フラッシュ164
2013年1月30日
 

ASEANにおける知的財産権協力の展開と現況

 

東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)上級政策調整官

ITI 「ASEAN経済共同体(AEC)研究会」委員

福永 佳史
 

第1節 はじめに

本稿は、国際貿易投資研究所における「ASEAN経済共同体」(注1)に関する研究の一環として、ASEANにおける知的財産権協力の状況を概観するものであり、国単位ではなく、地域レベルでの活動に主眼を置く(注2)。

ASEAN諸国の国別の知財情勢について、多くの文献が発表されている(注3)。極めて簡単に述べれば、ASEAN10カ国はWTO加盟国であることから(ラオスが2013年に加盟の見込み)、TRIPS協定(注4)に基づき、知財保護の義務を負っている。このため、特許権、商標権、意匠権、著作権をはじめとする様々な知財権を保護するために、執行制度を含めた法制度を整備する義務を負う。ミャンマーを筆頭に、カンボジア、ラオスなど、法制度整備が遅れている国もあるが(注5)、多くのASEAN諸国には既に知財制度が存在している。しかしながら、実際の行政・司法の現状を見れば、法律を支える規則の未整備、審査基準の非公開、審査の遅延、行政官の能力不足、執行段階における地域保護主義など、多くの課題が残っている。この結果、米国通商代表部が作成するスペシャル301報告書[2012]では、ASEAN10カ国のうち、実に5カ国(ブルネイ、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム)が監視対象国又は優先監視対象国とされている。カンボジア、ラオス、ミャンマーについては、そもそも審査がなされていないが、上記5カ国に比して、知財環境が良いわけではない。シンガポール、マレーシアは監視対象から外れている。こうした、先進国側の立場の視点に加え、ASEAN諸国からすれば、自国の地場企業による知財の出願・登録が少なく(特に特許権)、十分に知財制度が活用できていないという課題を抱えている。

このような中、地域レベルで課題の解決に取り組んでいるのが、本稿の検討対象とする、ASEAN知的財産権協力である。まず、第2節において、ASEAN知的財産権協力の歴史、最新の行動計画を概観する。次に、第3節において、初期の最も野心的目標であった「ASEAN特許制度構想・同商標制度構想」について、構想が変遷し、国際出願制度への加盟を目標とするに至った経緯及び背景を検討する。第4節、第5節では、その他の特徴的な取組として、特許審査協力(第4節)、知財執行協力(第5節)について紹介する。第6節は結びである。

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(注1)ASEAN経済共同体の全体像については、石川他[2009年]を参照。
(注2)ASEANの知財協力について言及した主な先行文献としては、石浦[2009]が挙げられるが、同論文の中心は各国の知財制度の分析にある。これに対し、1990年代の動きについては、高倉[2001]が分析している。
(注3)ASEAN各国の知財情勢については、国別の模倣品対策マニュアル等、JETROの発表資料が詳しい。特に、最新の状況については、大熊[2012]を参照。
(注4)知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)。
(注5)カンボジア、ラオス、ミャンマーの3か国はWTOの規定する後発途上国であるため、TRIPS協定上の義務の履行期限は2013年7月である。

参照文献
石浦英博「ASEANの知的財産権制度と日本企業の対応」『ASEAN経済共同体』(石川幸一他編)、ジェトロ、2009年
石川幸一他編『ASEAN経済共同体』、ジェトロ、2009年
大熊靖夫「ASEAN諸国の知財状勢」『特許研究』54号、2012年9月(独立行政法人工業所有権情報・研修館刊)
高倉成男『知的財産法制と国際政策』有斐閣、2001年