フラッシュ239
2015年7月6日
 

1株2倍議決権で仏政府の介入は強まるのか
-雇用維持・産業保護が最大の目的-

 
田中 友義
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
 

ルノーなどが2倍議決権を採用

フランス政府が主要企業のルノー、エールフランスKLMの株買い増しを表明、その動きがフランス内外で注目されていた。仏政府はこれら2社の株をそれぞれ15.0%、15.9%保有する筆頭株主である。今、なぜ仏政府がこれら2社の株買い増しに走るのだろうか。その背景を探ってみる。

仏自動車大手ルノーは去る4月16日の臨時取締役会で、仏政府のルノー株買い増し措置に反対する姿勢を示した。仏政府はすでに4月8日、政府の持ち株を15.0%から19.74%に買い増すと表明していた。ルノー側が懸念したのは2倍議決権によって、日産、仏政府の2つの株主間の微妙なバランス関係が崩れて、企業統治に影響するのではないか恐れたためである。買い増し前のルノーへの持ち株比率は、仏政府15.0%に対して、日産が議決権なしの株15%となっている。他方、ルノーは日産株43.3%を保有している。

フランスでは、昨年3月に、国内産業の保護や雇用維持を目的に2年以上の長期保有の株主に対して2倍の議決権を与える法律「実体経済の回復を目指す法(所謂、フロランジュ法)」が成立した1)。

ただし、株主総会で投票者の3分の2が反対すれば、同法は適用されないことになっている。ルノー側が4月末の株主総会で、1株1議決権という現行制度の存続を求める議案を提出することが当然予想された。仏政府によるルノー株買い増しの発表は、こうした経営者側の動きにストップをかける狙いがあった。

結果的には、4月30日のルノー株主総会で現行制度を維持する経営者側の議案が否決され、フロランジュ法の採用が決まった。エマニュエル・マクロン経済産業デジタル相は「一時的に買い増した株は売却するが、従来の持ち分は維持する」との考えを示し、政府の関与を強める考えを明らかにした。同法の適用によって、来年4月から仏政府の議決権は15.0%から28%ほどに増える見込みである。

ルノーに続いて、航空大手エールフランスKLMも、5月21日の株主総会で、フロランジュ法の採用を決定した。同社株の15.9%を保有する仏政府が5月8日、1.7%分を買い増すと発表、現行制度の維持を求める経営者側の議案の否決を狙った。

フランスの株価指数CAC40(ユーロネクスト・パリ証券取引所上場の代表的業種40銘柄)を構成する企業の対応は2)、二極化している。同法を適用する企業は、政府が大株主のルノー、GDPスエズ、エールフランスKLM(CAC40銘柄ではない)のほかに、メディア大手ヴィヴェンディ(Vivendi)などである。他方、大手銀行グループBNPパリバや化粧品大手ロレアル(L’Oreal)は現行の1株1議決権制度を維持した。英フィナンシャル・タイムズ紙は、フランスの企業統治を歪める法律だとして、「自らを改革者と称するマニュエル・バルス首相と、投資銀行での経験を有するエマニュエル・マクロン経済相が率いる政府にふさわしくない」と厳しく批判している3)。

フロランジュ法とは何か

フロランジュ法は昨年2月24日、仏下院で可決、3月29日成立した。同法は工場などの閉鎖を計画する企業に売却先を探すことを義務付けている。対象は従業員1,000人以上の企業(子会社を含む)である。売却先を探すことを怠るか、あるいは売却を拒否する企業には、当該企業に対して、閉鎖前2年間に給付された補助金の返済を求めることができる。当初、同法には雇用主に対する過料を科す規定があったが、企業活動の自由および財産権の侵害にあたるとして、憲法評議会が違憲と判断したため、公布前に削除された。

同法成立の背景として、鉄鋼大手アルセロール・ミタルの仏北東部モーゼル県フロランジュ(Florange)工場の労働争議があった。鉄鋼需要の低迷を理由に、2011年10月3日から第2高炉の稼働を休止(第1高炉は休止中)、企業と従業員間で高炉の完全閉鎖を巡り争議が続いていた。

フロランジュ工場閉鎖に伴い従業員の解雇問題が生じたため、2012年2月24日、大統領選挙キャンペーン中に同地を訪れたフランソワ・オランド大統領候補(当時)が工場などの売却を義務付け、閉鎖を回避する法案の提出を約束した。その間、フロランジュ工場は、ロシア系製鉄会社が事業を継承する案や国有化する案も検討されたが、結局、2013年4月高炉閉鎖が最終的に決定された。

2013年5月15日に提出された法案は、フロランジュ工場で約束していた工場などの売却の義務付けは憲法違反になることを恐れ、売却先を探すことを義務付ける内容にトーンダウンしたものとなった。左派の共産党、共和党、市民グループは、法案は形式だけの内容で、工場閉鎖、リストラ回避の抑止力となるものはないと反発した。

一方、保守党の国民運動連合(UMP)など野党側は、企業の自由な事業活動を侵害するものとして反対、昨年2月27日、憲法評議会に提訴した。

同法には、以下のような敵対的株式公開買い付け(TOB)の防衛策も盛り込まれている4)。

  1. 対象企業の株式または議決権の過半数(50%)を取得できなかった場合、TOBは不成立(同法第5条及び第6条)。
  2. 2年以上株を保有している株主に2倍の議決権を付与する(同法第7条)。
  3. TOBにおける企業委員会の役割を強化(同法第8条)。
  4. 対象企業の取締役会または監査役会は、TOBの防衛策を決定できる(同法第10条)。

仏政府のルノー、エールフランスKLMなどの株買い増しの法的根拠が、同法第7条の規定に基づくものである。

国家主導のDNAは不変

別表は、仏財務省・経済省共管のAPE(仏政府保有株式監督庁)が監督下に置く74社のなかの代表的企業と政府の株保有比率を示したものである。74社の株の時価総額は、昨年4月末現在、1,100億ユーロに上る5)。フランスは国家主導主義 (ディリジスムシ)あるいは国家管理主義(エタティスム) と呼ばれる経済システムを戦後長期にわたって維持してきたが、常に、国家が国内経済・産業に強い影響力を行使してきた。

事実、1944~46年の国有化政策によって、CDF(仏石炭)、フランス銀行、クレディ・リヨネ、ソシエテ・ジェネラルなど4大預金銀行や保険、エールフランス、ルノー、GDF(仏ガス)、EDF(仏電力)、鉄道(仏国鉄)などの主要企業が国有化された。さらに1982年のミッテラン社会党政権による国有化政策によって化学大手のローヌ・プーラン、電機大手のトムソン、パリバ、スエズの2大金融グループ、39の主要銀行が次々に国有化されていった。1986年の保守中道のシラク政権による主要企業65社を対象とした戦後最大規模の民営化政策は、BNP(パリ国立銀行)、ソシエテ・ジェネラルなど42行、パリバ、スエズの2大金融グループ、窯業・建築資材大手のサンゴバン、アルミ大手のペシネなど9大企業グループを対象とするものであった。いずれにしても、国家主導の大規模な産業政策が保守・革新政党による政権の交代期に実施されたが、常に、国内産業・国内市場保護の色彩の強いものであった。

国家主導の産業政策は、国家予算に大幅に依存することになり、大規模な国有企業や民営化企業の監査役会会長やCEOは、大部分がENA(国立行政学院)やポリテクニクなどの超高級官僚養成機関であるグランゼコール(Grandes Ēcoles,高等専門大学校)出身官僚で、これら国有企業などへの天下りや主要企業を渡り歩く(所謂、渡り鳥)特権グループであり、ENA出身のオランド大統領を頂点とするピラミッド型のグランゼコール出身の人的ネットワークが網の目のように張り巡らされている。現下のグローバル経済時代に、民間主導の経営が望まれるところであるが、フランス(フランス人)の国家主導主義あるいは国家管理主義のDNAが、そう簡単に変わるとは思えない。

 

フランスの主要企業の政府株保有率(%、2014年4月30日現在)

郵便

通信・マスメディア

鉄道・交通

電気・ガス・原子力

航空輸送

金融サービス

自動車・航空宇宙・防衛

仏郵便(73.7)

仏テレビ(100)
ラジオ・フランス(100)
Orange(旧仏テレコム)(13.5)

仏国鉄(100)
パリ交通(100)

Areva(21.7)
EDF(仏電力)
(84.5)
GDFSuez(仏ガス)
(36.7)

パリ空港(50.6)
エールフランスKLM(15.9)

CNP保険(1.1)
Dexia(5.7)

ルノー(15.0)
プジョー(14.1)
エアバス(11.0)
Safran(22.4)
Thales(26.6)
GiatNexter(100)

(出所)APE年次報告書から作成。

 

国家主導のDNAが変わらない事例は、最近の大手企業のいくつものトップ人事にも見られた。いずれの企業も国が大株主であり、政府主導の産業政策を政官財が一体化して推し進めようとする姿勢が鮮明である。

第1は、仏原子力大手アレヴァ(Areva)の事例である。アレヴァ株の21.7%を仏政府が保有するが、2013年まで自動車大手プジョ-・シトロエン・グループ(PSA)取締役会長兼CEOであったフィリップ・バラン氏を経営再建のためアレヴァ取締役会長に送り込んだのは仏政府である。バラン会長はグランゼコール出身の高級官僚である。

第2は、PSAの事例である。創業家出身のティエリー・プジョーPSA監査役会長が退任、後任にはENA出身の高級財務官僚ルイ・ガロワ氏が昨年4月に就任した。同氏は旧EADS(現エアバス)の元CEOであり、その経歴から社会党政権に近い人物だとみられている。

この事例は、中国自動車大手、東風汽車が経営再建中のPSAに14.1%出資するのを機に、仏政府が戦略的企業のひとつと位置付けているPSAを外資から保護するため14.1%の出資を決定したことが背景になっている。仏政府が雇用維持・国内産業保護のため企業経営に介入する姿勢が強く感じられる。

第3は、仏原子力産業の中核を担う仏電力公社(EDF)の事例である。EDFは仏政府が84.5%の株を保有する大株主である。昨年11月、EDFのCEOに就いたジャン=ベルナール・レヴィ氏は航空・鉄道システム大手タレス(Thales)CEOからの転身である。アレヴァのバラン会長とレヴィCEOはポリテクニクの同窓生であり、アレヴァの経営再建のためEDFを係らせようとする仏政府の意図が働いているとメディアなどが報じている。

厄介な政府株主という悩ましさ

さて、仏政府のフロランジュ法制定が企業統治の逆風になるのか。とくに、ルノーと企業連合を組んでいる日産にとって悩ましい問題である。

仏政府は国内企業の競争力を高めるため企業に親和的な改革、例えば、行政的手続きの簡素化などの改革を進めている真っ最中であるが、世界経済フォーラム(WEF)の2014-2015年グローバル競争力ランキングでは6)、144位中の23位にとどまる。第1位はスイス、5位のドイツ、9位の英国には遠く及ばない。ちなみに、米国は3位、日本は6位である。

前述したように、国家の関与の程度が米英などの先進国に比べて大きい。WEFレポートでも、政府規制の重荷は144カ国中121位と、南アフリカ120位、コロンビア122位と並んで極めて低い。スイス12位、英国37位、ドイツ55位、日本64位、米国82位となっている。

仏企業運動(MEDEF、フランス経団連)は「行政手続き簡素化などを協議している中でのフロランジュ法の制定は理解できない。外国企業、企業家へ危険信号を送るものだ」と厳しく批判している。

確かに、マクロン経産相が言うように、株の長期保有者は、企業の持続的な成長に関心があるはずだ。企業経営陣の責務を監督し、企業の長期的な利益を念頭に置いた行動をとらせるため、安定株主の増加は、企業が将来を見据えた投資や人材育成が容易になり、企業の繁栄につながる環境を作ることになるかもしれない。ただ、2倍議決権の行使によって仏政府が、雇用維持・国内産業保護を優先して、企業のリストラに待ったをかけたり、外国企業による仏企業のM&Aに過剰に介入(米GEによる仏重電大手アルストムのエネルギー部門の買収案件やPSAへの中国企業の資本参加案件などの事例)すれば、企業の競争力を失いかねない。企業と仏政府との利害が必ずしも一致しない場合、仏政府が大株主としての影響力を行使すれば、安定株主とはいえ、厄介な株主となりかねず、悩ましいことになりそうだ。

 

注・参考資料:
1) 「実体経済の回復のための2014年3月29日の法律2014-384号」 (loi no.2014-384 du 29 mars 2014 visant à reconquèrir l’economie rèelle)
2)CAC40銘柄の中には、エアバス、EDF(仏電力)、GDFSuez(仏ガス)、Orange(旧仏テレコム)、プジョー、ルノー、Safran(航空宇宙・防衛)など仏政府が大株主となっている大手企業が入っている。
3) Financial Times(April 9,2015)
4) 工場閉鎖時には売却先を探すことを義務化-従業員1,000人以上が対象(フランス)」(ジェトロ世界のビジネスニュース、2014年3月7日)、「閉鎖する工場等の売却先を探すよう義務づける法律(フランス)」(服部有希、国立国会図書館調査及び立法考査局立法情報、2014年8月)などを参照。
5) APE(Agence des Participations de L'Ētat), The Government as Shareholder(2014 Annual Report)
6)World Economic Forum, The Global Competitive Report2014-2015 (September4,2014)