一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2001/10/05 No.18海外主要メディアにみる同時多発テロの衝撃
——米国と世界の経済、金融、石油市場への影響——

米国同時多発テロ特集作成タスクフォース
研究主幹 木内惠
主任研究員 小野充人
主任研究員 中村江里子
研究員 和田善寛

アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。

 (太宰治 「右大臣実朝」より)

 絶対に沈まないはずの超大型船。安全には折り紙つきだったはずの豪華客船。それが氷山に衝突、海中に没する——安全と繁栄の渦中を襲った惨劇。映画『タイタニック』が米国で封切られたのは1998年。ほんの数年前のことだ。

 当時、長期景気拡大下にあった米国は文字どおり繁栄の渦中にあった。経済の好循環は、財政の黒字転換、設備投資の拡大といったいわゆるマクロ指標のみに現れたのではなかった。雇用、所得、物価など「暮らし」に直接関係する経済指標、いわば家計直結型指標の中身も良好であった。人々は日々の暮らしの中で繁栄を実感することができた。

 加えて、当時、米国の安全を脅かす敵は消滅したかにみえた。ソ連崩壊、冷戦の終焉、少なくとも軍事的には米国一極構造の現出。この世に米国の安全保障を脅かすものは何もない。そう信じ込むのも無理はなかった。2000年大統領選挙が「争点なき選挙」といわれたのも、経済、安保両面での差し迫った問題が皆無だったことの裏返しにしか過ぎぬ。

 安全保障の不安がない中での暮し向きの安定——歴史的低水準の失業率、着実な所得上昇、物価の低位安定。米国民にとってこれほど心地良い状況はまたとなかった。「ユーフォリア」とは、「多幸感」、「陶酔感」といった意味。安全保障と繁栄を享受した当時の米国の明るい「時代の気分」を言い表した言葉であった。

神話の崩壊とその波及

 しかしここに来て、事態は一変した。氷山は同時多発テロであった。安全と繁栄の並存という神話は一挙に崩れたのである。

 同時多発テロは、米国の安全保障が意外に脆いものであることを露呈した。のみならず、すでに減速過程にあった米国経済の行方にさらに暗雲を投げかけた。財政黒字も再び赤字に後戻りしそうな気配だ。その意味で、同時多発テロは、安全と繁栄という「ユーフォリア」の両構成要素をともに危うくしたことになる。これが米国人の心理に与えるインパクトは大きい。不安心理は消費を抑制させる。米国の消費は同国GDPのおよそ7割を占める。消費落ち込みが経済全体に及ぼす悪影響は死活的に大きいとみられる所以である。

 米国経済の変調は、米国だけの問題に留まらない。世界経済に占める米経済の比重の大きさからしても世界経済や貿易に与える影響は他のどの国よりも大きい。世界の輸入総額の約2割は米国が占める。米国の消費不振は対米輸出国の痛手に直結するということだ。

 タイタニックの安全神話を打ち砕いたのは氷山であった。だが、同時多発テロがもたらし得る負の連鎖の破壊力は世界大という意味で、氷山のそれを大きく上回る。

特集:米国同時多発テロ事件

 今回の事件が内包する影響の大きさに鑑み、国際貿易投資研究所は、そのホームページに「米国同時多発テロ事件」をテーマに緊急特集を開始した。特集の構成は、以下の3本立て。

フラッシュ
調査研究の過程でみつけた興味深い情報や話題を提供したり、時に研究員の視点で料理、加工してお届けする常設欄。今回は同時多発テロ関連の報告を独自の視点から集中執筆し、特集を構成した。

海外メディアの報道(要旨)
諸外国主要メディアの同時多発テロ関連記事を精選、要約の上、これらを時系列的に提示する。日々変化する経済への影響等につき主要メディアはどう見ているか、オンタイムでフォロー。

海外メディアの報道に見る経済・貿易・投資等への影響一覧
経済全般、消費、金融、市況の各項目ごとに、主要地域(米国、欧州、アジア他の3地域に分類)別に報道サマリーを分類。ビジネス等の実際的な用途への貢献を期待。

 上記の「海外メディアの報道(要旨)、」「海外メディアの報道に見る経済・貿易・投資等への影響一覧」は事件発生以来、毎日更新を重ねてきた。その甲斐あって情報も蓄積された。事件発生以来3週間を経たこの機を捕らえ、海外メディアの報道の整理を試み、これをフラッシュ記事としてまとめたのが本稿である。整理の視点は、景気・消費、金融・市況、石油市場への影響と今後の見通し。いずれもビジネス界にとって関心の深い分野である。

 実際、同時多発テロは期せずしてビジネスの現場にも新しい動きを生み出す契機となった。在庫管理や生産拠点の見直し、ビデオ会議用機器の市場拡大見通しなどがその例。いずれもビジネス・リスクの回避が狙いだ。こうした事例については第Ⅰ章「米国および世界への影響」を参照。

 今回のテロ勃発を機に米国のカントリーリスクに改めて関心を寄せる向きもある。興味深いのはカントリーリスクの格付けの変更がありそうなのは米国よりも米国経済の影響を強く受ける国々の方だとの見方である。この話題は第Ⅱ章「金融への影響」で扱う。

 一時は懸念された原油価格は今のところ落ち着いているようだが、今後の見通しについてのビジネス界の関心は高い。そこで第Ⅲ章「石油市場への影響」では、原油価格の形成について需給関係、地勢的な要素を分析の視点として、解説を試みた。

(木内 惠)

Ⅰ.米国および世界経済への影響

<最悪の事態は回避>

 9月11日の同時多発テロ勃発から3週間余りが立ち、米国経済および世界経済への影響も徐々に形を現し始めている。テロ直後には全米で空港閉鎖による航空網の遮断、NY証券取引所の取引停止など、一時的にせよ米国の経済活動がストップした。この非常事態から経済の先行きに対し、米国の報道では影響度は不透明であった。9月11日付USA Todayでは「米国株式崩壊から不況へ突入」という悲観的見解から「株価は暴落しない」という楽観的見解まで様々な見方が紹介された。楽観的見解の根拠の一つには、「衝撃のあまり株を売却できない」という投資家のビヘイビアの予測があった。

 また米国経済の動向に大きく左右されるアジアでも関心は高く、「株価暴落から米国株式市場は崩壊、米国からの巨額の資本逃避が起きる」(12日付SouthChina Morning Post)という最悪のシナリオも紹介された。しかし17日に米国株式市場が再開され、株価は落ち込みはしたものの「崩壊」とまではいかなかったことから、「株式市場崩壊」という論調は消え、とりあえず最悪の事態は免れたというのが主要メディアの共通したところであろうか。

<カギを握る消費動向>

 米国経済の先行きでカギを握るのは、経済の大きな推進力である消費がどのような動向を示すのかである。テロ攻撃後の最初の週末以降、消費の動向は大きく報道され、「米国の消費」が経済に与える影響の大きさを感じさせた。9月末に発表されたテロ後の消費動向が高額商品を中心に買い控えが出ていることを示され、また今後、米国がタリバーン勢力との「新たな戦争状態」に突入するという不安や、株価が以前の水準以上の高値となる見込みも薄くキャピタルゲインの増加も望めないこと、あるいは航空業界を中心とする大規模なリストラなど、今後の消費動向に関しては不安材料をあげる記事が多い。

 一方で、97年度以来黒字を計上していた米国の財政収支は2002年度(2001年10月〜2002年9月)には軍事費増強、復興費用、経済刺激策などから支出が増大し、赤字に転落するのは必至である(10月1日付TheNew York Time)。同時多発テロ以前には高齢化社会に向けた年金や社会保障費用への財政充当が議論されていたが、テロ勃発によりこうした問題が先送りされた。

<アジア諸国の当面の懸念は輸出減>

 グローバル経済が進展する中で、米国経済の足踏み状態は他の諸国の経済にも多大な影響を与えている。欧州、日本といった先進国はもちろんであるが、他の諸国でも影響は大きい。米国の需要動向に輸出が大きく影響されるアジア地域にとっては、米国の消費縮小は大きな問題である。9月19日付TheNationはタイ経済がテロ攻撃で輸出と観光業が打撃を受け、2002年にリセッションに突入する可能性ありとし、韓国のKoreanHeraldなども韓国の輸出への影響を懸念している。またFinancial Timesは、米国の需要減速がインドのソフト産業や台湾の半導体メーカーなど、アジアのIT関連産業に打撃を与えると伝えている。

<投資意欲減退を憂慮>

 アジアではこうした「輸出先を失う」という貿易面の影響だけではなく、投資面での影響も懸念されている。9月15日付KoreanHeraldは海外投資家が今回のテロで投資意欲減退を憂慮、14日付Far Eastern EconomicReviewも、「アジアのIT産業への打撃から投資家が資本を米国等の優良企業に移し、結果としてアジア株価が下落、アジアへの投資が冷え込む」と憂慮している。またアジアでは観光収入も大きな外貨収入源となっているがインドやタイなどで観光収入の減少が伝えられ、タイでは2001年の経済成長率を2〜3%から1.5〜2%へ下方修正する(19日付TheNation)など、経済への影響が出始めている。97年の金融危機以降、立ち直りつつあるアジア経済の回復は「2002年第1四半期との見方から第3四半期以降へ」(ADB関係者、14日付SouthChina Morning Post)と遅れる見通しである。

 また中東諸国に目を転ずれば、アフガニスタンへの軍事行動が予測されることからリスク上昇によりペルシャ湾岸航路の保険料が大幅に値上げされるなど、物価上昇が懸念されている(9月26日付Gulf Daily News)。

 世界銀行が10月1日に発表した報告書では、同時多発テロ攻撃による途上国経済への影響を懸念している。先進国経済の回復がずれこむことから、2002年の途上国の成長率は当初予測した4.3%から3.5〜3.8%へと落ち込む見通しである。

<ビジネス戦略の見直しの気運も>

 産業界で最大の影響を被っているのが航空産業および観光産業であるのは言うまでもない。特に旅客輸送の分野においては、ボーイング社やユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空などが大規模なレイオフを発表しており、米政府による財政支援も決定している。航空産業の不振は米国のみならず欧州等へも飛び火しており、スイス航空は経営破たんに陥った。

 注目されるのは、同時多発テロを契機に企業はこれまでのビジネス戦略の見直しを迫られることである。今回の事件で米国を中心とする物流に大きな影響が出たことから、「余剰在庫を保持しないジャストインタイム方式から、一定の在庫を持つジャストインケース方式に戦略が傾く」(9月19日付TheEconomist)との見方も出ている。また、生産拠点の多角化・外注化、バックアップシステムの強化も進むとともに、TV会議用機器の販路拡大を予測する向きもある。

(中村江里子)

Ⅱ.金融面への影響

 テロ攻撃のあった9月11日(火曜日)、米国の株式市場は閉鎖された。海外では株価が軒並み急落した。日本でも既に1万円割れ直前まで来ていた日経平均株価が、翌12日の終値は982円85銭安の9,610円10銭となり、17年ぶりに1万円を割り込んだ。

 テロ直後米国のマーケットが開くまでの間に、株価への影響について主要メディアはいくつかの見解を示した。9月12日付BBCNewsは、株価への影響が限定的か全面的かは投資家の見方次第との見通しを描いた。11日付USAToday紙は見解を4つに分けて、①株式市場の崩壊、②短期的には落ち込むものの冷静な判断が優勢となる、③影響を受ける産業は限定的、④全ての株を売り浴びせることはない——といった見方を提示した。

<22日を機に回復基調へ>

 テロ当日の火曜日、そして水曜から金曜まで計4日間市場は閉鎖されていた。この時点での関心はマーケット再開の時期であった。これについて11日付BBCNewsは「マーケットの再開時期は不明」とした上で、その理由として投資家の心理的要因をあげた。実際にマーケットが再開した翌週月曜日にはダウ平均の終値は684ドル81セントと下げ幅では過去最大を記録し、8,920ドル70セントとなった。下落率は約7%であった。その後株価は下落を続けたが、22日を底に回復基調にある。10月4日の終値でダウ平均株価は9,123ドル78セントまで回復してきている。NASDAQ指数、S&P500指数も同様に回復基調にある。ただ、株価の動向については今後も紆余曲折があることが予想されるだけに、一層目配りの必要があることは言うまでもない。

<金利でのテロ対応>

 FRBはアナリストたちが予想するとおり、9月17日に緊急利下げを行いFF金利(政策誘導目標金利)を3%とした。さらに10月2日、FF金利を現行の3%から2.5%へとさらに引き下げた。これは今年に入って9回目の利下げとなり、FF金利は1962年5月以来の低水準である。FF金利引下げから看取しうるのは、テロ対策としてあらゆる経済政策を断固遂行するアメリカ政策当局者の強固な意志である。しかし20日付CNNによると、FRBの利下げの実質的な影響はこの数カ月はないであろうという見方もある。

<アジア各国への打撃に温度差>

 アジア諸国等米国依存度の高い国にとっては米国株価が下落することで、米国消費が低迷し、アジア各国の対米輸出が減少し、それが自国経済へのダメージとなるという経路での影響が深刻なようだ。14日付FarEastern Economic Reviewによると、直接的影響としてはアジア各国の株価も下落したため、それによって企業の投資計画が縮小し、日本も同様に株価の下落とそれによる銀行の含み資産の縮小が懸念されるとのことであった。AsiaRecovery Information Centerの資料によると、各国の株価の回復度合いは、日経平均やFTSE100、香港のHIS指数などはほぼテロ攻撃前の水準に戻っているが、その他のアジア諸国の株価指数は1割以上下落したままとなっている。

 消費者心理の冷え込みの要因について26日付The New York Timesは、まずテロの影響を挙げた上で、その波及効果としての雇用不安と株価の低迷を挙げている。また10月1日付の同紙では株価下落の影響として、キャピタル・ゲイン税収減のために2002年度の財政黒字予想額を縮小させることを指摘している。

 興味深いのはカントリーリスクについての記事であった。27日付South ChinaMorning Post紙がS&Pに取材し今後の格付についての同社の方針を紹介している。それによると、先のテロ攻撃がアジア地域17カ国の格付に直接には影響しない。しかし、日本についてはテロ攻撃により経済成長が低下する見込みから、AAの範囲内とはいえ格付が急低下する可能性が高まっているというのがS&Pの見方だ。また、パキスタン、インドネシアの評価にあたってはイスラム国家であるという地勢的要因をも加味するとの意向を明らかにした。

(和田善寛)

Ⅲ.石油市場への影響

 9月11日の米国に対するテロ攻撃により、一時的に油価は高騰しバレル当たり30ドルを超えた。しかし、OPECが速やかに原油供給を保証する声明を出したこともあり、市場は急速に落ち着きを取り戻した。さらに、24日には世界的な景気後退が懸念材料となり、原油価格は急落し、現時点では22.6ドルと20ドル台前半で推移している。

 中東産油国の英字紙をみる限り、テロ攻撃による原油市場への影響についての記事は見当たらない。中東の専門誌であるMEESの9月24日号に、元PIWの発行人であるモース氏の見通し記事がある程度である。

 同氏は、今後の原油価格について非常に見通しが困難であるとしながらも、有事には原油が買いだめされる傾向があることなどから、需給バランスからみて油価は下落するよりは上昇する方向に傾いていると見ている。

 以下、今後の短期的な原油価格の動向について考察する。

 原油価格の形成には、様々な要素が絡み合っており、単純にある要因が変化したからといって、価格が予期される方向に動くとは限らない。

 しかし、原油価格の形成には大きく2つの要素、つまり需給関係、投機的要素に分けられる。

<供給面では問題なし>

 需給関係については、種々の推計があるが、5月に行われたロドリゲスOPEC事務局長のスピーチから現状をみると、OPECは世界の原油需要が5月の7,570万バレル(日量、以下同じ)から年末まで130万バレル、つまり1.7%伸び、7,700万バレルになるとみている。5月の生産量7,570万バレルのうち、非OPECの生産量は4,910万バレルと言及しているので、OPECは2,660万バレル(当時の生産枠は2,420万バレル、イラクを除く)を生産していたことになる。事務局長はその時点で、OPECの追加供給可能量は日量約200万バレルと発言しており、生産能力は2,860万バレル程度持っていることになる。そして、OPECの生産量は現実の需要量を約90万バレル超過供給しているとみている。つまり、5月時点の実需は7,480万バレル程度ということになる。現在のOPECの割り当て生産量は価格維持のために9月1日より2,320万バレルに引き下げられたが、それでも、価格はバレル当たり20ドル台前半と年初に比べ大幅に低下している。

 このことは、すくなくとも需給関係上は問題がないことを意味する。すなわち、供給不足により価格が上昇する可能性は小さいとみられる。

 また、同事務局長は9月13日の講演会で、世界経済は今後20年間に年平均3%以上で拡大する一方、原油需要は現時点の7,600万バレルから最初の10年間で9,000万バレルに、その後の10年で1億500万バレルに拡大すると述べている。これは、所得(成長)に対する原油の需要弾力性が最初の10年間は0.57、後半の10年間が0.52であることを意味する。

 今回のテロ攻撃で、米国経済が景気後退に突入するという見通しが高まった。それに影響され、原油需要が回復していたアジア諸国の経済成長も鈍化するとみられている。

IMFは10月の見通しで世界経済の減速傾向を勘案し、5月の見通しから成長率を、2001年については0.6%下方修正し2.6%、2002年については0.4%下げ3.5%としている。この数字にはテロ攻撃による影響を加味していないが、2001年についての影響は軽微、2002年はさらに下方修正が必要とコメントしている。S&Pは今年の成長率が0成長になるとみている。3%成長率が減じるということは、石油需要が1.71%減少することになり、これも需給関係上価格を安定化する方向に働く。

<石油製品価格には変動要素も>

 しかし、原油の供給に問題はないとしても、石油製品の価格については、変動要素があるとみられる。

 良い例は、米国の石油会社が効率性を重視し、余剰在庫の圧縮、製油所の閉鎖を行った結果、製品供給のボトルネックが発生し、2000年に製品価格が大幅に上昇したことである。

 原料である原油供給に問題がなくとも、その製油能力、また、石油製品への需給が大幅に変化した場合には、価格に影響を与える可能性が高い。

 現在、航空旅客の需要急減によりこれまで日量約40万バレルあった航空燃料への需要が減少している。しかし、製油所の留分比率を変えることは短期的には困難なため、航空燃料の製造のみを減少させることは不可能で、現状下では航空燃料価格の低下を招こう。

 このほか、治安上の問題から、保険料率が上がり、輸送コストが、製品価格を上昇させる可能性もある。しかし、石油製品の価格に占める原材料のコストは現状では高くないので、本質的な価格上昇要因にはならないとみられる。

<油価を決定する投機的な動き>

 原油市場においては、基本的な需給関係よりは、先物市場における投機筋の動きが価格形成に大きな影響を持つ場合がある。時として先物市場の取引量は、日量1億5000万バレルを超える。これは、実需の2倍以上に相当する。そして、これが原油価格を形成する。NIMEX市場においては、精製業者の取引量は7%程度とみられることから、取引の多くは実需に基づかない取引とみられる。

 原油価格は、ニューヨークのWTI、欧州のブレント、中東のドバイがそれぞれ指標原油となっており、北米、欧州、アジア市場の価格を形成している。そして、WTIの価格がブレントに影響を与え、ドバイに波及する傾向がみられる。

 世界経済の不確実性が高まる中、世界の投機資金が、株式市場、一次産品市場など、どこに向かうかは不透明である。しかし、機に応じて資金が原油市場に向かうことが十分考えられ、油価の高騰が考え得る。

(小野充人)

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