フラッシュ172
2013年9月6日
 

「AAプラス」へ格下げのフランス
-及び腰のオランド改革に厳しい評価-

 
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
田中 友義
 

はじめに

今年7月、欧米系大手格付け企業、フィッチ・レーティングスが、フランスの長期国債格付けを最高ランクの「AAA」から「AAプラス」に格下げした。これで、大手格付け3社による最高位からの1ランク格下げが出揃った(注1)。格下げの理由として、財政改革の遅れや産業競争力の低下、労働市場の硬直性などを指摘。市場は財政規律強化と社会保障や労働市場などの国民の痛みを伴う構造改革を求めているが、オランド大統領の及び腰の構造改革の取り組み姿勢に不信を強めている。

以下では、大統領選挙戦の政権公約(マニフェスト)の内実やフランスの競争力低下、「ポスト・メルコジ」(注2)の仏独関係などの課題を中心に、大統領就任後のオランド改革の1年間を検証していく。

「普通の人」による改革の危うさ

ユーロ危機最中の昨年5月、フランス大統領選挙で現職の右派ニコラ・サルコジ候補を破って17年ぶりに社会党出身の第7代目フランス大統領となったフランソワ・オランド氏は、就任演説で「フランスは重い債務、弱い経済成長、高失業、低下する競争力という重圧に直面している。進むべき方向は、はっきりしている。フランスは力を結集できる」と強調、「避けて通れない債務削減と、成長に不可欠な景気刺激策を共に進めるための新協定を提案する」と述べた(注3)。

「もっと働き、もっと稼ごう」をスローガンに新自由主義的な政策と型破りな行動力で改革を訴えた前任者サルコジ候補を退けた、オランド氏の一般的な人物像は、積極財政、成長重視、富裕層への課税強化など左翼的な理念に忠実であるが、カリスマ性に欠き、政治手腕や指導力が不安視されるものの、調整力には秀でた「普通の(ノーマルな)人」というものである(注4)。

「普通の大統領」のオランド氏に期待を託して「オランド改革」がスタートしたが、社会党政権には「社会主義の実験」あるいは「ミッテランの実験」に失敗した苦い記憶がある。1981年に戦後初の左翼出身のミッテラン大統領が就任し、法定最低賃金と家族手当の引き上げ、労働時間の短縮、有給休暇の延長、公務員の増員など社会主義的な「大きな政府」の経済拡大策と大規模な国有化による経済再建を目指したものの、資本市場のパニック、フラン投機、インフレ昂進、資本逃避、国庫からの資金の流出、失業率の上昇などの冷徹な現実に抗しきれず、84年には大幅な軌道修正に追い込まれた(注5)。オランド改革は、まさに、この悪夢を蘇らせるものであった。

オランド大統領はフランス国民の痛みを伴わない財政再建や抜本的な構造改革抜きの成長を公約にしたが、不透明な内実に改革の危うさを感じさせた。さらに、痛みを伴う改革を断行するうえでオランド氏の政治手腕や指導力あるいは政策断行能力が不安視されたのも事実であった。

「オランドには厳しい現実と目白押しの試練が待っている」と欧州のメディアから批判的な反応が多かったが(注6)、「変革は今、始まる」をスローガンに、大統領選挙戦中の政権公約(マニフェスト)であるオランド改革はどこまで実現したのかを次にみていきたい(注7)(表1)。


表1 オランド改革の行程表

実施予定時期

公約内容

2012年6月末まで

大統領・閣僚の給与を30%減額

小中高の新学期手当25%増額

ガソリン価格の3ヵ月間凍結

60歳定年制の条件付復活

非課税預金(リブレA)限度額の倍増

国有企業管理職の給与制限

会計検査院による財政審査の公開

財政条約の見直しと新たな「成長戦略」の提案

2012年改選国民議会の召集後、2012年8月末まで
(就任後100日)

2017年までの財政均衡を目指す計画を国会に提出

富裕層の増税など盛り込んだ税制改革法案を国会に提出

付加価値税の増税計画の廃止

教育分野で新規雇用。最終的には6万人規模

2013年6月までに
(就任後1年)

若者15万人の雇用創出を法制化

2013年予算で警察・司法1,000人雇用

(出所)読売新聞(2012/05/09)、ジェトロ「ユーロトレンド」(No.117,2013 年7月)、

ジェトロ「世界のビジネスニュース」(フランス編)(2012/05/08)などから作成。


ばら撒きの公約が先行

オランド公約の改革の行程時期は大きく2つに分かれる。前半の時期は大統領就任時から6月の国民議会選挙を経て100日目になる昨年8月末、後半の時期は就任後約1年になる本年5月末である。

オランド氏が大統領に就任して100日後の前半の主な成果を示したものが表2である。オランド氏は就任直後から政治の信頼を回復すべく動いた。就任早々に大統領と全閣僚の報酬を一律30%削減した。フランス国民に緊縮策への理解を求めるためだ。また、国民に根強い不公平感を和らげるために、最低賃金の引き上げや、7月末に成立した2012年の補正予算でサルコジ前政権が決定していた企業の社会保障負担の軽減に当てる付加価値税(TVA)の引き上げを凍結した。同様に、62歳への引き上げが決まっていた年金支給開始年齢を一部で60歳に戻す改正も実施した。また、緊縮財政に偏っていたEUの危機対策の修正を求めていたオランド大統領は、メルケル独首相の「財政規律第一」から1,200億ユーロ規模の資金を活用する「成長・雇用創出も」へと戦略転換を認めさせた。

このように、一見着々と公約を実現してきているようであって、実際は、労働市場や社会保障などの構造改革に手をつけず、フランス国民の痛みを伴わない、財政出動色が濃い「ばら撒き」的な公約の実現が先行したことも事実であった。


表2 就任100日の主要な成果

政治の信頼回復

大統領・全閣僚の報酬30%削減

閣僚の半数を女性閣僚

政治家の職業倫理に関する委員会を設置

格差是正

62歳への引き上げが決まっていた年金支給開始年齢を一部で60歳に引き下げ

公的企業経営者の報酬に上限

付加価値税引き上げ(19.6%から20.0%)を廃止

最低賃金の2%引き上げ

燃料税の引き下げ

非課税預金(リブレA)の上限引き上げ

欧州危機への対応

EU財政協定を再交渉

金融取引税の導入を推進

(出所)朝日新聞(2012/8/15)、ジェトロ「ユーロトレンド」(No.117,2013年7月)、

ジェトロ「世界のビジネスニュース」(フランス編)(各号)などから作成。


しかしながら、こうした成果はオランド政権の支持に結びついていないのが現状だ。100日の猶予期間(days of grace)を経た9月末、フランス調査会社TNS-Sofresが行った世論調査の結果では、オランド大統領に対する支持率は急激に低下、しかも、これまでの歴代の大統領の同時期の支持率低下を上回っていると指摘している。ちなみに、6月、7月の世論調査では、オランド支持率がいずれも55%であったものが8月の調査では50%と5%ポイントも急落している。前任のサルコジ氏の就任100日の支持率は64%と高かった(注8)。

一方では雇用政策を巡って産業界との摩擦も高まっており、10%超と高止まりする失業率や低迷する経済に国民の不満も高まっている。事実、雇用確保を重視するフランス政府は昨年7月、大幅な人員削減・工場閉鎖など経営合理化計画を発表した自動車大手プジョー・シトロエン・グループ(PSA)に対して、異例の圧力をかけて、自動車業界向けの支援策の不適用をちらつかせて人員削減の圧縮などPSAの譲歩を要求している(アルノー・モントブール産業再生相)。このほかにも鉄鋼世界最大手アルセロール・ミタルの工場閉鎖・人員削減、製薬サノフィの人員削減、電機アルカテル・ルーセントの人員削減、自動車ルノーの人員削減などのリストラ策に強く反対するなど経営介入を強めている。経済界からは「市場原理に反する」と反発の声が上がっている。仏政府がリストラを発表した企業の経営へ介入する姿勢を強めるのは、急速に悪化する国内の雇用情勢に歯止めをかけるためだ。

現地メディアは、「変革は自分のペースで進めるというが、時間を無駄にすべきではない。オランド大統領にとって決断の時だ」(注9)、「高揚感の後には幻滅が来る。現実に直面するオランド大統領は難しい決断を避けることができない。」と厳しい論評をしている(注10)。

支持率凋落、高まる国民の不満

その後も公約通りに進まないオランド改革に国民の不満が高まり、就任後半年、大統領支持率は低下するばかりであった。前述のTNS-Sofresの世論調査によると、就任時の56%の支持率から11月の支持率は36%で20%ポイントも大幅に低下した(注11)。前任のサルコジ氏の就任半年後は53%を保っており、その凋落振りが目立つ。2013年の財政赤字を対GDP比3%に抑えるために、増税と歳出削減をあわせた300億ユーロを削減する同年の政府予算は、成長にはマイナス要因である上に、増税・緊縮路線に変わってしまったというオランド氏の支持層である労組からの反発も強い。さらに、11月6日に発表された政府の「成長・競争力・雇用のための国家協約」(注12)の35の政策措置の提案の中にある付加価値税増税については、先に撤回した経緯もあり、突然の方針転換が支持者の不満を増幅させた。そして、「硬直化した労働市場などの分野で、政府がどれほどに切り込む覚悟があるのか依然不透明だ」とみられている(注13)。

その直後に、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスがフランスの国債格付けを最上位の「Aaa」から1段階引き下げて「Aa1」と発表した。その理由として、財政改革の遅れや産業競争力の低下、労働市場の硬直性などを指摘している。フランス政府はこの格下げが財政、労働市場、年金制度など改革を進める原動力になると反論したものの(ピエール・モスコビシ経済・財務相)、弱体化するフランス経済の将来を懸念する声は消えない。英エコノミスト誌は「欧州の心臓部の時限爆弾」という見出しで構造改革が遅れるフランスがユーロを脅かす存在になりかねないという特集記事を掲載している(注14)。

本年5月、オランド氏は大統領就任1年を迎えた。この間の主要な公約の成果は表3のとおりである。オランド大統領は施政方針演説の中で「競争力強化がフランス再生のカギ」と訴え、従業員の賃金引下げや労働時間の短縮をしやすくする労働市場改革や年金支給額の減額や支給開始年齢の引き上げなど年金制度改革など遅れ気味の構造改革を就任2年目の重要政策課題として着手する意向を示した(注15)。

しかし、好転しない経済情勢や10%を超える失業率などを背景にフランス国民の不満は高まるばかりであり、この1年オランド大統領は支持率の急落にも悩まされ続けた。TNS-Sofresによると、5月末の支持率は29%と1年前の55%から大幅に低下、歴代の大統領の就任1年後の支持率の中で最低を記録している(不人気のサルコジ氏でさえ37%であった)(注16)。その後、7月末には前述のとおり、フィッチ・レーティングスがフランス国債の格付けを最高位の「AAA」から「AAプラス」に格下げした。

フランスは本年には財政赤字の対GDP比3%以下に抑える目標を掲げていたが、景気低迷で達成は困難だとして3.7%に修正し、EUの欧州委員会に3%達成を2015年まで延期するように求めた。これに対して、欧州委員会は2.8%の目標達成期限を2年延長することを認めたうえで、労働コストをさらに削減し、本年内に年金制度改革を開始するよう求めた。

就任2年目に入ったオランド大統領がどのような指導力を発揮して構造改革に取り組んでいくのか、その成り行き次第で、市場が再び攻勢を仕掛けてくるだろう。


表3 就任1年後の主要な成果

財政削減

2013年予算法案の閣議決定。財政赤字の対GDP比3.0%に設定(100億ユーロの歳出削減と200億ユーロの増税措置)

社会保障改革

被保険者期間の延長など年金制度改革法案の閣議決定

年金制度改正に伴う社会保険料の引き上げ

残業手当に関る社会保険料軽減措置の見直し

中高校の就学費用にかかわる所得税減税措置の撤廃・多子家庭向け所得税優遇措置の見直しなど家族給付制度の改正

補足年金(厚生年金)保険料率の引き上げと年金支給額の抑制

増(減)税

2年間の期限付きで、年収100万ユーロを超える年間給与所得に対して75%の特別拠出金を徴収

労働コスト削減のための200億ユーロの法人税の税額控除

連帯富裕税に関わる軽減措置を撤廃

19.6% から20%への付加価値税の引き上げ

配当金・利子所得などの金融資産所得への課税に最高税率45%(現行税率41%)の適用

雇用

16~25歳の若者の最低賃金の75%を国家が負担する「未来雇用契約」の導入を決定。2014年までに公的部門を中心に15万人の雇用創出

2013年予算の教育分野で1万人、警察・司法分野で1,000人の新規雇用

「若年・高齢者世代同時雇用契約」の施行により、中小企業を対象に、3年間の助成金による今後5年間に50万人の雇用創出

労働市場の柔軟化と雇用安定化法(いわゆる「フレキシキュリティー」公布

1,200億ユーロ規模の成長促進策を含む「成長・雇用協定」に合意

(出所)ジェトロ「世界のビジネスニュース」(フランス編)などから作成。


フランスは危機を「無駄」にした国?

英エコノミスト誌は、「オランド大統領は追い詰められている」として、構造改革に及び腰のオランド大統領への懸念をあらためて報じた。フランス政府は労働市場や年金、社会福祉の改革に消極的で労働コスト上昇と競争力低下をまねいたと批判。国家が経済を管理するという考え方も分不相応な公的支出や債務を増やした一因だとして「今の改革では市場の空気が瞬く間に変わりフランスを標的にする可能性がある」と分析している(注17)。IMF(国際通貨基金)などもスペインやイタリアのように改革のペースを上げるように促している。フランス産業への危機感も大きい。欧州委員会は、マクロ経済不均衡に関する最近の報告書の中で、フランスは過去10年間の持続的な競争力の低下、とくに製造業の競争力の低下によって、ドイツ、イタリア、スペインよりも世界輸出シェアで大きな喪失をこうむったと指摘した(注18)。

主因は労働コストの上昇である。明らかに、ドイツとの競争力格差は拡大しつつある。たとえば、労働コストは、2000年以降フランスで28%上昇したが、ドイツではわずか8%の上昇にとどまっている(注19)。確かに、基準年は違っているが、EUROSTAT(EU統計局)によると、フランスの単位あたり労働コスト(2005年=100)は、2011年に113.2に上昇したのに対して、ドイツは105.3に留まる。

ドイツは今や、一人勝ちだ。その成功の秘密は、2003年~2006年の社会民主党のゲアハルト・シュレーダー政権による労働市場改革(アジェンダ2010)と、2007年~2008年のメルケル政権による税制改革(付加価値税TVA引き上げによる法人税の引き下げ)とにある。ドイツがこの10年間に進めた構造改革で財政赤字管理できる状態になった。10%超の失業率を抱えるフランスで労働市場がきちんと機能するにはより低い賃金を受け入れ、より長く働くことを了承しなければならないだろう(欧州政策研究センター所長ダニエル・グロス氏)との見方が有力だ(注20)。

オランド改革に対する厳しい評価が、危機を「無駄」にした国というタイトルでメディアによって報じられている。フランスは表4にみられるように、10%を超える高い失業率はドイツの約2倍である。また、低い労働生産性や政府債務残高の対GDP比が90%超の財政不均衡を抱え、社会保障や年金に持続不可能な拠出を続けるなど、根深い構造的問題に直面していることは、前述のとおりである。

それにも拘らず、「フランス国民もオランド大統領も危機に本気で取り組もうとしているようには見えない。オランド氏は、フランスが真に必要としている緊縮策の多くを先送りする選択肢を国民に示して大統領に選ばれた。7月、『欧州の危機は終わったと理解する必要がある』と宣言した。多かれ少なかれ、それは当たっている。しかし、それこそが問題なのだ。フランス以外のユーロ圏諸国は危機をテコに構造改革に動いている」(米国政治学者イアン・ブレマー氏)というのだ(注21)。


表4 仏・独の経済指標の比較(単位:%)

 

 

2012年
(実績値)

2013年
(予測値)

2014年
(予測値)

実質GDP成長率


0.0
0.7

▲0.1
0.4

1.1
1.8

失業率


10.2
5.5

10.6
5.4

10.9
5.3

財政赤字対GDP比


▲4.8
0.2

▲3.9
▲0.2

▲4.2
0.0

政府債務残高対GDP比


▲90.2
▲81.9

▲94.0
▲81.1

▲96.2
▲78.6

物価上昇率


2.2
2.1

1.2
1.8

1.7
1.6

(出所) European Commission: Spring 2013 forecasts(May3,2013)などから作成。


おわりにー「ポスト・メルコジ」は「独高仏低」の関係

ここ3年近く、「メルコジ」と呼ばれるメルケル氏とサルコジ氏の強力な「二人三脚」の協力関係によって欧州を主導してきた仏独関係は、ユーロ危機との闘いの中で、その中心戦略は、財政健全化と構造改革(社会保障と労働市場)にあり、持続的な競争力の引き上げで成長を実現することにあった。ただし、サルコジ氏は「権力基盤があまりに脆弱になり、フランスが欧州政治の中心にいることを目的にドイツに寄り添い続けた」(ザキ・ライディ・パリ政治学院研究部長)(注22)。他方で「メルコジは悪い冗談だった。メルケル氏が真の権力を得て、サルコジ氏は存在もしない権力を誇示しただけだ。欧州で意志を決める人はメルケル氏ただ一人になった」(仏社会学者アラン・トゥレーヌ氏)と厳しい見方があるのも事実である(注23)。

オランド氏は大統領選挙運動中、欧州の物事をドイツだけで決めるわけには行かないことを繰り返し述べた。しかしながら、欧州の政治力学は様変わりした。現在の欧州を率いているのはドイツに他ならない。EUが何らかの対策を決めるのはメルケル氏の賛成なしには決まらない状況だ。

もっとも、一人勝ちのドイツが「覇権国」の地位にあるにも拘らず、欧州を主導することにメルケル首相も、ドイツ国民も消極的だというのだ。その理由として、まず第1に、2度にわたって欧州を戦争に陥れたおぞましい記憶がドイツを政治的に控えめな立場を取らせていることである。第2に、ユーロ危機の最大の原因は南欧諸国の怠惰さであり、ドイツと同じ位に生産的であれば、危機は起きなかったと考えているからだ。そして、第3に、ドイツに対する欧州各国で敵意が強まっている今、過度なゲルマン的な主張は逆効果になるので、後部座席に座っていた方が賢明だという戦術的な理由である(注24)。

ところで、オランド氏が「メルコジ」関係をどのように見ているのだろうか。就任直後のフランス報道記者とのインタビューで興味深い自らの見解を述べている。それによると、「(仏独の協調関係は維持するものの)仏独が主導する特権的な関係(duopoly)には、反対である。他の諸国ともバランスの取れた、相互に尊重できる関係を築くべきだ」と述べている(注25)。より多元的な構図への変化を模索しているようだ。

フランスの存在感は低下した。「メルコジ」後の仏独関係は「高独仏低」という、「大国フランス」の復活を目指すオランド大統領にとって歯がゆい状況が強まろう(注26)。こうした仏独関係に大きな変化がみられるとすれば、この9月に行われるドイツ連邦議会選挙の趨勢であろう。仮に野党の社会民主党(SPD)が第1党になって政権交代が起きた場合である。今のところ、その可能性は低いと見られるものの、政治は想定外の動きを示すことである。夏のバカンス明けの9月から欧州の政治は大きく動き出す。


参考資料
久保広正・田中友義編著『現代ヨーロッパ経済論』(ミネルヴァ書房、2011年)
ジェトロ「ユーロトレンド」(日本貿易振興機構、No.117,2013年7月)
ジェトロ「世界のビジネスニュース」(フランス編)(http://www.jetro.go.jp/world/europe/fr/
在日フランス大使館ホームページ(http://www.ambafrance-jp.org/article5547)
読売新聞
朝日新聞
日本経済新聞
European Commission: Spring 2013 forecasts(Press Release,IP/13/396,Brussels,May3 2013)
Parti Socialiste:Projet socialiste2012:Le changement (http://www.parti-socialiste.fr/dossier/le-changement)
Parti Socialiste: Soxante engagements pour la France (http://www.parti-socialiste.fr/dossier/le-projet-de-francois-hollande
The Political barometer-September(TNS-Sofres ,Le Figaro Magazine)
Financial Times
The Economist
Die Zeit
Libération
Le Monde

<注>
1.フランス国債の格付けを巡っては、米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が2012年1月、最上位の「AAA」から1ランク下位の「AAプラス」、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスが同年11月、最上位の「Aaa」から1段階引き下げて「Aa1」としていたが、フィッチ・レーティングスの格下げによって、大手3社すべての最上級格付けを失ったことになる。
2.メルケル独首相(Merukel)とサルコジ仏大統領(Sarkozy)を合わせた造語(MeruKozy)。
3.Speech by the President of the Republic-Investiture Ceremony(May15,2012)(http://www.elysee.fr/declarations/article/discours-de-m-le-president-de-la-republique-ceremonie-d-investiture)(2013/05/15参照)。読売新聞(2012/05/16)
4.元来、フランス大統領は、第5共和制初代のシャルル・ドゴール以来、国家元首として、カリスマ性を有し、平等を国是とする国家を統治する「国父」としてのイメージが強かったが、サルコジ氏は、型破りな行動力や公私両面での派手なパフォーマンスの政治スタイルなどから、伝統的な大統領像を破壊した異端児であった。結局、「反サルコジ主義」の反動が、閣僚経験もなく、未知数で、カリスマ性に欠くオランド氏を勝利に導いたといえる。つまり、「普通の人」とは、サルコジ氏への皮肉を込めた「伝統的なフランス社会への回帰」を意味する。
5.久保広正・田中友義編著『現代ヨーロッパ経済論』(ミネルヴァ書房、2011年)26ページ。
6.Daunting tasks for President Hollande(Financial Times,May6,2012), Hollande in reality waiting(Die Zeit online, May6,2012)
7.オランド氏の公約は、「2012年社会党プロジェクト」(Parti Socialiste:Projet socialiste2012:Le changement)と「フランスへの60の約束」(Parti Socialiste: Soixante engagements pour la France)に詳細に記されている。とくに、後者の方に、より具体的な公約が示されている。
8.The Political barometer-September2012(TNS-Sofres ,Le Figaro Magazine ,August29,2012),The course of Hollande share down(Libération,August29,2012)、Faced with criticism, Ayraut displays its calendar (Le Monde,August22,2012)
9.Time to decide for Mr.Hollande(Le Monde,August20,2012)
10.Welcome to reality(Financial Times、August24, 2012)
11.Political barometer-December2012(TNS Sofres,Le Figaro Magazine,November28,2012)
12.National Pact for growth,competitiveness and employment(November6,2012) (http://www.gouvernement.fr/premier-ministre/pacte-national-pour-la-croissance-la-competitivite-et-lemploi) (2013/05/15参照)
この協約は発表の前日にジャンマルク・エロー首相に提出されたフランス産業の競争力強化に関る諮問委員会報告(ルイ・ガロワ報告)をベースにしている。
13.Financial Times(November7,2012)
14.France and the euro(The Economist, November17, 2012)
15.日本経済新聞(2013/05/17)。本年1月、企業の競争力強化と労働者の雇用安定に向けた労使協議で、不況時の給与カットや労働時間延長、集団解雇にかかわる法的手続きの簡素化の導入(いわゆる「フレキシキュリティー」)で合意した。
16.Political Barometer-June2013(TNS-Sofres,Le Figaro Magazine,May29,2013)
17.France and the euro(The Economist, November17, 2012)
18.France’s battered economy; François Hollande’s cyclical troubles(The Economist, April20, 2013)
19.France’s economy; The performance gap(The Economist,Sep22,2012)
20.日本経済新聞(2012/05/27)
21.Reuters(2013/07/27)(http://jp.reuters.com/news/globalcoverage/eurocrisis)(2013/07/30参照)
22.読売新聞(2012/05/08)
23.日本経済新聞(2012/5/27)
24.Germany and Europe:Europe’s reluctant hegemon(The Economist,Jun15,2013)
25.フランソワ・オランド大統領のインタービュー(在日フランス大使館ホームページ)
26.日本経済新聞(電子版)(2013/02/27)