一般財団法人 国際貿易投資研究所(ITI)

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フラッシュ

2014/06/17 No.193欧州議会選挙

新井俊三
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員

欧州議会選挙、EU批判票が伸びる

5年に一度実施される欧州議会選挙がさる5月22日から25日にかけて、欧州連合加盟国各国で実施された。欧州債務危機から完全に回復したとはいえず、各国とも財政再建を目指し緊縮政策が続き、高失業率に悩まされる中、選挙民の不満も高まり、また事前の世論調査でも反EU、反移民をかかげる右派勢力の躍進も予想されていたため、その結果が注目されていた。議席数は全体で751であり、おおむね人口比により、小国にはやや配慮した形で国別の議席数が決定されている。最大はドイツの96で、その次がフランスで74、イタリア、英国が73でそれに続き、以下スペイン54、ポーランド51などとなっている。最小議席数の国はエストニア、キプロス、マルタ、ルクセンブルグ、マルタの5カ国で、それぞれ6議席。投票率は前回2009年とほぼ同様で約43%と、相変わらず低率である。

各国で当選した議員は、その所属政党別にさらに欧州レベルで政党グループ(会派)を組織し、その政党グループをもとに議会活動を行うことになる。この政党グループ別にみた選挙結果が表1のとおりである。

表1 欧州議会選挙結果(政党グループ別)

2014年5月28日現在速報値
出所:欧州議会

表1の政党グループ欧州人民党には、ドイツのキリスト教民主・社会同盟、フランスの国民運動連盟、イタリアのフォルツァ・イタリアなどが属している。社会民主進歩同盟に属しているのはドイツの社会民主党、フランスの社会党、イタリアの民主党など。英国の保守党は欧州保守改革グループに所属する。政党グループ別にみると保守・中道の既存政党の退潮し、左派・無所属・その他(新規当選者を含む)が伸長している。しかし、国別にみると違いが大きい。欧州議会選挙は争点が見いだせない中、どちらかというと国内現政権の信任投票の様相を呈することになりがちだが、それが今回も現れたといえる。

仏、英で反EU党が第1党に

激震が走ったのはフランスと英国である。フランスでは反EU、反移民を掲げる国民戦線が第1党に躍り出て、政権与党である社会党は第3位に転落。失業率が高止まりし、有効な経済政策を打ち出せない中、支持率低下に悩むオランド政権に厳しい審判を下した形となった。

表2 フランスの欧州議会選挙結果

出所:欧州議会および各国選挙担当機関(以下同じ)

英国ではEUからの離脱を主張する英国独立党が第1党となり、来年の総選挙後2017年にも予定されているEU離脱を巡る国民投票で、実際に離脱の決定が下される可能性も出てきた。フランス同様政権与党の保守党が第3位に落ち込んだ。

表3 英国の欧州議会選挙結果

一方、今回の選挙により現政権が支持され、進めようとしている改革政策が実施しやすくなった国がイタリアである。レンツィ首相率いる民主党が40.81%獲得、一時勢いのあった5つ星運動は21.15%にとどまった。各国とも反EU、反移民の右派の躍進が注目される中、今回一番驚いた選挙結果はイタリアが示したという論調もあるほどである。

表4 イタリアの欧州議会選挙結果

左右両極の進出が懸念され、現政権への批判票が多く出ると予想されたギリシャはどうであったろうか。ユーロ圏諸国およびIMFによるギリシャ救済策およびギリシャに課せられた緊縮策の見直しを求める急進左派連合は、得票率で26.60%を記録し第1党となったものの、政権連立与党のPDとPASKOは2党合計で30.71%を獲得し、批判票が増加したとはみなされていない。

表5 ギリシャの欧州議会選挙結果

ドイツでは反ユーロを掲げる「ドイツのための選択肢」の動向が注目されたが、7%を超える得票率を確保し、7議席を獲得した。国政レベルで連立を組むキリスト教民主・社会連盟と社会民主党は合計すると60%以上の得票率を確保している。ドイツの国政選挙では小党乱立による政権の不安定化を防ぐため、得票率で5%を超えない場合などは議席を持てないが、ドイツ憲法裁判所の判例で欧州議会選挙ではこの条項が撤廃されたため、極右政党である共和党、海賊党、家族党など小党が進出している。

表6 ドイツの欧州議会選挙結果

今後のEUの方向は、困難な新委員長の選出

今回の欧州議会選挙は欧州連合の基本条約であるリスボン条約発効後初めて実施された選挙であった。リスボン条約によると、欧州議会は選挙結果を踏まえ、欧州委員会委員長を推薦できるとされている。そのため、選挙戦に臨んだ各政党グループは選挙の顔として自らのグループの委員長候補を選び、委員長候補どおしのテレビ討論会なども実施された。欧州人民党グループは前ルクセンブルグ首相でユーロ蔵相会議議長のユンケル氏を委員長候補とし、社会民主進歩同盟は欧州議会議長であったシュルツ氏を委員長候補とした。その他のグループも委員長候補を立てていた。

現在の欧州委員会バローゾ委員長は2期目が終了し、後任を決定する必要があるが、現在の制度では欧州議会の推薦を受けて欧州理事会(EU首脳会議)で決定されるため、欧州議会が推薦する候補者が自動的に委員長になるわけではない。しかし、委員長候補として選挙戦を戦い、選挙民が選択した候補が委員長に就任するというのは、民主主義の原則から自然なことともいえる。社会民主進歩同盟も欧州人民党の委員長候補ユンケル氏の委員長就任を支持しており、2つのグループの得票は過半数を超えている。EU統合推進派であるドイツの哲学者ハーバーマスなどは、ユンケル氏の就任を望んでいる。

一方、ユンケル氏の委員長就任に強く反対しているのが英国のキャメロン首相である。EU統合推進派のユンケル氏の委員長就任は、英国の反EU派を勢いづかせ、キャメロン首相が望んでもいない英国のEU離脱につながりかねないと警戒している。また、ユンケル氏は古いタイプのEU政治家であり、選挙結果を踏まえEUのありかたを再考する必要のあるこの時期の委員長としてはふさわしくないとも意見も見られる。これから次期委員長のポストをめぐり、各国の駆け引きが激しくなりそうである。

次期委員長に誰が就任しようと、その任務は重要である。今回の欧州議会選挙で左右の過激派、反EU、反移民、反緊縮策などの政党が得票をのばし、全体で約3割に達したといわれている。これらのグループが同じ政党グループを組織できるかというと、難しさもある。フランスの国民戦線とオランダの自由党は欧州議会選挙以前から提携を模索していたが、英国独立党はフランスの国民戦線との共闘は拒否しているし、各政党のイスラム教に対する考えも違っている。欧州議会内で右派が一つにまとまるという可能性は少ない。

しかし、現在のEUの政治にかなりの批判票が出たということは無視できないことであり、現在の財政規律の確立、構造改革などの財制経済政策を見直すのか、あるいは移民、難民政策、対ロシア外交などをどう構築するかなど課題は大きい。それらの課題を担うのにふさわしい委員長探しが始まることとなる。

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