フラッシュ194
2014年6月24日
 

アフリカ消費市場展望(6)
ケニアの大手小売業ナクマットの台頭

 
(一財)国際貿易投資研究所 研究主幹
大木 博巳
 

サブサハラ地域で中間層(1日の消費支出が2から20ドル)と富裕層(同20ドル以上)を合わせた層の比率が最も高い国はケニアである。人口に占める中間層・富裕層の割合は、2008年でケニアが58.3%、モーリタニア55.8%、南ア52.9%、コートジボアール50.4%と続いている。

中間層市場を基盤にしてケニアでは、地場の大手小売り企業が東アフリカにおいて有力な小売企業として台頭している。ナクマット(NAKUMATT)である。1985年にナクルに設立されたナクマットは、ナクル・マットレスの製造元として知られている。同社は1995年に、ケニアで初めてスーパーセンター(ワンフロア1~2万m²に衣食住フルラインの製品を販売する大型店舗)を導入して注目を集め、以降、同業のウチュミ(UCHUMI)スーパーマーケットと互いに競い合いながら、市場を開拓し、企業として実力をつけてきた。今や、ナクマットの売上高は、4.5億米ドルの規模に成長している。

他社との差別化戦略に成功

ナクマットによれば、ケニアの人口4,000万人、一世帯を4人で考えると世帯数は1,000万世帯、そのうちナクマットが顧客としている世帯は100万世帯にとどまっている。これらの顧客は、200米ドルの支出が可能な所得層であるが、実際にナクマットで買物をしてくれる支出額は50-55米ドル。このギャップを埋めために顧客を惹きつける努力が必要となっている。実際、ナクマットの売り上げの70%は、優良顧客65万人によるものとなっている。

ナクマットの強みは、他社と比べて常にサービス面で差別化ができていることである。例えば、ナクマットは、ケニアで初めて24時間営業を取り入れた。現在では、ケニア国内では7つの大型店とルワンダの店で導入している。夜間営業のみで50億KSH(ケニアシリング、約6000万米ドル)の収益を上げ、約1万5,000人の来店客を獲得しており、これはケニアにおける中規模から大規模の企業収益に見合う。

モバイルマネーの導入も先駆けて導入した。ナクマットの顧客層は、車を持っている中間層から高所得者層であったが、積極的にサファリコムのM-pesa(モバイルマネー)を導入することによって、低所得者を顧客として囲い込むに成功した。さらに、ソーシャルメディアを上手に活用している。ナクマットの顧客層がインターネットやハイテクノロジに強いという特徴を生かして、フェースブックやツイッターを通じて顧客との連動を強化している。

【注】 M-PESA:銀行口座を持たない貧困層の金融システムへのアクセスを可能にしたケニアのSAFARIcomのモバイルバンキングサービス。ケニアでは1300万人を超える利用者がある。携帯電話からSMS(ショートメッセージ)を送ることで、銀行口座を持たなくても送金、預金・引き出し、支払いをはじめとする金融取引を行うことができる。

2013年には、Master Cardとケニアの銀行二社と提携してロイヤリティカード制度を始めた。ロイヤリティカードは、100KSH(約1SUD)の買い物をするとポイントがたまる仕組みで、カードで支払いをするとポイントの換算率が1.5倍に上がる。ポイントがたまると、様々な商品やサービスと交換することができる。

ロイヤリティカードのもう一つの機能がプリベイドカードである。このカードを使えば、ナクマットの店頭で現金を下ろすことが24時間できる。M-Pesaや銀行口座、別のクレジットカードからこのカードにお金を入れることもできる。さらに、6か国の通貨で支払いできるメリットもある。3か国の通貨を加えて9か国の通貨が使用できる予定である。

さらに、バイアフリカン・プロジェクトを推進している。これは、東アフリカで生産できるものについては、積極的にアフリカ産を調達するという取り組みである。例えば、紅茶、コーヒー、砂糖、ナッツ、香辛料、果物、野菜、フレッシュジュース、飲料、洗剤、食用油、脂質、基礎化粧品、包装材料、タバコ、プラスチックなど多くのものがケニアでも生産されている。地場企業の振興にも貢献することになるが、自社のサプライチェーンを強化するためにも地場調達が欠かせないのである。

EAC(East African Community 東アフリカ共同体) がチャンス

ナクマットは、サブサハラ地域でも地場企業が十分に国際的な企業に成長できるというお手本であるというよう。ケニアのスーパーマーケット業界は、発展途上国ではよくみられているように、小売業に対する外国直接投資の大規模な流入によって発展したものではない。ナクマットとウチュミの国内企業が互いに切磋琢磨して築いてきた。これが可能であった背景には、1993年の経済改革による自由化政策が影響している。この改革では、輸入認可要件が撤廃され、市場の自由化が推進された。こうした政策によって、市場が売り手中心から買い手中心に変化し、市場において小売業者が顧客のために熾烈な競争を求められるようになったことが指摘されている。

1993年以前は、チェーン展開するスーパーマーケットの多くが本店を置く都市でのみ店舗を展開していたが、同年、ウチュミがこのパターンを打ち破り、ナイロビの店舗以外の初の店舗をナクルに開店した。ここから小売革命が全国規模で広がった。

この小売り革命は、ケニアを中心とする東アフリカの5か国(ブルンジ、ケニア、ルワンダ、タンザニアおよびウガンダ)に波及している。東アフリカでは、ケニア、タンザニア、ウガンダの3か国で発足したEACが、2007年にブルンジ、ルワンダが参加して5か国が関税同盟を結び、域内関税の段階的撤廃と対外共通関税を導入し始めている。2010年に、域内の財、労働および資本の共通市場が発足、2013年には、10年以内に通貨同盟を立ち上げる計画の概略を示す議定書が締結された。自由化の歩みは遅々としているが着実に進んでいる。

この地域の経済統合は、スケールメリットを享受できるスーパーマーケット業界にとって新たなビジネスチャンスとなっている。ナクマットは、現在、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダの4カ国で40店舗を展開している。延べ店舗面積は150万平方フィート、これが2015年までには70店舗まで拡大する予定である。ナクマットによれば、東アフリカ市場における小売業のフォーマルセクター(組織的な小売りチェーン)による潜在的な市場規模は60億米ドルと見込んでいる。