよそ4分の1を占める「EHP例外品目」、「NTの例外品目(NT2)」、及び一般スケジュールよりも自由化を遅らせる「センシティブトラック品目(ST)」に関しては、中国とASEAN先行6カ国でも関税撤廃はこれからである。

いわんや、その他のASEAN諸国である「CLMV(カンボジア、ミャンマー、ラオス、ベトナム)」のACFTAにおける関税自由化は、EHP品目では2010年に関税は撤廃済みであるものの、NT品目でもその関税は2015年からゼロとなる予定である。

AFTAと比べて、ACFTAの関税削減スケジュールの遅れは顕著である。しかしながら、実際のASEANと中国との貿易には、2010年に入り動意が見られる。

2010年のASEANの対中輸出は、中国統計から見ると、前年から44.8%の増加となった。対中輸入も30.1%増であった。2009年はリーマンショックの影響から、輸出入は共に前年から減少したが、2010年には大きく反転したといえよう。それは、ASEANや中国の高成長やリーマンショックからの反動を反映しているだけではなく、中国と先行ASEAN6における2010年のNT品目の関税撤廃も影響を与えていると考えられる。

また、ASEANの対中輸出の2005年から2008年までの平均伸び率は17.9%増であり、ASEANの対中輸入は20.6%増であった。2010年の対前年伸び率は、この3年間の平均上昇率よりも倍近くも高い。2010年の前年比とこの過去3ヵ年の平均伸び率と比較することにより、2010年の関税自由化の効果がさらに明白になる。

  表2  ASEANの中国との貿易(100万ドル、%)

(注) 2009年のASEAN対中輸出入の( )内の数字は、2004-08年までと同様にASEAN貿易データベースの値。2009年、2010年の( )を除く「ASEANの対中輸出入額」は、中国通関統計から得た。2009-10年のASEANの対中輸出は、中国の対ASEAN輸入(CIF)なので、運賃・保険の分だけ数字が膨らむ。

(資料)  ASEAN Trade Statistics Database (Data as of July 2009)、日本貿易振興機構 J-fileより作成

ASEANは素材・中間財、中国は最終製品を供給

表2のように、約6、000品目にも達する2010年におけるNTの関税撤廃の効果が、「中国からASEANへの輸出」よりも「ASEANから中国向けの輸出」の方に強く現れている。これは、中国の2010年における内需の活発化の影響を受けているものと思われる。

2010年の「ASEAN10から中国への輸出」においては、加工品や部品から成る「中間財」の割合が多くを占め、7割に達した。中間財の内訳を見ると、加工品が全体の19%、部品が41%であった。部品の比重が高いことがうかがえる。

乗用車や衣類、食料品などの「最終財」は2割。食料・飲料の原料、あるいはプラスチック・塗料などの産業用原料に代表される「素材」は1割であった。

これらのASEANから中国への輸出において、特に増加しているのは素材である。2005年から2010年にかけて、ASEANの中国への素材輸出は140%も増加した。中間財は97%増、最終財は94%増であった。素材の輸出増には、現地日系企業も貢献しているものと思われる。

一方、2010年の「中国からASEANへの輸出」において、素材のシェアはたったの1%にすぎない。中間財のシェアも54%であり、7割に達するASEANから中国への輸出における中間財のシェアに比べると、その割合は低い。

中間財の内訳を見ると、加工品が28%、部品が21%であった。したがって、中国からASEANへの中間財輸出においては、加工品の比重の方が高い。これは、逆のケースであるASEANから中国への中間財輸出においては、部品の比重が高かったことと比較すると、大きな違いとなる。

また、中国からASEANへの輸出においては、最終財のシェアが高く、45%に達する。すなわち、中国からASEANへの輸出においては、そのほとんどを中間財と最終財が占めており、その両者の割合はあまり変わらない。

中国からASEANへの最終財の輸出においては、2010年には2005年から3倍に増加している。中間財は2倍であった。このスピードで進むならば、いつかは最終財のシェアは中間財を上回ると思われる。

したがって、ASEANと中国との経済貿易構造における特徴として、ASEANから中国へ素材や中間財を供給し中国で組み立てを行っていること。さらに、中国からASEANへの輸出において、加工・組み立てを終えた最終製品を供給するという傾向が強まっていることを、挙げることができる。

また、中間財貿易だけを見ても、ASEANから中国へは部品の割合が高く、中国からASEANへは逆に加工品の比重が相対的に高い。すなわち、ASEANと中国との貿易構造は補完的であることを示唆している。

ACFTAの活用対象の日系子会社は9,000社

日本企業の海外現地法人企業数は、経済産業省によれば、2009年度で1万8,201社(報告ベース)であった。このうち中国(香港含む)に進出している企業数は5,452社、ASEAN4(タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア)へは2,952社であった。したがって、アンケートに報告していない企業や他のASEAN諸国を考慮すると、ACFTA域内で活動している日系企業は、少なくとも9,000社は存在すると想定される。

ACFTA域内に進出している日系企業の全てが国境を超えて取引をするわけではないし、1つの日本の親会社が複数の子会社を抱えていることもあり、9,000社の全部がACFTAを活用することはない。しかし、相当数の進出企業が潜在的な活用対象企業であることは間違いない。

この9,000社は、日本企業による全世界への進出企業数の半数にも達する。したがって、ACFTAの活用は、日本企業にとって非常に大きな意味を持っている。

  表3  日本企業の海外現地法人企業数

資料) 経済産業省 第40回海外事業活動基本調査 2010年7月、より作成

一層のACFTA活用が期待される日系現地法人

実際に、ACFTA域内に進出した日系企業は、域内貿易をどの程度行っているのであろうか。図3は、日本企業の中国現地法人の売上・仕入全体に占める「アジア」との売上・仕入のシェアを示したものである。本来ならば、中国現地法人の「ASEAN」との売上・仕入のシェアを見たいところであるが、残念ながら、中国現地法人の「ASEAN」との取引の数字は公表されていない。

中国現地法人の2009年度におけるアジア向け売上のシェアは12.3%であり、仕入のシェアは12.8%であった。これに対して、図4のように中国の全輸出に占める対ASEAN輸出のシェアは、2010年で8.7%、ASEANの全輸出に占める中国向けのシェアは12.7%であった。

日本の中国現地法人の売上・仕入は、「アジア」との取引である。もしも、「アジア」を「ASEAN」に置き換えた場合のシェアを推測すると、韓国・台湾・インドなどが抜けるため、半分近くに下がる可能性がある。

したがって、日本の中国現地法人のASEANとの売上・仕入のシェアが、中国とASEANとの輸出入のシェアと比較して、同等かそれを下回る可能性がある。ACFTAは日本企業の活用を目的としたものではないが、大きな影響力を持つ日系現地法人の一層の利用拡大が望まれる。

ASEANに進出した日本法人の中国との取引が公表されていないため、ACFTA域内に進出した日本企業全体の行動パターンを反映した結果を知ることができない。おそらくは、日本企業の現地法人によるASEANから中国への売上のシェアは、中国からASEANへの売上シェアよりも高いと想定される。

それでも、ACFTA域内に進出した日本企業がASEAN−中国間の貿易で圧倒的に取引を主導しているとは言えないと思われる。念のため、「日本企業の中国現地法人のアジアとの売上・仕入額」を「中国と東アジア(インドを除く)との輸出入額」で割ったシェアを算出した。

2010年の中国から東アジアへの輸出額は4,576億ドルで、中国現地法人のアジアへの売上額は464億ドル(2009年度)であったので、日本企業が貢献した割合は10.1%であった。逆に、東アジアから中国への輸出額は5,427億ドルで、中国現地法人のアジアからの仕入額は346億ドルであったので、日本企業が貢献した割合は6.4%であった。

すなわち、進出した日系企業の売上が中国とアジアとの貿易取引において貢献した割合は、大雑把に言って、1割程度と見込まれる。

(資料) 経済産業省 第40回海外事業活動基本調査 2010年7月、より作成

(資料) 日本貿易振興機構 J-FILE、より作成

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